一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

68 / 75
魔王と邂逅

「遅くなりました!」

 

裏山の先輩たちに声をかける。

振り返ったその人たちはなぜか顔を引きつらせ、一斉に顔を背けた。

その中で一人だけ黒退先輩がこちらを向き、おずおずと確認を取ってくる。

 

「せ、セン君か?」

「あ、はい、ご無沙汰してます、祈里 仙です」

「あ、あぁ……ずいぶん、変わったようだな……」

「え?そうですか?」

 

特に何もなかったと思うけど……。

ちなみに、温泉旅行に行った時も何もなかった。

俺はチェリーボーイのままだ。……せっかくのチャンスだったのに。

 

で、内面的に変わってないはずだから、服装なんだが……自分の身なりにおかしいところはない気がするなぁ。

なんだか首の辺りに凄く視線が向けられてる気がするけど。

あぁ、なるほど、部活の部長がよくわからん人を連れてきたらそりゃ怪訝な顔になるか。

とりあえず、と金髪の人と俺に似た雰囲気の人に向き直り、自己紹介をする。

 

「ええと……初めまして、祈里 仙と言います。黒退先輩とは一度、共同学習で一緒になったことがありまして」

「れれれ、礼儀正しいですね!?」

「え……はい?」

 

なんかおかしかったろうか。

……あっ、もしかして同学年!?

ってか会ったことあるわこの人!万術部に勧誘されたときに!

 

喋ったことないけど!!

 

「セン君、その、どうやら君の体から魔力がとてつもない量だだ漏れになっているのだが、どうにかすることは出来ないか?」

「魔力……あっ」

 

変わったって魔力のことか!

んであれか!ペンダントそのままだったもんな!魔力がだだ漏れだったってことか!

まおうとの修行の後、もう一度自分の手でペンダントを装備した。まだまだ扱いには慣れていないから。

そうしたら案の定にょきっと角が生えたもんだから、魔力を無駄に練って総量を少なくしたらペンダントの効果で放出されて、角が髪に隠れるくらい小さくなった。

 

けど、このペンダントは外せないんだよなぁ……。

血華刀と同じように、魔力をたくさん流せばいけるんだろうけど……この場には空良がいない。俺から魔力を吸い上げ、ペンダントに通すなんて芸当、空良にしかできないと思う。よくわからんけど。

 

「あの、これ、魔力を込めると外せるんですけど……」

「呪具か何かか?」

「正解です」

「……まぁ、いい。魔力を込めると言うのなら……カケル君が適任だろう。魔法陣と同じ感覚で大丈夫だぞ」

 

カケル?

その名前で反応した男の人が自らを指差し、首を傾げた。

っていうか魔法陣って……俺が一番求めてた魔力の扱い方!

是非レクチャーをお願いしたいものだ。

 

「お願いできますか?……というか、魔力の込め方を教えてください」

「込め方……込める対象を、自分の一部、四肢みたいなものと考えるというか……それで、魔力を流すみたいな」

「うむうむ、私よりも説明がうまいな」

「自分の一部にする……ですか」

 

魔力を流す感覚は、流れる血液を感じるように、全身の管を通す感覚で。

ペンダントを自分の一部に……四肢のように……。

ふんっ。

 

バチィン。

 

「できたよ……マジか……」

 

こんな簡単にできたなんて。

やっぱり自分で考えるのと他人に教えてもらうんじゃ楽さが違うなぁ。

……そうか、空良に魔力の扱い方の座学を……ダメか。あいつは他人に物を教えるのが苦手だった気がする。

異世界での濃厚な一年でなにか変わっていたら良いんだけど……いや、ほんとに今、あいつはどこでなにをしてるんだよ。

 

「あの、仙君さ、悪いんだけど、俺の後ろに誰かいるの見える?」

 

誰もいないが?

