一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
嵐を呼ぶ!たくさんの地球の危機ッ!
5月15日、上映開始!
「何か、いるね」
「つまり、ダンジョンか」
なんて意気込んだけれど。
「ほっ」
スパァンッ。
さっきからオーバーホールの出番も全然無いし、こっそり解除しても何も変わらなかったことにショックすら覚える。
苦労しないに越したことはないって……そりゃそうなんだけども。そうなんだけども。
「大丈夫、仙くん?」
「めっちゃ楽」
「良かった」
片手間になんかもやもやしてるよくわかんない冷気の塊みたいなやつをばっさり斬り、空良が訪ねる。
きっとあいつ物理効かない系モンスターなんだろうな。けどエクスカリオンだから……霊も神も斬れるらしいから……。
「そろそろボス部屋な感じするね。一度休憩しよっか」
「あ、おぉ……」
せめて焚き木だけは組ませてください勇者様!
迅速な対応で焚き木を組むと空良がにこやかに魔法を放って焚き火を作る。
洞窟の中だというのに一酸化炭素中毒にならないのは何故だろうか。あ、【収納袋】から酸素を?あ、すみません気が利かなくて……。
「なんか空良に頼り切りな気がするなぁ」
「仙くんは一般人だもの。無理しないでいいんだよっ」
「……一般人かぁ」
一度も抜いてない刀と、一度も使うことない魔力。
せめて魔法を覚えればと思って頑張っても覚えられたのは
「ここのボスはどんなだろうね。斬れるかなぁ?」
「その剣で斬れないもの無いんじゃないか……?」
「まっさか!! 斬れなかったものもあったよ! たとえば魔王軍の幹部が側近にしてたゴーレム……あれ、斬ったんだっけそれ」
「おい」
試しに、と空良が剣を持ち上げ洞窟の岩肌をコツコツと叩いてみる。
がこっと音がして崩れた。
「……できたねぇ……」
「まぁ、ただの岩ならできないこともないんじゃないか」
「ダンジョンの壁ってだいたい壊れないんだぁ……」
「そうか。…………そうか」
そもそもあなたアゼンダのところの本棚も切り崩してたし、魔王城のてっぺんが門松の切り口みたいになってたのもあなたでしょうに。
「あれ? 私、人間?」
「人間だよ間違いなく。……人間だよな?」
「酷いっ!?」
ぱちぱち燃える焚き火を眺めながら軽口を返す。
いやぁ……寒い寒い。コートがあるからなんとか耐えられているが、奥に行くに連れて寒さが増してる気がする。
「なぁ空良、寒くない? お前、めっちゃ肌に張り付く服着てるけど、大丈夫なの?」
「え? ……あぁ、私は大丈夫だよ! 私、暑さも寒さも感じないから!!」
…………?
「レベルが上がって抵抗力? 防御力? が上がったおかげなのかな、吹雪の中でも全然へっちゃら! すこし変な感じはするけどそこまでじゃないよっ。それだけじゃなくて、毒とかも効かないし、なんなら酸素がなくたって二時間は……仙くん?」
「空良……それで人間と言っていいのか……?」
「に、人間ですが!?」
「どこの時空の酸素無しで二時間生きられる人間がいるんだよ……人間ってなんだよ……」
まさにチートスペック。
地球にいけば何故か弱体化するが、この世界でなら空良を倒せる者は存在しないのではないか。
もはや勇者ってか兵器じゃないか?
「さ、そろそろ行こっか」
「あ、あぁ……うん」
「火消すよ」
空良がふっと息を吹くと焚き火が消える。うん、なんで? 息を吹きかけただけなのに何故?
黒ずんだ木材を目に戦慄する俺の前をスタスタと通り過ぎる空良。
その目は既にダンジョンの奥を見つめており、エクスカリオンにも手が伸びていた。
空良を追いかけると待ったの合図。思わず止まれば、空良の指がこれから通るであろう部屋を指さす。
「空良?」
「見て仙くん。ダンジョンの奥」
言われて見た部屋はダンジョンの中だと言うのに吹雪いており、部屋の外まで少し雪が漏れ出ていた。
「雪が……」
「自然洞窟なら、外に繋がってるってこともありえなくはないんだけどね。でもね、仙くん。だいたい
「でも、ここのは幽霊みたいな魔物ばかりだった。ってことは……」
「恐らく、もうここがボス部屋。気配が近いのは気のせいじゃ無かったね。行こう」
「お、おい」
躊躇なく進む。
部屋に入るのを拒むように吹雪が一層強くなるが、空良は気に留めない。
風を切り進み、そして後に続く俺に被害が及ばないようにフォローまでいれていた。
そうして進むこと少し。吹雪が突然晴れた。
「…………」
空良は、見たこともない顔をしていた。
「……誰だ?」
「そっちこそ。見たところ、魔物化した精霊っぽいけど?」
「我が領域に入ってくるとは不届な……否。我が世界の中で、忌々しい人間の作った道具を使うことが気に食わない。もう一度問おう。何者だ?」
「精霊? ノンピュールと同じやつか? 魔物化って?」
「精霊は元々魔王軍側だったの。色んな精霊が人間と敵対して……仙くん、避けてッ!!」
空良が地面を蹴って跳ねる。
習って反対方向に跳ぶと、俺たちがいた場所が凍りつく。
「答えぬものは氷と化せ。魂は、魔王様の元へ」
「魔王の魔法で、隷属させられてることがわかったってこと!!」
「隷属などされておらぬ! 私は、この身は、魔王様に!」
たしかに、話も通じないようじゃ正気を失ってるとしか思えない。
魔王様って、まぁ間違いなく
「……隷属の解除の方法は?」
「三つ。魔力を一気に入れ替える、相反する精霊の魔法をぶつける」
「それと」
「殺す。ハァッ!!」
空良が壁を蹴って精霊の元へ跳ぶ。
エクスカリオンが精霊の喉へ突き立てられようとする。
精霊が身を捻り、剣は空を斬る。
「右から一直線!」
「ッ!!」
オーバーホールの予測線を元に攻撃を予測!!
