一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「ただいまーっ!」
「いやぁ、大和の温泉もよかったけど、家も落ち着くなぁ」
まずはポストに入っていた手紙や新聞を確認する。
溜まっていた手紙を処理していくの、なんとなく楽しいよな。
「ってもほんの少し。まだ療養休みも終わってないんだよな」
骨折のせいで二週間の療養休み。かつ、祝日やら創立記念日やらで、一週間の連休。
の内、まだ三日間くらいしか消費できてない。
「気分転換にはなったけど、まだ休みはあるんだよな……」
「そっか。まだ骨折休みになってるから、迂闊に外には出れないんだったね、仙くん」
「大和に住んでるクラスメイトはいないし、それくらいなら大丈夫だったんだけど……」
まぁ招待券が招待券だったし、休みを全部潰せるとは思ってないんだけどね。
まぁ、出来ることといえば、聖獣とこれからの方針を決めたり、鍛冶屋のオッサンに血華刀の事を聞いたりとか。
おもに異世界関連だが、世界が違っても時間は経過する。こういうのは早めにしたほうがいいのだろう。
「後始末だな。よし空良、異世界行こう」
「え?あぁ、うん……」
「どうした?乗り気じゃないみたいだけど」
「うーん……乗り気っていうか、『管理者』のことが気になって。あの剣とか眼とか、ぜったいに日本産じゃないでしょ?異世界に関係はあって然るべきかなって」
「あぁ……でも、しっかり殺しただろ……俺たちが、この手で」
「勇者の勘じゃないけど……どこかで生きてる気がするんだ」
まぁ、たしかに。
あのクラスの化け物が、そう簡単に死ぬかと言われれば、多分そうじゃない。
殺した以上はもう無関係。そう考えて、割り切っていたが……。
「まぁ、それについて調べるのも含めて、異世界に行くべきだ。それとも、お前だけこっちに残るか?」
「ううん、私も一緒にいく。堂々と外に出られないこっちよりも、異世界の方がやる事あるもん」
「そっか。じゃあ、行くか?」
「そうだね。じゃあ魔方陣に乗って」
ノンピュールが改造してくれた魔方陣は、魔力を込めればノンピュール以外の人も発動できるようになっていた。
ホーリが来た時もこの魔方陣で来たのだが、そのときはいつもと同じく城に繋がった。
しかし今はさらに改良したらしく、城、城下町、精霊殿、聖獣の住処のどれかに、指定して飛べるらしい。
「城下町でいい?」
「構わん」
「おっけー。じゃあ飛ぶよ……」
視界が揺らぐ。
ぐにゃりと曲がって暗転して……。
◇
「どええええ」
「仙くん、もしかして召喚酔いした?」
「そうかもしれん。……ふう」
空良が【ヒール】をかけてくれた。
全ての事後処理のため、先ずは鍛冶屋に寄ることにする。
オッサンはハンマー片手に出迎えてくれたが、訳を話すと眉を寄せた。
「あの呪いの刀が進化ぁ?」
「なんか……錆びが取れたみたいに金色に輝き始めるんだよ。俺が魔王になった瞬間」
「封印の儀式のあのキラキラはお前さんの力じゃなかったのか」
「仙くんは蘇生魔法しか学んでないんだよ。だから、仙くんがなにかをしたって訳じゃないと思う」
オッサンは「蘇生魔法?」と首をかしげる。
そうだった、蘇生魔法はあのエルフ───アゼンダが教えてくれた魔法だった。
たしか……聖職者が最高位になったときに覚える魔法って言ってたような……そりゃ、ただの鍛冶屋のオッサンが知る訳ないわな。
「ふぅん……特に心当たりはねぇなあ。細工をした覚えもないし……念のため調べておくから、しばらく俺に預けちゃくれないか」
「わかった、頼むよ。お代は……」
「んなもんいらねぇ。俺もその現象には興味があるんだ。……魔力が関係してるのか?膨大な魔力……」
オッサンは刀を持ったまま店の奥に引っ込んでいった。
……瞬間、俺の腰に血華刀が戻ってきた。
「そういえばソレ呪いの装備だったねぇ……」
「すっかり忘れてたな……」
「わり、俺も忘れてたわ」
アンタが忘れちゃおしまいだろ。
「……ねぇ仙くん、今なら呪い外せるんじゃない?」
「膨大な魔力……魔王の魔力で足りるか?」
「どうだろう?でも、まずはやってみよ!」
空良が、密着する表面積を稼ぐために俺に抱きつく。
俺はまだ魔力の操作ができないから、空良を経由して魔力を送り込まなければならない。
体から魔力がゴッソリ引き抜かれ、魔力に反応して脳天を突き破るような痛みとともに体が魔王になっていく。
同時に血華刀の刀身から光が溢れだし、ヒビが入り、そして弾けた。
「ほぉ……これが変質ってやつか」
血華刀はまさに光の剣といった様子で、眩い光を内包していた。
そうしている間にも俺の魔力は空良を経由して血華刀に流れ込むが、未だに俺の魔力は底を見せない。
空良の魔力を使った時よりも時間が長いんじゃないか?