強いて言うなら黒退先輩がぼけーっと空を眺めている。

 

「……?黒退先輩ですか?」

「見えてねぇのか……幽霊がいるんだけど、魔力を与えないと死んじゃいそうなんだよ。今俺が触れてるところに、魔力を流してくれ」

 

ヒェッ。

幽霊と聞いてあの適当なエルフが思い浮かぶ。

あ?そうだよ、あいつに魔法教えて貰えばよかったんじゃん。本もまあそれなりに読みやすかったし、教えるのなんてたやすいことだろう。

……ダメだ。またあのダンジョンをクリアすることになってしまう。ソロでの攻略は勘弁願いたい。

 

たぶん先輩であろうその人が触れていた場所に手を突っ込むと、微妙にひんやりした。

こわぁい。

で、これも、体の一部と認識して魔力を流す……どりゃあ。

うおっ、流れる流れる。ペンダントのときとは全然違う。ペンダントはすぐ弾け飛んだから、あんまり実感わかなかったんだよな。

 

「素晴らしい……セン君、万術部に入らないか!?」

「お断りします」

「ぬっ!」

「はいはい、本題に入りますよ。仙君、魔力も無くなったろうし、疲れてるのはわかるんだけど、君の話だと裏山の洞窟の場所を知っているとか。悪いんだけど、そこに連れてってくれないかな」

 

別に魔力はそこまで消費してないのだが。

いや、消費したといえば消費した。けど、魔王の魔力は別格らしく、使ってもすぐに回復する。

そりゃあ一瞬で満杯!ってことにはならないけど、数十秒、数分待てば回復しきる。

改めてチートな魔力性能だこと。使い道ないけど。

 

思考を進めながら足を進める。

時々後ろを振り返ってちゃんとついてきているのか確認するのだが……後ろに人が時々見えないナニカと会話していて怖い。

たぶん、その幽霊とやらと話しているのだろうけど……いやあ、やっぱり目に見えないと怖いわ。血華刀持ってくればよかった。

血華刀が月火刀へと変質するのは、魔力を込めてから。だから、自分の力じゃ血華刀を変質させられないと思っていたけれど……魔力の流し方を覚えたし、なんとかできそうだ。

 

お、そろそろ見えてきた。ここが、初めてノートと会った洞窟。

ノートはどうなったのだろう。

俺はノートと一体化したらしいけど、未だ俺の体にノートらしさは出て来ていない。

俺のいうノートらしさとは、魔王になったときの、左腕が獣の腕のような甲冑に包まれる、みたいなやつなんだけど……。

 

「無論、体の調子がいい日は魔力の総量も上がっている……だが、逆に悪い日は下がっているんだ。特に生……」

「わーっ!わわわーっ!部長、何言ってんですか相手は男ですよぉ!恥じらいは無いんですか!?」

「恥じらい?いや、生理現象なのだから恥じらいもなにも無いだろう。ハルカだって月経……」

「どわあああああああああ!?」

 

なんだかやかましいな。

せっかく着いたというのに。

黒退先輩と金髪の子がケンカ?してる片隅に、微妙な表情をしている男の先輩の肩を叩く。

不思議そうに振り向いた先輩は俺の後ろの洞窟をチラリと見た後、なんぞ?と問うようにこちらに視線を向けてきた。

 

「あの、着いたんですけど……どうしましょう」

「あー、うん……ちょっと待ってて」

 

先輩が二人を説得しにかかっている。

俺は何の意味もなく洞窟に目をやり、洞窟の入り口に何かがあるのを見つけた。

拾い上げてみると、宝石のように硬いナニカだった。

なんだろう、この物質、どこかで触れたことがあるような……。

うんうんと首を捻っていると、俺の横を二人が通り過ぎる。

え、なに、なんなん急に!?

 

「あー。……君もきて!」

「え、えぇ!?」

「早く!!置いてかれても知らないよ!!」

「ちょっ、えっ、なん……」

 

あぁもう先輩も走ってっちゃったよ!!

ちょっと事情を話してもろて!?

 

 

 

 

「へぇ。魔術ってすごいんですね」

「万術部に入ればこれらを無料で習得できるぞ?」

「お断りします」

 

俺の目の前で、黒退先輩が指に灯りを灯している。

空良が【ファイア】を使ったときみたいだ。明るい。

金髪の子……名前を(はるか)と言うらしい同級生が、後ろを振り返って首を傾げた。

 

「こんな深い洞窟あったんですね?結構歩きましたけど……」

「曲がりくねっているし、もしかしたらダンジョンか何かなのかもしれないな」

「ダンジョン、ですか……」

「どうした仙君そんな神妙な顔して」

 

ダンジョン。巨人。ドラゴン。オーバーホール。うっ頭が。

 

