一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みに説教

休み時間、廊下を静かに歩く。

あくまで自然に。

廊下の曲がり角、そこにある掃除用具入れ。

開ける。 

 

「へあっ!?なんでココがばれたの!?」

 

居る。

長い付き合いだ、隠れる場所くらいわかってる。

はい次、そこの段ボール。

そう、そこだよ。おめーだよ。

段ボールの目の前で地団駄を踏む。

 

「ぴゃああ!?や、やめてたもう!」

 

居る。

空良が助言したのだろうし、隠れる場所は空良寄りになる。

親指を立て、ニッコリ笑ってハンドサイン。

 

『ちょっと、こっち、こいや』

 

「「あばっ、あばばばばば……!!」」

 

抱き合う少女二人に慈悲など与えず、俺は二人を生徒指導室まで連れていった。

 

 

 

 

「で?なんでココまで来てるんですかねぇ?警察沙汰になりたくない異世界の勇者ソラさんや?」

「うぇ……。はい、すみません……」

「で?なんで連れてきてるんですかねぇ?事情を全て知っている唯一の同士()()()()()()水の精霊ノンピュールさん?」

「うぬ……。許してたもうれ……」

「許さぬ」

「「無慈悲っ!!」」

 

生徒指導室にしっかりと鍵をかけ、正座している二人に仁王立ちで問いかける。

 

「あ、あの、仙くん……?」

「なんだ空良」

「あの、怒ってる……?」

「怒ってるわ。俺がお前のためにどれだけ苦労したと思ってんだ?親と会っちまえばそれで終わりなんだぞ?あ?分かってる?」

「すみません……」

 

すっかり畏縮した二人。

空良は勇者の服のままだし……。

ノンピュールは止めてくれそうなリヴァイアサンを連れてきてないし……。

 

「空良」

「は、はい!」

「高校生になって気恥ずかしさからやらないでおいてやったが……。こうなったら仕方がない、小さい頃によくやったアレをしてやる」

「え゙っ」

「しょうがないよな、罰だもんな」

「ちょ、ちょっと待って!さすがに今アレは……」

「あ?」

「さ、さー、いえす、さー……」

 

空良の腰回りを掴み、肩に担ぐ。

小さい頃なら良かったが、まあ今の年齢だと丸だしは辛いだろうから、スカート越しにやってやるか。

平手を振りかぶり、空良の尻に叩きつける。

ぱしん。

 

「いひゃい!」

「あーときゅーかーい」

 

ぱしん。

 

「うにゃっ」

 

ぱしん。

 

「うくっ」

 

ぱしん。ぱしん。ぱしん。ぱしん。ぱしん。ぱしん。ぱしん。

 

「終わりだ。反省したか?」

「うう……。すみませんでした……」

「ときに、そこで逃げようとしているノンピュールよ」

「ぬっ。な、なんじゃ」

「お前もお前だよなぁ……?」

「や、やめろ、一度考え直すのじゃ。妾は最初一人で潜入をやるつもりで……」

「問答無用」

「アーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

「はい、なんでココに来たのか簡潔に五・七・五で答えたまえ」

「『ノンちゃんが 変な魔力を 感じたよ』」

「うう……もうお嫁に行けない……」

「空良。それは理由になってないぞ。そしてノンピュール。精霊は結婚するのか?」

 

バッサァ。

言い分は一太刀でまっぷたつに。

 

「むむむ……『ノンちゃんの お手伝いに 来たよ』」

「字余りじゃねえか」

「す、するぞ!?精霊だって、精霊だって結婚するもん!妾にもいつかいい人が現れるんだもん!500年後くらいに!」

「口調が変わってるぞ。あとそれは長いのか短いのかわからん」

 

バッサァ。

 

……真面目に話を聞くと、空良たちのいた異世界とは違った異質な魔力を感じたので、ノンピュールが『異世界は一つじゃないのではないか』と考え、その魔力を追ってきた、と。

 

「妖しいもんなぁ……黒退(くろの)先輩が元凶説が濃厚だなぁ……」

「む?心当たりがあるのか?」

「いや、ないないないないない。ないね、ないない」

「『ない』が多いぞ……?」

「とにかく、心当たりなんてないから」

 

てことはアレか?黒退先輩は異世界人なの?

……いや、きっとその【万術部】とやらの力なんだろうなぁ。魔力を感じるとか言ってたし。

異質な魔力ってそういうことだろ。

とにかく、あの先輩が人間に危害を与える様子はない。

……毒矢も地雷も酷いことこの上ないが、それは正当防衛……正当防衛……のつもり、なんだろう。

 

「さ、帰れ帰れ」

「あの……仙くん?」

「なんじゃい」

「その、何もしないからさ。学校が終わるまで待って、一緒に帰るってできない?」

「一緒に帰る……?」

「う、うん」

 

もじもじしながら上目遣いでこちらを見てくる空良。

何が目的なのだろうか。

 

「あ?あー……。そういうことなら妾は先に帰るとするかの」

「別に良いけど、なんもすんなよ?マジで」

「やたっ。ありがと、仙くん!」

 

何やら察した雰囲気のノンピュール。 

何がしたいんだろうか。

 

「あと、お前はどこかに隠れとけ。ここだって、見つからない保証はないしなぁ」

「それに関しては任せといて!それじゃ仙くん、また後で!」

 

空良が窓を開けて生徒指導室から飛び降りちょっとここ三階ですが正気の沙汰ではございませんよ???

ノンピュールに至っては溶け出してますけどなにしようとアッ、溶けて染み込んで見つからずに降りようって魂胆ね!アホじゃないのかな!!

 

 

「……なにやってんだお前、生徒指導に1人って」

「あ、あはは……」

 

急に開いた扉に、すでに2人がここからいなくなっているのを安心した反面。

収集が付けられずに異世界民族を現代に放出してしまったことを後悔していた。


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