一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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魔王と現実

「ファイア!」

「…………」

「ウォーター!」

「……ねぇ」

「ウインド!アイス!」

「えっとじゃあ、これはウサギの死体なんだよ」

「【リザレクション】!」

 

ぱぁ。

 

「どぼぢでだよおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「え、えっとその、うん。の、伸びしろがあるんだよ!」

「そのフォローが一番つらい」

「う、うわあ……重傷なんだよ」

 

なぜ。

なぜ俺は蘇生魔法しか使えないのか。

宝の持ち腐れだろこんなもん!

……蘇生魔法については何回も読み返しているために本の内容を覚えてしまった。つまるところ、本を片手にあーだのこーだのしなくて良くなったわけだ。

 

「ま、まぁまぁ、蘇生魔法は秘匿とされてるから、ね……。むしろ才能なんだよ!」

「公にできないならいらなくないかこの才能?」

「…………」

 

これが現実か。現実なのか。

魔法の一つも使えないポンコツ魔王。

絵にならぬ。

 

「今日は一度帰った方が良いのかもしれない……」

「……帰るのかい?」

「……。いや、まだ。何かを掴むまでは帰れない」

 

たしかに、夏休み期間はまだあるとはいえど、家に一度も帰らないのはさすがにマズイ。

回覧板とか回ってきてたらどうしよう。先にご近所に旅行に行くとか言っておくべきだったか。……大和へ行ったっきり帰ってこないのも変だしな。

時刻は日が傾いてきた頃。幸いしてこの世界の時間と日本の時間は進みがまったく一緒なので、そろそろ夜になるということもわかった。

 

がしかし、このまま何も得られずに帰るのはプライドが許さない。

せめて、せめてなにか覚えたい……。

まおうが覚えている魔導書?の内容を地面に書き記してくれたが、それも全ておじゃんとなった。

どうやら俺は魔法についての想像力が足らないらしい。蘇生魔法については本があったこと、そして空良の復活を心から願ったことで想像力を補えたようだ。

 

「う、うーん……。他の魔王に聴いてみるのはどうだい?」

「他の魔王?」

「そう。まおうの他にも魔王はいる。魔法の王は……その、性格に難ありというか、いつも引きこもって出てかないから教えを乞うのは不可能だけど……。でも、戦闘能力は申し分ない魔王がいるんだよ!」

「戦闘能力は申し分ない魔王……」

 

阿修羅みたいなやつだったりするんだろうか。

それこそ魔王だけど。

 

「まおうが話を通しておくから、今日のところはお開きにするんだよ。今日の進捗は魔力を感じれるようになったこと。そうだろう?」

 

まおうがとてとてと俺から離れ、にっこりと微笑む。

……うわっ。ゾッとした。全身が何かに包まれる感覚がした。

 

「うんうん。その反応はちゃんと魔力を感じれている証だね。最初に比べれば霧散する魔力も少なくなった。えらい、えらい、なんだよ」

「…………」

 

こちらに飛びついて俺の頭を撫でるまおう。

幼女に母親のようなムーブをされるのは複雑だ……。

まおうはひとしきり俺を撫でると「むんっ」と満足したように微笑み、見えない床を踏み締めて宙に浮いた。

 

「今日は歩いて帰ることにするよ。……あぁこれかい?これも結界。いずれ君もできるさ、こんど教えてあげようか」

「……あぁ、はい。ありがとうございました」

「お礼が言えるのはいい子だね。……それじゃあ、ばいばいなんだよーっ」

 

そうしてまおうは帰っていった。

無邪気に跳ねる幼女のように、やけに大きい一歩一歩で。

……あれを、俺もできるようになるのか。

右手拳を握って魔力を通してみるが、維持できずに簡単に霧散してしまう。

……まだまだ先は長そうだ……。

 

 

 

 

それで、今日のところはお家に帰ろうとなったのだが、空良がどこへいったかわからないので俺一人で帰ることになった。

空良は転移で帰れるだろうし、空良ができずともノンピュールのところへ飛んで転移させてもらえばいい。

もしかしたら先に帰ってるかも知れないしな。

ということで。

 

「これを読み上げるのか……?」

 

俺は今、魔王の部屋とは別の『玉座の間』にあった巻物を広げている。

巻物には丸と丸が線で繋がっており、右の丸から左の丸に向けて矢印が伸びている。

たぶん、こっちから地球へ、ということだろう。

さて問題なのはここからで。

 

「これはどう読むのだろうか。……あ」

 

絵しかないって言おうと思ったら裏に書いてあった。

巻いてる時は気づかなかったけどこっちの文字かこれ。変な模様だなとは思ってたけど。

……今更ながら、やはり字は読める。なにが影響したんだろう。

 

うしろの文字を読み上げるともはやおなじみと言っていいほど受け慣れた、視界がぐにゃりと歪む、浮くような感覚に包まれた。

目の前が真っ暗になり、そして次に視界が戻るときには……。

 

「なるほど、空良は最初にここに来たのか」

 

夏祭りの後、俺と空良が別れて空良の家へ向かって数歩のところに転移した。

恐らく空良はここであっちへ呼ばれ、帰ってくるときにここに転移されたのだろう。

好きな場所へ行ける訳じゃないのか。意外と不便だ。

……それと、俺の手元に巻物がない。たぶん玉座の間に転がってる。

 

「早めに慣れないとな」

 

なるべく空良と同じ苦労をしたい。

空良の痛みをわかってやりたい。

あいつは明るく振る舞うけど、結構溜め込むタイプだから。

 

「……オムライス。今日はオムライスにしてやろう」

 

空良はオムライスが好きだった。

大好物のきゅうりの浅漬けも出してやろう。

茜色の空を見上げつつ、そんなことを考えた。

夏特有の生温い風が吹いた。

 

 

 

 

「ただいま」

 

あれ?まだ帰ってきてないのか。

まあ確かに、あいつには一度帰るなんて言ってないから帰ってることが当たり前ではないのだが。

もしかしたら今日は異世界で過ごすのかもしれない。最初に伝えておくべきだったか。

仕方がない、オムライスは次に空良が帰ってきたときにしよう。

 

今日のところは乾麺を戻すタイプの焼きそばだ。

 

 

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