一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「……ん?」
蜘蛛を倒してしばらく。
歩いていくと、そこにパズルのはまった祭壇があった。
これは……確か、初心者のダンジョンにもあった、地上に転移するやつ。
幸いパズル自体は簡単に揃えられる物だったので、苦戦することなくパネルの絵柄を完成させる。
パネルが揃い、ピースに描かれていた絵柄が魔法陣であると気づいた時、俺の足元に魔法陣が浮かび上がった。
ただし、ピカピカと光る感じではない。
見た感じは、ウチの庭にあるノンピュールの魔法陣が似ている気がする。
「なるほど、魔力を」
これで、俺が魔力の扱いに慣れているかどうかが分かるわけだ。
魔法陣に手をつき、目を閉じて集中する。
魔法陣は俺の一部。俺の部位。血液を張り巡らすことのできる、俺の身体……。
目を開く。
「成功……!」
やんわりとではあるが、魔法陣が光っている。
ようやくここまできた……!ようやく、魔力を扱うレベルまで来たんだ……!あっ、ちょっと涙出てきた。
あとは、この先がどこに繋がっているのか。
ここが普通のダンジョンなら、ダンジョンに入る前の場所に飛ばされるはず……けど、ここは異世界じゃない。
鬼が出るか蛇が出るか……。
恐る恐る、魔法陣に足を乗せると、いつものようにぐにゃりと視界が揺らぎ、強制的に意識がシャットダウンされた。
◇
「ッはぁ!!」
覚醒。
そよぐ風が、俺の髪を揺らした。
どうやら、ちゃんと転移できたらしい。
……異世界にな!!
「ほんっとマジどうなってんのこれ!!」
俺の冷や汗が、
極寒の吹雪が吹き荒れる雪原に放り出された俺は、手甲鉤になっていない左手で自らの体を擦る。
死ぬ。死んでしまう。
耐えがたい寒さに耐えつつ、足元の雪を掘り起こして壁を作った。
ちんまりとした壁だが、風は……まぁうん、髪の毛ほど防げる。
ちょっとずつ、範囲を拡大して、かまくらを作ろう……。
そう思いながら、雪をかき集めていると。
「あああああああああっ!!」
「俺の壁が!!!!」
空から飛来した人間に、ウォールマリアが潰されたのだった。
「……って、空良!?」
「仙くん!!」
寒さも意に介していないような空良は頭に雪をのっけたままこちらに寄ってきて、俺に抱きついた。
いつもよりも力が強い。こちらの存在をしきりに確かめようとしているようだ。
「仙くん、仙くんだぁ……」
「お、おう……?何があったんだよ」
「えっとね……って、それは後で!仙くん、すっごく震えてるけど、ここユルゲンだよね!?どうしてここに!?」
「後で話す!」
「山積み!」
「それが俺たちだろ!」
「確かに!」
空良は俺から離れたのち、もごもごと口を動かすと、その身体を光らせた。
魔法を使ったのだろう。いい加減わかってきたぞ。
「とりあえず、近くの国までダッシュするよ!」
「えっ、あ、おう……」
ぶっ。
全体にGがかかる。
肺を槌で打たれたような振動が伸びて伝わり、吐き出された酸素を求めて脳が必死に体を動かす。
つまりは。
「あばばばばっっばあばばばばばばっば」
「仙くん!?」
ガタガタと意味のない呼吸を繰り返しつつ、空良に引っ張られながら痙攣しているわけだ。
ゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉ!!この空良ッ……速い……ッ!!
半ば死にかけで移動……異動についていき、空良が立ち止まった頃には。
「ついたよ仙く……仙くん!?どしたの!?」
「犯人は空良」
「私!?」
息も絶え絶え。文字通り。
まだクラクラする頭を押さえながら辺りを見渡すと、吹雪が止んでいた……なんで?
それに、太陽光が暖かい。先程は目を凝らしても雲ばかりで太陽なんて微塵も見えなかったのに。
すでに国に入っているらしく、後ろを振り返ると城壁が見えた。ちゃんと兵士だっている。
え、なに?空良はどれだけの距離を移動したんだ?
「あっ、あの道具はちゃんと起動してるんだ……よかった」
「道具?」
「前にもここにきたことがあったんだ。それで、初めてきたときは城壁の中も吹雪が吹いてたんだけど……この国と戦争していた魔王軍のところに突っ込んだら魔王軍側だけ吹雪が止んでてね?おかしいなって思ってたら、やっぱり吹雪を止める道具を持ってたんだよ!」
「ほう。だから?」
「盗んじゃった!」
空良はスカーフをマスクのように巻き、エクスカリオンではなく短剣を構えた。
盗賊スタイルってこと?
