一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みとダンジョン脱出

 

「なぁーはっは。まさか、ごふっ、本当に私を殺すとはな!」

「……なぁ、お前ちゃんと霊体になるんだよな?今更ながら不安になってきたんだが」

 

クローン製造装置。

作ったクローンが複数あるということは、複数を動かす方法があるということ。

だと思ったのだが……違うのか?

違ったら俺、人殺しだぞ?

 

「おう、よく見ているな。その通り、ちゃんと霊体になるすべはある」

「よかった」

「幽体離だーつ……』

 

ぬうっと、肉の体から半透明のアゼンダが出てくる。

その地球のネタ、なんで異世界人のお前が知ってんだ。

 

と、苦笑いを浮かべていると、俺の体が色とりどりの光に包まれた。

は?え?なんで?なんでなん?なんでレベルアップ?

 

「クローンとはいえ、私の『肉体』という生き物の生命活動を止めたんだ、レベルも上がる」

 

いつの間にやら新しいクローンに入っていたアゼンダが説明する。

なるほどなぁ。

ってか、新しいクローンに入ってるなら戦闘続行じゃね!?

 

「おっ?あぁ、心配するな。さっきのはただの憂さ晴らしだ。再び戦う気など無いさ」

「……ん?」

「要は体が完成したからなにかと戦って見たくなったのだ」

「オイこらテメエ」

 

結構危なかったんだからな。

ダンジョン内で死んだらどうにもならんじゃないか。

 

「悪い、悪かった。お詫びに……そうだな……なにか魔法を教えてやろう」

「魔法?」

「あぁ。もちろん、【ファイア】や【アイス】とかのありふれた魔法じゃないぞ。何がいい?精神に関与する魔法、隕石を引き寄せる魔法……。あ、勇者だけが知っていると言われる時空に関与する魔法もあるぞ?」

「ブッ!!」

「ん、どうした娘。……あぁ、なるほど、勇者ご本人様なのか」

「ま、まぁ……。どうも」

「時空魔法を教わったんだろう?ダヨルの野郎はどうだ?そろそろくたばったか」

「いえ、あの、その、毎夜毎夜あなたの写真を撫でて泣いていました」

「なっ……ッ!」

 

アゼンダの顔がみるみるうちに赤くなり、ふしゅうと蒸気が吹き出た。

え、なにこの娘めっちゃヒロインしてるじゃん。

 

「そ、そうか。そういえば、告白したまま返事を聴いていなかった……。ごほん!!その、時空魔法は私が創った魔法なんだ。それをダヨルが引き継いで、勇者に師匠として教える……そういう流れだったのだが……」

「は、はぁ」

「あの、そのえーっと……だから、だな。その、実は、魔法はなぁ……」

 

手をわたわたさせて焦る幼女の姿は、とても微笑ましく、そして奇怪に見えた。

やがて赤い顔のまま本棚に近づくと、一冊の本を投げつけて来た。

 

表紙には……『蘇生魔法』……?

 

「きっ、教会の聖職者が最高位になった時に覚える魔法だ!詳しい事は書いてある!」

「いっ、いいんですか」

「もう私には必要ないモノだからな!は、早く持っていけ!」

 

……周りで死んだ人誰もおらんし別にいらないんだけど……。

いやまぁ、ね?どっちかって言うと、蘇生とか高度そうな魔法よりも空良が使ってるような単純な魔法がいいなぁなんて……。

 

「まだ何かあるのか!?」

「いや、別に……」

 

顔に出ていただろうか。

 

「そうと決まれば早く出て行け!じゅ、準備をしないといけないからな!はは!」

「じゃあ……。空良、帰る?」

「そうだね……。装備も整えたいし、一回城に帰ろうか」

「あの紫の石は?テレポートのやつ」

「全部使っちゃったかな……無いや」

 

うわあ、結構距離あるぞ。

 

「ダンジョンの外までは魔法陣があるからそれで帰ればいい」

「あ、どうも。ちゃんとあるんだな、魔法陣」

「ホーリちゃんは?」

「やめてやれ。気持ちよさそうに寝ている。私が後で起こして向かわせる」

 

ホントにあいつ未来変える気あるのかな。

空良の娘と知っておきながら殺意を覚えていると、いつのまにか空良が魔法陣を発動させ、体が引っ張られるように───

 

 

 

 

「行ったぞ」

「あー……。そうですか」

 

