一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みと観光

「んわぁー!!綺麗だねぇ、仙くん!」

「確かに。ちょっと感動だな」

 

俺たちの目の前に広がるのは、行きの電車でも見た大和の街並み。

湯けむりが空いっぱいに広がり、湯の熱気と客を呼び込む人の熱気が混じり合う。

 

「しかし、カメラに防水機能を付けてて助かった。流石に湿気が多いよなあ」

「防水機能付けてたの?」

「おう。他にも、水中での撮影が可能になる軽量外殻とレンズ、手ブレ防止機能、いろいろ付けてる」

「なんでそんなプロ仕様なの……?」

 

こればかりはロマンなんでな。

愛人を最高のビデオカメラで撮る。これ常識。

……一眼レフとか買ってもいいかもな。

 

「あー。また仙くんが良からぬ事を考えてる顔してるー」

「まったくそんなことはございませんが?」

「うそだー」

「うそです」

「……ん?あ、うそつき!」

 

ぷくっと頰を膨らませる空良に和みながらパンフレットをめくると、この街の名所やら名産やら、まあ楽しそうなのが書かれていた。

ここから一番近いのは……。

 

「よし空良、あっち行くぞ」

「あっ、仙くん、手……」

「ん?はぐれないようにするには、当たり前だろ?」

 

しっかりと指を絡めて恋人繋ぎ。

そのまま歩き出せば、空良は慌ててくっついてくる。

そして恋人繋ぎのまま腕を絡めて来た。

 

「ふふふ……仙くんにいっつも恥ずかしい思いをさせられてるからね。どう?仙くん。恥ずかしい?」

「いや?空良をいっぱいに感じれて幸せだぞ」

「はうあっ……!」

 

勝利。

空良が自爆して顔から蒸気を噴出している間にデリバリーショップでいまウワサのタピオカドリンクを買う。

俯いて顔を赤くしている空良の頰に容器をくっつけると肩をびくりと震わせた。

 

「な、な、何!?仙くん!」

「ほいコレ。いま流行りらしいタピオカドリンク。なぜ人気なのかは知らんが買ってみた。そして空良を驚かせてみた」

「本日二度目だよ!……うう、仙くんそんなキャラじゃないでしょぉ……」

 

そういいつつもドリンクを受け取る空良。

タピオカドリンク……液体はミルクティーなのか。それでストローが大きめ……タピオカを飲ませるためと思わせつつ、飲むミルクティーの量を増やしてすぐ無くなるように工夫する。

売り上げを上げるために考えたな。

 

「いただきまーす……ずず……」

「んぶ。もぐ……。モチモチしてるな。タピオカって響きは完全に野菜とか果物なんだが、これはスイーツの部類に入るのか?」

「冷たくて美味しい……んむ。もぐもぐ」

 

ドリンク片手に目標地点に到達。

大和に来て初の名所は……。

 

「足湯……?」

「そう、足湯だ。大和は掘った場所によって湧き出る温泉の効能が変わるらしい。その種類も様々……。で、この足湯は筋繊維のこりをほぐすとかなんとかで、足の疲労回復、傷の治療に効くらしい」

「へぇ〜。詳しいね、仙くん」

「パンフレットの受け売りだぞ」

 

さっそく靴を脱いでお湯に足を入れる。

荷物がさっと手に取れる範囲にあることを確認してから腰を下ろすと、今まで気づかなかった絶景が広がっていた。

 

「うわあ……!」

「離島っぽいとこにあるとは思ってたけど、こんなだとはな」

 

どうやら駅や宿屋の反対側には小さめの崖があったらしく、少し遠くの方に水平線が広がっていた。

横を見ると、俺たちが乗って来た電車のレールが見える。

レールは空中廊下のように建設されていて、海の上を通っている。

電車からの景色も絶景だったが、この景色も悪くない。

 

「仙くん、今この状態でタピオカドリンク飲むと美味しいよ」

「ほう?どれどれ」

 

ミルクティーを流し込むと、足元からじんわり温められているのに対して、喉から冷たい液体が流れるのが心地よい。

他の客もいない貸切状態。

ちょっとロマンチックだ。

 

