校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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第四十三話

 

 

俺の家への移動は一時的なものであり、今後をどうするのかというところを朝比奈と相談した。

だいたい八日間って期間設定の理由もこちとら不明なのだ。こういうのはこういう人に任せるのが一番だろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、ハルヒ、朝比奈本人に頼るのがNGだとして関係者で朝比奈を預かってくれそうなのは古泉と長門ぐらいだ。

未だに怪しさ全開の『機関』に頼るよりは分譲マンションの一室に居てもらった方が何かと都合がよかろう。

それに先ほど助け舟を出してくれた長門ならばこちらの状況をある程度察しているに違いない。

というわけで団活が終了する時間ぐらいまで俺の部屋でやや気まずい空気を味わいながら――なんていうか朝比奈も美少女なわけで――間違ってもハルヒには見つからないように俺たちは長門のマンションへと移動した。

エントランスまで辿り着くと早速インターホンのボタンをプッシュする。確か長門は708号室だ。

呼び出しがかかるなり迅速な応答を長門は見せてくれたようで。

 

 

『……』

 

「長門よ、オレと朝比奈なんだが」

 

『……入って』

 

ごく僅かな会話だけでインターホンは途切れ、マンションの自動ドアがゆっくりと開いていく。

一階で停止してくれていたエレベータに二人して乗り込むと目的階である七階を押して扉が閉まる。

度々思うのだがここのエレベータは欠陥製品かと思うぐらいに駆動が緩慢であり上昇スピードがのろのろしている。

気が違っても毎日こんなもんのお世話にはなりたくない。長門はこの移動手段が非効率的だな、とか思わないのだろうか。

7階は少々きついが5階ぐらいならば階段を使った方が早そうだな、とか考えているうちにエレベータは停止し扉が開く。

すたすたと廊下を突き進むと708号室に到着。ドアホンを押す。

 

 

「上がって」

 

まるで長門はドア前でスタンバってたのではないかというほど施錠は速やかに外されてゆるやかにドアは開けられていった。

学校帰りだというのに部屋着にもならず、いぜんセーラ服のままな眼鏡娘がひょっこりドアの隙間から顔を出す。

朝比奈はそわそわしながら長門に向かって。

 

 

「ゆ……あ、な、長門さん。その、あたしのことは」

 

「わかっている。朝比奈みくる」

 

「……そうですか。わざわざすみませんね」

 

「問題ない」

 

ちょっと俺には会話の主題が掴めなかったのだがとにかく長門は門前払いはしていないようで、とりあえずお邪魔することにした。

長門の部屋にやってきたのはイブの時にSOS団で上り込んで以来だ。その時わかったことだがこっちの長門の部屋とあっちの長門の部屋とでは生活感に少し差がある。

あっちの普通の文学少女長門がリビングにテレビや観葉植物を置いていたのに対してこちらは何もない。

 

 

「お邪魔するぜ」

 

「……」

 

掛け布団の無いコタツぐらいしか置かれていないリビングへ俺と朝比奈を通すと長門は早速お茶を用意しにいった。

今時来客にお茶を出す女子高生など珍しいだろうに。コタツテーブルの一面にそれぞれ俺と朝比奈がしゃがむとしばらくして長門が湯呑と急須をお盆に乗せてやってきた。

コトリと湯飲みを二つテーブルに置き、急須からお茶を湯飲みに注ぐ長門。ようやく行為が完了して、長門も俺の対面に座ると話が始まった。

 

 

「お前はこの朝比奈が未来から……いや、この時代にいる朝比奈よりも先の未来から来た朝比奈だってことは知っているんだよな?」

 

長門はゆっくり頷いた。

 

 

「八日間オレが彼女の面倒を見なきゃあならない理由はなんだ? お前なら何かわかってると思ってよ」

 

「わたしにもわからない」

 

「だったらどうして部室でオレたちを逃がしてくれたんだ」

 

「あなたたちに配慮した」

 

