校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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第十話

 

 

つつがなく土曜日を消化して、あっという間に試合当日こと日曜日。

雨天中止になるようなデカい雨もこれといって降らず、本日は晴天である。

午前八時といった朝も早々に試合を行う市営グラウンドで現地集合。

出場チームはけっこう多く、一回戦に限り五イニングで終了。

それでも一日で終わるわけがないので準決勝決勝を来週日曜日にまたぐという草野球にしては大がかりであった。

こうなってくると面倒だ。

しかも学校のジャージでグラウンドにやってきてるのは俺たちのチームだけである。

SOS団が野球のユニフォームなんか持っているわけがないし急を要して用意する必要もない。

普段やらないんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が仕方なく呼んだ谷口と国木田なのだが、なんと彼らの連絡先は俺の携帯に登録済であった。

言うまでもないと思うが俺にはあの二人など知りたくもなんでもないので俺の仕業ではない。

きっと"キョン"と呼ばれていた野郎から引き継いだのかなんなのか、だ。

そういった経緯で俺は二人を呼び寄せることができたのだが二人がいても透明ランナーと大差ない。

全員野球もなにも全員素人なのである。

これに対しそもそもこの大会自体が割りとマジメな部類の大会らしい。

つまり必然的にマジメな連中が相手になってしまう。

俺たちとは何もかもが段違いだ。

 

 

「とわっはははは! ……いやぁごめんごめん。キミがキョンくんかいっ?」

 

観客席の陰で全員の顔合わせとなったのだが一人の女子生徒が俺の顔を見るなり笑ってそう言った。

身長は涼宮と同じか少し高いぐらいで緑のとても長いロングヘア。

やたらテンションも高めな彼女は朝比奈の同級生で名を鶴屋というらしい。

とにかく楽しそうだ。

きっとわいわいやるのが好きな人種なのだろう。

悪いことではない。

 

 

「なんか知らんが確かにオレは"キョン"って呼ばれてますぜ」

 

「ふむふむ、ほうほう……みくるから聞いてる通りの感じだねーっ」

 

なにをどう吹き込まれたのだろうか俺は。

朝比奈もいらぬことは口に出されたくないのかわたわたしている。

すると俺の前に割って入るように。

 

 

「谷口です! いやぁ、俺はダチのキョンがどうしてもって言うんで来たんですよ」

 

「僕は国木田です。谷口の言ってる事は気にしなくて結構ですから……」

 

と野郎二人が二年生女子二人組と談笑を始めた。

好きにやってろ。

それよりスタメンはどうなっている。

愚妹とおしゃべりしている涼宮を捕まえようとすると。

 

 

「おはよう、キョンくん」

 

突き刺さるかのような女子の声。

クラスの委員長で宇宙人らしい朝倉涼子。

殺人犯らしい。

 

 

「……話なら後にしてくれないか」

 

「べつにいいけど私はあなたがヒマそうだから話かけてあげたのよ?」

 

「緊張は最高のパフォーマンスの助けになる。が、特別必要だってわけでもない。暇で結構だ」

 

「つれないなあ」

 

「お前が今日のMVPにでもなったら今後の対応改善を検討してやらんでもない」

 

「ふーん。わかったわ。じゃ、私キョンくんのために頑張っちゃおうかな」

 

とてもありがたい発言なのだが格好からして微妙なところだ。

おそらくこの中で一番ジャージ姿が似合ってないのが朝倉だろう。

はっきり言うと、ださい。

 

 

「ふふふっ。楽しみにしててね」

 

朝倉涼子は少し離れたところで俺たちを見つめていた長門の方に行った。

監視係とやらはどこにいるのだろうか。

この球場のどこかにはいると思うが。

で、最後は古泉だった。

 

 

「紹介しておきましょう。こちらが今回お呼びしました僕の知人のお方です」

 

そう言って古泉が商品でも紹介するかのようにジャーンと両手をかざした先には眼鏡のノッポ。

長身の古泉よりもさらに身長が高く、ジャージの色が赤いところから二年生なのが窺えた。

知人も何も北高生ではないか。

どういった古泉とのつながりなんだろうか。

彼は重々しく口を開き。

 

 

