一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みと魔女の家

 

「セン……すまんが諦めてくれ」

「諦めろって……」

「じゃああれだ。そいつの銘をつける権利をやろう」

「いや、嬉しくないですよ……」

 

呪いの装備に名前をつける権利なんてもらって、誰が喜ぶのだろうか……そう思っていると、ホーリが血相を変えて詰め寄ってきた。

 

「はあ!?武器の銘をつける権利を貰って、嬉しくないぃ!?」

「ふおう!?どうしたんだよ、急に」

「いいですか?基本的に武器には名前がありません。いちいちつけてられないからですね。しかし、だからこそ銘の入った武器や防具には価値がある!」

 

熱心に語り始めたホーリ。

鍛冶屋のおっさんはホーリに感心しているようで、うんうんと頷きながら良い笑顔だ。

 

「いつしか名前のついた武器や防具自体に効果が現れるようになった!通常一つの武器に一つしかつけられないエンチャントを3つ付けられるようになるなど、普通の武器とは比べ物にならない!」

「そう!ベテランの冒険者の間では、銘を入れた武器や防具を持っていることがステータス!俺の打った、かの勇者ソラの持つ剣も【亜空聖剣(あくうせいけん)エクスカリオン】という銘がつき、その刃は霊を捩じ伏せ、神をも殺す!」

「そんな物の銘を付けられるなんて───」

「「かっこいいとは思いませんか(ねえか)!!!!」」

 

……その神をも殺すエクスカリオンとかいう聖剣、家でニンジン切るのに使われてたけど。

 

「まあわかったよ。それほど貴重なものなんだな」

「わかってくれましたか!」

「おうし、じゃあこれに銘を書いてくれ。直ぐに刻んで見せるからよ」

「なっ、生で銘入れを見れるんですか!私、ここにいていいんですか!?」

「おうともよ、嬢ちゃんの性格は気に入った、また来てくんねぇ!」

 

なんか盛り上がっている二人を放置し、俺はなんとなく呪いの刀を手に持ってみる。

すらりと湾曲した独特な形をし、夜の闇を詰め込んだかのような真っ黒い刀身。

見ているだけで魂を吸いとられそうな、美しい刀だ。

 

「ケッカトウ……」

「おん?」

「はい?」

「決めた。こいつの名前は【血華刀(けっかとう)】だ」

 

すぐに決まると思っていなかったのか、ぽかんとしていたおっさんはすぐに我に帰ると、男臭い笑みを浮かべて、

 

「いい名前じゃねえか。待ってろ、すぐに入れてやる」

 

そう、言い切ったのだった。

 

 

 

 

「う、うん……ここは……?」

「お、目が覚めたか、空良」

 

おぶっていた空良が身じろぎする。

やがて自分の今の状況を段々と理解してきたのか顔を赤くし、

 

「おっ、降ろして!重いでしょ!?」

 

なんて言う。

 

「大丈夫だって。お前軽いし」

「で、でも、恥ずかしいよ……!」

「軽いって。いいからおぶられとけ。ホーリの案内でレベル2のダンジョンまで移動している道中だ。早い所レベルを上げないとな」

 

俺たちは鍛冶屋を出た後、すぐに国境を越えて次のダンジョンまで足を運び出した。

武器は呪いの装備に新調したし、鍛冶屋が旅に必要なキャンプセットなどは用意してくれたのだ。

 

草原の心地よい風が俺たちの頬を撫でる。

うーん、いい気分。こんな時ではあるが、今度ピクニックにくるのも良いかもしれない。

 

「なぁ空良、今度ここにピクニックにこないか。全部終わったあとにさ」

「ピクニック!?二人きりで!?」

「ああ。景色も良いし、最高の場所じゃないか?」

「う、うん……。そっか、ピクニックか……じゃあ準備しておかなくちゃね、仙くん!」

「また娘の前でイチャイチャと……。やっぱ良いや、諦めよ……」

 

見晴らしの良い草原、遠くに見える川、廃屋。どれも良い景色……廃屋!?

