一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「それじゃ、今度はこっちから聞かせてもらうが」
「うん」
「ここ最近、どこに行ってたんだ?」
ここ最近は空良が家に帰っておらず、微妙に心配したものだ。
ずっと、異世界のどこかで宿でも取っているか、野宿でもしているかと考えたが、やはりまだ心配なところがある。
「んーとね……ちょっと、私も詳しくはよくわかんないんだけど」
「言ってみ」
「異世界にね、行ってたんだ」
ほう。
別に、それは予想していたし、なにか珍しいものでもないけれど。
……いや、異世界ってだけで珍しいの宝庫だな、なんで慣れ始めてるんだ俺は。
しかし、なにが違ったのか、空良は合点した俺の表情を見て慌てて首を横に振った。
「違うの、仙くん。なんていうか……その、多分、この世界とはまた、別の世界っていうか……」
「別の世界?」
「うん。転移……っていうか、訳はよくわからないんだけど、とにかく、別次元の世界についていたっていうか……異星?異世界?こんがらがってきちゃった」
「……ん?ちょっと待ってくれ」
この世界の他にも、異世界があるっていうのか?
パラレルワールドや、タイムワープ……オカルトというには、少し現実味がない。なぜって、ファンタジーだから。
「えーと……つまり?」
「また一つ、世界を救ってきました……?」
目頭を抑える。
呆れよりも、悔しさが強い。
なぜ、俺はまた空良に重荷を背負わせてしまったのか。どうして空良の代わりになれなかったのか。
ぐるぐると回る胸中をコーヒーで押さえつけ、一旦は飲み込むことにする。
「あっ、あとね、エクスカリオンの形が変わってたんだ!」
「変わってたって?」
「刀みたいな形になってて、それで……ちょっと扱いづらいなぁって思ってたら、現地にいた人が剣をくれたりして……あっ、あとね、この石もね……!」
「ちょちょ、ちょっと待て。情報量が多すぎる」
「あっ、ごめん……」
とにかく、この星の他にも異世界があって、それに呼ばれたってことだな。
「そう!他にも、いろんな人がいてね……」
空良の呼び出された世界は、様々な世界の英雄たちが集まっていて、そろって強大な敵を倒すのが目的だったらしい。
なんだその怪獣オールスターみたいな。
どうやら何度か転移結晶を使って帰ろうとしたらしいが、帰ることができなかったらしい。
それで、また世界を救って帰ってきたと。
「……今度は俺がいく」
「うん!色んな人たちを紹介したいし、行く目処が立ったら一緒に行こうね!」
そういう意味じゃ、ないんだけどな。
……今度は、俺が行く。空良を守って、俺が行く。
そりゃあ、空良の方が戦力にはなるだろう。けど、空良だって人間だ。
性能の良いコンピュータも使い尽くせばやがて壊れる。
そうなる前に、
俺は、空良よりも強くならなきゃいけないんだ。
『せかいじゅーのみんなを笑顔にするの』、か。壮大な夢だよな、本当に。
【暁の天剣】なんて大層な異名を持っている勇者様は、昔から勇者様だった。
俺は、傍観者にはなりたくない。
どれだけ空良が主人公なのだとしても、必ず空良を守ってみせる。
───『たとえこの身が朽ち果てようともッ』───
いつのまにか、すごいところまで足を突っ込んじゃったなぁ……っと、もうコーヒーが無くなってしまった。
「とりあえず納得した。調べたいことも増えたけど……まぁ、大丈夫だよ」
「そう?うん、ありがとう!」
「なんで感謝するんだ……?」
「えあっ、なんでだろう……日本人って謎だよね」
久しぶりにどうでもいい会話を2、3交わし、そこに空良がいることを実感する。
やはり、側にいると落ち着く。幼馴染の力は偉大だ。
「で、これからどうするつもりだ?」
「うーん……私は……一度、お城の方に戻って色んなものを調べたりしたいけど……」
「なぁ空良」
「うん?」
「一度、家に帰った方がいいんじゃないか」
空良の目を見開き、次に伏せる。
言葉を選んでいる様子だ。
「空良が帰ってきていることは、あの人たちには伝えてない。パニックになって、通報とかしちゃうと思ったから。……けど、そろそろ、いいんじゃないか?今の空良なら、大ごとになる前に鎮圧できるだろ?」
「…………」
「俺は……もう、あの人たちのあんな顔を見たくなくて」
年齢的には、高校生だ。
両親となにかあったのかもしれないし、個人的に思うところ、考えることがあるのかもしれない。
異世界で命をかけて戦ったことも、一度話してしまえば全て話さなければならない。
もちろん、すごく心配するし、中には致命傷を負った戦いもあったはずだ。
でも……でも。
「空良のお父さんはまだ、探してるよ」
「…………」
「空良のお母さんは、ご飯を三人分作ってる。いつ帰ってきてもいいように」
「…………」
「俺は……空良の幼馴染としては、帰ってきて欲しい。地球に、とかいう意味じゃなくて、ちゃんとした家に。心山さんに。帰ってきて欲しい」
急にこんな話をするのもどうかと思う。
でもこの際だ。
言いたいことも、不安なことも、全部話してしまおう。
そうして、しばらくして言葉を作っていた空良が発した言葉は。
「もう少し」
「……そっか」
少し寂しい回答を、残したのだった。
いつのまにか、空良の皿からもサンドが消えている。
どういう単価なのかよくわかんないけど城から適当に持ってきていた硬貨を渡して返ってきたお釣りを懐に忍ばせていると、空良が急に立ち上がった。
「仙くん」
「はい」
「戻ろう」
「はい?」
「仙くんの言ってた洞窟が気になる。戻ろう」
なんだ急に。
こちらを急かすように「戻ろう」と連呼する空良に困惑していると、扉がバンと開かれた。
「勇者ソラ!!
