一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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魔王と魔力

時計の針がカチカチと鳴る。

ぐ、と背筋を伸ばした。

……ふう。

 

「まったくわからん……」

 

いやもうほんとよ。

魔力を感じれる前提で書いてあるから何一つわからんかった。

でも重要っぽい箇所は沢山あったな。メモしといたけどサッパリだ。

 

『魔力は目に見えない』

『魔力は目に見えない臓器から生み出されている』

『魔力は未だに謎な部分が多いが、魔法というものに変換することによって物理をねじ曲げる』

 

……エトセトラ。やっぱり異世界人だから伝わるものも伝わらないんだろうか?

一番びっくりしたのはこの本を書いたのがアゼンダだったってことくらい。衝撃。

まぁ一応さらりと読み終えたので、メモだけ懐にねじ込んで部屋をでる。

 

「あっ、終わったでごじゃりますですか!?」

「……うん」

 

俺の部屋の外にいたのは、敬語をちゃんと扱えてないメイドさんだ。

名前はロザリー。

 

「では、訓練場にお連れすりでござふぎゃあ!?」

 

すっころんだ。

この子は見ていて飽きが来ないなぁ……本人には悪いけどほっこりしてしまう。

ロザリーは床を擦って汚れたメイド服をぽんぽんと払うと、ゆっくりと、こちらに向けて土下座した。

 

「殺さないでください」

「…………」

 

この子面白い……。

 

「殺さないから訓練場に連れてってください」

「ふぁっ、ふぁい!あ、あと、敬語は恐れ多いのでごじゃります!」

「……連れてってくれ」

「はい!!」

 

ロザリーは立ち上がると、こんどはしっかりとした足取りで進んでいく。

こんなドジっ子でも、ちゃんと道は覚えているらしい。

いやぁしかし、ロザリーは広間にいたメイドさん達と違って結構個性的だな。髪の毛も薄茶色で、なんだか魔族じゃないみたい……ん?

 

「ねぇロザリー」

「ひゃい!!」

「ロザリーには角が無いけど、ロザリーは魔族じゃないの?」

「えっと……」

 

そう。ロザリーの頭に角がない。

もしかして、俺と一緒で魔力を感じないと角が出ないタイプ……なわけないか。ノゼットの反応からすると魔族の角は常に生えてるんだろうなぁ。

 

「角は……えと、なんでも無いのござります」

「なんでもって?」

「角が小さすぎて、髪に隠れちゃうのでござりますよ」

「ふうん」

 

そんなもんか。

 

「角の大小ってなんであるんだ?」

「魔力量がどうとか言われてごじゃりましたが、魔王様のは平均くらいでごじゃります。学者さんたちが唸るのでごじゃりますよ」

 

身長みたいなもんなのかな。

しかしそうすると、角があることのメリットがわからないけど。ロザリーみたいに小さくないと、角が邪魔で帽子も被れないんじゃなかろうか。

そのへん、さっきの本には書かれてなかったけど……しかしそれは、差別に値するのだろうか。

 

「ねえロザリー」

「はいっ」

「ロザリーの角見せてよ」

「えっ」

「……というか、角にどんなものがあるのか見たいんだ」

 

例えば初めて魔王になった日。兵士はくるくる角の羊みたいなカッコいい角だった。

で、俺の角は斜めに突き出たのが中腹で曲がっていて上に向いている。theツノって感じだ。

ノゼットのは俺のとは違って曲線状に曲がっていた。

 

しかしそのどれもが俺のと同じくらい───つまりは平均サイズ。

小さいツノとかあるのなら、見てみたいなぁ。

 

「ええと、見て面白いものではないと思いますですが……」

「大丈夫。単純な興味だから」

「うう……恥ずかしいでごじゃりますね……」

 

ロザリーは歩みは止めないものの、すこし体を揺らして髪に手をかけた。

オレンジの髪綺麗だなー……。

 

「うおーい!!キミが新しい魔王かーい!?」

「「ふぉわっちゃあ!?」

 

