一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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魔王と魔族の国

 

「なぁヒビとか入ってんだけど」

「勇者ソラとの攻防の前に、ロイフォードの前衛隊が弓を放ちました。ロイフォードの英雄もいたようで、戦鎚による攻撃で城の大半に大きなダメージが入り、城下にもそれなりの被害が出ていました」

「それ大丈夫なの?」

「前代の魔王様が討滅されたことにより、勇者ソラによる停戦の申し出を受け入れました。その間に城下の復旧をしたのですが、主のいない城は現在も復旧がされていません」

 

そうなのか。

魔王城の一番上が消し飛んでいることから、余程大きな戦いだったのだろう。

あと……多分、魔王城の一番上を消しとばしたのは空良だ。爆発や崩壊というよりかは、大きな刃で切断されたように見える。

それできるの、空良しかいなくねぇ?

 

「魔王様、そろそろ下に降ります。角を顕現させていただけないでしょうか。その姿では人間と同じなので……」

「ごめん無理だわそれ」

「えっ」

 

そうなんだよね。

俺、まだ魔力の扱いに慣れてないから、空良に魔力を吸って貰わないと角が出ないんだよね。角、魔力に反応して出てくるっぽいからさ。

その旨をノゼットに伝えると、何かの魔法は使えないのかと問われる。

そうなんだよね。

俺、魔法使えないんだよね。蘇生魔法しか使えないし、それもあの本がないと使えないんだよね。

 

「そんなぁ……魔王様が魔力だけの能無しだなんて……」

「ちょっと失礼じゃないか?」

「ぐ……仕方がありません、これを首にかけてください」

 

渡されたペンダントのようなものを首にかける。

頭のてっぺんが痛い、魔力が引っこ抜かれている?

 

 

 

『あなたは呪われてしまった!』

 

 

 

…………。

どういうことだかなぁ、これは。

 

「あぁ……素晴らしい魔力です……!」

「まず説明。説明プリーズ?」

 

ノゼットの肩を掴んで揺らすと、ノゼットは慌てつつ説明を始めた。

 

「体内のっ、魔力をっ、外にっ、霧散っ、させる呪具ですっ……」

「なるほど、魔力が動いたから角が反応したのか」

「はぁ、はぁ……はい。それは暗殺者などに対して魔法を封じるために使うのが本来の使い方なのですが……魔王様ほどの魔力となると、霧散するまえに回復しているようです。しばらくはごまかせますね」

「そうなのか。魔力を感じることもできないからなぁ」

「……魔王様には魔力の感じ方や練り方も覚えて貰いますからね」

 

おしごとふえた。

 

「でも、これで俺が魔王であることは証明できるわけだ」

「いきなり魔族以外が魔王になるのは民にとってもショックでしょう。人間であることや魔法が使えないことは、少しずつ打ち明けていきましょう」

 

ワイバーンが降下する。

俺の角をちょいちょいと触ってみると、つやつやしていて硬い。

俺は今から魔王か。

政治の引き継ぎか。

荷が重い……。

 

「ノゼット様!!」

 

下から声がかけられる。村人の人かな。

 

「その、棒大な魔力を撒き散らして……何事ですか!?」

「……魔王様、予定変更です。この高度で止まるのでワイバーンの上に立ってください」

「えっ」

 

ノゼットの言うがままに、恐る恐るワイバーンの上に立つ。

視線が集まり、ノゼットが声を張り上げた。

 

「控えよ!ここに、新たな魔王様の誕生である!!」

「「「おおっ!?」」」

「名を、魔王セン!!魔王様の棒大な魔力を引き継ぎ、君臨なされた!!」

「「「おおおっ!!」」」

 

ワイバーンはゆっくりと降下し始め、なんか俺がヒーローみたいな登場になった。

ノゼットが先に降りたのを見計らってワイバーンから飛び降りると、なんだなんだと集まってきた城下の人々から、拍手が鳴り響いた。

こいつはプレッシャーだ。

ノゼットに魔王城に行くように促されたので、魔王城に歩き始める。

 

「珍しいお召し物ね」

「どこの人なんだろうな」

 

「魔力の威圧感すげぇな」

「バッカ、まだ引き継いだ魔力に慣れてないんだろ……にしても、量がすげえ」

 

「ばななー!」

「ばななー!」

 

モーゼが海を割ったように、人が魔王城までの道を開けてくれる。

魔王城の前には大きな門があり、紫色のメイルをつけた兵士が敬礼して門を開けてくれた。

 

「今のは?」

「兵士の標準装備です。ダンジョン内で多く見られる鉱石を使って量産しています」

「ダンジョンが近くにあるのか?」

「魔王城の部屋の一つに鉱石を生成させるフロアを作っております。魔王城は半ダンジョン状態であり、人工のダンジョンの筆頭ですから」

 

やっぱり魔王城はダンジョンなのか。

空良がそういうカウントしてたもんな。

……しかし、人工ダンジョンとな?