合理的な試算に基づいた結果なのかは不明だが、とにかく長門の配慮はありがたいものであった。

なんでも長門は本来、未来や過去の自分と記憶を共有できる――この能力があったからエンドレスサマーでも宇宙人はループの事実を知り得ていた――のだが、現在の彼女はその機能を封印しているそうだ。

彼女曰く自分の意思に基づいて行動したいんだそうな。

 

 

「いいことだな」

 

「そう」

 

かといって独断専行的立ち回りをするどこぞの青髪サイコパスガールをよしと俺は思わん。

人は見た目が何割なのかは知らないが十割でない限りは残りの割合も加味して人を判断すべきだろう。

あんなのと付き合える野郎がいたらそれは重度の精神疾患者に違いない。俺は軽い先端恐怖症になりかけたぞ。

なんて痛い過去を回想しつつサイドテールの朝比奈をちらっと見てから。

 

 

「この朝比奈がいることが大っぴらになったら何かとマズい。悪いがオレはお前の家で朝比奈を預かってもらうのが一番じゃあないかと考えている」

 

「わたしはかまわない」

 

当の存在そのものが厄介と化している朝比奈はというと遠慮しがちに。

 

 

「長門さんがいいなら少しの間ですけど、お世話になりますね」

 

「どうぞ」

 

とにかくこれで隠れ家は確保できたわけだ。どうせ何かあるとしたら手紙で指示されるに違いない。

未来人にしてはずいぶんとアナクロな連絡手法なのはいかがなものか、メールの一つも過去には遅れないのだろうかと感じていると唐突にドアホンが鳴り響いた。

 

 

「少し待ってて」

 

そう言って立ち上がった長門は壁際にあるインターホンまで歩いていき来訪者に対応する。

いつぞやもこんなことがあったっけと思うとやったきた奴もいつぞやと同じで。

 

 

「ふふっ、お二人さんこんばんは」

 

長門と打って変わって私服姿の宇宙人朝倉涼子がマイバッグ片手に登場した。

いったい何事なのか。

 

 

「あら、もう晩ご飯の時間よ」

 

「いや意味がわからん。説明になってないぞ」

 

「私が料理を作りに来たの、長門さんよりは私の方が美味しく作れるんだからべつにいいわよね」

 

朝倉は現在ほとんど普通の女子高生と変わらないそうなのだが、過去の経歴が一人殺して一人半殺しなだけにどうして彼女の登場を歓迎できようか。

ま、俺が食べるわけでもなく朝比奈の晩御飯なのだから最低限の心配だけすればいいのだろうが。

 

 

「あなたも食べていけばいいじゃない」

 

「長門、こいつが料理に毒でも盛らないかチェックしといてくれないか」

 

「酷いわね。私をなんだと思ってるのかしら?」

 

知るか。ただの同じ高校に通う女子にしては繋がりが穏やかじゃないのは確かなのだ。

人に信頼してほしかったらまずは信用してもらうところから始めなくてはならないということをこいつは勉強した方がいい。

というか朝倉はここでも長門の専属料理人と化していたのか。

 

 

「信じてもらう必要はないけど私はあなたたちに危害を加えられないし、加える必要も今のところはないから安心してもいいわよ」

 

「朝倉さん……あ、その」

 

元々朝比奈の歯切れが悪いと思っていたが、少し先の未来では何かあったのだろうか。

朝比奈は朝倉を見た途端に複雑な表情になっていた。

 

 

「……それで? 何を作ってくれるってんだ」

 

晩ご飯の時間にしては六時台とやや早めであるがご厚意に預かるとしよう。

朝倉は本当に笑いたくて笑っているのかも怪しい笑みを浮かべてから。

 

 

「できてからのお楽しみってことでいいわよね」

 

マイバッグを持ってそのまま長門家のキッチンへと乗り込んでいった。

おでんではないことだけは俺にも予想できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく待たされてからコタツテーブルに人数分置かれたのはひき肉タイプのドライカレーだった。

俺は待っている間朝倉が包丁を持って襲い掛かってこないだろうかと気が気でなかったが、結果として何事もなく晩飯をご馳走していただくこととなった。

 