し、心臓飛び出ると思った。

少し離れた先の扉から、小さい子がこちらに手を振っている。

角は……おおっ。まっすぐに伸びてる。歪な感じに伸びてるけど、角然とした感じがしていいな。こちらも平均サイズ。

 

「あっ……魔王様、角はまた今度でお願いしますでごじゃいます……!」

「え、う、うん」

 

ロザリーはとてとてと小さい子のところにいくと、膝をついて跪いた。

 

「ご、ご到着に気づかず……!!」

「いいんだよ。少し前からいたから。それにキミはついさっきまで事務室の前にいたそうじゃないか。気づかなくて当然なんだよ」

「ふぁ、ふぁい!」

 

誰だろう。

……あ、この先が訓練場か。ってことは、この子は偉い人の娘さんとかかな。

近づいていくと、なるほど、威厳というか、カリスマというか。やんわりしているようでしっかりしている雰囲気がある。

いい王様になりそうな感じだ。

もしかして魔王の娘だったりして。

視線を近づけるためにしゃがむと、その子は俺の頭に手を乗せて優しく撫でてきた。

 

「親任ご苦労様。まおうは魔王。別の大陸の魔王なんだよ」

 

魔王さんでしたわ。これは痛い。

 

 

 

 

えーと……。

それで、『まおう』が魔王なのはわかったけどさ。

 

「それじゃあ、試合開始なんだよ。ロザリー、ゴングをお願いするんだよ!」

「どうして決闘の流れになってるんですかね……」

「れ、れでぃー……ふぁい!!」

 

クァヨン、という間抜けな音が響く。

まおうはバッと手を広げて、こちらにドヤ顔を送ってきた。

 

「さあ、いつでもまおうの胸に飛び込んでおいで」

 

……どういうことだろう。

急に木刀っぽいのを渡されて。戦えということだろうか。

 

「大丈夫なんだよ。これは授業。キミは、まおうに指一本触れられないんだよ」

「…………」

 

なんだかムカッときた。

やってやろうじゃん?

全力で走り、木刀を振りかぶる。そして、まおうの頭に……

 

キンッ

 

ふぁっ。

 

「【ウインド】!」

「どわっ!?」

 

何かに俺の木刀が弾かれた瞬間、腹に風の塊がぶつかってきた。

威力は対してない。空気砲のようなもにだろうか。

 

「ふふふ、おどろいた?まおうは結界を張っているから、物理攻撃は効かないんだよ」

「結界」

「結界分かるかい?」

「多分、イメージ的には」

「ならいいんだよ。えと……ことの始まりを話すとね。キミが新しく魔王になったろう?だから、ノゼットからまおうに依頼があったんだよ。キミの稽古をつけてくれって。だから、まおうはキミに授業をします。聞けば、魔力を感じれないそうじゃないかい?」

「そうなんだ……有り余ってる魔力も、宝の持ち腐れで」

「うむうむ、負い目を感じているんだね!キミは良い子だ、どうにかしようとしているのは偉い子だよ。……つまり、まとめるとこうなんだよ。まおうは別の大陸の魔王で、キミを魔力を感じれる魔王にするのがお仕事。手伝ってくれるね?」

 

まおうは微笑み、首を少し傾けた。

なんか母親感がすごい。包容力って言うんだろうか。

なんだか子供にあやされているみたいで複雑だ。

 

「まおうはキミより年上なんだよ?」

「心読まれた!!」

「ふふふっ、キミ、なんだか似てるね!まおうがこの前会った男の子に似てるんだよ」

 

多分その男の子も心読まれたんだろうな。会ったわけでもないのにシンパシー。

まぁこの子が年上なのは信じよう。見た目より歳を召してきたやつはたくさん見てきたし。

 

「それじゃあ……お願いします」

「はい。今からまおうはキミの先生なんだよっ」

「はい、先生」

 

まおうは俺の頭を撫でるのをやめると少し離れ、絶妙に可愛らしい顔で両手を広げた。その手には呪いのペンダント。

アレェ!?いつの間に外した!?

