校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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 この作品のテーマは"選択"です。




プロローグ

 

 

――サンタクロースをいつまで信じていたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、そんな世間話はどうでもいいからどうか俺の話を聞いてくれないだろうか。

何も全部を全部聞いてくれとまでは言わない。

ちょっと長くなるかもしれないが俺の人生そのものにおいては短い期間の話だ。

そうだ、高校時代の話だ。

輝ける青春、その一コマと言い換えてもいいかもしれない。

もっとも俺にとってそうだったかと言われれば必ずしもそうとは言えない。

 

 

『誰だ?』

 

って訊きたそうな顔していそうだから自己紹介させてもらおう。

名前なんかより重要なのは俺が"異世界人"だという事。

まあ正確には"元"異世界人なんだが。つまり異世界人だった人だ。

 

 

『異世界人? お前正気か?』

 

と言われても困る。

事実として俺は異世界人だったし、正気の沙汰じゃないのは自覚している。

証拠というもんは物証として特別ないが事実を受け入れてもらうしか俺には術がない。

世の中はまだまだ謎が多いって事でいいんじゃないか。

未確認の動植物なんかごまんとある。

何なら俺の事はUMAとかその辺と同列にしてくれて構わない。

構わないから、前提はしっかり整えさせてもらう。

これからする話にも、そういう正気とは思えない出来事が含まれているって事を。

 

――だってそうだろ?

人の高校時代の体験談を長々と聞かされて。

 

 

「はい、普通でしたよね」

 

なんて言われてどう思う?

時間返せよこの野郎。とかなんとか思っちゃうんじゃないか?

少なくとも俺はそう思うね。

高校時代なんて大体みんな同じような経験しかしていないだろう。

入学当初はこれからのあるわけもない色々に期待していた、とか。

高校二年は中だるみでいわゆる暗黒時代だったとか。

三年になると惰性でしか動かなかったとか。

高校生活に向けた特別な情熱思想がない限りは大なり小なりそんなもんだ。

そういうふうに出来ているシステムだ。それが集団生活なのさ。

お前も、もうわかっただろう?

こう言われると集団生活が不満にしか思えないだろうな。

でもそれに対する決定的な回答を俺は持ち合わせちゃいない。

 

 

 

――当り前だ。

テロでも革命でも起こすなりして、不文律を書き換えでもしない限りは現状を受け入れるしかない。

結局のところ、人間はそこにあるもので満足しなければならない。

言うなればそれを出来ない人間が自己満足の為に筆やペンを握り芸術を発展させてきたんだ。

空を飛びたいと思ったからイカロスにもなった。

楽に移動したいと考えたからワープなんてふざけた概念を生み出した。

だけどそれに満足できない人間が発見や発明をして文明や社会を創り上げた。

 

 

『気が付いたわ! ないんだったら自分で作ればいいじゃない!』

 

そうだ。

ちょうど、こんな感じにな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付いた時には既に始まっていた。

何を言っているかわからないと思うが俺も何をされたのかがわからなかった。

よって事の発端とやらについて語る事は出来ない。

だが、思い出せる範囲での話をしようではないか。

俺は異世界人として自覚する前に二回に渡って世界を後にしている。

つまりこれから話していく俺の異世界体験談とは三回目の世界でのお話になる。

 

 

『一回、二回? 何のことだ?』

 

そうだな。俺にもさっぱりだった。

じゃあ最初に"ある女"についてから話していこうじゃないか。

これからするお話には必要不可欠な存在。

"涼宮ハルヒ"について。

 

 

 

――最初に奴と出会ったのがいつだったか?

さあな。憶えていない。

少なくとも小学校に入学する前から俺は奴の顔を知っていた。

これを"幼馴染"と称すかは微妙な所だ。

何故なら顔見知りというぐらいで交流と呼べる交流が特になかった。

ええっと、あの女は確か……鈴宮子だっけ? とかそんな感じだ。

きっと奴も俺の事は何とも思っていなかったに違いない。

有象無象かそんなもんだろう。

とは言え小学校は同じだった。

五、六年の時に同じクラスにもなったな。

だからどうしたという話だ。

で、まさかの中学校も同じだった。

 

 

『市立東中』

 

何の因果か中学三年間も同じクラスだったわけだが一年の頭ごろから涼宮ハルヒの奇行が目立つようになった。

いいや違うな、小学六年の時から兆候はあったんだろう。

彼女の奇妙奇行奇人ぶりについて語っていてはキリがないから割愛させてもらおう。

端的に言えば電波系とやらだ。

それともメンヘラとでも言うのか?

