一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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昨日短かったからね、投稿してやらぁ!


幼馴染みと完全制覇

 

「オーバーホール」

 

時間の流れががゆっくりになる。

不規則に飛び交う本の軌道を予測、空良の手を引いて走り抜ける。

 

予測の通り、俺たちは一回も被弾することなく本棚のエリアを突破出来た。

 

「そこそこ進んで来たけど、見つからないな」

「ホーリちゃんどこ行っちゃったんだろ……」

「案外元気そうだけどな」

「レベルも高いしね……」

 

本から召喚された低級悪魔───空良によれば、【コモンデーモン】というらしい───をなぎ倒した事により、俺のレベルもいくつか上がっていた。

コモンなのにそこそこ強く、経験値も稼げたとは思うのだが、裏を返せばホーリはこの悪魔を一人で相手にしているかもしれないということ。

ホーリにはオーバーホールは無い……と思うし、特殊なスキルも持っているような素振りもなかった。

 

「心配っちゃ心配だけど、あいつタフネスあるからなぁ」

「ははは……」

 

薄ぼんやりと光る【ライト】の球体を手で玩びながら、長い長い廊下を進む。

ううむ、先程から廊下ばかりだ。

部屋に着く気配が無い。

 

「なぁ空良」

「なあに?」

「丁度いいタイミングだから聞くんだけどさ。……お前、一年でこの世界の魔王倒した訳なんだろ?」

「そうだね」

「どれくらい苦労した?」

「……ふぇ?」

「俺がさ、今こうやってレベル上げてるのも、空良がいるから安心して特攻できるんだよ。でも、空良、お前は違う」

 

無意識に全身に力が入るのを感じる。

無駄に神経を張り巡らせ、気配を感じとろうとしていた。

 

「お前からしたら、弱者の戯言かもしれない。俺ごときにはわからない痛みつらみだって絶対あるはずだ。けど、弱者なりに、寄り添わせてくれ。……そうだ、今度旅行に行こう。学校で長期休暇があるんだ。全部終わったら、空良を楽しませてみせる」

「…………」

「お前はさ、辛い事があってもいつも溜め込むから。忙しくて全然それらしいことできなかったけど、俺たちは恋人同士なんだ。楽しい事も、悲しい事も、全部共有しようよ」

 

後ろは、見ない。

恥ずかしくて、今の顔を見せられない。きっと赤くなっていると思うから。

 

「だからさ……。っと、空良?どうした?」

「ずるいよ」

 

背中に空良の体温を感じる。

 

「ずるいって、何が」

「私だって、いっつも仙くんに迷惑かけてばっかりで、今回の件で少しでも恩返しできたらなって、考えてたの」

「……」

「それに、恋人同士、なんでしょ?仙くんも溜め込まないで。最近体調を崩しがちなの、知ってるんだから」

 

空良には、敵わないな。

 

「……勇者だって、恋もするよ。好きな仙くんだからこそ、仙くんに頼りきってはいられないんだよ。幸せになろう?二人で。辛かったら慰め合おう?二人で。仙くんは、私にとって最強なの。仙くんが私の弱点なんだよ」

 

胸の奥に、じんわりと暖かいものが込み上げてくるのを感じる。

 

「仙くんが好き。大好き。だから、見上げて欲しくないの。横に並んでほしい。レベルなんか気にしないで、一緒に」

「……分かったよ。本当に、空良には敵わないな」

「……あっ、こっち向かないで!」

 

抱き絞めかえそうとすると空良に首を固定させられる。

動かん。何故だ。

 

「……その、絶対に顔真っ赤になってるし、恥ずかしいから……」

 

見てェ。

その顔、超見てェ。

 

……嫌われたくないからやめておくか。

 

そうして、俺がふと天井を見上げた時。

 

「……ギャ」

「…………」

「……ギャ?」

 

コモンデーモンと目が合った。

……ずっと見ていたのか。

 

「仙くん?どうしたの、上見て……」

 

ぴしり、と背後の空気が固まるのを感じた。

 

「…………ぁ」

「デーモン逃げて。超逃げて」

「ギャギャっ……」

「あああああああああああ!!」

 

スパァン。

小気味良い音を立ててコモンデーモンが塵と化す。

南無三、コモンデーモン。安らかに眠りたまへ。

 

 

 

 

『で、結局仲間の一人は見つからずにここにたどり着いてしまったわけか』

「なんで見つかんないのかホントに疑問に思ってる」

『同情するぞ』

 

幽霊に同情されてしまった。

 

『お仲間は……。うむ!救済措置のために作った休憩所で気持ちよさそうに昼寝しているな!』

 

アイツは本当に残酷な未来を変えに来たのか!?

