一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
聖なる鐘が幻想的な音を響かせる。
白百合が舞い、二人が夫婦になることを祝福する。
隣の空良は良い笑顔だ。
ずっと見ていたくなる。
ところで。
どうしてこんなことに、なったんだっけ……?
◇
あの日の夜、俺はさっそく
さりげなく、怪しまれないように。
◇───◇
『先輩』
『ん?どした?』
『明日、何をするんです?』
『覚えてないのかい。知り合いが結婚するからその結婚式場に来てほしいんだよ(。・ω・。)』
先輩、メールだとキャラ変わるな……。
『えっとそうじゃなくて、どこで、というか…。』
『ああ、そっちね。少し待ってて、今地図を送るから』
ピロン。
『届きました』
『それでね、その知り合いの結婚式場、夜になると新郎新婦の亡霊が出るらしくて』
『なるほど?』
『それを見るにはどうやら、中の良い男女が必要らしい』
『あぁ、それで』
『君には中の良い女の子がいるでしょ?だから、君に、というか君【たち】に頼みたい』
『なるほど、わかりました。あいつならきっと来てくれます。ところで』
『?』
『なんで亡霊が見たいんです?』
『亡霊なら【霊力】とか色々持ってそうでしょ?少しでも強くなれる可能性があるなら追いかける、それが
◇───◇
あぁ、そうだったなぁ。
そんなことになってたんだ。
新郎新婦はとても幸せそうにバージンロードを歩いている。
名前は……『
……碧咲ってどこかで聴いたような。
しかし、
……赤とか青とかいないよな?
「仙くん、仙くん」
「ん、どうした」
「今日はノートは?」
「いつもの場所にいるぞ。ここ」
ノート……俺の騎獣はキーホルダーに化け、俺のベルトにぶらさがっている。
「もしかしたら、もっと早く手の届くところにあったほうが良いかも」
「……つまり?」
「邪魔が入るかも」
幸せそうな表情から一変、空良は眉を八の字にする。
ノートをベルトから外し、ポケットの中へ。
臨戦態勢。そんな俺たちの警戒を知ってか知らずか、黒退先輩がとことことやってきた。
「やあ、こんにちは」
「あっ、こんにちは!」
「うむ、良い挨拶だ。君が、話に聴いている空良……でいいかな?」
「は、はい!空良です!」
泣きぼくろのある綺麗な顔をにこにことさせながら、黒退先輩は空良と会話を交わす。
上機嫌な先輩と対して、空良は俺の顔を見て、次に空中を見て……。
ん?なんだ?
「………!………………っ!」
「それで、ラクはユイを妻にする決心をしたんだと。チカゲがいるのに、罪作りな奴だな。中々に面白いだろう?」
「は、はい、そうですね!…………っ!仙く……!はやく…………!」
俺の顔と空中を交互に見て、思い詰めたような表情をする空良。
なんだ?空中に何かあるのか?
そう思って空中、新郎新婦の頭上辺りに目を向けると……
───ガサッ
一匹の小さいスライムが、新郎新婦を襲おうとしていた。
「……ノート」
ポケットから、小さい光が射出される。
光はスライムを貫き弾けさせると、そのまま地面に───落ちる前に、強風に煽られすっとんでいった。
「やった!」
「ああ、そうだ。よくチカゲのした反応がわかったな」
「えっ!?あぁ、はい!なんとな……く……?」
「なぜ疑問系なんだ」
なるほど、あれはスライムを知らせるジェスチャーだったのか。
長い付き合いなのに、それを悟れないとは。
悔しいな。
『それでは、ブーケトスをしたいと思います!』
マイクで拡張された声に振り向くと、たった今ちょうど花嫁がブーケを放り投げるとこだった。
ぴゅーん、と宙を待ったブーケは、俺……いや、この軌道は。
とすっ
「あ……」
空良の手中に、納まった。
拍手が巻き起こり、新郎は「してやったり」みたいな顔で新婦の頭を撫でている。
花嫁、めちゃくちゃデレてる。
「ど、どうしよう仙くん、貰っちゃった」
「良いんじゃないか?婚期が早まるぞ」
「そんな感じだっけ?ブーケトスって」
「詳しくは覚えてないな。結婚関係であることは確かなんだけど」
空良の手中の花束は、赤色のツツジの真ん中にベゴニア……だったか、乳白色の華で出来ていた。
◇
その後、結婚式は滞りなく最後まで行われ、周りの人達も祝典式会場に移っていった。
ノートはまだ帰ってきていない。門限までに帰ってくるだろうか。
「先輩は行かなくて良いんですか?」
「ああ、後日身内だけで集まる祝儀が再度開かれるんだ。そちらに参加させてもらうと言ってある」
「そうですか」
なんというか、新郎の人、やけに眼が特徴的だったな。
緑と白のオッドアイとか。
黒退先輩は……あ、オッドアイじゃないけど微妙に青みがかってる!