「私の事は"助っ人"とでも呼びたまえ。名前は不要だ。キミたちと慣れ合うつもりはない」

 

「ありがたいね。ありがたついでに結果を出してくれると更にありがたいんだが。お前さんは野球経験者だって?」

 

「いかにも。……ところでキミは年上への礼儀作法が欠如しているように見受けられるのだが」

 

「伊達眼鏡の度数が合ってないんじゃあないですかね」

 

「……ふむ」

 

助っ人一号氏はこれ以上俺を相手にしたくないのか黙りこくってしまう。

この時の俺はまさか本当に彼の眼鏡が伊達だとは思っていなかった。

と、まあそんなこんなで全員が全員と面識を持ったわけだ。

後々振り返るに、この時のメンバは奇跡がかっていた。

よくも野球――というか共同作業――がやれたもんだと関心するね。

 

 

「キョン」

 

観客席にあがってぼけーっとしているとようやく涼宮が俺に声をかけた。

ジャージ姿じゃなくて体操服姿を見たいもんだね。

学校の体育授業中にジロジロ見るのも気が引けるからだ。

愚妹はすっかり女子メンバに打ち解けており、あいつと俺とのコミュ力の差を少し感じた。

ほんの少しだけだ。

 

 

「まさか妹ちゃんを試合に出すつもりじゃないでしょうね?」

 

「なわけあるか。あいつが勝手について来ただけだ。妹抜きにしても一人余るし補欠と一緒に応援させとけ」

 

プリキュアも見ずについてくる愚妹であったが【splash star】はそこそこの面白さだ。

残念なことにキャラが可愛くないので俺は前作ほど熱心に見ていないが。

やはりほのかちゃんが最高なんだなこれが。

 

 

「で、その補欠だが、出来れば俺がいいんだが」

 

と言ったところでこいつの耳に届くはずもないから言わずに黙っていた。

SOS団団員のスタメン入りが強制的である以上は必然的に他の奴になる。

実力――あと人間性も――から言って。

 

 

「じゃ補欠は馬鹿の谷口でいいでしょ。10点差ぐらいついたらあいつに交代させてやるわよ」

 

「……妥当だな。で肝心の打順と守備位置は決まっているのか?」

 

野球盤じゃないので決める必要があるだろう。

その決定方法であったが涼宮の独断ではなく一応フェアであった。

アミダくじである。

 

 

「お前、本当に【マサルさん】読んでないのか……?」

 

「あんたが言うまで聞いたこともなかったわよそんな漫画。面白いの?」

 

「抱腹絶倒しない奴が居たらオレのところに来てほしい」

 

たしかあの漫画ではトントン相撲で打順を決めていた。

要するにそれぐらいこいつもいい加減な奴だということだ。

これも涼宮の萌えポイントなんだろうか。

しっかりしてる時の方が圧倒的に多いからなんとも言えない。

そういえば大会運営のおっさんによるルール説明によると十点差でコールド負けがつく。

つまり谷口の出番はないということにある。

 

 

「俺の事は気にすんなって。お前が今日俺を呼んでくれて感謝してもしきれねえよ」

 

鼻の下をのばしながらそう言った馬鹿。

女子と親睦を深められて得意げな気分になるのはいいが間違っても俺の妹に手を出すなよ。

蹴り殺すからな。

 

 

「おいおい、悪いが俺はあんなちんちくりんに興味はねえぜ? 小学生だろ?」

 

「じゃあ発達がよければどうなんだよ」

 

「そいつのレベルによるな」

 

「犯罪だろうが」

 

「ノンノンノンノン。いいかキョンよ、後学のために教えといてやるぜ。バレなきゃ犯罪じゃねえ」

 

世の為人の為にこいつを始末しておくべきかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム名、SOS団。

スターティングメンバー。

一番/ピッチャー/涼宮ハルヒ。

二番/センター/眼鏡ノッポの助っ人。

三番/レフト/朝倉涼子。

四番/セカンド/俺。

五番/ショート/長門有希。

六番/キャッチャー/古泉一樹。

七番/ライト/朝比奈みくる。

八番/ファースト/国木田。

九番/サード/鶴屋。

補欠/谷口。

応援/愚妹。

 