とにかく落ち着かない奴だった。

俺はついぞまともに関わろうとしなかった、が、ただの一度だけ彼女と関わった事がある。

忘れもしない中学一年生。

七月七日の夜の事だ。

 

――ここで俺について少し語ろう。

スポーツ、それもサッカー少年とやらであった。

自分の無才さは自覚していた。だから練習し続ける他ない。

それで大して強くもない東中サッカー部の中ではキャプテンを務めていた。

無意味に走って、無意味にノウハウについて書かれてある本を読んで。

そんな勘違いも長くは続かず部活引退とともに勉強の事しか考えなくなった。

隣町にあるそこそこのレベルの高校へ進学したがおかげさまで勉強について行くのがやっと。

強豪校じゃなかった事もありサッカー部には所属していなかった。

これが本当の引退だろう。趣味レベルでは好きだったが。

と、要するに恋愛なんぞとは無縁だったってわけだ。

涼宮ハルヒがその見てくれからモテていたのは知っていたが俺は女の尻よりもボールを追う方に夢中だった。

どちらを追うにせよ短絡的思考なのは間違いない。

 

 

「……お前、何やってんだ?」

 

夜の学校なんぞに用がある人種を不審者と呼ばずしてなんと呼ぶのか。

たまたまだ。

本当にたまたま俺が中学校の前を通り過ぎようとすると涼宮ハルヒが校門の鉄扉をよじ登ろうとしていた。

何の用件で俺が夜に外出していたかと言えばなんてことはない。

俺のサッカーとは別にあるもう一つの趣味、スニーカー集め。

靴屋を見てきた帰りがてらの出来事であったのだ。

晩御飯を食べてから夜出歩くのは俺にとっては当然だった。

別に夜遊びしているわけでもないし特別特段治安が悪いわけでもないし。

とにかく、そんな中で不審者に声をかけられるのなら俺は一目散に逃げるだろう。

逆に不審者に声をかけようともしない。

だがそいつが見知った顔で、しかも同じクラスの女子だったらどうする?

好奇心というか何と言うかちょっかいを出したくなるもんだろ?

俺だけか。

 

 

「なによ!」

 

囚人の如く鉄と格闘していたそいつが俺に気付くとこちらを睨み付ける。

後ろ姿で察していたが、黄色のリボンカチューシャ。

涼宮だった。

 

 

「いや、お前が何してんのかって事だ。夜の学校に用でもあんのか?」

 

「見てわからないの? 不法侵入しようとしてた」

 

それも察しがつく。

俺はなぜ不法侵入しようとしていたのかを知りたかったんだ。

お前が察する番だろうに。

 

 

「ねえあんた、確か同じクラスだったわね?」

 

「名前すら覚えてねーのかマヌケ。同じクラスどころか同じ小学校だったろ」

 

「どうでもいいから手伝いなさいよ」

 

涼宮がこういうやつだというのは重々承知していた。

日常的に授業中に奇声を上げるような奴だ。

会話が噛み合わない辺り別世界の人間なんだろうなと思えた。

 

 

「何だよ。お前がそこをよじ登るための踏み台にでもなれってのか」

 

「それだけじゃないわ」

 

「……なあ、わかってんだろ? 明日も普通に学校がある。何が楽しいのか知らんが馬鹿な真似はよしてお前も早く家に帰るんだな」

 

そう言って見なかった事にして帰ろう。

こいつだとわかってて声をかけたのが血の迷いだった。

踵を返そうとすると。

 

 

「あんたに襲われたせいで帰りが遅くなった、って証言してもいいのよ?」

 

「……はあ…? てめー正気か? でっちあげだろ」

 

今にも思うが涼宮はマセている。

これでいて恋愛は精神病と言うのが彼女の常套句だ。

そんな涼宮は夜の中学校前でふんぞり返りながら。

 

 

「男子のあんたの言い分をどれだけの人が信用してくれるかしらね」

 

イカれてやがる。

これは後々知る事になるが涼宮ハルヒは腕っぷしもある。

簡単に暴漢に組み伏せられるような女ではないらしい。

詐欺だ。細い体のくせして俺より運動神経がいい。

ふざけんな。

 

 

「……何を手伝えって」

 

「いいからついて来なさい」

 

とまあこんな感じだった。

結論から言うと俺は涼宮の奇行に付き合わされてしまったのだ。

校門の向こう側まで俺がよじ登って行き、鉄扉を開錠――鍵は何故か涼宮が持っていた――。

学校の備品であるラインカーを無断使用してグラウンドに地上絵を書かされた。

何が楽しいのか俺にはわからん。

 

 

「……お前、何かやりたい事とかないのか?」

 

「あたしが夢中になれるような事があるならね」

 