「ああいえ、ダンジョンと聴くと、ちょっとトラウマが」

「まだまだありそうだぞ。ハル……」

「アストロボルグで」

「アストロボルグ。明かりの魔術を念のため使っておけ」

「え、魔力もったいなく無いです?」

「いや、それは……」

「洞窟内では明かりになにが起こるかわからないから、念のために二つ明かりを用意しておく」

 

自然と口から出てきた言葉に、全員の視線が集まった。

 

「その通りだが……なぜ、そんなことを?」

「ッあー、テレビで見たんですよ!洞窟に囚われた人をレスキュー隊が助けに行くっていう……」

「なるほど?」

 

実際にダンジョンに潜ったことがあるなんて口が裂けても言えない。

初心者のダンジョンは淡く光る鉱石がそこらじゅうに埋まっているかいいけれど、途中で真っ暗になる階層があって火を焚かなければいけなかった。

そのとき、風の魔法を扱うモンスターが……あの不安感といったらない。

 

「勉強になりました……じゃあ、『我、常闇を照らす者なり』……あっ!?」

「どうしたハルカ。忘れたか?」

「あっ、うっ、うし、うしし……」

「牛?」

「後ろぉぉぉぉ!」

 

お?

ぱっと後ろを振り向くと、そこには金太郎もかくやという熊さんがいましたとさ。

ある日、洞窟の中、熊さんに、出会った(即死ムーブ)

……おう、熊だよ?

 

「「「熊ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 

あっちょっなに先に逃げてんだ先輩方!!

金髪の子と男の先輩は「戦って」とか「馬鹿か!」とか言い合ってるし、黒退先輩はアスリート走りで逃げてるし!!

いやクッソ早えななんだあの走り!インドア部じゃなかったのか!?

 

「……はぁ、もう!!」

「ちょっ」

 

ブレーキを踏み、熊の攻撃の射程圏内に入る。

もう一歩踏み出し、熊の視線を遮って強制的に視線を俺に。

 

「おい、逃げろって!首が飛ぶぞ!リアルに!」

 

さすがに人前でオーバーホールは使えない。

注視しろ。感覚を掴め。

 

「巨人の棍棒よりかは、よっぽど対処が簡単です!」

 

来るのは右腕!

膝を落とし、姿勢を低くして熊の懐に潜り込む。

滑らせるように腕を避け、二の腕あたりを掴んで……!

 

「はあああああああっ!!!」

 

一本背負い!!

背中を勢いよく叩きつけられた熊は白目を向いて気絶した。

 

「死んだ?」

「生きてると思います」

 

感心したように、そしてどこか引いたように熊を見つめる先輩。

 

「え、もしかして柔道経験者だったり?」

「いえ、過去に同じようなことを経験しただけです」

「熊投げ飛ばす経験ってなんだよ」

 

ごもっともです。

でも、熊の腕はダンジョンの巨大モンスターの棍棒よりも避けやすかったし、なるほど、これが慣れというやつか。

 

と、先輩が何かを決心したような顔で近づいてくる。

 

「……?どうしたんですか?」

「あ、あぁ、熊を殺そうかと思って」

「殺す?」

「だって、今から逃げても起き上がられたらさ」

 

賛同はできない。

なぜなら、彼のテリトリーに入ったのは俺たちの方なのだから。

簡単に「殺す」なんて言ってはいけない。

生きとし生ける者として、魔を統べる者として。

()()()()()()()()だなんて、たとえ野生の獣でもまかり通らせるわけにはいかない。

これは……ただの、俺の決心だけれど。

 

「そしたらまた僕が足止めしますよ」

「…………」

 

納得したのか、不満を口に出さないだけなのか。

とにかく、先輩の雰囲気が変わった気がした。

 

「なんか君、魔王みたいだ」

「え?」

 

少し冷や汗が垂れた。

 

「魔王。残虐非道で世界を掌握する、魔王」

「……魔王は、好きで残虐非道をやっているわけじゃないのかもしれませんよ?」

「それってどういう……」

「一度戻りましょう。熊は僕が見張っておくので、黒退先輩と金髪の人を連れてきてもらえますか?」

「あ、あぁ……」

 

やはり魔王になって、俺は変わってきているのかもしれない。

変わることが、()()()()()()()()()()()()

そうすれば、空良を守れる。

戦闘力は最弱でいい。

魔法も、最悪は蘇生魔法だけでもいい。

 

「……ただ、空良が守れれば。……それだけで」

 

たとえ死ぬことになったって───。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。