一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
結局、あの決闘は空良の勝利で決まった。
雪原に倒れ伏して徐々に埋まっていくお嬢様を掘り起こした後、バッと目を覚まして、
「こうしちゃいられませんわ!?もっっっと強くなるんですの!」
と言葉を残してまた吹雪の中へと突っ込んでいった。馬鹿なのかもしれない。
……管理者に会ったことは空良には話していない。
いや、話せなかった。
喋ろうとすればするほどに言いたい言葉は宙を舞い、ほつれて、結局なにも言い出せなかった。
強大な敵とはなんなのだろう。
果たしてそれは、高校生の手に負えるのか?
「ふいー。なんとかなったね」
「お疲れ様。この後はどうするんだ?」
「うーん……ちょっと気になることがあって、単独行動したい感じ?」
「気になること?」
「大丈夫、大丈夫。仙くんには関係ないから!じゃっ、行ってくるね!」
その場で跳躍し、屋根を伝って走る空良。
……お前は、いつもそうだ。一人で勝手に言ってしまう。
それでまた、なにかを救って、しれっと帰ってくるのだろう。
空良を引き戻そうと伸ばしかけた手を見つめる。
空良の荷物を抱えるには、小さくて、非力。
俺のわがままで空良を苦労させて、それで、俺は今なにしてる?
「仙くんには関係ないから、か」
その瞬間、俺は自信が
なあ空良、俺はどうしたらいい?
寒空は、答えてくれない。
◇
ぎゅむぎゅむと足元の雪が鳴る。
いやあ、壁の外は寒かった。前はあんなに吹雪いてなかったのに何が起きたんだろう。
「そうだなぁ」
まさか、空良が単独行動を望むとは思っていなかった。
一緒にならないといけないのに。
二人でいないといけないのに。
「全く、困ったもんだよ」
そうして俺は、一振りの刀を取り出した。
「ユイ」
『……なんじゃ』
「出てきてもいいんじゃない?」
『答えはやー、じゃ。外は寒かろう。死んでしまうわ』
「ふうん?残念だなぁ、ここのパフェは美味しいと評判なのに」
『ぱふぇ!!』
刀が変質し、少女の姿へと成り代わる。
「うおっ、やっぱり寒いのじゃ!! 嘘つきおって!!」
「嘘なんかひとつも言っておりませんが?」
「……たしかに」
うむむと唸る少女には、過去の悲劇の面影は感じられない。
普通の少女だ。
「さてここで問題です」
「なんじゃ?」
「仙と空良は別行動してしまいました。二人を鉢合わせ、共に行動させる方法とは?」
「……またあやつらは別れたのか? 本当に恋人同士なのかあの二人は」
「ま、
「
「正解」
まったく。どうしてこうなるんだ、あの二人。
◇
さて。
空良がいなくなったけど俺、どうしよう。
向こうに帰る方法なんてないし、外は吹雪だし、俺詰んだも等しいぞ。
……と、とりあえず。
観光でも、してこうかしら……。
「…………静かだ」
先程の雰囲気とは変わり、たった少しの時間を過ごしただけで露店はあらかた店を閉まっていた。
あらゆる商品を家の中に仕舞い込み、誰もがもくもくと自らの店じまいに没頭している。
「あの、もう終わりなんですか?」
「ん? ……ああ、外から来たのか? それは運が悪いな。最近になってまた吹雪いてくるから大体この時間に店を締めるんだ。悪いが、宿を探してまた明日来てくれ」
「へぇ……。え、じゃああのバリア的なのは……」
「さぁな。勇者ソラ様が置いていってから陽の光を浴びれるようになったにはいいが……最初の頃と比べたらその光も弱くなってら。魔力でも足りんのかねぇ。この様子じゃ、もうじきあのお空の小さな星も雪に飲み込まれるだろうな」
「そうですか……」
ふぅむ。また厄介ごとの予感だぞこれは。
無理を言って露店のおっちゃんに頼み込んで買った厚いコートを着込み、もう俺以外に誰もいない通りを一人歩く。
人工太陽のようなものの光が日没のように徐々に弱くなっていき、それにつれて吹雪も強まってきた。
「……さむ」
街の外と比べても寒さがあまり変わらなくなってきた街はどの家も雪を防ぐ雨戸のような格子を張っており、中から全力で暖かい光が漏れている。
……なるほど。雪に慣れているから、たとえ人工太陽が効かなくなっても対応できるんだ。
そしてこの吹雪。これじゃ、魔物は近づけるわけがない。魔王軍の侵攻を防ぐ天然の城なんだ。対策されてたけど。
「でもどうして、こんなところに街なんか建てようと思ったんだろ……わっぷ」
口に雪が!
