一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
ノゼットは淡々と作業的に語り出す。
「勇者ソラが魔王様を討伐した後、魔王という権限はあなたに移りました。ですので、魔王様がやっていた業務やその他は、魔王を引き継ぎ成された現魔王様───あなた様に引き継がれるわけです」
「詰まるところ、俺が魔王になったから、前の魔王がやっていた政治を俺がやれ、と?」
「はい、そうなります」
業務モードでOL感の増したノゼットは一枚の書類を俺に渡す。
ざっと目を通すと、よほど前魔王は政治が下手だったのか、課題と思われる点がいくつも見受けられた。
「仙くん、これ本当にやるの?魔王軍の仕事だよ?」
「俺、魔王になっちゃったからなぁ……。多分やらないと、魔族側が困るんだろうなぁ」
「仙くんのお人好し……」
「しょうがねぇだろ……元はといえばこの力は空良を助けるために手に入れたんだし、やるべきことはやらないと」
「ではセン様……魔王様。ワイバーンをご用意しております。どうぞこちらへ」
ワイバーン!
こころ踊る響きだ。
「ねぇ仙くん、私も付いて行ったほうが……」
「ノゼット、魔族の人は空良を恨んでる?」
「少なからずは」
「なら空良は来ない方がいいな」
「なんで?」
「勇者ソラだって、誰からも慕われてるわけじゃない。まして、自分の王となる人が憎い人と一緒にいたらイヤだろ」
「…………」
「だから空良は、ここに残れ。大丈夫だから」
いつものように、空良の頭に手を乗せ、うりうりと撫でる。
空良は心配そうに見てきたが、それに微笑みを返すと呆れたようなため息をついて納得してくれた。
「くれぐれも!……キケンなことはしないでね」
「わかってるよ」
「前例があるからどうかなぁ……?」
空良の視線を回避しつつノゼットを促すと、ノゼットは頷いて店を出て行った。
「そんじゃ、ちょっと行ってくるわ」
「おう。呪い、解けてよかったな」
「じゃあ私は……レベリングでもしてようかなぁ」
「それ以上強くなるつもりですか……?」
もう少し会話に混ざりたい感覚を胸に残し、店を出る。
ノゼットは店先で待機していて、俺を見ると天高く指を鳴らした。
……ん、風が強くなってきた。ってか、上から?
見上げると、空に黒い点が。
点はだんだんと大きくなり、ついにはドラゴンのような体躯を見せた。
「魔王様、お乗りください」
「コイツが、ワイバーン……?」
「はい。一般兵の機竜にもなっています」
へぇ。ドラゴンと何が違うんだろうか。
いやドラゴンもよくは知らないんだけど。
これ、地球でもいろんな議論あったよね。
「で、乗るのか。どこに?」
「鞍の前面にお乗りください」
ここか。
とはいえどワイバーンもなかなかにデカい。
ここはいちにのさんで飛び乗るか。
いち、にの、さん!
「わっ!?」
思った以上に飛んだ。
そういえば俺のレベルも90を超えてるし、ついさっきまで地球にいたから身体能力の上昇に気付けなかったようだ。
まぁ乗ることはできたし、身体能力はあとで慣れよう。
……もしかして、こんなふうに後回しにしてるから仕事が溜まるんだろうか。
「それでは、私が後ろで舵を取らせていただきます……そぉれ!!」
ノゼットが俺の後ろに座り、繋がった縄を許す。
ワイバーン、上昇。周りの景色がぐんぐんと高くなり、あーちょっともうこの高さは無理かもしれない。シートベルトとかないんですかこのワイバーン。
いや死ぬってこの高さ、別に高所恐怖症なわけじゃないけどこの高さに固定器具なしでほっぽりだされたら誰でもすくみ上がるでしょこれ。
「目標、魔王城!いきまーす♡」
「え」
縄がぺしんと鱗を叩いた……のも束の間。
ワイバーンはジェットコースターがちゃちに見える速度で飛び出した!
「死ぬ!ノゼッ、、、死、死ぬ!!」
「ビュボボボボボボ!───ですか───ズボボボボボボ!!」
なんも聞こえねぇ!!
ってか魔王城行くだけなら転移結晶使えばよかったじゃんか!空良の借りてさ!!
「選択肢しくじったああああああああああああっ!!」
「ビュボボボボボボ!!んですかー!?」
「止めろ止めろ!一回ワイバーン止めろおおおおおおお!!」
ジェスチャーでどうにか伝える。
ノゼットは軽く首を捻った後、『!!』と言ったような顔になると、手綱でワイバーンを叩いた。
ワイバーンは加速した。
そうじゃない!そうじゃない!頭おかしいのかお前、止めろっつってんだよコラっ!こっちは命の危機感じてるんだぞ!喜劇のコントじゃあるまいしいいいいいいいいいだぁかぁらぁ!いきなり加速させんなって!ちょ、ストップ!ストーップ!!