「それじゃあ、中に入ろうか。もう夜だしな、寒いだろう」
「ちょっと肌寒いですね」
「……そうかな?私は何も感じないなー」
結婚式場はまあ、THE・結婚式場って感じだ。
特徴は……少し広いくらいか?
「さて、存分にいちゃつきたまえ。私はあっちで見ているから」
「いちゃつき!?」
「あっ、あ、あ、あのっ!!そういうのは、まだ、早いかなって!」
テンパる俺たちを見て先輩は「なっはっは」と笑いながら僅かな闇に溶けていった。
どこにいるんだよ、先輩すげえ。
「あ、あ、あの、仙くん……?」
先輩を探していると、月明かりに照らされた空良の顔が間近に浮かぶ。
予想以上の距離に一瞬首がのけぞる。
「ど、どうした、空良?」
「その、黒退、さん?の気配、いなくなったよ」
躊躇いがちに紡がれた言葉にほっとする。
空良は勇者だ。
異世界サバイバルをしてきた空良が言うのだから、先輩は
「見ている」とは言ったものの、どこかへ行ってしまったのだろう。
「それでね、仙くん」
「ん?」
「さっきの、
「そうだな」
「私も……あんな感じに、なれるかな……?」
まだ手に持っている花束で顔の半分を隠した空良。
心なしか頬は紅潮しているように見える。
……覚悟を、決めるか。
「なれる。空良なら、絶対」
「ほ、ほんと?」
「うん。───俺がそうしてやる」
「えっ───」
「俺と、付き合ってください」
「───ッ!!」
「空良の笑顔が好きだ。空良といることが好きだ。今日だって、幸せそうな空良の顔をずっと見てたいと思った」
「せ、仙くん……その」
何か言おうとした空良の肩を掴んで制止する。
「聴いてくれ。空良が好きだ。昔から好きだった。お前が異世界に飛ばされて行方不明になったとき、俺はお前の親よりも心配した自信がある」
「──────っ」
「もう一度言うから。この際だから言うから。だから、
一度空良から離れ、
もう一度、あと一言だけ言え、俺。
「俺と、付き合ってください!」
不安だ。
それに怖い。
目を瞑り、暗闇の中でただ返事を待つ。
今、何時間経っただろうか。
とても時間が遅く感じる。
前方で、空良の声がした。
「もう……。ずるいよ、仙くん」
「………………」
俺の右手に、空良の手が乗せられた。
「喜んで」
思わず顔を上げてしまう。
空良は目の端に涙を溜め、笑っていた。
ひんやりとした空良の手が、俺の手を強く掴む。
右手にブーケを持ったまま、空良は微笑んでいた。
コーン。
「あ、鐘……」
「そ、空良、その格好……」
誰もならしていないはずの鐘が鳴る。
それと同時に空良の姿が蒼い光の渦に包まれ、光が収まる頃には空良の姿が変わっていた。
「ウェディング……ドレス」
「そう、みたいだね」
「すごい似合ってるぞ」
花束を抱えているから、なおさら。
純白のウェディングドレスに袖を通し、空良は既に花嫁と化していた。
「仙くんだって」
「え?……ははっ、本当だ、俺はタキシードか。これじゃあまるで……」
「うん。さっきの新郎新婦……」
「───っ」
無意識に空良の口から放たれた言葉に顔が熱くなる。
話題を、そらさないと。
「親父がくれた写真集の中に、ちょうどその花束の写真があったんだ」
「花束の?」
「そう。花言葉が書かれててさ。確か……」
赤いツツジは【恋の喜び】、ベゴニアは【愛の告白】
「……いや、忘れた」
「え、そうなの?仙くんが何か忘れるなんて珍しい」
「俺だって人間だし、忘れることもある」
「……そっか」
鐘が12回目に鳴ったとき、俺の服が元に戻った。
空良の衣装も元に戻っている。
「消えちゃったね」
「ウェディングドレス、似合ってたのにな」
「うん……。ねえ、仙くん」
「どうした?」
「好き。大好き」
唇に何か柔らかいものが押し当てられる。
空良は手を後ろに組んで俺を追い抜かし、こちらに笑顔を向けてきた。
「私もう、仙くんの事好きって言うの、我慢しないよ」
「……そうかよ」
「うん。好き。すっごく好き」
「止めろ、止めてくれ、恥ずかしいから」
「止めない。好き」
「脳死する」
「死なないで。好き」
しきりに「好き好き」という空良を追い抜かして手を引き、結婚式場の扉を開けた。
花と空良の香りが、俺の顔の前に漂った。