一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染と帰り

 

窓からさす光で目が醒める。

ゆっくりと目を開けると、そこに空良の顔があった。

 

「うわっ。起きてたの仙くん?」

「今起きた。ナニしようとしてたんだ?」

「うっ、いやその、魔が差して……寝顔、いいなって……あはは」

「ったく……おはよ」

「うんっ。おはよう」

 

朝から幸せだ。

しかし、女の空良よりも起きるのが遅いとは。

一度あさちゅんコーヒーをやってみたかったのだが……。

 

「ね、ねえ仙くん。私この後どうすればいい……?」

「俺もしらない」

 

とりあえず布団から出ることになり、着替えてから朝食を取りに行くことにする。

この旅館は朝食サービスがあって、パンフレットに載ってるお店で朝食が無料で食べられるんだ。

 

「それで空良、何が食べたい?」

「うーん……特に……?仙くんは?」

「俺は……そうだな、せっかくの温泉街だから……蒸したもの、かな」

「このお店、鳥の蒸し焼きあるね」

「じゃあそこにしようか」

 

ゴーゴレマップに位置を登録して宿を出る。

チェックアウトも済ませた。忘れ物は無し。

大将の前を通るときに『きのうはおたのしみでしたな?』とか言われたけど……聞こえてないよな?予測だよな?

 

「んーっ、爽やかぁ!」

「今日は涼しいな」

 

パンフレットによると……へぇ。

 

「なんか特別な仕組みで温泉が沸く時間が決まってるんだと」

「だから今日はちょっと涼しいんだね。へえー」

「昼頃にはまた暑くなるのかもな?」

「かもね!」

 

そうこうしているうちにお店についた。

朝食は蒸し鶏定食。ご飯とお味噌汁のおかわり無料。

 

「おまたせしました、蒸し鶏定食になります!」

 

看板娘らしき人が、2人分の定食を持ってくる。

丁度いい感じに湯気を上げていて美味しそうだ。

と、空良が何かに気づいた。

 

「そのアクセサリー綺麗ですね!」

「ありがとうございます。夫が買ってくれたんですよ、31の誕生日に」

「へぇー……もしかして、あの人が旦那さんですか?」

 

31ぃ!?

若っ!?

 

「はい。この定食屋の料理人をやっています。それと……もしよろしければ、このアクセサリーを買ったお店をお教えできますが……」

「ぜひ!」

「ではパンフレットを……」

 

いやー、女ってわからんもんですね。

ネームプレートには……『赤石(あかし)』と書かれている。

赤石……うん?赤石……?どこかで聞いたような聞いていないような……?

 

まぁいいや。

アクセサリーショップは後で見に行くとして……。

 

「じゃあ仙くん、そろそろ食べよっか!」

「最近お前押しが強くなって来たな」

 

両手を合わせて頂きます。

ほかほかの蒸し鶏は少し冷える朝に丁度いい。

薄めに味付けされた塩もいい感じだ。

味噌汁は豆腐と玉ねぎ。合わせ味噌かな……。

つまり、何が言いたいかというと。

 

「「美味しい!!」」

 

今日でここを去ってしまう。

早めに、しかしゆっくりと味わって定食を貪る。

烏龍茶で喉を潤し、またご飯にメインディッシュとループしていく。

 

いつの間にやら、蒸し鶏は互いの皿から消え去っていた。

 

「「ご馳走様でした!」」

「意外と腹が膨れたな」

「そうだね。……ところで、仙くん」

「さっき教えて貰ったアクセサリーショップ行きたいって言うんだろ?わかってるよ」

「ありがとう!」

 

定食屋を出てアクセサリーショップへ向かう。

せっかく教えて貰ったんだから、ちゃんと行かないとな。

あの人……えっと……。

 

「あれ?」

「どうしたの、仙くん」

「さっきの定食屋の奥さんの名前。あれなんだっけ?」

「え?もー仙くんたら忘れたの?あの人の名前はー……」

 

空良が表情が一瞬にして消える。

……まさか。

 

「覚えて、ない?」

「うん……。不自然、だよね」

「ああ。なんか色が関係していたような……?」

「一回戻って確かめてみよっか!」

 

二人で何とは無しに戻ってみる。

奥さんは不思議そうな顔をしていた。

 

「どうされたんです?忘れ物ですか?」

「あ、はい。少し探させて下さい」

 

空良は袖にハンカチを忍ばせて、椅子の下を漁り始める。

そこで袖からハンカチを出せば見つかったことにできる。

その間に俺が確認を……。

 

『田中』

 

田中……?

 

「苗字って、田中でしたっけ」

「田中ですよ?おかしな事を聴きますね」

「いやぁ、すいません。なんかこう……違和感があったので」

「そうですか。私の名前は、性を田中、名を則子と申します。御縁があったらいつでも寄って下さいね」

 

程なくして空良が「あった」と言ってハンカチを取り出した。

 

「では、俺たちはこれで」

「お騒がせしてすみませんでした」

「いえいえ、またいつでも寄っていってください」

 

奥さんに見送られて店を出る。

そうして再び大通り。

 

「どうだった?」

「田中だった」

「案外平凡な名前だね。私たちみたいなちょっと見ないような苗字だと思ったんだけど……」

「俺たちの思い過ごしかもな」

 

最近は厄介事が多かったから、疲れているのかも知れない。

湯治に来たのに戦闘したり……。

まぁ、温泉で疲れは取れたから良いけど?