ダンジョンの休憩室。

書斎となっている場所でホーリがごろごろしていると、その背後にアゼンダがぬっと現れた。

 

「行かなくて、良かったのだな?」

「えぇ、まあ」

「時空魔法を使った者には、過去や未来を変える責任がかかる。……もしかして、お前、飛ぶのは初めてじゃないだろう?」

「ばれてましたかー……」

 

ホーリが手を開くと、()使()()()()()()()がバラバラとこぼれ落ちる。

 

「飛んだ先の過去で過去に飛び。その先の過去から過去へ飛んでいきました」

「なんとまあ……」

「しばらくここにいていいですか。せっかくうまくいきそうなんで───」

 

 

 

 

「───ここが彼らの、ターニングポイントのようです」

 

 

 

 

 

 

ぱち、ぱち。

俺たちは焚き火を囲み、肉を貪っていた。

 

「うま、うま」

「はむ、はむ……」

 

時刻は夜。

なんでこんなに足が遅いかって言うと、最初のダンジョンから日が暮れない内に城に帰れたのは、ホーリがかけてくれた支援魔法が大きい。

ホーリは支援、近接攻撃、遠距離魔法の全てが得意なオールラウンダーらしく、実際、寝ている空良を運んだのもだいたいホーリだ。

 

「なぁ空良」

ふぁい、へんふ(なぁに、仙くん)

「飲んでからでいい」

「……んぐ。なぁに?」

「空良のオーバーホールって、いつ開花したんだ?」

「いつだろう……。あ、思い出した。最初にダンジョンに潜ったとき」

 

早。

そっか、そんなに早かったのか。

オーバーホール。

任意で発動できるほど慣れたとはいえ、正直かなり辛い。

気を抜いたら倒れそうだ。

 

そんな技を、空良は最初にダンジョンに潜った時から身につけてたんだな。

 

「はぁ……」

「え?なに?」

「『隣に立てる』ようになるには、どれくらいの時間がかかるのかなって」

「あっ、あれは……レベル差じゃないし……」

「ま、しょうがないかな。頑張りますか。恋人のために」

「〜!もう、茶化さないでよぉ」

「HAHAHA」

 

笑いながら肉に噛みつき、歯でこそぎ落とす。

キャンプならではの楽しさと気分によるおいしさがとても合う。

 

「これ、なんの肉?」

「バハムート」

「ごほっ……」

 

幼馴染みが平然と神話生物を食してやがる。

強く……育ったな……。

 

「なんだ、バハムートって」

「んとねー、牛と鳥と猪と魚の姿に変身できるモンスターで、強いから魔王軍の兵士になってたかな」

 

幼馴染みが平然と魔王軍の兵士を食してやがる。

っかぁ、こんなとこでも勇者するんだから。

逞しいよ全く。

 

「テントって二つあんの?」

「あるけど……なんで?」

「いや……気にならないの?」

「なんで?」

「や、その……体拭いたり、するだろ?」

「別に仙くんなら構わないけど」

「……手間かかるけど、俺、外にいるからその間に体拭いてくれ」

「……?わかった」

 

恋人でも、鈍感幼馴染系勇者は免疫のない男子高校生にはキツイ。

ご飯を食べ終え、空良が体を拭いている間に一息ついて辺りを見渡してみる。

自然な平原。手になじむ刀。

空を見上げれば、満点の星空が広がっていた。

都会みたいな人工物的な光がないからか、もしくは異世界だから見える星の量が多いのか。

とにかく、ここで写真とってネットに上げたらめっちゃ評価もらえるだろうなぁって、そんな感じの空だ。

 

「異世界かぁ……」

 

何回来ても信じられない。

俺は異世界にいるし、空良はもっと前から異世界にいる。

レベルなんて概念があって、モンスターがいて……。

 

「仙くん、終わったよ」

 

テントからひょこりと顔を覗かせる幼馴染は、未来からの使者によれば腕を無くして心臓を貫かれるのだという。

 

「ん、わかった」

「お湯も変えておいたから」

「センキュ」

 

そんなこと、本当に可能なのか?

この最高に愛らしい勇者の腕が飛ばされて、心臓が串刺しにされるなんて。

 

助けたい。でも、俺に何が出来るだろうか。

平凡な、戦闘とは縁遠いこの体で───……。




『ワイドレンジコメディー』という新しい小説に、幼馴染みのサブストーリーを投稿しました。
名付けて……そうですね、『幼馴染みと詐欺師』ですかね。

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