冷たいそれを吐き出して、そこでようやく今どの辺にいるかを確認してみる。
……。
知らない場所だった。
目を凝らしてもランタンの灯りひとつも見えない。
耳を澄ましてもびゅうびゅうと鳴く風に全てかき消されるばかりで何も聞こえない。
足元の石畳が、心なしか柔らかいように感じる。土じゃない、雪だ。
まさか。
「……遭難……?」
背筋がゾッとする。
あれだけ雪には注意しようって思ってたのに!!
いつから街の外に出てた?全然わからない!
風の威力はどんどん増して、ばさばさと頭に当たる雪も少しづつ痛みを感じるようになっている。
ま、まずは壁を作ろう……最初にここにきた時と同じように。
足元の雪を引っ掻いて乱暴に穴を作る。
ポケットから取り出した石を握って鉤爪を出し、少しでも作業効率を上げ、より多くの雪を集める。
作り出した壁の内側で指先に魔力を集中させ、全力で魔法をイメージした。
「ッ、ファイア、ファイア」
点け……頼む……。
「ファイア……!」
このままじゃ。
「ファイア……」
ファイア……。
「ファイア───」
ファイ、ア……
「───」
───。
───仙くん!!
「ッ!?」
聴き慣れた声に目が覚める。残る柔らかい香り。
「仙くん……!」
「そ、そら」
「仙、くん……」
空良が俺を抱きしめる。
ここが洞窟のようなところであるところを見るに、どうやら俺は、また勇者に救われたらしい。
「ごめん、空良。しくじった」
「ううん。私が悪い。吹雪が強くなることを予想できてなかった私が悪い!!」
「お前は悪くないよ。こうして助けてくれたんだし」
「うう……ぐす」
泣いてるんだろうか、コイツは。
まぁ確かに、幼馴染であり恋人が雪の中で死にかけてたらそりゃ誰でも泣くか。
もう大丈夫だと空良の背中を強めに叩くと、空良は名残惜しそうに離れてくれた。
「ここは?」
「近くにあった洞窟の入り口付近。山か崖かはわからないけど、岩が削れてできたような穴だから風は通さないよ。【ファイア】」
「奥まで行かないのはなんでだ?寒いだろ」
「洞窟はダンジョンになってるかもしれないから……」
「……あぁ……」
暖かい火に当たりながら情報を交わす。
空良が火や体温で温めてくれたおかげで今はなんともないが、見つけた時は俺はほぼほぼ死んでいたらしい。
右腕は凍傷で黒ずんでいたらしく、肘から先をぶったぎって【ヒール】で無理くり生やしたらしい。SAN値チェック。
この一件で異世界は普通にやばいとこであることを再確認した。
「帰ろ、仙くん」
「向こうに?」
「うん。一度転移結晶を使って王城かノンちゃんところに行く必要があるけど、ここにいるよりはマシだよ!」
「……わかった」
空良が【収納袋】から【転移結晶】を取り出し、その石に魔力を込め始め、た、その時。
「ッ!?」
「なっ……」
転移結晶が、凍りついた。
大きな氷塊となった石を即座に手放した空良はエクスカリオンを取り出し、洞窟の奥を睨む。
「なにか、いるね」
「つまり、ダンジョンか」
「そうなる。【ライト】」
アゼンダの魔女の家でも使った光球がフヨフヨとあたりを照らす。
鉤爪は邪魔なので出さずに、血華刀だけ構えておく。
「魔王モードは?」
「オーバーホールの方が奇襲も詠めていいかなと。まだ併用できない」
「そっか」
胸に空いた次元の穴。……次元の穴? 原理知らんから次元かは知らんけど。
これで、何か来る数拍前に
これで少しは、役に立てるはずだ。