 

「選手集合!」

 

審判のおっさんからの呼び出しによりグラウンドに整列する俺たちとその向かいに敵チーム。

その敵チームだが九回目の本大会において過去三年連続で優勝した経歴のある連中。

大学生野球のチームだそうだ。

要約すると俺たちは考えられる最強の相手と対戦することになり、初戦敗退濃厚もいいとこだった。

相手の主将が涼宮と握手をして、それから一礼。

両チームともに手早く準備――俺たちにすることなどない――が完了してからプレイボール。

さて、ここいらで結論を先に述べておこう。

我がチームSOS団は相手チームこと上ヶ原パイレーツを下した。

なかなかの白熱した試合であったもののこちらはインチキ満載。

バレなきゃイカサマじゃないというのを地で行く形である。

一部始終を長々と語りたくはないのでなるべく簡潔に試合内容をお伝えしよう。

 

――先攻は俺たち、一回表。

白ヘルメットを被り不敵な笑みを浮かべてバッターボックスに立つ涼宮。

間違いなく相手は俺たちを舐め腐っていた。

ワインドアップモーションから放たれた投球は素人ならまず打てなかっただろう。

しかしながら本気の球ではなかった。

その結果。

カキン、と初球で金属バットから音が聞こえることになった。

スタスタと駆けていく涼宮。

打球はフェンス越えこそならなかったものの捕球できないほどの飛距離。

やはり俺たちというか涼宮を舐めていた。

見事な二塁打であった。

 

 

「ヘイヘイヘイ! 三年連続のディフェンディングチャンピオンの割りに大した事ないわね! ピッチャービビってるぅ!」

 

この余計な一言がなければ、だが。

明らかにピッチャーの目の色が変わった。

マウンドから発せられる威圧感があった。

しかしそんなものどこ吹く風で次に登場したのは古泉が呼び寄せた助っ人。

コンタクトを装着したとは思えないが眼鏡を外している。

大丈夫なのだろうか。

すぐに恐ろしく早い直球がミットに突き刺さる。

見逃してワンストライク。

 

 

「……なるほど」

 

本当にそう呟いたのかは知らないが続く二球目。

キン、と一閃。

なにかに持ってかれたとしか思えない速度で白球はスタンド越え。

ホームランだった。

あっさりと涼宮と助っ人がホームインしてベンチに戻ってくる。

テンションが上がった涼宮はノッポ野郎の腰をバンバン叩いて。

 

 

「誰だか知んないけどあんたすごいじゃないの!」

 

「お安い御用だ。……私としてはピッチャー返しと洒落込みたかったのだがね」

 

後に北高の生徒会長となる野郎に対して涼宮がいい反応を見せていたのはこの日が最初で最後であった。

なんやかんやで二点を先取した俺たち。

上ヶ原パイレーツの連中も面食らっている。

だが悪夢はまだ続いた。

三番、朝倉涼子。

 

 

「……ふふっ」

 

涼宮ほどじゃないが運動神経がいいのは知っていた。

とはいえあまり期待していなかったのが正直なところだ。

眼鏡ノッポの衝撃が強すぎたのか朝倉がそこまで恐ろしい存在には見えなかったのが本音だ。

その結果、打球が再び宙を舞う。

三連続なのでそろそろ驚きもしなかった。

フォークなのかスプリットなのか素人の俺にはわからなかったが確かに変化球だった。

それをいともたやすくすくい上げて弾き飛ばす。

音を置き去りにしていた。

 

 

「みんなすごーい」

 

きゃっきゃと騒ぐ愚妹。

いや騒がしいのは妹だけではなく早くも余裕のムードがこちらのベンチを包んでいた。

あちらはどうなっているのだろう。

声といった声が聞こえてこないのは確かだった。

ホームインした朝倉が笑顔で俺に声をかける。

 

 

「どうだったかしら?」

 

「オレにもコツを教えてくれないか」

 

「私を褒めてくれないの?」

 

「お前が凄いって事だけは認めてやるよ」

 