全身を使って止めろという意思を伝える。
ポーズ的にはサッカーの審判のセーフ!のイメージ。
「ズボボボボボボ───ふう。なんですか魔王様?」
「いやあのちょっと。人間が耐えられる速度でオネガイシマス」
「あぁ……私もちょっと早いなって思ってたんですよね」
そう思うならさっさと止めろやバカ。
ノゼットはワイバーンを遊覧飛行みたいな速度に───さっきの速度に比べれば。比べれば遊覧飛行だ───落としてから、ワイバーンに向けて何やら呟いている。
ノゼットが手を二回、ぱんぱんと叩くとワイバーンが一吠えし、俺たちの周りに風の膜のようなものが現れた。
「『暴風結界』……精霊が扱う魔法の一つです」
あぁ、水族館のときにノンピュールが使っていた水流結界だっけか。あれとおんなじ類なんだろうか。
「あと魔王様が気になっていたようなので簡単な説明を。ドラゴンとワイバーンの違いは、魔法が使えるか使えないかにあります。ワイバーンは魔法が使えますが、スピードではドラゴンに劣ります。ドラゴンは魔法が使えませんが、スピードならどの動物よりも早いでしょう」
……つまり、ドラゴンはワイバーンより速いと?
『ええ!?私と会ったときは大きなドラゴンだったよね!?』
『つい先日代替わりの時期が来まして。ちょちょいと体が変質しました』
…………。
『でも、あのときの聖獣ちゃんもかっこよかったよ?私を乗せて魔王城に特攻して行って……!』
……ひえっ。
「じゃあこの膜で防御できるスピードで頼む」
「じゃあハイスピードできますね」
「マジかよすげえなワイバーン。じゃあワイバーンが疲れない程度でたのむ」
ご機嫌そうに喉を鳴らすワイバーン。
今俺、ファンタジー満喫してるなぁ。
顔面にあたる風が無くなったのでその分余裕ができ、辺りを見渡すことができた。
端っこの海岸あたりにも都市っぽいのがある。反対側は雪が降ってるのか?
下は鬱蒼と茂る森か。あ、砂漠が見えてきた。
広大な土地だ。歩いても歩いても果てが見えなさそうな。
空良は、今の俺みたいに何かに乗ってショートカットしたのだろうか。
それとも、その足で全部踏破して……?
「……楽しいな、異世界」
楽が出来るから。帰れる保証がされているから。
空良は、楽しめたのだろうか。
もし、その一年が空良の意思でないとしたのなら───……。
「───様?魔王様?急に気を失わないでください?魔王様?」
「っづあ、うん。ごめんごめん」
なんか急にふっと力が抜けたんだよな。なんだろ今の感覚。
「ゴーストでもいたのでしょうか」
「ゴースト?」
「ダンジョンのメジャーモンスターですが、空高くに飛ぶ者もいます。幽霊とは異なり意思がないので、手当たり次第に周りの生気を吸って───って、本当になにも知らないんですね」
「悪かったな、生憎と異世界人なもんで」
「魔族を率いる魔王様ともあろうお方がそんなに無知でどうするのですか。決めました、まずは魔王様に勉強をしてもらいます」
あんまり勉強は得意じゃないんだけどな。中の上くらいだ。
それもこれも空良のお陰だったなぁ。あいつ学年2位とかそんなだった気がする。
と、目の前に大きな山。というか岩だ。岩山だうわおっ!?
「ごめんなさい気づきませんでした」
「っっっぶねぇな!ぶつかったらどうすんだ!」
「先ほどの山は聖獣の住処で───っと、そろそろ見えてきますよ」
え、今の聖獣の住処?あの呼吸困難のやつ?
あんなでっぱってんだなぁ。
で、見えてきたって何が。
遠くに視線を向けると、黒色の大きな大きなお城が見えてきた。
ところどころヒビが入って、矢も刺さっている。
……まさか。
「魔王城です」
「あれが、俺の、城かぁ」
崩城寸前なんですけど。
ここから先は空良と別れるんじゃ。
空良の行方は『のろとり』様の、『拝啓 お父さん、お母さん。このたび俺は魔王になりました、助けてください。』という小説に赴いているんじゃ。
異世界人編だってさ。
……つまりはのろとり様が頑張らないと空良は一行に現れませんね、ハイ。
おい、みんなでのろとり様にプレッシャーかけようぜ↓
https://syosetu.org/novel/175974/