三十分以上は時間を食ってしまった。

放任主義の親とは言え、こっちが気まずくなる。

そんな中で完成した意味不明な絵を見つめながらそいつに訊いた。

結果は今の通りロクな返事ではなかった。

普通じゃないのか、普通じゃないように振る舞う事で何かを呼び寄せようとしているのか。

けっ、しょうがねえな。

 

 

「これはオレの責任で描いた。オレが一人でやった……それでいいな?」

 

「何よあんた。センコーに怒られたい趣味でもあんの?」

 

こっちの台詞だ。

どの道俺に責任があるのは事実じゃないか。

 

 

「お前が少しでもまともな人間になる事を祈っておくよ。それじゃあな」

 

また明日、とも言わずに俺は学校を後にした。

次の日、当り前だが学校中が大騒ぎになったさ。

俺が登校した時既に学校内は物々しい雰囲気になっていた。

ホームルームもせず直ぐに緊急の全校集会が行われたんだから大事件としか形容出来ない。

ともすれば警察沙汰になりかけたが、教室に戻るや否や涼宮が自分から。

 

 

「あたしが、やりました」

 

と言った。

最初に自分だと言い出さなかった俺にも責任がある。

が。

 

 

「……悪かったわね」

 

付け加えるように吐き捨てたその一言で俺は動けなくなった。

笑いたきゃ笑ってくれて構わん。

まさにその瞬間、涼宮ハルヒは俺を見ていたんだからな。

呆れた事に。

最終的に涼宮の厳重処分でこの件は片付いてしまったがその後も彼女は好き放題学校を賑わせた。

トラブルメーカー。ただし後天性のものだが。

とにかくこれだけだ。

何事もなく中学卒業を迎える事になる。

俺は隣町の某校、涼宮は光陽園学院。

方向も違うし住んでいる家も奴とは特別近くもない。

もう会う事もないんだろう。

最後のホームルームが終り、部活の後輩に挨拶でもしようと思って教室を後にした。

廊下を進んでいく。

すると後ろから「待ちなさい」と声をかけられた。

どうやら俺を呼んだらしい。

後ろを振り向くと相手は涼宮ハルヒだった。

 

 

「……どうした」

 

「あの時の事よ。ほら、もう三年も前だけど七夕の……感謝の言葉がまだだったわね、手伝ってくれてありがと」

 

何を言ってるんだかな。

感謝はいいから、何故あんな事をしたのかが俺は知りたいね。

教職員に長時間問い詰められても口を割らなかったんだからなこいつは。

 

 

「あんたもどうせ普通の人間でしょ。言っても無駄よ」

 

「そうかい。サッカーの天才じゃあないのだけは確かだろうな」

 

「……あんたの名前、何て読むの?」

 

憶えてなかったのかよ。

こいつらしいのか何なのか。

中学三年間を通して涼宮ハルヒについて理解出来た事がある。

それは、こいつが常に退屈しているって事だった。

よく言う夢を見れない若者ってヤツなのかね。

この場合の夢ってのは現実的な話だ。

地に足つかないにせよまさか宇宙人未来人超能力者だの何だのやらオカルトミステリ世界の住人と遭遇したい、なんて話ではない。

スポーツで飯を食えるようになりたいとか、そのくらいが達成し得る夢なんじゃないか?

俺はそう思ってた。

だが涼宮は違った。

 

 

「ふーん。あんたがもし、普通じゃなかったらいつか会うかもしれないわね」

 

「どういう事だか」

 

「じゃあね。……あんたの事、好きじゃないけど嫌いじゃなかったわ」

 

たかだか一回まともにやりとりしたぐらいで何を言ってるんだか。

三年前の七夕の時よりすっかり長くなっていた彼女の後ろ髪がやけに印象的だった。

これが多分、最後だ。

一回目の世界で俺が涼宮ハルヒと会話したのは。

 

 

 

――で、本当の最後とやらについてはここからだ。

気が付けば俺の存在が消えていた。

高校一年の十二月のいつだったのか。

寝ていたので意識はなかったはずだ。

しかし恐らくだが全世界の人々が最後にはそれを察知出来ただろう。

本能的に、多分、世界が終わったのだと。きっと俺だけじゃない。

一瞬にして自分の肉体がすり潰され粉のようになって消えていく。

いいや何もかもがきっとそうなった。

痛みにのた打ち回る暇すらなく。

本当に何の前触れもなくやってきて、俺は死んだ。

の、だろうか。わからない。

気が付けば二回目が始まっていた。

ま、すぐにそれは終わったが。

 

 

「――ん何だ」

 