 

「なんじゃありゃ!?」

「え?そっちには森しかないよ?」

「は!?今そこに……あれぇ!?」

 

瞬きの間に、廃屋のあった場所は森に呑まれていた。

おかしいな、確かにそこにあったのに。

 

「たしかにあそこに、ボロッボロの廃屋があったんだよ……」

「えっ、なにそれ怖い。私たちを怖がらせるためにやってるとかじゃないでしょ?」

「あっ、ああ」

 

じっと森を見つめていると、さわやかな風のせせらぎと共に、どこからか薄く笑う少女の声が……

 

「やっぱ気のせいじゃない!」

「なに?この声……」

「なにか、悲しそうな……うっ!」

 

ホーリが頭を抑える。

まるで何かの暗示に耐えるように顔をしかめ、辛そうだ。

不意に、ホーリが立ち上がった。

 

「お、おいホーリ、どこに行くんだよ?」

「『行かないと……』」

「ほ、ホーリちゃん?」

「『タスケニイクヨ……』」

 

目のハイライトを無くし、ふらふらとした足取りで森の奥に向かうホーリ。

 

「ほっ、ホーリちゃんが王子と決闘する前の仙くんみたいに!」

「えぇ俺あんな感じだったのかよ!」

「仙くん降ろして!ホーリちゃんを追わないと……」

 

空良を降ろそうと態勢を変えていると、不意に空良の動きが止まった。

……まさかな、勇者の空良が、まさかな。

恐る恐る振り向くと。

 

「『待っててね……』」

「やっぱり!」

「『イマイクヨ……』」

 

俺へのダメージ無視して降りようとする空良を押さえつけながら、俺は諦める。

ダンジョンの前に、一つ寄り道しなければいけないらしい。

そう考えながら、俺はうわ言の様に一人呟く空良を背負いながら、森へ入って行くのだった。

 

 

 

 

「『頑張って……』」

「『耐えて……』」

「『助けるから……』」

「『替え玉ください……』」

「だぁぁもう、うるさいなお前ら!」

 

あとどっちかラーメン頼んでるだろ!

 

……必死に走ると、別段早く歩いていないホーリはすぐに捕まえられた。

しかし、さすがは勇者と勇者の娘。

空良一人ならまだしも、二人になると引き戻すことはできず、俺が引きずられる画になってしまった。

そこで、ぼーっとしているホーリの手を掴んで引き寄せられている方向に案内してもらい、空良には呪いの刀をしばる紐で俺にくくりつけた。

こうすることで、森に迷いながら引っ張られる先を探さなくて良いし、空良とも密着出来る。

 

……欠点は、ホーリが前で手を引き、空良は後ろにくくりつけているため、前後でうわごとが絶えないこと。

お陰で気が散って仕方がない。

 

「「『チャーシュー丼……』」」

「もう完全にラーメンに引きずられてるじゃねぇか」

 

先程から、誰かを心配したり物を食べる仕草や動作をしたり、こいつらが忙しいのだ。

しかも、心配する声を上げる、何かを食べるモーションをする以外に行動が無いのだからいい加減飽きてくる。

カレーうどんの時なんて跳ねたカレーが服についてテンパる仕草までしてたんだからな。

 

微妙な面持ちで森を歩いていると、やがてひらけた場所に出た。

霧が濃くなる中、俺の視界に映ったものは……

 

「館……か?」

 

古ぼけた、館だった。

さっきの幻覚で見えた廃屋が、豪華になった感じの。

……ボロいことに変わりはないが。今にも崩れそうで、ホラーな感じである。

 

がさりと音がする。

振り向くと、先程通ってきた道が茂みで覆われる所が見えた。

あっチキショウ、閉じ込められた!

 

「入るしかないのかー……。マジかぁー……」

 

玄関へ向かおうとするホーリにアイアンクローをかまして行動を抑制し、俺自らが玄関に近づく。

玄関は、というか屋敷は俺たちを歓迎するように扉を開き、ご丁寧にスリッパが自立稼働して玄関に並んだ。

……ちゃんと靴は脱げってことね。

 

靴を脱いで玄関に並べると、ホーリと空良の靴が勝手に外れ、代わりにスリッパ自身がが完璧なタイミングで滑り込み、二人に履かせた。

どんな原理だよ。

 

「お、おじゃましまーす……うわっふ!?」

 

腰を低くして足を踏み入れたと共に床にべたりと血のような液体が落下し、音を立てる。

お化け屋敷かよ、気味がわるい!