「あぁ〜来ちゃったぁ……」
唐突に店に入ってきた金髪縦ロールの女性。
この世の人間が想像する「お嬢様」の体現をしたような彼女の登場に、空良はダァンと机を叩いた。
べキィと音を立てて崩れゆく喫茶店の机には目もくれず、金髪縦ロールは空良にその細く長い指を突きつける。
「
「お前そんなことしてたのか……」
「違うの!!だってその日寒くって……」
「凍えるような雪原で膝下まで雪に埋れつつ待った三日間……兵糧攻めかと思うほど待った三日間!!かたときも忘れたことはありませんのよ!!」
「お前……!!」
「違うのぉ!!」
お嬢様はモコモコのついたコートのような赤いドレスを揺らめかせ、微妙に疲れたような目を空良に向けた。
「
「うう……えぇ……どうしよ仙くん」
「受けてやれ。流石にかわいそうだ」
と、会話に混ざったことで視線がこちらに向けられる。
お嬢様はすぐさま体の向きをこちらに直し、ドレスの裾を掴んでカーテシーをした。
なにその礼、めっちゃ綺麗……!!人間が考えうる最大級のお嬢様って感じだ。
「お初にお目にかかりますわ。リリー・スノウホワイトと申します。あなたは勇者ソラのご友人でらっしゃいますの?」
「あぁ、初めまして。仙って言います。ええと……友人っていうか、恋人、かなぁ」
「あら」
先程の威勢はどこへいったのか、完全にお嬢様を演じているリリーさんが口に手を当てて驚き。
それを見た空良が「さっきの威勢はどこにいったんだろうね」と皮肉を溢す。
き、基本的に人の悪口を言わない空良が明らかな嫌悪感を出している……!?
リリー・スノウホワイト……一体どんなイカれたやつなんだ……!?
「そうでしたの。まさか、勇者様が恋人を」
「リリー、茶々入れるつもりじゃないよね?リリー?」
「茶々は入れますわよ。あなたのライバルですもの。しかし驚きですわ。まさか……」
「
───!!?
「わかりますわよ。並みの人間ではわからないでしょうが……
「……いやあ……ペンダント使ってないのに魔力を見通されるって……どうなんだろうか」
「仙くん?しばらく見ないうちになんか雰囲気変わっ……仙くん?」
胸の中で魔力を練り上げ、全身に巡らせる。
脳天を突く痛みと、その直後にゾーンに入ったような爽快感。
俺の頭には、二本の角が突出していた。
「
「…………」
俺とリリーさんの視線がぶつかる。
いつでも戦えるように身構えつつ、リリーさんのほうを見つめると……。
「まぁ、いいでしょう。今のところ悪名は一つも聞いていませんもの。それに、この国は魔王が討伐をされてから魔族との共存を目指している方針に決めたようですし……なにより、この店のマスターにご迷惑ですもの」
「……そりゃどうも」
一息ついて銃中をやめると、角が消えてギンギンになった気分も冷えてきた。
頭が痛い。ほんの一瞬、魔王モードになるだけでもここまで疲れるなんて……。
オーバーホールと併用したら、その時は気絶でもするかもしれない。
そもそも、オーバーホールと魔王化を併用するほど俺は器用じゃない。いつかできるようになればいいけど。
角がなくなったことを手で触って確認し、せっかくなので頭を押さえて痛みを和らげる。
「……ごほん。とにかくソラ。表にでなさいな。
「またのお越しをお待ちしております」
リリーさんは興奮冷めやらぬといった様子で店から出て行き、店主が頭を下げる。
いくらなんでも寛容すぎないかこの人。
これからどうするのかと視線を空良に移すと、空良は神妙な顔でうなづいた。
「帰ろう、日本に」
鬼かお前。