一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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魔王と居場所

……遅い。

空良が遅い。

野宿なら別だけど、こんな待ってるのに帰ってこないなんてことあるか。

 

「……今日は寝るべきかなぁ」

「おうセン!しばらくぶりじゃの」

「うおっ、ノンピュール」

 

いつの間に。

ひょこりと庭の窓から顔を覗かせたノンピュールは「戸締りができておらんぞ」と呟きながら家に入ってくる。

魔法陣から来たのか。

 

「……ふむ。お主と二人で話すのは新鮮じゃの」

「いつも空良を挟んでたからな。今お茶を入れる」

「すまんの」

 

給湯器からお湯を急須に注ぎつつ、ノンピュールに座れと促す。

ノンピュールはソファに座った後、こちらを振り向いて、

 

「それで、どうじゃ?その後の進展は」

「別の魔王に魔王としての力……っていうのかな、魔力の制御の仕方とかを教えてもらってた」

「なるほど、どうりで魔力が漏れ出ていないわけじゃの」

「空良と対等に渡り歩いて行くには、もっと強くならなきゃいけないんだ」

「……。のう、セン」

「ん」

「どうしてあやつと渡り歩こうとする?」

 

ノンピュールの声色が変わった。

どうして渡り歩こうとするって、そんなこと言われてもなぁ。

空良は背負い込む性格だから、孤立した存在になっても寂しいと言うことができないだろうし。

 

「あやつはもはや生態兵器も甚だしいぞ。正直なところ、あやつのご機嫌一つで国も滅びかねん。……古来より勇者とは、そのような存在じゃ」

「そして、それと敵対する魔王もまた同等、ってことか」

「同等となるとは簡単に言うが、お主にはソラが『勇者』として持つ才能がない。……あやつは、世界を救うために極端に成長の早い特性を与えられたからな。それに比べお主は勇者じゃない。ヒトの身で、勇者と渡り歩くなど……」

 

勇者とは、特別な存在であると知った。

歴史に出てくるどの勇者も、人並外れた才能をその身に宿してどこからか現れると。

城の壁すらも破壊する攻撃力を持っていたり、体の部位を一から組み替えることができたり……成長速度が、異様に早かったり。

 

まあ、この「成長スピードが異様に早い」というのは老いが早いという意味ではない。

あくまで、空良が強くなるための吸収速度が速くなるって意味だ。

俺はテーブルに杯を置きつつ、ポケットから魔力を抑えるペンダントを取り出して見せた。

 

「ま、今後の研究で勇者の加護にデメリットでも見つからない限りは、ただ魔力を統べてるだけの王は追いつけないだろうな」

「お主、そこまで勉強しておったのか?」

「異世界の勉強なら、誰でも喜んでやるんじゃないか、実際。魔力だのなんだのは難しかったけど、嫌では無かったな」

 

ノンピュールは「そうか」と安心したような表情をこちらに見せた後、お茶を(すす)った。

吟味するように目を閉じた後、ノンピュールは再び口を開く。

 

「なあ、センよ。これから勇者ソラは、どうなると思う?」

「どうなるもなにも、俺たちと幸せに暮らす他に無いんじゃないか」

「言い方を変えた方がよいか。この先勇者ソラが巻き込まれていく戦いを、お前はどう思う?」

 

勇者ソラが、巻き込まれていく戦いか。

正直考えたくはなかったんだけどな。

 

「勇者とは民の指標じゃ。どの大陸も、勇者に希望を求めている。……無論、それは戦争も変わらんのじゃろう」

「戦争か。魔王が倒れて、一見平和になったような気がするけどな」

「現実がそう甘いもんではないことを、お主は知っておるじゃろう」

「……誰かが幸せになったとき、誰かが不幸な目に合っている。不幸続きな世界がなければ、幸せが続く世界なんてものもない」

「それを実感できるのはあやつの……主人公(勇者ソラ)の隣におるものだけじゃ。……いわゆる、モブ、というやつかの」

 

雨音が聴こえる。

雨戸にしてあっただけの窓から雨特有の草の葉の匂いが広まる。

いまだに湯気を上げる茶を飲み干す。

 

「……俺は空良がいればそれでいいかな」

「ほう?」

「戦争はしない。もちろん、同胞と人間が、あるいはそれ同士が抗争することもあるかもしれないけど……その責任を、空良に負わせたくないっていうか。背負い込み気味なあいつが干からびて死なないように、俺は昔からあいつのそばにいたんだ。……だから、それを全うするだけさ」

「異世界に巻き込まれ、体は今にも朽ち果てようとしているが」

「乗り掛かった船ならもう乗るしかないんだろ。すでに片足突っ込んでるんだ、両足つけようが対して変わらないんじゃないか」

「死ぬ覚悟は」

「そんなものあってたまるかって。死ぬのは怖いし、そうならないために人は策を尽くすんだろ」

 

勇気なんてない。

大それた力も持ってない。

魔物もいないし常日頃警戒する必要のないこの世界に住んでる俺ができることは少ないけれど。

空良を見守る。これくらいなら出来るんじゃないか。

 

「……一本取られたわ」

「一本取ってやったりましたとも」

「うむ。いい顔をしておるぞ。ヒーローの顔だ」

「魔王がヒーローかぁ……」

 