「ほら、そのときは正攻法で手に入れるよりも、盗んで人間サイドに持っていけば立場が有利になって戦いやすいかなって……」
「ウチの幼馴染みが悪い思考に染め上げられている……!」
「ちょっ、そんな言い方しないでよぉ!!」
まぁでも確かに、ゲームでもなんでも、勇者の転職先は盗賊だったりする。
それに、盗賊スタイルの空良だって可愛いじゃないか。
白と紺のいつものthe・勇者って感じも良いが、こっちは紺を多めに取り入れて暗闇に紛れやすくなっている。
獲物だって、透き通った水晶のエクスカリオンではなく、赤と金の装飾のある小回りの効く短剣。目立たなくていい。
「なるほど。だから近くの国って、迷わず来れたんだな」
「うん。仙くんを引っ張りながら挨拶したら、すぐに入れてくれたよ!……本当は王都の通行手形が必要なはずなんだけど」
まさかの顔パス。それだけ顔が広いんだウチの子は。
しかし、こんなところもあったんだ。
この世界は地続きではなく大陸で分かれている……ってのは知ってるけど、この大陸だけでも結構広そうだ。
「とりあえず……話したいことが山ほどあるんだけど、お茶しない?」
「ん?あぁ、まぁ……いいけど」
ペンダントは付けるべきかな。
あ、でも魔力を練って溜まってる分を減らさなきゃ角が出ちゃうから、このままでいいかな。
と、そんなことを考えている間に空良はお店を見つけたようだ。
店は温かみのある内装で、カウンターの奥で店主と思わしき人がコーヒーを入れている。
そこまで賑わってるって感じでもないのか……?
「おや、勇者ソラ様。ご無沙汰しています」
「久しぶり!はいこれカード!」
「……まったく、あなたほどの方ならカードなどいらないというのに……」
なるほど、会員制なのか。
空良が店主に見せた板は……あっ?これなにでできてるんだ?木でも紙でもないし、プラスチックなんてこの世界にあるはずないし……。
謎の素材のカードに旋律していると、店主が視線で座れと促してくる。
ウキウキと座る空良。その向かいの席に俺も座ると、俺の目の前にコーヒーが置かれた。
メイドのような格好をした人がお辞儀をして去っていく。
「ソラ様のお連れの方のようですので。新規のお客様にはサービスをしているんです」
「あっ、どうも」
「マスター、あれちょうだい!」
「承りました」
店主がカウンターの向こうでかちゃかちゃと音を鳴らす。
しばらくすると空良の目の前にフルーツサンドイッチが置かれ、それを頬張った空良がうっとりと微笑む。
一息ついたところで本題に入ることにした。ずずっ、あっ、コーヒーうまい。
…………。
「「あのっ」」
被った。面食らったような顔が微笑ましい。
「……そっちからどうぞ」
「えーと……仙くん。聞きたいことがあるんですが」
「おぉ」
「それなに?」
空良が指差したのは俺の右手。
未だ手甲鉤と化している右手だった。
邪魔にならないようにだらんと下げていたのだが、いい加減に右手を使いたい。
「なんかな、洞窟にあった石を触ったらこうなった」
「どういうこと……!?」
「俺も分からん。ただ、懐かしい感じがしたんだ。ノートがいるような」
「……?あー……?いや、うーん?」
「心当たりがあるのか?」
空良は微妙そうな顔でマントの裏から掌に収まるサイズの石を取り出して……待て、今どうやって出した。
……空良はその石を握り、ぐっと力を込めた。
その瞬間、空良が石を握っていた方の手が一瞬で銅色の小手に包まれ、石はどこへ消えたのか、なくなっていた。
───そうそれ!!俺のと一緒!!
「これに正式な名前はついてないんだけど、みんなは武具結晶って呼んでる。これは、結晶のついたもの……なんでもかんでもを取り込んで、いつでも取り出せるようになる……【収納袋】の石バージョンみたいな感じなんだけど……見たところ、仙くんの、爪?には武具結晶がついてないんだよね……」
「なるほどな」
「武具結晶自体もすっごく珍しいもので、魔剣とかと同じか、それ以上にレア。だから、それの仕組みは私にはわからないよ……。ごめん」
「いや、良いんだ。……つっても、右手がいつまでもこうじゃあ不便そうではあるけど」
「そうだね。少しやってみる」
空良が俺の右手をとり、瞑想するように目を閉じる。
異物感。身体中をめぐる魔力のうち、右手の魔力が押し返されている。
代わりに、ほかの魔力……多分、空良の魔力が右手を包み込むと、右手が圧迫されるような不快感の後、渦巻くようにして手甲鉤がなくなったのだった。
コロンと、俺の右手に石が転がる。
……ほう。意味がわからん。
「良かった、解除方法は武具結晶と変わらないみたい」
「そうなのか?」
「けど……本当に不思議な石。ん……ほら、私が発動させようと思ってもぴくりとも動かないもん。何か条件があるのかな?」
あるとすれば……魔力量とかか?
いや、魔王の魔力を取り込んだ俺は論外として、勇者である空良の魔力が少ないということはあり得ない。
血華刀の呪いを解除するのも、大半の魔力は空良が補ってたし……。じゃあ、魔力以外の何が条件なんだろうか?
「まぁ、この辺は有識者に聞いた方が早いかも。後でノンちゃんのとこに行こっか」
「あぁ……うん」
あいついっつもなにかしらを聞かれてるなあ。先生役なのかも。
とりあえず、この石の事はまた今度。
今度はこちらの質問タイム。