「凍てつけッ!!」
「ほんとだ! ありがと仙くん!」
「それより、なんで突っ込んだんだ!」
「今、火の精霊がいない! 殺して、新しい精霊を作る方が、圧倒的に早い!!」
ひゅん、と空良の姿が消え、透き通った蒼色の閃光が空洞を駆け回る。
ドラゴンになっていた時にも見せていた、速度が上がる能力か。
俺も、戦闘態勢だけは整えておこう。
左手に石を握って、深呼吸。
胸の奥で練り上げる魔力を血液のように全身に……そして、それを左手の石に……!
「がっ、ぐ!!」
脳天を突く痛み。
角が生え、左手は手甲鉤のようになる。
魔王モード、変身完了だ……!!
「空良! 魔王になったらオーバーホールは使えない!」
「大丈夫!!」
血華刀を抜く。
刀を構え、未だ精霊に攻撃し続けている空良を見る。
本当に、本当に殺すしか方法がないのか……?
「っ、やい精霊! 俺は二代目の魔王! 魔王に従うなら、俺はどうなんだ!」
「はっ、魔王とて、小僧に従う私では……」
「空良、攻撃を止めてくれ!」
「っ、わ、わかった!」
と聞こえた瞬間に空良が俺の真横に立つ。
やめてよ、急に現れたらびっくりするから。
「この魔力は、お前が仕えていた魔王のものだ。よく見てみろ」
「……確かに、覚えがある……まさか、本当に……?」
「魔力は受け継いだ。俺も、お前の仕えていた魔王と言っても過言じゃないと思うんだけど……どうだ?」
「いや……しかし、私は……」
血華刀をしまって全身から魔力を放つ。
見知った魔力を流す俺は、精霊の目にどう見えているのか。
まったくわからないが、血を見ないでいいならその方がいいだろう。
「どうだ? 俺は魔王じゃあないか?」
「う……」
「魔王と認めてくれるのなら、この吹雪を少し弱めてくれると助かる。もしくは、俺たちがここから脱出できるようにしてくれると……」
膝をつく精霊。
とりまく吹雪が少し弱まり、当人が困惑しているのが読み取れる。
よし、このまま懐柔していけば……!
「ナイス仙くん!」
「なっ」
そう油断していたからか。
長い髪を流す勇者が俺の横を通り過ぎるのに反応することができなかった。
「がっ、あ───」
精霊に深く刻まれた傷から、雪のような粒子が飛び散り、姿が希薄なものとなっていく。
振り抜かれたエクスカリオンが、日光もないのに輝いていた。
「空良っ、何やって……!」
「…………」
「ア───ガァ……ッ、ナ……!!」
弱まっていたはずの吹雪が強まる。
ビュウビュウと吹く吹雪の中、消えかけの精霊の姿がより一層悍ましいものとなっていき───
「アアアアアアアアッ!!!!」
「……!?」
───咆哮を残して、その場からいなくなった。
「空良……」
「…………」
「空良っ!!」
「…………」
「空良ッ!! おい!!」
顔を伏せ、剣を振り抜いた姿勢のままの空良が立ち上がった。
振り返ったその顔はきょとんとしていて。
「……? なに、仙くん」
「空良…………」
「んん、え? なになに、なんなの? え? っていうか精霊は???」
「覚えてないのか? 空良が、精霊を斬って……」
「えっ!? そんなの知らないよ!! な、なんでそんな事を!? どうして!?」
「……覚えてないなら、いい……空良は、精霊を斬ろうとしてなかったんだよな?」
「そんなこと、するわけないよ……!」
……なんなんだ、一体……。
空良が、自分の行動を全く覚えてないなんて。
誰かに操られていたとでも言うのだろうか。そうでなければ、明らかにおかしい。
いつもの優しい空良が、無慈悲に精霊を斬り伏せた。
そんな事実は、認めたくない……。
「仙くん。あの、精霊は……?」
「空良が斬ったあと、消えた」
「………………そっ、かぁ……」
拳を握る空良。
また、厄介ごとの匂いがする。
「ちくしょう……なんでだよ……なんでいつも、俺たちばっかりこんな目に……」
「仕方ないよ、仙くん。それが私。それが、勇者なの。どうであれ、いつまでも、戦いからは……」
「逃れられないって?」
「…………帰ろっか、仙くん」
「……あぁ」
空良が転移結晶を、力ない動きで握る。
今度はちゃんと、発動した。