 

「それじゃあまずは……魔力の感じ方を知ることが大切なんだよ。アゼンダさんの記した書物は見た?見たなら、あとはニュアンスで伝えるんだよ」

「一応読んだけどまったく理解できなかったというか……やっぱりおかしいですかね」

「ふむ……だいたいの人はこれで魔力の扱いがわかるんだけどねぇ……でもまぁ、読んだなら良いんだよ!ここから先は想像力の問題なんだよ!」

「想像力」

「まずは全身に流れる血液を想像するんだよ。魔力は気体と同じようなものと考えて、血液に気体を混ぜて全身を巡っているような感覚で……言うが易し、なんだよ」

 

目を閉じて、指先の一つ一つまでにも感覚を張り巡らす。

集中、集中……。

魔力は気体で、血管を血液と同じように通っている……。

 

「血管の中に異物感……重さやプレッシャーのようなものを感じることができたら成功なんだよ」

「異物感……」

 

全身を巡る不気味な感覚。

ぞわぞわするような、むずむずするような……数々の敵との戦いで感じてきた、重圧が体を駆け回る。

これが、魔力……で良いんだろうか。良いんだろうな。そうでないと話が進まないし。

 

「プレッシャー……っていうか魔力、を感じるとやけに気疲れするけど……そりゃそうか、常にプレッシャーに当てられてたら気疲れもするわな」

「その調子なんだよ。やっぱり魔力の勝手な霧散を止めたら感じやすくなったね」

「複雑だなぁ、魔力って」

「そうかい?慣れれば単純明快なんだよ。……じゃあ、まずはその感覚をキープ。できたら次の段階に移行するんだよ」

 

ぐうう……全身に圧迫感を感じる。

なんだかとても頭が痛い。

 

「よしよし、では次。血管のイメージをキープしたまま、胸の中で粘土を捏ねるイメージで」

「ね、粘土」

「そう。わかるかい粘土?ぺったん、ぺったんと捏ねるんだよ」

 

胸の中で粘土か。

息を止めて踏ん張り、空想上の粘土を捏ねてみる。

どちらかというと体の中の空気を練り込む感じなのだろうか。

 

「良い調子なんだよ。それが、魔力の密度を上げる……俗に言う、『魔力を練る』という行為なんだよ。体を循環させている状態よりも魔法の威力が上がるし、魔剣や道具を作る時も魔力を込めやすくなる。……魔力は練り方によって効率が違うんだけど、キミの魔力の前の持ち主は一人で宮廷の魔法使い1000人分は圧縮していたかな?あれ?違ったっけ?」

「それは知らないっす……」

 

しかし、1000人って。

確かに、この魔力は失われてもすぐに回復するようだし、圧縮して失ったそばから再圧縮していけばそれくらいにはなるんだろうか。

 

「魔力には最大容量が決められていて、これも個人差があるんだけど……練り上げた魔力をピンポイントで魔法に使うことができれば、一流かな」

「ピンポイントで魔法に使う?」

「どんなに練り上げた魔力でも、魔法に使えなければ意味がない。そこで、魔法の使い方を今から教えるんだよ。魔法、使ったことあるかい?」

「まぁ、蘇生魔法なら」

「蘇生魔法?えーと……ああ、最高位の僧侶のみが使うことを許される魔法だね。なんでそれを使えるんだい?もしかして最高位のプリースト?」

「いや、蘇生魔法の使い方を記した本を見て……一度、人を蘇生したことがある」

 

俺がそういうとまおうは「へぇ!すごいじゃないか!」と無邪気な笑顔を見せ、俺の目の前にその小さなおててを持ってきた。

まおうが小さく「【ファイア】」と呟くと、そのおててに炎が宿る。

空良が帰ってきた時にも見た、炎の魔法だ。

 

「魔法を扱うには明確な『これを使う』という意思が必要なんだよ。【ファイア】の魔法であれば燃え盛る火を扱うという確固たる意思。……一通り扱えるようになるまでは、【ファイア】や【ウォーター】と唱えながら手をぶんぶん振るしかないだろうね」

「慣れの問題ってことか」

「そう。魔法を扱えるようになったら、魔力のピンポイントの〜ってやつを教えるんだよ。さぁ、レッツ魔法!なんだよ」

 

 

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