一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「ヤダヤダ、すっごい長い間戦うことになるからヤダ!」
「気持ちはわかるけど今放置するともっとめんどくさくなるから!」
「ヤダぁ!!」
空良の拒否反応がすごい。
普段、笑顔が眩しい事が売りの空良が、必死に逃げようとしている。
「待てって空良!」
「離してぇ!」
「がはっ!?」
手を掴んだ瞬間に全力で振り払われた俺は床に叩きつけられた。
床と背骨がミシミシと悲鳴を共鳴させる。
おわぁ痛い。
「もう嫌なのぉ!寒い中笑い声上げながら鎌振り回してくるあの子の相手は嫌なのぉ!」
「いやもうマジでなんでもするから闘ってやれよ!哀れで仕方ないだろ!!」
「そんなこと言われても……ん?」
急に空良が真顔で顔を近づけてくる。
思わず後ずさるがその分距離を詰められ、逃げることができないことを悟った。俺、死す。
「今何でもするって言った?」
「え、あぁ……」
「何でもするって言った?」
「言っ……たけど……」
「リリーッ!いざ勝負!!」
「強欲!?んでもって速ッ!?」
目に止まらぬスピードで店の外にぶっ飛んでいった空良の背中を瞬時に追うことは出来ず、伸ばした手は虚空を揉んで行ったり来たり。
恐る恐る後ろを振り返ると、酷い惨状の店内と、平然とコーヒーカップを吹いているマスターさんが目に入った。
「…………」
頭を下げたら許してくれました。
◇
バリアの外に出ると戦闘はすでに始まっていた。
寒いし風強いしで視界は霞んでくるが、たまにこちらにまで波ァ!的なものが飛んでくるので眠ることもできない。
「アーッハッハッハッハ!!!!」
「あぁやっぱ無理ぃ!怖いぃ!!」
雪の降る中で、赤いコートと紺のマントが舞い踊る。
……なんて表現だったらとても綺麗なように思うが、目の前で起こっているのはそんな綺麗なもんじゃない。
鎌が振り下ろされ、剣が急な角度から突き上げる。
どれもこれも、遊びでやっているとは思えない。
「【ウォーター】ッ」
「来なさい!!」
空良が水を出してそれを凍らせ、槍のようにして辺りに降らせた。
対するリリーさんは鎌を地面に刺して身軽になったあと、踊るように舞ってその全てを避ける。
思えば、今までの敵が序盤すぎて、空良の本気を見ていなかった。
いっつも一太刀で終わらせたり、隙を作っている印象があったから。
この闘いは、空良より強くなるという目標のためには、目に焼き付けなければならない。
もっと強くなるために……。
「やあ、どうも」
急にそこに現れたような異様さを以って、それは俺の背後に立っていた。
「なんだか、すごく熱心だね」
「……お前、生きて……」
その声色は覚えがある。
『管理者』。
大和に旅行に行った時、二人で……。
「……そ」
「おっと荒事は好みじゃない。今はね」
「っ……」
「指一本も触れてないのに、動けないだろう?これがプレッシャー。蛇に睨まれた蛙ってやつだ」
「…………」
「君が下手な動きをしないなら、俺だってしない。さ、世間話でもしないかい?」
管理者は俺の隣に座る。
吹雪の中なのに春とほとんど変わらないような服装をしている管理者は緑色の瞳で俺を見つめ、ニヤリと口を歪ませた。
「今日は気分がいい……っていうか、言ってもいい日だ。なにか聞きたいことがあったら聞きたまえ」
「……聞きたいこと?」
「あぁ。君が疑問に思っていること、教えてあげるよ」
「……じゃあ、何でお前は生きてるんだ?あのとき、確かにお前は死んでたんじゃ」
「死んだよ。確かに、死んだ」
管理者は「でも」とポケットからオレンジ色に透き通る石を取り出した。
「これがあるから、生き返ったんだ」
「これは……?」
「残機。ゲームなんかでよくあるだろう?命の肩代わり、起死回生の一手」
……んな、馬鹿な。
つまり、少なくともあと一回は、この管理者という男は死んでも復活できるってのか。
「そんなこと、できるのか?」
「できるさ。生命の根源である経験値を集め、結晶化する」
「経験値だって?」
やはり、こいつはこの世界の住人?