そして俺の出番。

四番の割りに大した事なかったとだけ述べておこう。

俺の野球経験など遊びでやったキックベースボールが一回。

あとは中学の授業でやった低レベルな野球が二、三回程度である。

素人の俺が変化球どころか経験者の速球を打てるわけがないだろう。

秒でスリーアウトだ。

スポーツバンドで眼鏡をくくりつけている長門に後を託す。

俺の分までなんとやら。

 

 

「長門。朝倉みたいにやっちゃっていいからな」

 

「……」

 

俺から受け取ったバットを引きずりながら打席に立つ長門。

ようやく構えたが強風でも吹いたら倒れそうな感じだ。

流石に宇宙人といえどあいつに朝倉ほどは無理だろう。

塁に出てくれればもう一点ぐらいのチャンスはあるんだがな。

と野球というスポーツをどこか勘違いしつつある俺。

そして期待通りに長門はやってくれた。

グイっとバットに長門が引っ張られるようにスイング。

神主打法。

でも軌道が明らかに異常だ。

そんなふざけたスイングで当たってしまった上にボールは再び場外へ。

ソロホームランのバーゲンセールだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古泉は鮮やかに千本ノックに勤しんでいたくせにバットにもかすらずスリーアウト。

続く朝比奈みくるはお察し状態でありここでようやく一回表が終了。

 

 

「実を言いますと、僕は打つ方がからっきしでして」

 

などと釈明していた古泉一樹。

個人プレーの寄せ集めみたいな集団の俺たちが四点先取する方がおかしいだけなのだ。

もっとも古泉が投手としては一流らしい、ということを知るのはここから約一年後の話である。

 

――相手からすれば信じられないことに接戦であった。

ピッチャーの涼宮が放つ直球も素人とは思えない速度だ。

しかしながら相手の投手より涼宮が上かといえば別問題だろう。

おそらく涼宮が真面目に野球少女として人生を歩んでいたのであれば完封さえ可能だ。

それくらいあいつは凄い奴だ。天才だ。

天才が才能を伸ばさなければ凡才に負けるのは至極当然であった。

こちらの防御など【トムとジェリー】に出てくるチーズぐらい穴だらけだ。

ライトに飛ぼうものなら朝比奈が対応できるはずもない。

だが外野を赤い彗星のごとく駆け抜ける眼鏡ノッポの脅威的な守備範囲に助けられこちらも回を終えることが出来た。

短い点差をつけたりつけ返したり。

そんなやり取りが二回三回四回と続き最終回の五回表。

スコアボードには馬鹿げた数字が刻まれている。

15-16。

一点差で負けている。

ツーアウトで迎える三番朝倉の打席。

とりあえずここは同点になる。

次をどうにか抑えたとして延長戦はないだろう。

もしかして同点で終わってしまった場合はジャンケンなのか。

ベンチで座る古泉に確認するかのように俺は言う。

 

 

「そんな幕切れで涼宮は納得するのか?」

 

「するわけありませんね。審判に殴りかかってでも六回表を要求するでしょう」

 

「現実は非常だぜ。無理に決まってる。涼宮はイライラするだろうさ」

 

「僕の仕事が増えるだけで済めば安いものですが……」

 

先月の無人校舎がまたもフラッシュバックする。

どうせデートするなら明るいところがいい。

楽しそうなところがいい。

 

 

「どうにかしろ」

 

「簡単な話ですよ。17点以上こちらが獲得すればよいのですから。つまりあなたがアウトにならず、かつ誰かが得点に繋げなければなりません。その役目はあなたでも構いませんが」

 

「……それこそ無理に決まってる」

 

奇跡が起きてフライだ。

俺はその程度の人間でしかない。

超能力者じゃないんだぞ。

 

 

「おや」

 

古泉がそう言うと、もう何度聞いたかわからぬ金属バットの音が耳に入る。

朝倉が打ったんだろう。

16-16。

 

 

「流石は朝倉涼子。僕なんかとは比べ物になりませんね」

 

「……行ってくるぜ」

 

「健闘を祈りますよ」

 

無駄な健闘に終わっちまうだろう。

いや、そもそも次の回を無失点で抑えられる可能性の方が低い。

涼宮も多少は疲労している。

一方のあちらは人員に苦労していない。

もともと九回を想定して練習している強豪チームだ。

素人集団にしてはかなり喰いついた方だ。

潮時なのさ。

 

