一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
はい、チャイム来ました、授業はもう終わりです、きっと校門近くに空良がいるので回収に向かいます。
正門のロッカー、いない。
茂み、いない。
ロッカーにも茂みにもいないということは……。
並木に移動する。
手近な木を思いきり蹴る。
落っこちてきた空良を抱き抱える。
……何この流れ。
「えへへ、見つかっちゃった」
「……だいぶ俺も毒されてきた気がする」
「毒?魔法いる?【キュア】」
緑色の光が俺を包む。
「なあ空良、観衆がいるかもわからないから魔法はまた今度な」
「でも仙くんが大切だもん。仙くんのためなら世界に喧嘩を売る自身があるよ、私は」
「大丈夫だから、世界に喧嘩を売るな。な?」
頬を膨らませる空良に軽くキスをかまし、ようやく空良を離す。
ううん、幸せ。
ここ最近の暮らしで、空良と深い関わりを持った者でなければ、市街地を歩いても良いことがわかった。
空良は確かに美少女であるが、どうにも空良は存在感を薄くするサバイバル術が扱えるらしく、見つかっても逃げ出せば気のせいかと思われる程度になるらしい。
「とりあえず、帰るか」
「うんっ!」
俺の判断だが少なからず待った効果はあったようで、この高校の人は空良の事は後回しになるくらい忙しいらしい。
もともとほとぼりが冷めてから空良が帰ってきた上に、自らも忙しいとなれば、なんとなく似ている人ていどや気のせいと間違えるだろう。
「〜♪」
隣を歩く空良は上機嫌で、鼻歌なんかを歌っている。
「あっ!お母さん!」
どこかの少女が母の存在を叫び、駆け出す。
うん、平和だ。
そして少女は足を止める。
空良の前で。
「見つけた、お母さん」
「………………?」
天地が、ひっくり返った。
◇
地面が青い。
空が硬い。
「おかあ、さん?私の事?」
「うっわあ、若い!」
黒が白くて白が黒。
「──────」
砂糖はしょっぱくて塩は甘い───ハッ!?
「だああっ!?」
「せ、仙くん!?」
「わっ!っと……。あ、あなたが仙さんね。お母さんから話は良く聞いております。確か、えーと、『冷静で格好いい』───」
「そ、そそそ、空良、おま、子供、え、そ、空良……」
目の前の少女は空良と同い年位に見える。
つまりは空良は赤ちゃんの時に産んだわけでアレ?
「空良が赤ちゃん?こどもが同い年の空良?」
「───はずだけどなんだこの人頭おかしいのか」
「し、辛辣だね、あなた……」
「空良、え、空良、他に、え、男……」
奥歯をガタガタ言わす俺を、空良が慌てて抱き締める。
「そ、そんなこと絶対に無い!私は、仙くんだけだよ!」
「うわあ、お母さん仙と恋人って言ってたけど本当なんだ。口の中がもにょもにょする」
「だ、だだだ、大体、お前はなんなんだ!?いきなり現れて、あ、あまつさえ、『お母さん』とか……」
「ん?んー?……あ、そっか。はーいじゃあ自己紹介しまーす!えっとじゃあお母さんの旧姓でぇ……」
少女はくるりとスカートを翻し、片手を太陽に向け、いい放つ。
「
「今仮名っつったろ……。ってか、こころやま?んで、未来ぃ!?」
「未来……。っ、時空魔法……!?」
「お、この時にはもう知ってたんだね。そうそう、時空魔法でちょっと先の未来から来たんだ」
「なんだよ時空魔法って。空良、説明してくれるか?」
目を細めてにやけるホーリを見て、空良はこくりとつばを呑む。
「時空魔法って言うのはね、文字通り時間を操る魔法なの。時間を巻き戻したり、逆に未来にも行ったり……」
「代々の勇者の中には時空魔法を使って連続攻撃をした人もいるとか、聴いたことがあるよん」
「でもなんで?時空魔法は勇者と選ばれた人しか使い方を知らないはず……。それに、使える条件も厳しいし……」
「いやはや。でも、簡単に揃いましたよ?」
「そんな!強い魔力を持った獣の魂、名工の打った剣、勇者が魔力を与え続ける事で作れる
指折り数えて時空魔法を行使する条件を言っていく空良に、ホーリはうんうんとうなずく。
ってかなんでそんな説明口調なんだよ。
「そんな素材、あなたが揃えられるの!?」
「正確には私じゃないです」
「じゃあ、誰が……!?」