 

液体は天井裏からボタボタと落ち、俺の足元で奇々怪々的な模様を描いていく。

やがて描き出された模様は……

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや愛の告白かよ。

液体はハートを描いた勢いそのままにボタボタと位置を変え、階段を登っていく。

……ついてこいってか。

やたらと血の方向に行きたがるホーリと空良に身を預け、俺は血の方向に進んでいくのだった。

 

階段を登り、第二エントランスのようなものを抜けると、血が案内したのは扉に隣接された小さな木の箱。

……ここに入れと?

恐る恐る箱にはいると、がこんという音と共に箱が降りていく。

さながらエレベーターのようだ。

 

鎖で箱を固定しているのか、じゃらんじゃらんとかなり不安定。

こころなしかくくりつけた空良が震えている気がする。

 

母、娘、部外者の三人で密着すること数十秒、鐘の音と共に箱が静止した。

ついた場所は一本道の廊下。

なにかの地下施設のようで、まさに魔女でも住んでいそうな感じだ。

 

血の道しるべは、もう垂れてこない。

もう案内する必要が無いからだろう。

 

錆びたドアノブ。

鼻につく油っぽい異臭。

いざ決心して、ドアノブを捻り中へ入る。

瞬間、まず感じるのは視界の悪さ。

ほこりが舞い、奥まで見通せない。

 

『ふふふふふ……』

「ッ、誰だ?」

 

暗闇の奥に人影が見える。

しかし、目を凝らそうと思ってもほこりが邪魔でよく見えない。

 

『くすくすくす……』

『あはは……』

『くくく……』

「声が、増え……!?」

「『楽しいね……』」

「『嬉しいね……!』」

 

くっ、空良とホーリもか!

焦点の合わない目で笑う姿はさながらホラー。

血華刀を抜き、空良をくくりつけている紐を断ち切る。

 

不安定に乱れるほこりの奥を見通そうと目を凝らす。

仮にも俺だってレベル50代、ドラゴンとかじゃなければ一人でもなんとか戦える。

 

『くくく……ようやく来たか……!』

「お前は、誰なんだ?」

『それは貴様が一番理解しているだろう?あぁ、このときを待ちわびていたぞ……!』

 

血華刀で空を切り、空気の流れを乱してほこりを払う。

誰かは、俺が一番理解している?

あいにく、心当たりは一切ない。

 

陰の肩を掴もうと手を伸ばす。

その瞬間、ダンジョンで嫌というほど感じた殺気が、室内に溢れかえった。

 

「『オーバーホ───」

『させるかっ!』

 

時の流れが緩くなる前に、質量が俺を捕まえた。

腹への直接的なダメージではない。実態のない質量を相手にしている感覚。

ダンジョンの中盤で戦ったサイコキネシス使うやつ、あいつの攻撃にそっくりだ!

 

ともなれば、相手は魔法使いか魔物か……。

 

ほこりが晴れ、俺の視界に陰の正体が露になった。

自分の予想していなかった相手に、目を疑う。

 

『くくく……捕まえたぞ……!』

「ゆう、れい……」

 

その陰は金髪に緑色の目をしていて、見た目は幼女と言っても過言じゃない。

なにより特徴的なのは、彼女の肌や肉体を貫通して向こう側の景色が薄ぼんやりと見えること。

 

『ずっとずっと、待ちわびていたのだ……!』

「だから、何をだよ……!」

『ほう?ここまで来てしらばっくれるつもりか?ならば容赦はしないぞ……!』

 

幼女の蹴りによって、血華刀が押し飛ばされる。

幽霊なのに質量があるとか、反則だろう!

 

『さあ、武器が無くなったぞ?どうする?』

「くっ……!」

 

ギリギリ離れていない範囲に入っているのか、呪いの装備である血華刀が俺の手に戻ってくる気配は無い。

 

『さあ、早く、渡すのだ!』

「だから、何を───」

 

 

 

 

『早く私の中華麺を渡すのだ、らぁめん屋ぁぁぁあああ!』

 

 

 

 

 

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