 

「元気ないわね。大丈夫?」

 

大丈夫に見えるならお前は地球人の感性がわからん宇宙人なんだろうさ。

俺に訊ねた朝倉はどこか楽しげであった。

こっちのベンチは悪い方で騒がしいんだからな。

俺への無理な要求――主に涼宮と谷口の馬鹿声援――が飛んできやがる。

すると朝倉は金属バットを指さして。

 

 

「今まで黙ってたけど、それ、実は魔法のバットなのよ」

 

「……はあ?」

 

「だから私も長門さんも打てたってわけね」

 

なにを言っているのかさっぱりだった。

すぐにわかった。

相手の投球に対しバットが勝手に反応した。

クロえもんも真っ青なミート。

この日、俺による最初で最後のホームランであった。

ポンコツ四番打者が覚醒してくれた。

俺は一瞬にして一瞬だけヒーローになったのだ。

ダイヤモンドを一周するなんてまさか俺の人生であるとは思わなかったね。

続く長門は見逃し三振。

一点だけリードして終わった。

魔法のバットはもう打ち止めなのか。

どうせなら徹底的に叩いてほしかったんだがね。

 

 

 

――で、五回裏。

いよいよ大詰めを迎えることに。

相手の上ヶ原パイレーツも気合が入っている。

野太い掛け声を上げて士気を高めているのだ。

ピクニック気分のこちらとは大違いじゃないか。

 

 

「ここでサヨナラ負けどころか引き分けも許されないとはな」

 

「困ったものですね」

 

ベンチ前で棒立ちになりなが敵チームを眺める俺と古泉。

気休め程度にレフトを朝比奈さんと谷口に交代してもらったが守備力の強化にはならない。

引き分けるくらいならいっそサヨナラ負けの方がいいな。

よくやったんだから納得するだろ涼宮も。

 

 

「あなたはそれでいいんでしょうか」

 

「良し悪しの問題かよ」

 

「試合に勝つのが涼宮さんを納得させる一番の方法ですよ」

 

「簡単に言うな」

 

「……そこで僕から一つ提案があります」

 

守備位置変更。

ショート長門とキャッチャー古泉が役割を交代。

更に涼宮にマウンドを降りてもらい俺がリリーフとなった。

当然彼女は反応したさ。

こっちの独断でやったからな。

 

 

「はあっ!? あたしの代わりにあんたが投げるっての?」

 

「まあな」

 

「経験あんの?」

 

「オレは中学時代に和製"ベッケンバウアー"と称された事もある男だ」

 

「それってサッカー選手の名前でしょうが!」

 

とにかくここは俺に任せて先に休んでおけ。

お前の方に球なんか飛ばないだろうぜ。

かくして俺がクローザーとなってしまった。

その作戦はいたってシンプルなもので球にインチキをしようというもの。

長門ら宇宙人のテクノロジーとやらで運動を操作する。

バットも同じ理屈らしい。

とにかく微妙な速度の俺のボールがミットに刺さり続けたのは宇宙人二人のおかげだった。

【ドラベース】のWボールぐらい理不尽な魔球が俺の手元から放たれる。

空中で一時停止などザラだ。

あっと言う間に奪三振。

 

 

「…せ、整列」

 

目を何度もこすりながらジャッジをしていた主審が力なく指示する。

まさかまさかの俺の活躍に湧く――長門とノッポの眼鏡二人をのぞく――チームSOS団。

割愛していたが、鶴屋さんは一度だけ出塁していたし国木田も防御で貢献してくれた。

あー、うん。

チームプレーだチームプレー。

この世の終わりを体験してきたかのような上ヶ原パイレーツ。

主審によるゲーム(終了)が宣言された後、とうとう連中は泣き崩れた。

優勝候補がこんなヘンテコ連中に轟沈するとは夢にも思ってなかっただろう。

結果だけで言えばいい勝負でもなんでもなかったんだからな。

 

 

「さて、どうするよ」

 

甲子園まで乗り込む勢いて高らかに全国制覇をうたう涼宮。

笑う朝比奈と鶴屋と妹と谷口。

微笑の朝倉と国木田。

蚊帳の外で会議する俺と古泉と眼鏡二人。

 