やはりノンピュールとは気が合うのかもしれない。同じく苦労人っぽいし。

人間だ魔族だ精霊だ、なんてあんまり変わらないのかもな。

 

「しかし、魔族を同胞などと呼ぶようになっているとは驚いたぞよ。よほど彼らが気に入ったかの?」

「え。そんな風に呼んでたか?」

「うむ。自然に言っておったようじゃな。ある意味、凡人だったセンにも仲間が増えたのかもしれんのう」

「仲間かぁ。……そういえば、ノンピュール以外の精霊を見たことがないんだけど」

「ぬ……。あやつらに合わせるのはちと気が進まんのう。しかし魔王となると一度顔を合わせておくべきかのう……」

 

いろんな顔覚えなきゃ行けなさそうだ。自分の部下になる魔族の顔もまだ全部覚えてないのに。

 

「一応聴いとくけど、精霊は何人?」

「大雑把に数えるなら四人じゃのう。妾たちのように姿形を変えられぬような精霊を合わせたら、指では数えきれんのう」

「……さいですか」

「精霊は火、水、土、風と、だいたいそれくらいに別れておる」

 

たしかそれが魔法の基盤となっているんだったはず。

あと、精霊は精霊を特有の魔法が扱えるとかなんとか。

 

「名前は」

「また今度でいい。今は手一杯だ」

「そうかの。……それで、その四つに別れた精霊は他の精霊とは違って姿を変えることができるのじゃ。……あーほら、初めてお主と会った時、リヴァイアサンとともに出ててきたであろ。あれはその応用で、水の精霊を集めて形を成したのじゃ」

 

ただの演出じゃなかったのかー……。

ノンピュールのことだからやりそうとは思ったけど意外と真面目だった。

 

「……ん?でも待て、それじゃあこっちの世界にも精霊がいることにならないか?」

「説明が難しいのう……精霊は魔力を糧に生きながらえとる。だいたいの精霊は魔力と結合し続けずに消滅するがの。……で、意思を持って魔力を取り込み続けるような知性のある精霊が、妾のような精霊となるわけじゃ。わかったか?」

 

大体は理解したけど……やっぱり、異世界テクノロジーは別世界の住人には難しすぎる。

生返事をしておくと呆れたように、そこでようやく茶を飲み干したノンピュールが立ち上がった。

 

「人生は長い。理解するのも対面するのも、時間をかけてゆっくりとしていけばよいのじゃ。……幸い、こちらにもあちらにも、急かすような悪の親玉はいないわけじゃしの?」

「たしかに。でも後回しにしてるから俺のやることがどんどん増えてくんだけどな」

「それはお主の責任じゃ。……ま、はよう眠って知識をつけろ。それが英断じゃ」

「あっちょっ!」

 

ノンピュールは窓を開け放って庭に飛び出し、魔法陣で帰っていった。

雨が入るから開け放つのはやめて欲しかったんだけど……。

 

「って、もう23(じゅういち)時になるのか。結局空良は帰ってこなかったし、明日も修行はあるみたいだし」

 

寝た方がいいよな。

俺は今度は戸締りをしっかりしてから、寝室へと向かった。

 

 

 

 

翌日。

 

俺は身支度を済ませ、魔法陣の上に立っていた。

 

「……あれー……」

 

困ったことになった。

魔法陣の使い方がわからん。

魔力を体に通してみるも、魔法陣の方には全く流れない。

詠唱が必要?いや、ノンピュールは詠唱などしてなかったはず。

精霊特有の魔法か?……この魔法陣、空良も使ってたよなぁ。

 

「誰かに聴いてみるか……」

 

っても、こっちで魔法陣云々なんて、話したら笑われるに決まってるもんなぁ。

ノンピュールは行ってしまった。あちら側へ呼び出す巻物は王都の方の王城に保管されてる。

実に八方塞がりだ。

 

と、良いのか悪いのかわからないタイミングで携帯が鳴り始める。

画面には非通知と表示されていた。

 

「はい、もしもし」

『祈里 仙君で間違いないな?』

「……はい、祈里です」

『うむ、久方ぶりだな。私は黒退(くろの)だ』

 

くろの?

聞かない名前だなぁ。

 

「あーえーとはい、はい」

『覚えてないな?それじゃあ……これに聴き覚えは?【万術部(まんじゅつぶ)】』

 

万術部……。

 

「あぁ、あのどんぐり砲の!」

『どんぐり砲……?なんだそれは……あ、いや、まあいい。それで、君は裏山に行ったことはあるかい?』

「裏山……?まあ、はい。あります」

 

ノートと出会ったときのことか。

……そう言えば黒退先輩、なんで俺のアドレス知ってたんだろう。

 

『裏山に、洞窟のようなものはあったかい?』

「洞窟?あー……ありますね」

『おっ。それは本当かい?だったら、それに案内してもらってもいいかな』

「展開が読めないんですけど、まあ、はい」

 

……ん?裏山?

え、なに、この人たち今学校にいるの?

 

『部活動でちょっと、洞窟を探していてね』

「夏休み中でも部活はするんですね」

『……なんだって?夏休み?』

「え?今夏休みですよね?え?」

『……本当だ。なんてことだ、まったく気付かなかった……。詳しく知りたい!センくん、ただちに校舎の裏山入り口まできてくれ!』

 

なんなの……?

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