やる気出せやアホが!!

 

『……ごほん。まぁ、このダンジョンの最深部まで来たのは事実。さぁ、ダンジョンボスのお出ましだ!』

「だ、ダンジョンボス」

『あぁ、これの一号機を作るのに何年かかったか……。霊体のまま考え抜き、たまに来る冒険者を洗脳して手足となってもらい機械を操作し……!』

「仙くん、構えて!」

『出動だ!【完全複製筐体人形(クローンズボックス)】ぅぅ!』

 

クローゼットが変形し、やや近代的な装置となる。

培養液漬けのアゼンダの肉体が前面に射出され、幽霊のアゼンダがその肉体に重なるように移動する。

アゼンダの霊体が見えなくなったと同時に肉体の瞼が開かれ、ふっと笑って見せた。

瞬間、培養液の入った容器が割れ、培養液が漏れ出す。

 

「ふふふ……良い気分だ!全身を巡る魔力!胸の奥で脈打つ心臓!」

 

裸状態のアゼンダが手を広げるとどこからか服が飛んできて、アゼンダの体にまとわりつく。

……幽霊でも十分に強かったのに、肉体を手に入れやがった!

 

「さあ冒険者よ!このダンジョンボス、【大魔女アゼンダ】を倒してみよ!【アイス】!」

 

全身に重くのしかかるプレッシャーのような感覚。

アゼンダからとんでもない量の魔力が放出されているのだ。

途端、床板が凍りつき始め、足を固定しようと広がって来る。

 

「良好良好!なら、こっちはどうだ!?【ウインド】!」

 

バックステップで冷気から逃げると後ろから風の塊をぶつけられる。

とっさに踏ん張ろうとするも、もうすぐそこまで来ていた氷に足を取られ、バランスを崩してしまった。

 

「ッ、仙くん!【ファイア】!【ウインド】!」

「ほう、合体魔法か!面白い、力比べだ!【アイス】、【ウインド】!」

「「合体魔法!」」

「【インフェルノ】!」「【ブリザード】!」

「「うおおおおおおおお!」」

 

空良の魔力が荒れ狂う炎の竜巻に変化し、アゼンダを襲う。

アゼンダの魔力が凍てつく吹雪と化し、空良の炎を迎え撃った。

 

カッコいい。男のロマンじゃないか、合体魔法。

魔法が使えない俺にはさっぱりだが、きっと高度な魔法なのだろう、二人が苦しげにうめく。

感動している場合じゃない。

血華刀を氷に突き刺し、杖がわりにしてなんとか立つ。

 

足に力を入れ、氷に足を取られないように走りだし、攻撃を仕掛ける。

血華刀を持つ腕をだらりと下げ、全身を弛緩しつつ走る。

これこそアスリートもやっているリラックス運動法。

 

「ふん、お見通しだ!【ウインド】!」

「【オーバーホール】!」

「なっ───」

 

世界の流れが遅くなる。

ブリザードとかいう魔法を維持して注意が疎かになっている状態で放たれた無数のウインドの軌道は単調だ。

俺自身の動きも遅くなっている中で必死に軌道を覚え、避ける準備をする。

 

そして、時間は元の早さに戻る。

 

横から来る風を避け、正面の風をジャンプで飛び越し、体を捻り、それでも少しづつ進んで行く。

不意に、空良か叫んだ。

 

「仙くん後ろ!」

「ッ!!」

 

反射的に振り返ると、見逃した風の塊がこちらに飛んでくるのがわかった。

一度足を止め、一瞬の間だけ全力集中。

狙いを定め、弛緩させていた腕を強張らせ───。

 

 

───そして、俺は()()()()()()

 

 

「───バカな!?」

 

搔き消える風。

振り上げた勢いはそのままに、遠心力に身を任せて一気にアゼンダに駆ける。

肉薄。一瞬の硬直。

俺の手には、確かな感触が残っていた。

 

「エンチャント、【魔力干渉】」

「なる、ほど、な……」

 

そう言って俺は、アゼンダの体から血華刀を引き抜いた。


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