空良は初対面の用だったし……これほど謎に包まれているやつが、空良と面識がないなど、可能性としてでもあるのだろうか?
「【ファイア】!!」
「アーッハッハッハッハ!蚊ほども効きませんでしてよ!!」
「【ファイア】【ウインド】……【インフェルノ】ッ!!!!」
「ほぎゃあーッ!?」
管理者は二人の戦いを見ながら、感心したような、呆れたような笑みを浮かべた。
「勇者ソラは……もう成長限界かなぁ。あっちのお嬢はぐんぐん強くなってるね」
「なぁ、聞きたいんだが」
「なにかね」
「お前はこの世界の住人なのか?それとも、地球の住人なのか?」
俺の問いを吟味するように目を閉じる管理者。
いつでも攻撃や防御ができるように身構えるも、相手が動きそうな気配はない。
「地球の住人だけど、今はこっちの住人だ。君や、あの女の子のようにね」
「……?それは、つまり」
異世界転生。
「君が思っていることで相違ない」
「じゃあ、なんであの時俺たちと戦ったんだ」
「彼女に、もっと強くなってほしいからかな」
「意味がわからない」
「近いうち。近いうちに、あの少女でも、俺でも太刀打ちできない強大な敵が生まれる。戦えるのは、勇者のみだ」
「勇者って……空良だけじゃないのか?」
「いいかい?君が思っている強大な敵って、魔王やそこらだろう?……それとは比べものにならないよ。この大陸を越え、この世界を越え、宇宙にまで影響を及ぼすナニカが生まれるんだ。そのためには……人類の『理想』の力が必要だ。亜空聖剣という、『理想』の力を扱える彼らの力が」
スケールが大きすぎる。
急にそんなこと言われて、はいそうですかと納得できるはずがない。
だいたい、コイツは死んだはずの敵で、こうして話をするはずがないのであって。
……でも。
こいつの話を、信じようとしてしまうのは何でだろう?
妙な説得力があると言うか……俺を、俺自身を見ているかのような……。
チラリ、と横目に空良達をみる。
未だに戦いは拮抗している。空良が言っていた、戦いが長くなると言うのは間違いではないらしい。
「空良は知ってるのか……?」
その問いかけに、答える声はなかった。
代わりに、目の前の男が首を横に振る。
「俺の目の届かないところでない限り、このことを知っているのは俺だけ。勇者達が集まって戦うのはもう決まった事実なんだ。だから、強くなってもらう。自分の身と平和を守るために……そのためなら俺は、悪役にだってなるよ」
「…………」
「強さが欲しいなら、あのダンジョンを……『開拓者の石窟』を、調べ尽くすといい」
「開拓者の石窟?」
「君はあそこからやってきたんだろう?あそこはね、次元が不安定なんだ。……山頂にあるアレのせいでね。だから、あの洞窟はいろんなとこに繋がっている。この大陸はもちろん、別の大陸にも。君が前触れもなく雪原に放り出されたのはそれが原因だね」
「あの洞窟を中を探せば、アンタのとこへ行けるゲートに繋がるかもしれないってことか……」
「まぁそんなもの。気をつけてね、前に洞窟に入ったときとは、構造が違うかもしれないから」
……つくづく思うが、なぜこいつは俺が洞窟に入ったことを知っているのだろう?
まるで、全て見てきたみたいな言い方だ。
と、管理者が徐に立ち上がった。
「さて、そろそろお暇させてもらうよ。俺から離れると急に寒くなるから、ちゃんと覚悟しておくんだぞ」
「なっ、まだ聞きたいことがっ……いなくなった」
振り返った先には誰もいない。
雪と共にバラバラになって吹き飛んだかのように、そこにいた痕跡も、存在感も無くなっていた。
「寒ッ」
同時に体を刺す寒さ。
歯をガチガチと震わせながら空良のほうを見ると……。
「亜空聖剣エクスカリオンっ!!」
「魔剣ダルダイン!!」
ついに目に見えない速さの剣戟を繰り広げていた。