一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染と氷河期

視界が戻り、やはり一瞬で自分の家に戻って来ている。この石、ほんと便利だなぁ……。

しばらく向こうにはいかず、こちらでなんとかしよう。

……その前に。

 

「寒くないか?」

「え? あぁ、そうだね……」

 

向こうと同じくらいに気温が下がっている。家の中だというのにこの冷ややかな感覚はなんなんだ。

カレンダーには春の月が書かれている。間違っても寒さが再来しましたなんて言えないくらい。

 

「……仙くん」

「ん」

「窓の外……見て」

 

カーテンの外を覗いて空良が俺を呼ぶ。

隣に立って同じように窓の外を見てみると。

 

「はぁ……?」

 

……思わず目を疑ってしまうような、真っ白い光景が目に入った。

テレビをつけるとニュース速報で異常気象が……日本列島の全てが雪に覆われている異例の事態がレポートされていた。

 

「なんで雪が……」

「多分、あの精霊かなって思うよ」

 

精霊?

あいつは空良に斬られて、そのまま消えちゃったんじゃ……。

 

「ねぇ仙くん。ノンちゃんは覚えてる?」

「ノンピュールが何か?」

「ほら、庭に……」

 

庭?

庭にあるのは物干し竿と、雪に隠れている魔法陣で……あぁ、魔法陣!!

 

「そっか、ノンピュールは異世界とこっちを行き来する魔法を使えるんだ……」

「同じ精霊なら、これくらいは覚えておてもおかしくない……あの氷の精霊がこっちに来ていて、この雪を降らせているとしたら……」

 

空良がテレビを振り返る。

降雪による渋滞や、路面凍結で起きる事故なども報告されているのを見て、空良が拳を握った。

 

「許せない……!」

「空良……」

「仙くん、行くよ。あの精霊に、引導を渡さないと」

 

目つきが変わっている。

昔も空良と、全然違う。

勇者だ、と思った。

今の空良は、誰かが助けを求めていたらすぐに駆けつける、勇者のソラなんだ。

誇らしいと思った。

 

思ったけど。

 

「……? 仙くん、行くよ? 準備準備」

「っ、あぁ」

 

少し怖いと思ってしまったのは何故だろう。

 

厚木をして外に出ると耳ごと凍りつきそうな吹雪が直撃する。

それが絶え間なく続き、あっという間に体力がなくなっていく。

 

「【ファイア】……汗とか体温調節はこれで」

「ありがとう」

 

空良がこっちによこして来た腕輪のようなもの。

原理はわからないが、魔法をループさせて溜め込んでおくことができるらしい。ノンピュールお手製だそうな。

おお、あったかい。

 

「それで、精霊の場所の目星はついてるのか?」

「魔力を辿っていけば簡単だよ。精霊は出す魔力がケタ違いだし、異世界(むこう)よりも魔力を持つ存在が少ないからね。この感じは、ノンちゃんがやってきたあの山かな?」

「あの山いつも何かしらの被害に遭ってるな」

「やっぱり、何かしら引き寄せるものがあるのかな……一度調べてみないと。その前に、そろそろ出発しよっか」

「あっ」

 

しゅび、と空良が跳んだ。

軽々とジャンプして吹雪の中を突き進んでいく空良の背中を追う。

 

「そういえば、ノンピュールから精霊は四人だって聞いたんだけど?」

「ノンちゃんが言ってたのは多分、ノンちゃんと同じような精霊の話だと思う! 火と水と風と土! ノンちゃんは水! ……でも、今回みたいに精霊が集まると、大抵は暴走しちゃうの! それを抑えてられるのが、ノンちゃんたち『精霊』ってこと! 紛らわしいよね!」

「つまり、今から倒しに行く吹雪のヤツは?」

「氷の精霊……魔力とか強さだけなら、ノンちゃんと対立するのとほとんど同じこと!」

 

マジか。ノンピュールがどんな強さなのかは具体的にはわからないけど、多分強敵だ。

そもそもとして吹雪を扱うんだから弱いわけがないもんな。

 

