一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「は……?らぁめん?」
『そうだ!待ちくたびれたぞ!』
「『らぁめんだよ……』」
「『美味しいよ……』」
「おいこの二人うるせえんだけど」
なんだろう、なにか意見の相互があった気がする。
ってかこの世界にもラーメンあるのか。
『おう?すまんな、この館の呪いでな。ほれ』
「……はっ!?」
「っ、仙くん、ここは!?」
幽霊が指を鳴らすと、二人が正気に戻り、各々の反応をする。
空良が俺に視線を向けたとき、やはりと言うかなんというか、この幽霊も目に入るわけで。
「……離れろ」
『ん?』
「私の仙くんから離れろッ!」
エクスカリオンとかいう剣を抜き放ち、神速で幽霊目掛けて降り下ろした。
『ぬるいな』
「……ッ!?霊体すら切り裂く剣なのに!」
エクスカリオンは普段、スパスパと根菜を斬っているにも関わらず、幽霊のその華奢な手で押さえられてしまった。
レベルが100を越えている空良の攻撃を、意図も容易く。
俺の体にまたがるという不安定な状態で空良の剣を受け止めている幽霊に訪ねる。
「……お前なんなの?」
『哲学だの。んと、なんと言ったら良いものか……』
顎に手を当てて考える幽霊。
やがて考えがまとまったのか、パアッと表情を明るくさせると。
『ある男に処女も財産も妹も奪われ、最後の最後に希望として待ち望んでいたらぁめんの出前を300年待つ魔女の地縛霊!』
「エピソードが重すぎる!」
『それで、中華麺はどこだ?』
「……どこだ云々じゃなくて、まず俺ラーメン屋じゃないから」
『なんと……ッ!?』
ビシャッ!!と雷に打たれたようにショックを受け、体から力を抜く幽霊。
あ、なんか今なら抜け出せそう。ふぬん。
『では、中華麺は持っていないのか?』
「ふんッ……重……。うむ、持ってない。ついでに言うとその出前も来ない。300年だからな」
『クァ……ッ』
鳥の締められたような声を出して大口を開ける幽霊。
あの、空良さん?ホーリさん?周りの本に興味を持ってかれないで?
俺、今の状態は刀もないし押さえつけられてるしで、結構不利な状況なんですが?
あと良いから空良は良い加減に剣を幽霊に当て続けるのをやめたげてください。
平和的に助ける方向で。
と、ゆらりと起き上がった幽霊。
先ほどの空良やホーリのように、まるで洗脳でも受けたように笑っている。
『ふふ、ふふふふふ……』
「あ、あの、幽霊さん?」
『申し遅れた、私の名前はアゼンダ。昔はエルフの里で名の売れた魔女をやっていたよ……。それで、キミは本当にらぁめんやじゃないのだね……?』
「あ、あぁ」
「仙くん、こっちに」
手招きする空良にしたがって
アゼンダは幽霊らしくふよふよと浮き始め、バッと両手を広げた。
『らぁめん屋じゃないのなら不必要だ!』
「っと、地面が揺れてますよ……!?」
『この場で死にそうらえ!』
「仙くん!」
『ようこそ───』
『───レベル4ダンジョン、【魔女の家】へ!』
……ゑ?
『食べ物の恨みは怖いぞ?さあ冒険者よ、かの高名な大魔じゅちゅ……大魔術師のダンジョンを攻略してみせよ!』
「食べ物ってかそれは八つ当たり……」
『黙れ』
部屋が形を変え、幾多の部屋が出来上がり、通路に放り出され、地下だと言うのに窓から日が差し込んだ。
空良と、ホーリと、幽霊との距離が物理的に遠くなる。
離されたんじゃない、空間が広くなったために距離ができたのだ。物理的に。
『ふふふふ、ふはははは!人の期待を裏切ったその罪!私が裁いてあげよう!』
被害者が裁くのは公平じゃないとか、そもそも人じゃなくて幽霊とか、そんな野暮なツッコミはしない。
本棚が ひとりでに動き出し、壁を作る。
視界を塞がれた。もう空良が見えない。
ガタガタと本が揺れる。
オーバーホールを発動、多分本が飛んでくるとかのトラップだろうから対処を───……あれ?
なんか、散開してる?
黄色い線は本棚からぶちまけられたようにとび、俺の向かうことは無かった。
不思議に思いつつもオーバーホールを解除。
ガタンッ!!と本棚が一際大きく揺れ……。
「仙くぅぅぅぅうううううん!」
空良に切り刻まれた。
本が衝撃で飛び出し、散開する。
……これか。
「大丈夫、仙くん!?」
「おっ、おう。大丈夫だぞ。それより空良は?大丈夫なのか?」
「私は大丈夫。けど、あんまり良い状況じゃないよね……」
「ホーリとも逸れたしな。それに暗い、煙い」
「【ライト】、【クリーン】」
俺たちの周りにいくつか光の塊が現れ、舞った埃が掻き消えた。
……うん。
「とりあえずは、ホーリを探す方針でいこう」
「うん」
かくして、俺たちは予期せぬ形でダンジョンに挑む事になったのだった。