魔王のやつ、すごい量の魔力を持ってたんだなぁ……。
「っ……。まだいける、仙くん?」
「まだ限界は見えないな」
「そう。ペース上げるよ……ッ!!」
魔力の引き抜かれる量が多くなった。
さっきの状態でもガッツリ座れてたんだが……スピードを上げることができたのか。
「……ん?おい、内包する光の量がデカくなってるぞ!」
「もうそろそろかもしれん!空良、ペースもっと!」
「今でも……結構……きつ……っ、おおおおおおおおおお!!」
魔力が一度にたくさん無くなったからか、喪失感に脳が塗りつぶされる。
立ちくらみにも似たその感覚に足がふらつくが、ここで失敗したら全てが台無し。
空良が頑張ってんだから、俺も頑張らないと……ぐ……!!
血華刀からビシビシッと音がなる。
よくは見えんが、多分刀身に入った亀裂が大きくなっているのだろう。
が、しかし……!
「空良、ごめん……!」
「私の使うから!」
俺の魔力が尽きた。
今のペースで入れ続ければ、俺より少ない空良の魔力はすぐに尽きてしまうだろう。
倦怠感が体を襲う。急な眠気。
だが、落ちない。血華刀に魔力を流し続けるために。
「ああああああああああっ!!」
やがて、空良が絶叫した瞬間───
───ドウンッッッ───
と、血華刀が金色の波動を放った。
刀身が弾け、魔王になっているときに見た光の剣になっている。
だが1つ、違うのは……。
「綺麗……」
「…………」
血華刀から、金色の燐光が漏れ出ていること。
「……こりゃぁ……なんだこれは……」
「わからないんですか?」
「いや、似てる……似てやがるぞ。エクスカリオンを作った時に、似てやがる……」
神をも殺す剣。亜空聖剣エクスカリオン。
たしかに、この輝きは空良の持つ剣に似てる。
「でも、まったく別物だ。亜空聖剣のランクには届かなかったみたいだな」
やっぱり、俺の器じゃあ亜空聖剣なんてたいそうなものは持てないらしい。
血華刀が、こうこうと輝く。
金色の燐光が空良の髪に触れ、そして消える。
空良は気怠そうにしゃがんでいたが、やがて起き上がった。
「仙くん、魔力は大丈夫なの?」
「もう回復したみたいだ。魔王の魔力は量も回復速度もすごいらしい」
「えぇ……」
微妙に羨ましがる空良。
そんなに物欲しそうにしてもやらんぞ。空良に勝てる、俺の唯一のアイデンティティだ。
オッサンは不完全燃焼気味にため息を吐くと、
「こいつは血華刀とは別もんになってる。新しい名前を考えてやれ」
と言ってきた。
名前ねぇ。
そうだなぁ……金色の光と……燐光……。月と、炎……。
「
「おう。いい名前じゃねえか」
「良かったね、仙くん。……魔王化、大丈夫?」
たしかに、魔王の状態はすごく疲れる。
深呼吸をして精神を落ち着かせると、俺の中で暴れていた魔力もやがて沈静化した。
魔力が精神に関与することがわかったのはつい最近の話だ。
俺の頭から突き出ていた角も戻り、体が鉛のように重くなった。
魔王化、早い所ものにしないとな。
身体能力の上がる俺の切り札だが、空良とか、魔力を強制的に活性化させられる人物が必要になる。
「ふぅ……ってあれ?」
「月火刀が……元に戻っちゃった?」
「ここは変わらずなんだな……謎だ。……で、呪いは?」
あぁ、そうだ、呪い。
オッサンに月火刀───今は元の黒ずんだ色だから血華刀。を、預けて店を出る。
歩く。来ない。
歩く。まだ来ない。
「あれ……?え?え?」
鍛冶屋の扉をバンと押し開け、空良が目を輝かせて出てくる。
その手には、血華刀が握られていた。
いつもなら俺の手に戻ってきている範囲。
「やったよ仙くん!」
「おおおおおっしゃああああ!!」
ついに……ついに、俺の呪いが解けた!
鍛冶屋に戻って刀を受け取る。
いやー……これで、心おきなく外に出られるな。
今までは……空良に魔法をかけてもらってたから……。
出てきた用語の設定資料集は
-
いる
-
いらない
-
うるせえバアアアアアカッ!!