「が、しかし時間は有限」

「えーっ。もう行くのぉ?」

「別にまだいたいなら良いけど。次は普通に温泉だぞ」

「いく」

 

疲れの取れた足で歩いてその温泉まで向かう。

ついた施設は少し古びていて、the・温泉って感じだ。

別に混浴とかない。普通に効能がすごいらしい普通の温泉を使った普通の施設だ。

空良と別れて脱衣所に向かう───む、先客がいるのか。

一つだけカゴに先に衣服が入っている。

実は既にバスタオルとかを用意していたので、体拭くやつとかは心配いらない。

 

「ふうん、中は結構綺麗───っと?だれもいないじゃないか」

 

脱衣所を越して風呂まで向かうと、広めの湯船が待っていた。

がしかし、気がかりなのは脱衣所に服があったのにだれもいないこと。

忘れ物か……?

 

とにかく、楽しまなくては損。

さぶざぶと温泉に浸かると、体が温もりに包まれると同時に肺の中の空気が押し出され、気の抜けた声が出る。

たしかこれって、体がお湯に温められているから肺の中にある周りのお湯以下の空気が上に逃げるとかじゃなかったっけか。

 

『仙くーん!きこえるー?』

「きこえるよー。だからそんなに大きな声を出さなくても大丈夫だー」

『壁際に寄って話そうよー』

「おー」

 

壁際に行くと、壁からとんとんと音がしたので叩き返す。

湯には入れないが、まあ後で入れば良い。

壁に寄りかかると向こうの岩に人影が見えた。

なんだ、そこにいたのか。

 

『仙くん』

「どした」

『私ね、いますごく幸せ』

「ほう?その心は」

『ずっと前から思ってたんだ。こうして仙くんと旅行に行ったり、異世界に行ったり、でもたまにお家でのんびりしたり。そんな日常を過ごせたら、すごい幸せなんだろうなって』

「……」

『だからね、本当はこの一枚の壁がすごくもどかしいの。とっても恥ずかしいけど、小さい頃みたいに一緒にお風呂に入れないかなって』

 

それはさすがに無理があるだろ。

……まあでも。

 

「いつかは、できるんじゃないか?」

『……え?』

「人生は短いとは言うけど、俺らからすりゃすごく長い。この先、空良がまた異世界に行ったりしなければ、そんな機会もあるだろ」

『……別れるかもって可能性は?』

「お前は別れたいのか?」

『そっ、そんなことは決して!絶対いやだ!』

「なら大丈夫だ。俺はお前を愛し続ける。そうである限り、その機会も遠くないだろ」

『……ひゅるんっ』

 

なんだ今の音。

一拍置いてざぱぁんという音が聴こえ、女湯がしんと静まる。

 

ぼこぼこぼこぼこぼこぼこ(のぼせちゃったみたいだから先に上がるね)

「おい溺れてんのか!早く上がれ!」

ぼこぼこぼこぼこぼこぼこ(酸素はあと二時間もつから大丈夫)

「何言ってんのか全然わかんねえぞ!」

 

その後、湯船から出たようなざぱあという音が聴こえたので胸を撫で下ろして再び湯に浸かると、向こうの岩から声が聴こえてきた。

 

「随分仲が良いんだね」

「あっ、すみません。うるさくしちゃって」

「いいのいいの。若者の青春って……」

 

声から察すると……中年男性だろうか?

岩の向こうの陰が、ざぶんと動いたときには。

 

「お姉さん大好物っ♪」

 

先ほどの声とは全く違う、艶かしい美声の女性がいた。

 

「ばあーっ!?」

「こらこら、騒がない。青春でもないのに」

「いや、いやいや、ちょっ、なんで男湯にいるんすかぁ!?」

「んー?細かいことは良いじゃない……そ・れ・よ・り・もぉ……」

 

女性は怪しげに瞳を光らせ、その無防備な胸を強調してきた。

 

「お姉さんと……イイコトしない?」

「お断りします」

「えっ」

 

何を言いだすのだろう、この人は。

 