見知らぬ場所――何処かの建物の中――で、前のめりになっていく俺。

身体の制御はきかない。

そして目の前には階段。

つまり、ぶつかって、転げ落ちていった。

頭に強い衝撃を覚えたと思うと俺の意識は再び世界から消えた。

後になってからわかった事だが。

これが二回目。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何が何だかわからない。

俺はいつの間にかどこかの学校の教室で倒れていたらしい。

夢、だったのか?  頭がズキズキする。

もしかしたらこれからする話も全て、俺のトチ狂った末の虚構だったのかもしれない、が。

とりあえず身体を起こす。視界には机と椅子が何脚もある。

間違いなく教室と呼ばれるに相応しい場所だろう。

 

 

「――驚いたわ」

 

何やら女の声がした。窓の方からだ。

その方を向くと、そこには青いロングヘアの女子生徒が。

彼女のセーラー服から見るに、ここは俺が通っている高校じゃないようだが。

とにかく彼女は他校生だ。

俺が通っている高校指定制服は男女共通で青のブレザーだった。

 

 

「まさか……ね…。仕留めたと思ったらこれか……」

 

じろじろとこちらを見つめる知らない女子生徒。

外の陽射しから、今が夕方だという事が把握できた。

いや、そんな事より。

 

 

「……ここは?」

 

「教室」

 

見りゃわかる。

もっと具体的に頼む。

 

 

「――県立北高校よ」

 

「北高校……? それって、"北高"の事か。総合選抜で入学者を募ってるあの」

 

「ええ」

 

もっというと女子がセーラー服で男子がブレザーという謎制度の高校。

何だって俺はそんな所で倒れていたんだ。

 

 

「さあ。私が訊きたいぐらいよ」

 

「……そうかい」

 

この学校の生徒が教室に居る事は不思議ではない。

部活帰りか、忘れ物でも取りに来たのか。

いずれにせよ倒れている俺を彼女が発見したのだと言う。

 

 

「君の名前は?」

 

「朝倉涼子……あなた私と同じクラスじゃない。私の名前を憶えてないなんて、酷いな」

 

「……何だと」

 

何を言っているんだ。

同じクラスも何もあるか。

俺は北高生じゃないぞ。

くすくすっとその女は笑ってから。

 

 

「あなたが着ている制服、うちのよ?」

 

自分の服装を確認する。

絶句した。

ブレザーはブレザーでも色が違う。緑だ。

目がおかしくなっちまったのか。

ボタンのデザインさえ違うから別の制服を着ていると考えるのが正しいんだろうさ。

どういうこった。

 

 

「疲れてて寝ぼけちゃったのかしら? 学校が楽しいのはわかるけど、羽目を外しすぎちゃ駄目よ。教室で寝るなんて」

 

「悪いがオレも何がなんだか」

 

状況整理のしようがない。

死んだんじゃなかったのか。

何故俺が北高なんぞに居るのかは不明だ。

自宅は市内だから難なく帰宅出来るが。

 

 

「そういう事だから。ふふっ。また明日ね」

 

そう言って朝倉涼子と名乗った女子生徒は教室を後にした。

自分の立場さえわからぬ俺を残して。

何にせよ黙ってここで時間の経過を待ってもしょうがなかった。

教室の中、窓から見られる風景。

どれをとっても俺が知らない場所なのは確かだ。

理解できない事を理解してから教室を出た俺。

さてお帰りはどちらか、と思っていたら。

 

 

「……」

 

廊下に出ると俺をじっと見つめる女子生徒その二が。

今度はボブカットのショートバージョン。

髪の色も紫で、眼鏡をかけている。

 

 

「オレに何か?」

 

「……」

 

ってだんまりか。

どこでも居るよな、こういう奴。

男子だろうが女子だろうがザ・根暗ちゃんだ。

閉鎖的な思考で何が楽しいんだか。

自分の見てくれまで閉鎖的にしてどうすんだかな。

こちらも黙って通り過ぎようとしたら。

 

 

「また明日」

 

この女子もそう言った。

まるで当然だと言わんばかりに。

 

 

「はぁ……」

 

と俺は溜息をついて足元を見る。

今度は呆れてしまったね。

おいおい、女子にじろじろ見られてたのはこのせいか?

俺、土足のままじゃないか。

校舎の床に対して申し訳ない事をしてしまったようだ。

さっさとここを出よう。

自宅までは何とか帰れる。

県道に出ちまえばこっちのもんだからな。

北海道とか沖縄じゃなくて俺の住んでいる町でよかった。

 

 

――つかみはこんなもんで充分か?

さて、じゃあ始めるとしよう。

俺が体験した不思議な日々についての話を。

 

 

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