一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
意識がふわふわしている。
暗闇を漂っていた。
いつしか、俺の腕が黒い鎧に包まれていた。
そうだ、俺は魔王になったんだ。
その事を考え始めた瞬間、身体が闇に引っ張られる感覚に襲われ、気がつくと……。
「…………」
「せ、セン?」
「跪け」
俺は、
見たことのあるような、無いような光景。
俺が、俺の目の前で、魔王の意思と戦っていた。
「我は魔王だ。復活してみせた」
「魔王の俺の、命令を聞けよ」
「勇者を、今すぐ殺せ」
「勇者に、指一本触れるな」
「「命令に背けば、その首を落とすッ!!」」
オールフィストは少し迷うと、空良の首をとりにいった。
ここで、俺はブチ切れてしまったんだ。
理性を手放し、魔王の凶暴性に身を任せてオールフィストの首を切った。
ノンピュールが額に冷や汗を浮かべ、魔王の俺はノートを呼んだ。
本能で感じ取ったんだ。起動力が足りないと。
だから、ノートを身体に融合させて、翼を得た。
魔王の左腕が鋭利なツメとなる。
「魔力、同調!?」
「──────!!」
「しまっ、かはっ!?」
魔王は得た起動力を使ってノンピュールに肉薄する。
予備動作無しで距離を詰める動き。
俗に言う【瞬歩】とか言うヤツだろうか。
翼使ってるけど。
拳がめり込み、ノンピュールが飛ぶ。
聖獣が目の前に躍り出てきた。
ノンピュールを庇うように。
「目を覚ますのです、セン!」
「──────!!──────!!」
「ッ!!」
聖獣の細身に、魔王の拳が突き刺さる。
左手がめり込み、つまりはツメが深々と刺さったんだ。
「ぶっ……ごぼっ」
血反吐を吐こうとする聖獣に、容赦なく上からの回転蹴り。
ノートの翼はここでも大活躍、この立体的な動きもノートの翼があったからこそ───ん?
魔王は気絶した聖獣を右手で掴む。
剣を手放して。
……あれ、俺って聖獣を左手で掴んだよな。
ノンピュールが起き上がり、蹴りを喰らわすために水の勢いを溜める。
でも、間に合わなかった。
聖獣は首をくたっと降ろし、既に息をしていなかった。
……まて、まて、まて。なぜだ。
俺は聖獣を殺してない。なんでレベルアップしてるんだ!?
なんで、殺してるんだ!?
「はぁぁぁぁ!!」
「オ───バ───ル」
魔王の胸辺りにブラックホールのような穴が開き、オレンズの剣撃を流れるように躱していく。
オーバーホールだ。
オレンズの剣撃を躱しきった魔王はこっちの番だと言わんばかりにオレンズに剣を振った。
オレンズの腕から鮮血が吹き出る。右腕が地面にぼとりと落ちた。
「ぐっ、あああ!!」
待て、なんだこれは!!
なんで俺が圧倒しているんだ!
殺すような危害は加えていないはず!
「いい加減にしろ、セン!!」
「──────」
飛んできたノンピュールのかかとを腕で受け止め、すぐさま剣を振る。
これも違う。
「ッ!?」
ノンピュールの身体が水のように弾かれ、その場にビチャビチャと飛び散った。
魔王は手をかざす。
水がどんどんと集まって一つの塊になり、球体になって魔王の手に収まった。
『離せ!離すのじゃセン!これがどういうものかわかっているのか!』
水がぷるぷると震え、声を発する。
あれがノンピュールの正体なのか?
魔王は手に力を込め、水をもう一度弾こうとする。
『やめろ。やめるのじゃ!』
「──────」
『止めてくれ、頼むそれだけは───』
バチン。
水が飛び散る。
魔王は濡れた手から滴る水を口元に持って行き、それを飲んだ。
瞬間、魔王がレベルを上げる。
黒い籠手が青みを帯び、それがノンピュールすらも吸収したのだと明白に証明する。
なんで、なんでなんだ。
ホールの騎士が魔王に斬りかかる。
が、次の瞬間にその頭を破裂させた。
魔王は嫌らしく笑みを浮かべる。
吹き出た血が魔王の左手に集まって、血の短刀となった。
まさか、ノンピュールを吸収したときに得た力を使ったのか?
