一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「お帰り仙く……。ん……?」
風呂から上がると、空良が俺の首筋をすんすんしだした。
「臭いか?ちゃんと洗ったつもりなんだが」
「……他の女の匂いがする」
「そんなのわかるのか」
「ラベンダー」
ノゼットはラベンダーだった。
「んとな、簡潔に説明するとな」
「うん」
「お前が倒した魔王の秘書がいた」
「うん?」
「あとこの温泉は午前と午後で湯が変わるらしいから入る時間によっちゃ女が男湯にいてもおかしくないみたい」
「えっちょっ待っ」
「まあ大抵の人はそれを踏まえて昼には入らないらしいけどな」
「いや仙くん今温泉より大切なことさらっと話した気がするんだけど」
なんのことだろうか。
俺はただただ魔王の秘書がいたって伝えただけなんだが。
「え?仙くん大丈夫だったの?魔王だよ?魔王の秘書だよ?」
「別に攻撃されなかったぞ」
「あっぶな、仙くんあっぶな!!え、秘書ってサキュバスっぽい人でしょ、危な!」
「なに、そんな強いのあいつ」
曰く。
ノゼットにはデバフ系の魔法が効かず。
曰く。
ノゼットは魔王軍で魔王の次に強く。
曰く。
空良が戦ったときは5回ほど死にかけたという。
……無理ゲー。
「こうみると、空良ってほんとに強いんだなぁ」
「勇者ですから」
「……む。ところでさ」
「なに?」
「俺たち、っていうか空良。空良って引ったくりのとき壁蹴って登ってたよな。でも空良の実力ってそんなもんじゃなくね?」
そう。
うろ覚えだが俺が魔王になったとき、空良はビルなどゆうに超える高さを飛んでいたのだ。
もちろん、空良はそんな特技を持ち合わせていないからレベルの恩恵としか思えず、そうだとしたら空良はなぜあのときビルの壁を蹴っていたのか不思議だったのだ。
「う〜ん、それがね……」
「なんだ」
「こっちの世界だと、レベルの恩恵が弱体化?減退?してて」
「ほう」
「仕組みはよく分からないんだけど、こっちの世界だとレベルの恩恵が減っちゃうんだよ」
…………。
空良のレベルはゆうに百を超える。
俺もパワーレベリングのお陰で大分レベルが上がり、多分、その気になれば空良ほどとは言わずとも一般人よりかは身体能力があるだろう。
しかし、それは異世界の時の力よりも劣る。
この状態で俺は戦えるのかどうか、そしてそれはどこまで自由が効くのか。
とにかく……。
「そうか。ありがと、参考になったよ」
「ふふっ、どういたしまして。それで仙くん、この後どうするの?まだ観光する?どこに行く?」
「んー……。それじゃあ、ここらで有名なアクセサリーとか見に行くか?」
「行くぅ!」
旅行を楽しんで、それで深夜の戦闘に備えよう。
◇
「……来たか」
「ご協力、ありがとうございます」
10時。
俺たちは、空良が持ってきた【収納バッグ】から装備を取り出し、スタッフルームまで来ていた。
空良は勇者の服装。
俺は空良が見繕ってくれた、異世界での一般的な剣士が着る服。
対して二人は、白い胴着のようなものを身につけていた。
二人とも、ペンダントを表に出している。
「はい。俺たちも、平穏な旅行を楽しみたいですから」
「仙くんから事情は聞きました。よろしくおねがいします」
「ほう、あんたがお仲間か。……只者じゃねえな」
「えと、はい」
男が空良を見て何かに気づいたように呟く。
やっぱりその道の人だとわかるんだろうか。
「んで、その剣はどこから持ってきたんだ」
「荷物の中から」
「…………当旅館では危険物は出さないでくれよ。今日は逆に助かったからいいが……」
その件は俺もマズイかなって思いました。