学校の授業、鏡石のコピーがやっていたとはいえちゃんとついて行けるかなぁ?

 

「仙くん、考え事?」

「ん?どうした?」

「なんか難しい顔してたから」

「うーん。学校の授業ついていけるかなって」

「たしかに……。学校の授業って何をやってるの?」

「二次関数」

「にじかんすう?」

「んとな。まず数字があって……」

 

そういえば空良は中卒だ。

それどころか受験も受けていないし、中学三年生も最後まで過ごしていない。

そうなると、真面目な天才少女の空良でも学力は低い判定になってしまうだろう。

就職はまず無理か……。

 

「へぇー、難しそうだね」

「うん。これはすごい難しい。慣れれば分かるらしいんだけど……」

「慣れてない?」

「あんまり……ね」

 

就職が無理なら何ができるだろうか。

家政婦。いや、空良が家政婦になると俺との時間が少なくなる。

内職。良いだろうけど、空良が満足する収入が得られるだろうか。

異世界で働くのは……ってか勇者だからめちゃくちゃ金持ってんじゃん。異世界で飯食えばいいじゃん。

 

考えて損した。こんな事にも気づかないなんて。

ま、そうだよな。

異世界で物を買って、それをこっちの世界で売れば金は稼げる。

宝石なんかはまさにそうだろう。

現役の鉱山なんかもあるだろうし、それを換金すれば……空良は安泰だ。

 

「仙くん?ついたよ?どこ行くの?」

「え?ああ、すまん」

 

いつの間にかついていたみたいだ。

アクセサリーショップはイヤリングやネックレス等の小物から、財布やカバン等、様々なものが売っていた。

落ち着いた色の素材で編んであるのか、カバンは通気性が高そうだし、麦わら帽子なんてものもあった。

 

麦わら帽子を被って、編み編みの鞄を左手に、ワンピースで微笑む空良。

 

チクショウここ最初に来るべきだった……!!

なんだよ想像してたより数倍良いぞこの店!

値段は……ひえっ。

 

「そ、空良ぁ……?」

「わかってるよ、見るだけ。……どうどう仙くん、似合う?」

「お、おお」

 

……ポンと出せる額じゃねえよな。

空良の笑顔は数億の価値があるとして……ポケットマネーで出すのは難しそうだ。

なんか……申し訳ないな。

 

「ごめん。せっかく旅行に来たのに、記念品とか買えなくて」

「良いよそんなの。仙くんと来たってだけで、一生物の宝物だよ」

「ほんと、ごめん」

「謝らなくって良いって。それよりほら、帰りの駅でおまんじゅう買ってこ?ね?」

 

俺も早いとこ、働ける仕事を手につけないと。

高校生だって、立派な大人だ。

さっきも考えたように、例えば異世界で鉱夫になって地球で売るとか……。

……宝石。宝石か。

やっぱり、覚悟を決めないとな。

 

「空良。好きな宝石とかってあるか?」

「好きな宝石?なんで?」

「俺たちにはまだ早いかもしれないけど……給料三ヶ月分。この言葉の意図を汲んで欲しい」

「給料三ヶ月分……。……えっ。それって……」

 

空良の顔が一気に赤くなる。

これは俺なりの責任の取り方だ。

 

幼馴染みとしての心配。

友人としての協力。

恋人としての覚悟。

そして……俺自身の、プライド。

 

「いやまあ、まだ。まだ、な?一応、空良の好きな宝石とか聞こうかなーって……。特に深い意味は無いけど」

「そ、そっかぁ!じゃあ私も、薬指のサイズとか計っちゃおうかなー……。特に深い意味は無いけどっ?」

 

互いに照れてそっぽを向く。

アッ、店員さんと目があった。

 

『お客様、店内でのプロポーズは困ります』

 

心なしか目がそう訴えているように見える。

いやでもしょうがないじゃんそんな雰囲気だったんだから。

 

「空良、出よう」

「そっ、そうだね!……仙くんって行動派なのか思考派なのか、たまにわからなくなるよ……」

 

慌てて二人で店を出る。

そのまま恥ずかしさから、駅に走る。

電車が駅に入るのが見えた。

 

「せっかくだからこのまま行くぞ!」

「うっ、うん!」

 

二人で異郷の地を走る。

繋いだ手は、しっかりと指が絡められていた。

二人でホームに急ぐ。

 

「チケットを……」

「これを!」

 

前方に舞わせた切符。

駅員さんは右手を二回ブレさせると見事空中の切符に穴を開け、再び空へ投げる。

荷物を手放し、俺が左手で、空良が右手で切符を掴み取る。

荷物は慣性の法則に従って俺たちよりも前に進んだため、すれ違いざまに掴む事が出来た。

 

そのままホームへ滑り込み、電車に乗る事に成功。

 

帰りの電車は、全力疾走によるスタミナ切れとアクセサリーショップでの会話から、互いに沈黙を保っていた。

出てきた用語の設定資料集は

  • いる
  • いらない
  • うるせえバアアアアアカッ!!
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