水を操るとかそういう。
短刀は魔王の手から勝手に飛び出て、ファンネルのように魔王の周りを飛ぶ。
「───」
「このお!!」
利き腕を失ったオレンズが剣を捨てて殴りかかってくる。
ふよふよと浮いていた短刀が深々とオレンズの腹に突き刺さり、貫通して肉をえぐった。
手を伸ばしても、止められない。
崩れ落ちるオレンズに王様が思わず立ち上がるが、何も出来ずに歯噛みしている様子。
魔王は手から滴る血をウォーターレーザーのように圧縮し、一歩も動かずに王を攻撃、首が跳ねた。
魔王は天高く飛び上がると、有り余る魔力を左手の爪に込め、最後の標的にそれを向けた。
一輪の勇者がいた。
急降下して行く魔王。
とまれ、止まれトマレ───!
「……悪い方向に動いちゃいましたか。 間に合って良かったです」
「───?」
「【ヒール】。必ず助けますからね、お母さん」
爪を止めたのは俺の意思じゃなく、勇者の娘だった。
魔王は追撃を開始するも、速さが違う。
魔王のほうが若干遅い。
魔王は一度引くと、転がっている聖獣の首を掴み、吸収する。
体内で二つの獣の意思が混ざり合いそうになるのを嫌がってか、魔王は身をよじる。
結果、魔王はノートの魂を吐き出した。
翼の色が変わる。
さらなる力を手に入れた魔王は勇者の娘を倒そうと振り向く。
が、挑んで来たのは想定外の者だった。
「仙くん……なんで、なんで!」
「──────」
「どうして、魔王になっちゃったの……?」
勇者が、目覚めた。胸にぽっかりと穴を開けて。
亜空聖剣エクスカリオン。
神をも殺す必滅の剣が、再び魔王を討つために光る。
連撃。勇者の名は伊達ではなく、魔王の皮膚に幾度も閃光が走る。
といっても魔王も魔王で血華刀を振り、勇者にダメージを与えていた。
しかし、勇者と魔王で、明白に違うことが一つ。
「ぐう!【ヒール】、せりゃあ!」
「───!──────!───!」
魔王は、魔法を使えない。
魔力は魔王の体で暴れまわって振り回すだけで、魔法に使われることは一切なかったのだ。
このままでは危ないと考えたのだろうか。
魔王は大きく距離を取り、瞬歩を使って勇者に肉薄する。
突き出された刃に対して、勇者は───
何の抵抗も無く刃を受け入れ、抱きしめた。
ずぶりと深く突き刺さる刃。
空良が、俺の体の頭を撫でる。
しかし魔王が気をとられていたのは、そんなことではなかった。
そこに、あった。
勇者の娘は魔法を起動させる。
この未来を変えるために。
現れたチケットを破くと、勇者の娘の体が光に包まれた。
勇者はそこで、生き絶えた。
◇
「仙くん!仙くんっ!!」
「う……」
「仙くん!」
気がつくと、空良に抱きしめられていた。
腕もある。血は……服にはついているけど、出血はなさそうだ。
そっとその頭撫でる。
「?」
「悪い夢を見た」
「夢?」
いや、アレは夢などではない。
自分の発言を否定する。
あれは、オーバーホールだ。
オーバーホールで予測……いや、【予知】をして覗いた、俺のもう一つの未来。
レベルはどの勇者にも負けないくらいに上がり、恋人すらも殺し、正真正銘の魔王と化す。
……でも、空良には伝えないでいいかな。
「夢で良かった」
「……そっか」
今は、空良がいる幸せを噛み締めたい。
何せ大切な恋人を、予知も含めて二回も失ったのだから。
『夏休み、幼馴染みとどこへ行こう?』のアンケートは終了しました。
幼馴染みと旅行編をご期待ください。