 

「魔王軍の独自の研究により、魔王軍の誰かをダンジョンボスとして認識させることに成功しました。ダンジョン状態である部屋はダンジョンレベル1の簡単ダンジョンとなっております」

 

へぇ……。

聖獣から、魔族は独自の文化が発達しているって聞いてたけど、まさかダンジョンを作り出すとは。

たしかに、魔王軍からしたらダンジョンなのはそのダンジョン部屋だけだし、空良───つまり人間サイドからすると魔王軍っていう敵がひしめいている魔王城はダンジョンみたいなものだもんな。

 

「ただし、その部屋を使って鉱石を複製する場合は大量の魔力を消費して作るため、今はもうほとんど使われておりません。ダンジョンとしての機能がまだ動いているかどうかすらも怪しいですね」

「ダメじゃないか」

 

橋の上を通って魔王城に入る。

わっ、禍々しいけど意外と綺麗。

床は薄い紫色の大理石みたいなので埋められ、多くのメイドさんが慌ただしく動いていた。

ちょっと魔王テイストなホテルって感じだ。

ノゼットが手をパンパンと叩く。……少しお怒り?

 

「魔王様が来られたというのになぜ待機していないのですか!!」

「「「も、申し訳ありません!」」」

 

メイドが道の傍に立ち、俺に頭を垂れる。

兵士は二人ペアでハルバードを交差させ、俺を歓迎してくれた。

……ふむ。なんだか少し気分が良いぞ。ふむふむ。

ノゼットはメイドの一人から書類を貰い、それに目を通すと俺に向き直った。

 

「それでは改めて……ご着任、心より歓迎致します、魔王様。どうか私共を率いて、この国に明るい未来を……」

「……改めて、魔王セン。まだまだ実力不足だが、精一杯頑張らせてもらいます」

 

拍手喝采。

これはこれは……あ、どうもどうも。

色んなことがあってすでに頭痛いけど、尽力させて貰いますよーだ。

角を触って、ちゃんと魔王であることを再確認する。

俺は魔王。魔王セン。

ちょっとは、偉くなれたかな?

 

「では魔王様、魔王の間へ参りましょう」

「あ、おう」

 

ロビーの中心の階段を登る。

広い……。あ、そこ曲がるの?

こりゃ道を覚えるのが難儀だ。メイドさんも大変だな。

 

「こちらが魔王様の自室となります」

「広……」

 

なんだか社長室って感じだ。

中央のテーブルは豪華な机だ。ガラスが貼られている。

その向こうには社長机があって、スタンドライトがいい味出してる。

で、だ。机の向こう。

 

「めっちゃ海見える!!」

 

そう。魔王城だからって魔界みたいなとこじゃないのだ。

魔王城の向こうは海らしく、まさに絶景。

……攻められたら逃げ場無いけど。

 

「魔王様、椅子にお座り下さい」

「これ?この革のやつ?」

 

高級そうな椅子にすわる。ぎゅむ、と革の音がした。

ノゼットが棚から本を取り出し、俺の前に置く。

分厚い本だなぁ……え!?著者、アゼンダ!?森のエルフじゃないか!

 

「こちらを読んで魔力について見識を深めて下さい。読み終わりましたら、訓練場があるのでメイドにでも場所を案内してもらってください。そうしたら今日中に魔力の扱いを覚える筈です」

「えっと、本を読んで訓練場に行くだけでいいんだな?わかった」

「メイドを一人呼んでおきますので、何かあったら申し付け下さい。……ふぅ。それでは……」

 

ノゼットはメガネを外してため息をつく。

 

「休憩はいりまぁ〜す♡」

「あ、うん……」

 

なんだか……お疲れ様。


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