「『開拓者の石窟』……」

「開拓者の石窟???」

「あの山には、そういう名前のダンジョンがあるみたいなんだ! 武具結晶? もそこで拾ったしなんならその奥の魔法陣から異世界に行った!」

「異世界に……? 魔法陣は異世界行きだったの? ダンジョンの手前とかじゃなくて?」

「うん。気がつけば雪原にいた。俺は確かに、こっちからダンジョンに入って、そして異世界に行った」

「妙だね……後でそのダンジョンに連れて行ってよ」

「わかった。……っと、見えてきたな」 

 

山全体を囲むように吹雪が渦になっている。

鳥もいなければ虫もいない。足元の草花は凍りついていて、空良の声以外に音は聞こえなかった。

周辺の家に住んでる人は大丈夫なんだろうか。この感じ、凍死しててもおかしくなさそうだ。早くしなければ。

 

「さすがに本拠地だけあって吹雪も強いね。仙くん、体温調節はそれだけで足りてる?」

「俺は大丈夫。空良は……感じないんだったか」

「うん! じゃあ、行くよ! 【ウインド】!」

 

空良がエクスカリオンを取り出し、雪の竜巻を切り裂いた。

切り裂いた場所から竜巻が生まれ、あたりの吹雪を相殺して入り口を作る。

斜面に入れば雪が足をとり、木々にまとわりつくつららが生えては落ち生えては落ち、かなり危ない。

 

空良は【ウインド】で吹雪を払いながら、

 

「こうも吹雪が強いと方向感覚がわからなくなるなぁ……何か指標があれば良いんだけど」

 

と言った。

 

「景色さえちゃんと見えれば俺が山頂に案内できる。俺が先頭で進んでも良いんだが……」

「「きゃおおおお……」」

「そう簡単に行かせてくれなそうだね。やっぱり私が先頭になるよ」

 

俺たちの目の前に、雪だるまのような像が生えてきた。

足下の雪から生まれているようで、明らかに意志を持って動いている。

 

「これは魔物か? 魔物なのか?」

「精霊にカウントしていいんじゃないかな。ちょっとだけ精霊の気配を感じるし……ノンちゃんのリヴァイアサンの、10分の1くらいの強さかな? 【ファイア】【ウインド】、【インフェルノ】ッ!」

 

爆炎の渦巻きが雪像たちを破壊していく。

炎の竜巻が通った後には雪が溶け地面が露出し出来た線が一直線に伸びている。

これなら進んでいる方向もわかる。

 

「きゃおおお」

「まだ出るのかよ!」

「このままやってもジリ貧かも! 囲まれないうちに動こう、仙くん!」

 

先に進む空良を追おうと、俺も足を踏み出した。

が、動かない。

この瞬間に足まで雪が積もってしまったみたいだ。

そうこうしているうちに、雪像がこちらへ向かってくる。

 

「空良! ヘルプ!」

「っ、気づかなかった!」

 

エクスカリオンが一閃。

が、仕留めたのは一匹のみで、死角からもう一体が俺の腕を掴んだ。

もうダメか、と思ったその時。

 

じゅっと音をたて、雪像が溶けた。

 

「!? なんで!?」

「そっか、その腕輪だよ仙くん! その腕輪には【ファイア】がループしてるから!」

「なるほどな!」

 

理解した瞬間にラリアットをもう一匹にかます。

俺の身体は超ホット!

よし、これなら戦える!