 

「どうもこうもないでしょう。我々が試合に出る限りは勝たなくてはなりません」

 

「……付き合ってられんな」

 

ノッポの助っ人がそう言ってきびすを返しはじめた。

もしかして帰るつもりなのか。

 

 

「私の仕事はここまでだ。後は好きに続けるといい」

 

「お疲れ様でした」

 

「古泉。次にくだらない用件で私を呼び出した日には"見返り"を上乗せしてもらう事になると言っておこう」

 

「今後ともよろしくお願いします」

 

「ふん」

 

なにやらこいつとあの人はビジネスライクな関係だったらしい。

これで俺たちは戦力ダウンしてしまった。

しかし古泉は気持ち悪い笑顔を浮かべている。

 

 

「ここで終わるのが丁度いい、とでもお前さんは言いたいのか?」

 

「むしろこれ以上の試合は僕たちには不可能でしょう。互いに死力を尽くした接戦でしたから」

 

「……オレがあいつに棄権しようと言ってきてやる」

 

「度々すみませんね」

 

いいさ。

俺が"好き"でやってるんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合に勝って勝負に勝った。

にも関わらず俺たちは棄権した。

つまり記録としては負けと大差ない。

ゴネる涼宮を説得するのは一苦労かと思われたがそうでもなかった。

二、三小言を言い合ったあと。

 

 

「……しょうがないわね。あんたはそれでいいんでしょ?」

 

「ああ。オレたちより野球が好きな人が優勝した方がいいからな」

 

「ばっかみたい。……あたしも…」

 

ごにょごにょ何か言ってたみたいだがそこから先は詳しく聞こえなかった。

棄権するので二回戦辞退の旨を上ヶ原パイレーツの監督に伝えると更に泣かれた。

この人たちの涙腺はどうなっているのだろうか。

俺はあそこまで泣きに泣いたことなどない。

ああいうカタチの青春もあるということだ。

俺たちは俺たちで楽しめたんだからそれでいい。

ただ、俺の意見を涼宮に通した分、打ち上げで行ったファミレスで奢らされたのはまったく楽しめなかった。

 

 

「今日はあたしの財布がバンバン出してくれるからジャンジャン頼みなさい!」

 

俺は財布としてこの世界に呼ばれたのか。

小銭さえすっかり失せてしまい、気がつけば所持金より財布そのものの方が高いという状況だ。

一万ちょっとしたからな、これでも。

しょうがない女だ。

ちなみに谷口の分は奢らなかった。

 

――そして翌週。

野球大会から数日経過した某日。

放課後の文芸部室での事だ。

 

 

「涼宮さんは最初から優勝などどうでもよかったのです」

 

俺とのリバーシ対決に本日四連敗中の古泉がハンサム顔でそう言った。

こんな会話が出てくるあたり、当の涼宮はまだ来ていない。

朝比奈はナースからメイド女子――夏服版らしい――に戻っており、長門は今日も今日とて奥で読書。

 

 

「なんでそんな事がお前さんにわかるんだ?」

 

「確信を持てたのは当日になってからの事でしたがね。僕たちの所詮対戦相手の上ヶ原パイレーツは間違いなくあの大会における最強の存在でした」

 

要するに涼宮が優勝を願えばそんな連中とは間違っても一回戦で当たらない。

決勝戦をいきなりやるようなもんだったのさ。

 

 

「身体を動かすのは健康的な事ですからね」

 

「ボードゲームしてるオレたちが言っても説得力ねえぜ」

 

「たまにならいいと思いますよ」

 

そうだ。

あいつが関係する以上は勝利以外許されないらしいんだからな。

つくづくしょうがない女だ。

惚れた弱みというものだろう。

 

 

「サッカーなら大歓迎なんだが――」

 

「――はいはいみんな! 早速だけど注目!」

 

ドアを蹴り破ったのかのような音とともに遅れて登場した涼宮。

手には二枚のチラシが握られている。

おいおい、また大会に出るつもりなのか。

 

 

「やるならバレーとアメフトどっちがいいかしら?」

 

何故サッカーじゃないんだ。

 

 

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