「あ。それ聴いちゃいます?」
ホーリはそのしなやかな指を天に突き上げ、そしてある一点を指した。
空良の、眉間を。
「あなたです。お母さんが、ぜーんぶ用意してくれたんですよ。時空魔法の使い方もお母さんか教えてくれました」
「未来の、私が……?」
「はい。そのしょーこに、これ」
差し出されたのは黒い紙。
元は白と黒の紙だったのか、ちぎられたような跡の先は白色だ。
「空良。これは?」
「時空魔法は、使うとその代償の代わりに過去と未来の切符が貰えるんだ。過去に行くなら白色の方を、未来なら黒色をちぎるとそこに行ける。残った方は真っ二つにちぎれば元の時間に帰れる、そういう仕組みで」
「解説ありがとーございます、お母さん。で、次に私がこの時代に来た理由を説明しましょう」
と、ここでホーリの目付きが変わった。
最初の時のラフなイメージが完全に消えている。
「これは警告です」
「警告?」
「私の時代……。この先の未来では、新しい魔王が暴れています」
「魔王!?復活したの!?」
「復活というよりかは、新たな顕現……でしょうか。その魔王はあなた、お母さんが戦った魔王とは格が違う。聖獣は殺され、その力を吸収された。水の精霊も同じ。お母さんも、心臓を貫かれた上に片腕紛失」
急激に頭が冷える。
空良が、重傷を、負う?
そんなの、ダメだ。
「……どうすればいい?」
「え?仙くん?」
「どうすれば、とは?」
「どうすれば、その未来は変えられるんだ」
「……恋人風情に、何ができるんで───おっふ!?」
ホーリの胸ぐらを掴み、壁に追いやって叫ぶ。
「どうすれば変えられるかって聴いているんだ!」
「……おふ……うっ……」
せっかく手に入れた幸せを、魔王なんかのせいで崩してなるものか。
壁に押し当てられても、ホーリは口許に笑みを絶やさない。
不意に、ホーリの右手が胸ぐらを掴む俺の手首に触れる。
刹那。
天地がひっくり返り、地面に打ち付けられて脳が揺れる。
これは比喩じゃない。
「……こんなに弱くて、どうやって未来を変えると?」
「せ、仙くん!【ヒール───」
「止めてください」
回復魔法をかけようとした空良を、ホーリが制する。
「片手で、投げ飛ばしやがった……」
「あなた、これでどうやって未来を変えるんです?」
傷む頭を押さえながら、ホーリを見上げる。
笑みが、消えていた。
「どういう……意味だよ」
「私と!」
ホーリが叫ぶ。
「私と、聖獣と、お母さんと!色んな人が集まっても勝てなかった魔王に!未来に!そんな弱っちい力で、どう立ち向かうって言うんだ!」
「………………」
「分かるか!お母さんが、目の前で片腕を無くしたんだぞ!」
「あぁええ、そっか、え私、片腕無くすの……?」
市街地で、路上で、少女に叱咤される。
本来なら恥ずかしい場面だが、それよりもショックが上回った。
「祈里 仙!『ただの恋人』のあなたに、何ができる!」
その言葉は、何より俺の心に突き刺さった。
そうだ……。
俺は主人公じゃない。
ヒーローみたいに、ピンチに覚醒する力も持ってない。
勇者の恋人がいる、そこら辺のただの高校生なんだ。
「クソッ……。本人の前で言うことかよ……。空良が勝てない相手だぞ?」
「それは私も、どうかと思う」
思うのかよ。
「でも、言わなきゃいけないんだ。お母さん、そう遠くない未来、あなたが絶対に勝てない相手がくる」
「…………そっか」
「備えて。今からでも、少しでも、強くなって」
「レベルは?その魔王の、レベル」
「鍛冶屋に聴いたら……426だって」
よんひゃくにじゅうろく!?
「よん……ひゃく……」
「聖獣と、水の精霊の経験値が多かった見たい。私のレベルは今92しか無いし……」
チートじゃないか。
そんなのに、どうやって勝てば良いんだ。
「備えよう」
口を突いて出た言葉。
自然と体が起き上がる。
「だから、あなたに何ができる……」
「空良。あのときのコピーするやつをくれないか?」
「え……?仙くん?」
空良を守るためなら、せめて一枚の肉壁にでもなってやる。
「無駄なあがきでも、やってやるさ。……空良」
「……そっか」
眉尻を下げて肩をすぼめる空良。
絶対に空良を傷つけさせない。
「異世界に行くぞ。レベル上げだ」