一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
まあとにかく、血華刀の呪いが消え去ったのはとても嬉しい話だ。
「……そうだところで。血華刀のエンチャントって今は何になってる?」
「エンチャント?なんだったかな……」
武器のエンチャント。
管理者のこともあるし、今が平和すぎて何かが起こるんじゃないかと少し不安だ。
何が起こってもいいように、エンチャントは見直しておきたい。
「【魔力干渉】だな」
「あーやっぱり?そんな感じだったとは思ってたんだが」
「エンチャント変えるの?」
「うん……そういえば、エクスカリオンってなんのエンチャントがついてるんだ?」
「全部だ」
……。
え?
「なんて?」
「全部だ。エクスカリオンは切れ味を上げれて、魔法を叩き切れて、霊体が切れて、魔法が3回まで反射できる」
「………………」
なんだそのチートゲー。
エンチャントを変えるのも良いかもな。魔法を反射したりは興味ある。
「というかエクスカリオンは元々その能力を持っていてだな。代わりにエンチャントができないんだ。神の剣だからな。鼻が高いがもう二度と作れないと確信してる」
「なるほどな。武器そのものが能力を持ってるってことか」
「あぁ。この店にもそういった系統のはいくつかあるな。一般的には魔剣と呼ばれるんだが、こういうタイプは帯剣してるだけで効果があるから、腰に挿しておいて能力だけ使うって戦法もできる。流れの行商人なんかはすごいぞ。何本も携帯してるから一人で山を崩せるぞ」
俺、行商人やろうかな。
「まあ魔剣を持てる行商人はほとんどが貴族入りしてるから、わざわざ山なんて崩しに行かないけどな」
「そうなのか。……ん、この剣は?」
「お目が高い、これも魔剣だ。こいつの能力は一定の範囲の獣を使役することができる」
唾の部分に瞳のような黄色い宝石が埋まった、まさに獣の剣と言った感じだ。
獰猛な獣に睨まれているかのような緊張感と、どこか暖かい優しさを感じる。
「こいつは聖獣がドラゴンだったときに鱗を貰ってそれを材料に作ったんだ」
「あ、あのとき貰ってたのってそういう理由なんだ?完成したんだね」
聖獣の剣か……。
どうりで暖かみを感じた訳だ。
と、苦笑いしていると鍛冶屋の扉が開いた。
茶色の髪と、特徴的な耳と尻尾。
「呼ばれた気がしました!」
「聖獣!」
「聖獣さんです!」
聖獣は果実の入った紙袋を抱えて店に入り、聖獣の剣を見て頰を引きつらせた。
「店主さん、これは……」
「おう。聖獣の剣だ」
「あー……。買い取らせてもらいますね」
ちょちょちょっと!!
「なんで買い取るんだよいらないだろお前!」
「やめてくださいセン!黒歴史なのです!」
「でも、あのときの聖獣ちゃんもかっこよかったよ?私を乗せて魔王城に特攻して行って……!」
「あーあーあー!聴きたくない聴きたくない!テンションが上がってたんです!月の魔法です!」
ロマンチストか聖獣。
「あーもう、わかりましたよ……買うのはやめておきます」
「……あのさ、お前の金ってどこから来てんの?」
前々から気になってはいた。
ノートの保護代とか、結構な数が振り込まれてたもんな。
「素材を売っています!」
「素材……?」
「はい。この姿のときは素材になるものはありませんが、鳥にせよ龍にせよ、私の魔力を帯びた素材は良く売れるのです。羽や鱗、獅子の姿ならタテガミや爪などですね」
「……なるほど」
その売られたりなんだりされて流れて世に出た例がこの剣ってわけか。
奥が深い。この調子だと、聖獣以外にも売れる素材を出すモンスターやらは多そうだ。
「……なあ空良。あんまり細かい確認はしてなかったけど、ドロップアイテムってあるのか?魔物とかの」
「そういうのは無いね。モンスターの素材が欲しかったら生け捕りにするとかしないと」
「そうなのか」
「でも魔族の人がモンスターを使役してたらするから、レアなモンスターでも無い限りお金で解決するよ。お金は偉大だね」
……そうか。
まあでも安心した。
この国でほとんど魔族───魔王化したときに周りにいた騎士たちも魔族だった───を見ないのは虐げられたりしているからだと思っていたけど、思い過ごしのようだ。
「そういえば魔族魔族って言ってるけど、魔族って根本的になんなんだ?」
「あー……その辺複雑だかんな、異世界人がパッと来てすぐ覚えられるもんじゃねえよな」
「魔族っていうのはね、魔法の扱いに長けたりとか、独自の生き方をしている人のことを言うの。人間は文化が発展してから魔力を使い始めたけど、魔族は文明と魔力が同じスピードで発展していった……だったよね?」
「そうですね。ですので、人間族が良く使うランタンなんかも、魔族は魔力を込めるだけで火が灯る……なんて進化もしています」
ふぅん。
魔女の館にいたアゼンダも、なんだか近代的な機械を持っていたし、培養液なんかも良く作ったもんだ。
曰く、エルフやドワーフなんかの、王道ファンタジーにいるような人種も魔族というらしい。
日本人がアメリカやらヨーロッパやらの人たちを『海外人』っていうのと一緒なんだな。
……にしても人が来ねえなこの店。
勇者の剣を鍛えた割には人気が無さすぎる。
「……ねえ聖獣ちゃん。気づいてる?」
「えぇ、気づいてますよ。どうします?」
あ?ん?
なんか雲行きが怪しいぞ。
今まで人種談義に花を咲かせていたじゃないか。
「セン、剣を抜いてください。どうやら、ウワサをすれば……というものらしいですよ。魔族の匂いです」
鼻を鳴らす聖獣。
同じく空良も目つきを鋭くする。勇者の勘ってやつか。
オッサンがハンマーを構えて髭を撫でる。その構え投げるつもりだろ。射線かぶってんだけど。
血華刀を握った手の力を抜く。
やがてギィと扉が……。
「あっ」
扉……が……。
「えぅ、な、建てつけ悪……」
「……ワリィ、なにぶん老舗なもんでな」
開かなかった。
「えいしょっ!あ、開いた……!」
赤いロングストレートの髪。
突出したツノ。
隠しきれないたわわに実った体。
「二度目のお迎えにあがりましたっ♡魔王様ぁ♡」
「帰ってくれッ!!」
「帰れなんて酷い!せっかく見つけたのにぃ!」
もう二度と会うことはないと思ってたのに……!!
「……」
「おっと勇者ソラ、不意打ちは卑怯じゃなぁい?」
「何しに来たの」
「それはモチロン、魔王様の魔力をウチの魔法使いが受信したから、お迎えに……ね♡」
「ね♡じゃないよぉ!!」
轟と風を切って突き出されたエクスカリオンを首を傾けただけでよけるノゼット。
強いってのは本当だったのか。
俺見えなかったもん。
「はあ……これまたべっぴんさんだ」
「前魔王の手先ですよ!」
「いってェ!?」
オッサンの首がものすごい音を立てて前に倒れる中、ノゼットの視線は俺に注がれる。
な、なんだ?何かすんのか?
身構える俺に向けて、ノゼットが放った一言は。
「魔王様、いい加減に城に来て引き継ぎの仕事してください」
「………………話だけ聞いておく」