 

「これで足元の雪を溶かして……できた! 空良、もう大丈夫だ!」

「おっけー、飛んじゃうよ!」

「へ?」

 

俺の手首を掴み、空良が後ろへ───方角にして山頂の方へ跳躍する。

ただのバックステップでかなりの距離を飛び、雪像を振り切った。

 

「くそ、さっきの合間に道が!」

「大丈夫、魔力はまだ半分も使ってないから! 【ファイア】【ウインド】、【インフェルノ】!」

 

再び空良の魔法が発動。

炎の竜巻が吹雪ごと道を作った。

 

「このまま行けば、山頂まで……」

「精霊のところまで、いけるはず!」

 

これがフラグだったのか、空良の目の前に雪が迫り上がる。

それは巨大な人の形を作り、先ほどの雪像とは比べ物にならないほどのクリーチャーを生み出した。

 

「雪のゴーレムってこと……?」

「空良、後ろにも出てきた!」

「もうすぐでボスってことかな。気を引き締めなきゃ」

 

吹雪の中、水晶の剣が閃き、ゴーレムは真っ二つに切断される。

マントを靡かせ身を翻し、人間離れした動きで空良がもう一体へ向かう。

一刀両断。剣についた雪を払い、空良はふうと白い息を出した。

 

「仙くん、これあげる」

「……? これは?」

「雪の中でこれだけ硬かったから、多分このゴーレムの核か何かだとおもう。最初の一体は横に斬っちゃったから壊しちゃったけど、二体目は縦に斬ったから残ってたよ。人の心臓の位置にあるみたい」

「これをどうすればいいんだ?」

「壊せば良いんじゃない?」

 

グッと力をこめてみる。

…………。

ググッと力を込めて見る。

 

「……空良」

「………………」

 

空良が俺の手を取り、俺の手を無理やり曲げて雪玉を潰した。

 

「いってえ! 痛ッ!? はぁ!? 何やってんの!?!?!?」

「え、えへへ……【ヒール】……」

 

ヒビでも入ったかと思うくらい痛む指が元に戻っていくなか、俺の周囲にファンファーレが響いた。

あ、レベルアップ……。

 

「レベル差ありそうだったしいけないかなぁって……私はもういらないし……?」

「だから俺がトドメを刺す必要があったんだな。指クソ痛いけど」

「ごめんてばぁ……。でも、ここでレベルアップしたのはとってもタイミングがいいかもしれないよ」

 

申し訳なさそうな顔をする空良が吹雪の奥を指さす。

吹雪の奥……つまり、()()()()()()()()()()だ。

おそらくそこに、怒り狂った氷の精霊がいるのだろう。

 

「今度こそ、魔王の力で懐柔して大人しくさせよう」

「斬った方が早い気がするけどなぁ……。まぁ、仙くんがそういうならいいんだけど」

「たまに発想が怖くなるんだよ空良」

「てへ」

 

コツン、とあざとくみせる空良。まるで自分が悪いとは思ってないかのようだ。

まぁ、あの時の記憶?はなかったようだし悪いも何もって感じなんだろうが。

とにかく、空良が精霊の動きを止めて俺が説得する。これで行こう。

 

「そういえば、精霊を殺したらどうなるんだ?」

「殺される前の強さとか魔力の大きさによっていろんな形で精霊が生まれるね。ノンちゃんクラスの魔力と信仰がある精霊なら、一度や二度殺されても一晩で復活するんじゃないかな?」

「つまり、あの世界線のノンピュールはまた復活するのか……良かった」

「世界線?」

「いや、なんでもない」

「……そう? それでね、殺した後に魔力がどっかに行って、どっかでそれが集まって新しい精霊が生まれるの。その『どっか』が一番信仰されていた場所なんだけど」

「なるほどな。殺す方が早いってのはそういうことだったのか」

「うん。デメリットがないわけじゃないんだけど、労力と比べたらねってかんじ。……大丈夫? そろそろ行くよ?」

 

空良が魔法をイメージするために目を閉じた。

やがて空良の周りからボッといくつかの火が生まれ、集まり、竜巻となる。

 

「打てるのはあと数回かな……。魔力の消費が激しいんだよね、これ。【ファイア】【ウインド】……」

 

空良が道を開いたらすぐに突入し魔力を広げる。

大丈夫。イメージトレーニングはできてる。

 

「【インフェルノ】ッ!!!!」

 

俺は走りながら、魔力を拡散するペンダントを取り出した!!

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