「私の魅了にかからないなんて……魂レベルで好きな人がいない限り私の虜になるのに」

「あーじゃあ空良ですね。魂……いや、この世に生を受けるときより前から好きです」

「あ、あらそう。もしかして、壁の向こうのあの子?」

「はい。そっすよ」

「へえ……それじゃあ……」

 

再びお姉さんの瞳が光る。

さっきよりも光量が多い。引き込まれそうだ。

 

「お姉さん……ヤる気になっちゃうなあ♪魂レベルで好きな人を差し置いて魅了できたら、私にも箔がつくわあ♪」

「いやだから嫌ですって」

「大丈夫よぉ……。お姉さんが優しくシてあげるから……ね?」

 

そしてお姉さんは俺の胸板を指で摩りながらとんでもないことを言った。

 

「ま・お・う・さ・ま♡」

 

「人違いです」

「やんっ、魔王様ったら辛辣!」

「魔王ってなんですか、チョットヨクワカラナイ」

 

ふふ、また異世界絡みかコンチクショウめが。

NICEなBODYをもつ女性は前を隠そうとともせずに俺から離れ、見事な礼をしてみせた。

 

「先代魔王の秘書、サキュバス・クイーンのノゼットと申します。この度、先代魔王の魔力を引き継げる新しい魔王様がこちらの世界にいらっしゃるとの事で、新たな魔王様にご挨拶と、未体験との事なので筆おろ……ん゛ん゛、貢物をと思いまして」

「帰ってください」

「ええー?どうして、魔王様。その反応は自分が魔王だって認めるってことでしょ?」

「魔王様言うな、あと前を隠してください。今は旅行中なんだ、プライベートなんです。仮にも秘書と言うのなら上司のプライベートは守るべきでは?」

「あら。そんなこと言うなら私もプライベートですよ?わざわざこの街まで来ましたのに、お相手頂けないなんて、残念ですわぁ」

 

口で「よよよ」と言いながら泣き崩れるノゼットさん。

俺はそれを呆れたような目で見ながら次の言葉を紡いだ。

 

「あっ、そう。じゃあ今後この街で俺を見つけても俺に話しかけないこと。あとさっきの中年の声はどこから来たのか。それとなんで男湯にいるのか。はい、全部含めて5分以内に言って。さんはいっ」

「そんなもの、3分で十分です。えーと、最初のは時と場合によります。魔王様にもしもの事がありそうでしたら話しかける事をお許しください。男性の声は……サキュバスの特性、変声魔法。中には女の子が好きなコもいるから。男湯は……この温泉は男湯と女湯で湧き出る温泉が違うの。だから午前と午後で入れ換えるんだけど、今回の私みたいに一日中ずっと入っていると女湯が男湯に交換されるのよ」

 

わあ〜分かりやすくてスピーディー!

小癪な。

 

「ん。だいたいわかった。じゃあもう話しかけんなよ」

「承知しましたぁ。……また今度、こっちに来てくださいね。武器や土地の引き継ぎ、それと……私との情熱的な一夜が待ってますからぁ♡」

「二度と行くか!」

「ひどぉい♡」

 

頭からお湯を被って風呂を出る。

脱衣所に戻って、自分の服が入っているカゴのとなりに、ノゼットの物と思われる服が。

悪いとは思いながらチラ見すると、シャツやデニムズボンを目につく側に置いている。

怪しまれないように、男女どっちが着ても違和感のない服装にしているのか。

 

「ノゼットは異世界の人?魔物?だ。ってことは、なんらかのアイテムでこっちに来てるはず……」

 

悪いとは思いながらも、ノゼットの服を物色する。

空良の使った巻物とか、魔王城に放置されててもおかしくない。

秘書って言ってたし、魔王からの遺言とかで勇者を殺しに来てるとかも……。ん、なにか薄い布が手に当たった。

短剣を包む布か?アイテムの類か?とにかく確認しなくては───あっ。

 

「………………」

 

ノゼット、すまん。

白生地に赤いりぼんのアレ、見ちゃった。

 

 




なんか……最後まで爽やかに書きたかったのに……こうなってしまった……。
大丈夫だよね、仙くん、大人びてるとは言えど高校生だもんね、おかしくないよね。
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