一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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1日1話って難しい……


幼馴染みと帰り道

授業の終わりを告げる鐘が鳴る。

空良は『人目のつかない場所にいるから。仙くん、見つけられるかな?』と言っていた。

人目のつかない場所。それすなわち。

 

「みぃーっけ」

「へぁっ!?なんでバレたの!?」

 

茂みの中に隠れていた空良の手を引き、見つからないように学校を出る。

こいつが隠れる場所なんてロッカーか茂みしかないんだよなぁ。

っていうか展開がさっきと同じなんだよ、もう少し捻れ。

 

「お見通しなんだよ」

「え?あ、えへへ……」

 

なぜか照れている空良を連れて、学校の塀を登って向こう側へ飛び降りる。

高さこそないが、足がじんとした。

隣の空良はまったくもってダメージを負っている様子はない。そりゃあ、城の二階とか学校の三階から落ちても無傷なんだしな。

 

「なんか懐かしいね、こういうの」

「昔、二人で町内を冒険とかしたしなあ。あ、でも、空良は本当に冒険したんだっけ?」

「うん……。ダンジョン、砂漠、海底、UFOの中、魔王城……」

「濃厚!一年が濃厚!」

 

ときたまチラ見えるする空良の過酷な冒険。

空良、勇者やってんなあ……。

 

「やあ、お楽しみのところすまないね」

「おっわびっくりした」

 

ぬっと木の上から現れた黒退(くろの)先輩。

この学校フシギなやつ多すぎるだろ。

ささっと俺の後ろに隠れた空良を庇いながら、黒退先輩に話しかける。

 

「こ、こんにちは。どうしたんです?」

「いや?後輩のためにセミの抜け殻を集めているだけだが?」

「春先は時期が早い気が……多ッ!!セミの抜け殻、多ッ!!びっしぃ付いてますよ!」

 

制服の上に羽織った上着にセミの抜け殻をびっしりくっつけた黒退先輩から少しずつ離れる。

 

「アストロボルグが『セミの抜け殻を百個集めたら儀式が成功するんです!』と言っていてな」

「気色わるッ」

「失礼だな」

「当たり前の反応ですよ!?」

 

なんというか……。

万術部って何をしてるんだ!?

異世界の件でキリキリし、最近ようやく回復してきた胃が悲鳴をあげる。

と、いい加減空良が気になった黒退先輩は距離を詰めてきた。

せ、せっかく稼いだ距離が……。

 

「ところで、こっちのお嬢さんは君のガールフレンドかい?ずいぶんと良い子を捕まえたね」

「あー、えー、その……」

「それに、良い魔力が宿っていそうだ」

 

またそれか。

ノートよりも魔力が詰まってると思うよ。レベル的に。

 

「ええと、私は、その……」

「いや、大丈夫。無理はしなくていい」

「あ、はい……」

 

空良は背中から俺にだけ聞こえるようにこそこそと喋り出す。

怪しまれるから黒退先輩と会話もしないと。

 

「ねえねえ仙くん、あの人って異世界の人かな。底知れぬ何かを感じるよ」

「俺が入学したときからいたようだし、それは無いと思うな。迂闊に正体を明かすなよ」

「うん、わかった」

 

本当になんなんだ……。

黒退先輩はスマホを取り出してにこやかに近づいてくる。

 

「え?なんです?」

「ん?さっき話したじゃないか。RINE(ライン)のアドレスを交換する、と」

「あ?あ、あー!シャカシャカで良いですか?」

 

適当に相づちを打っていたら無料通話アプリ、RINEのアドレスを交換することになっていた。

さすがに俺はマルチタスクにはなれないか……。聖徳太子への道は長い。

シャカシャカ機能で簡単にアドレスを交換した先の黒退先輩は尚もにこやか。

 

「じゃあ、込み入った話は後で。また明日!」

「え?あ、え?はい!」

 

反射で返事をしたけれど、先輩のあの口ぶりだと俺は他にもなにかしてしまったらしい。

俺、何をしたんだ……?

 

「じゃ、仙くん、帰ろっか!」

「あ、おう……」

 

気にかかるなぁ……。

とにかく、俺は明日は黒退先輩に付き合わなければならないらしい。

この、俺の勝手に予定を後に作っちゃう能力、なんとかならないだろうか。

 

「そのまままっすぐ帰るか?それとも寄り道とか」

「うーん……駅の方面は見させてもらったし、今度はここらへんの探索がしたいかも!あ、中学に寄って行こうよ!どうなったか見てみたい!」

「あんまり変わってない気がするけどなぁ……?」

「見てないんだからいーの!ほら、いこっ!」

「まてまてお前は道知らないだろ!!」

 

腕を引こうとする空良を逆に引く。

そのまま引っ張って歩くと、空良は俺の腕に自らの腕を絡めてきた。

なんだなんだ、どうした急に。

 

「安心する」

「安心?」

「うん、安心する。仙くんがそばにいてくれてるんだなぁって。あっちではね、私はずっと1人だったから……あっいや、別に仲間がいなかったったわけじゃないんだけど、基本的に共闘って感じだったからさ……」

 

爽やかな風が空良の髪を揺らした。

 

「なんか、ね、嬉しくなっちゃったんだ。異世界で魔王を倒した時よりも。仙くんが、小さいときみたいに、守ってくれるような気がして」

「勇者を守る一般人かぁ……締まらないなぁ」

「ほんとだよ。私、仙くんがオレンズ王子に決闘を挑んだときはすごいびっくりしたんだからね?ただでさえ仙くんは成長途中なのに、オレンズ王子に殺されちゃったらどうしようって。その、オレンズ王子がそんなことしないのはわかってるし、決闘なのもわかってるんだけど……やっぱり不安で」

 

……らしくないなぁ。

しおれているとはまた違うような、ふんわりしているというか。

まぁ確かにこの心地よい風と懐かしい景色に囲まれたら感傷に浸っちゃうのもわかるんだけどな。

 

当たってるんですわ!アレが!!

男とは、本当に危ないときはちゃんとしっかりするんですね、良い構造です。

しかしまぁ……その、随分と大きくなったな……。

ぴっちりとした服だから余計に体のラインが強調されるというか、やはり勇者服を作った人はてんさ、変態だと思う。

 

「ま、そう震えんなって。守るよ。守る。もっと強くなって、守るよ」

「……うん」

 

それが、甲斐性ってものだろう?


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