一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
当番の仕事を終え、朝礼に眠気を感じて自然と寝てから少し。
今日の授業は三年生と合同の授業らしく、なんの影響か無駄にハイテクなこの学校は、二つのクラスを隔てる壁を折りたたみ、そこに我ら一年生と三年生の先輩を収容した。
「~で、あるからして、この主人公の心境は……」
国語担当の
高校一年生の後輩と高校三年生の先輩が世にも不思議な現象に出会う、という内容の物語で、イメージを強くする為に一年生と三年生を集めたのだという。
「ここで、先輩はどうして主人公を引き留めたのか、答えられる人。……じゃあ、横長さん?であってるかな?」
「合ってます。これは、主人公の過去に同情して───」
板書をしていと、窓際にいた俺のノートに不自然な陰が二つ差された。
まるで、帯を垂らしたような。
なにとはなしに、窓ガラスの方を見ると。
「……ッ」
あった。
黒い髪と蒼い髪が、窓ガラスに垂れている。
幸いなことに周りの人は気づいてないようだが、もう、アレは明らかに……知り合いだと思う。
さらに、蒼い髪の方は少しおでこが見えている。
帰ったらどうしてやろうかと悩んでいると、隣の席から声が掛けられた。
「少し伏せたまえ」
「え?」
「え?ではない。キミはアレをどうにかしたいのだろう?」
さっと振り向くと、筆箱からどんぐりを取り出した名前も知らない先輩が不敵にわらっていた。
どうしてどんぐりが筆箱に入っているんだ。
そんな疑問も知らずに先輩が指にどんぐりをセットし始めた。
さっと机に伏せると、先輩は親指と人差し指でどんぐりをつまみ、はじき出した。
ばひゅん!とどんぐりらしからぬ音を立てて飛んだソレは、開いていた窓を抜け、蒼い髪の少しだけ見えていたおでこにクリーンヒット。
いたそー……。
「……ないっしゅー、だな」
「あ、なんか、ありがとうございます」
「別にかまわないさ。私は
何者なんだよ万術部。
気づいたら黒い髪も消えていた。
おおかた、おでこを撃たれた蒼い髪を心配して屋上に戻ったのだろう。
「祈里 仙です。よろしくおねがいします」
「うむ、よろしく。……先ほどから思っていたのだが、そのキーホルダー、なかなかセンスがいいね。どこのメーカーだい?」
恐らくコミュ強であろう黒退先輩は当たり障りのない話題を切り出す。
しかし、ノート……獣の方を説明することはできない。なぜってそりゃ、獣がキーホルダーに変わるなんて……ねぇ?
「えっと、これはその、貰い物のオーダーメイドで、メーカーはその、聞いてなくて」
「む?そうか、それは残念だ」
黒退先輩は妖しげな笑みを浮かべて、とんでもないことをいいだした。
「良い魔力が宿っていそうだったのに」
「魔力……!?」
「引かないでくれよ。万術部として、それくらいはわかるのさ。そのキーホルダー、なぜか魔力を感じる」
そりゃそうだよ。空を蹴れる獣に魔力が宿ってなくてどうしろと言うのだ。
魔力があって当然だろう。
しかし、その魔力を感じれるとかいうこの先輩、何者だ?ただの厨二病患者でないことを祈る。
「そういえば万術部って……前も入部に誘われました」
「ああ、それはもう一人の部員が勧誘したんだね。うむ、アストロボルグは良い仕事をした」
「あすとろ……?」
「アストロボルグ。金髪の後輩だよ。ほら、おだんごで、ツインテールで」
そこで思い出されるは、必死にチラシを配っていた少女。
その時は『
「ハーフなんですか?そのアストロボルグさんって。今井月・アストロボルグ?」
「ああ、彼女は万術部として活動するときは名前がアストロボルグになるんだ。なんでも、神話に残る強い神器に『アストロボルグ』という名前が多かったらしい」
「中二病じゃないですか。神器って……」
しかし、アストロボルグ?
なんか聞いたことがあるような……。
と、黒退先輩が何かに気づいた。
漫画なら『ピシャッ』っていう稲妻のエフェクトが見えそうなくらいの気づきっぷりだ。
「どうかしました?」
「いや……どうやら先ほどの侵入者はまだ諦めていないらしい。トラップが起動したな」
トラップ!?
「トラップて、トラップてなんですか……」
「矢の先に青酸カリを塗った特製の矢が頭目掛けてとんでくる。欠点は狙う身長の平均を男女合わせて測定したから、身長が低い侵入者には効果がないことか」
「しゃがんで移動されたら終わりじゃないですか……」
「うむ。だから、他にも色んなトラップを設置してあるぞ。たとえば、校内自販機の下に落ちている百円に、片足吹き飛ぶ威力の小型爆弾が仕掛けられていたり」
急にむごいな。
……いや青酸カリの矢もなかなかむごかったわ!
「ロッカーが上下駆動式になっていて、その裏にシェルターに続く道があるとか」
「ウチの学校何があるんです!?───ッ、痛ぇ!」
驚く俺の額に撃ち込まれる
赤くなっているであろう額を押さえながら先生を見ると、根知先生はチョークを両手の指の間に4本ずつ持ち、何かのポーズをとっていた。
「───私は『この学校で誰が一番チョークを上手く投げられるか選手権』で長年優勝している猛者だ。その私の前で無駄話とは……覚悟の準備をしておいてください」
「「「「そんな大会あるの!?」」」」
「ちなみに準優勝は校長先生だ」
「「「「教卓に立ったところ見たことないのに!?」」」」
クラス全員の驚く声が響く。
ふと黒退先輩の方を見ると、ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
「『この学校で誰が一番上手くチョークを投げられるか選手権』。私も参加したことがあるよ」
「え゙っ」
「『この学校で』『誰が』、だからね。参加できるのが教師だけというわけではないんだよ」
「まさの新事実!」
「ちなみに三位だった」
「そして高得点!」
その日は結局、黒退先輩に翻弄されてばかりだった。
……あやつらは一体なにをしていたのだろうか……。