 

「……」

 

「い、いただきます」

 

手狭なテーブルの上に並べられたカレー皿と水水しいサラダ。どう見ても美味しそうな上にキッチンから漂ってきたにおいのおかげでお腹が減っている。

無言の長門と遠慮しがちな朝比奈を尻目に俺も料理の前で手を合わせると頂くことにした。

 

 

「どう? お味はいかがかしら?」

 

などと聞かれたところでドライカレーなど中坊の時に給食で食べたのが最後で、本格的なもんを食べるのはこの日が初めてだった。

結論から言えばうまいの一言に尽きる。

 

 

「いつもお前が長門の家で料理を作っているのか」

 

「他に何かすることがあったら教えてほしいぐらいに私はすることがないのよ」

 

敵対していたような気がしたが案外長門と朝倉は仲が良かったりするのかもしれない。

なんて、俺の希望的観測でしかないのだろう。

 

 

「だったら朝比奈に訊くといい。オレは女子の趣味なんざさっぱりだからな」

 

「……ですって、朝比奈さん」

 

長門の部屋に居る限りは女子同士で交流を深める機会など幾度となく訪れるに違いない。

朝比奈も朝倉が苦手というわけではないようでさっきの表情も今は立ち消えている。

ま、何かあったら俺の責任でもないだろうし、ハルヒが困るようなことにはならないと思っている。

ハルヒが言うには朝比奈はSOS団の重要な萌え要因だそうで、重要人物なのは確かなのさ。

なかなかにスパイシーなドライカレーを堪能した俺はとっとと帰宅することにした。

帰りが遅くなってしまったら愚妹に騒がれるのは目に見えているからだ。

 

 

「一応ここには毎日顔を出すようにする。長門、朝比奈の分の服は都合つかないか?」

 

「彼女のサイズに合う服は持ち合わせていない」

 

なるほど。あまり口にしていいことなのかどうかは微妙なラインだが、長門と朝比奈とでは胸のラインが違うからな。

ともすれば皿を片付けはじめた朝倉が反応して。

 

 

「私の服なら長門さんのよりは着れるはずよ。言うまでもないけど朝比奈さん用のブラジャーはないわ」

 

「すまんがそういう会話はだな、野郎のオレがいないところで頼む」

 

「あなたが衣服の話を切り出したんじゃない」

 

おっしゃる通りだが俺は朝比奈を制服姿で八日間過ごさせるのは酷だと思ったのだ。

いや、そもそも着替えやら何やら準備してから過去に来ればいいのにと突っ込みたくなる。

下着に関してもどうにかしてやってくれと言づけして俺はようやく部屋を出た。

 

 

「やれやれって感じだな……」

 

「あなたも苦労してるわよね」

 

「……おい」

 

どうして朝倉まで廊下に出てきた。大人しくお前は皿洗いをしていろ宇宙料理人。

朝倉はなんてことないように口を開いて。

 

 

「見送りぐらいさせてくれてもいいでしょ」

 

「そういうのは女子がされるもんであって野郎のオレ相手には必要のないことだぜ」

 

「ふふっ、そんなに私が苦手なのかしら」

 

仮に十段階でコミュニケーション能力を評価したとして、朝倉は間違いなく8以上の評価がつくほどの八方美人だが俺はアホの谷口のように女子なら誰でもいいって節操なしではない。

半殺しにされただけに限らず、何かと因縁があるような相手らしいのでおいそれと仲良くもできないってのが本音だ。

よって渋々エレベータに二人して乗り込むこととなった。一階のボタンを押し、エレベータの駆動音をBGMとして俺は朝倉と少し間を空けて壁面にもたれかかる。

 

 

「この際だから訊きたかったんだが、お前の目的ってなんなんだ?」

 

「どうしたの急に」

 

「人を殺しかけてまで達成する程のものなのかと疑問に思っただけだ」

 

自律進化の可能性ってヤツの説明を長門から長々と受けた過去があるがわかったのは情報統合思念体が躍起になる程度のことらしいということぐらいである。

 

 

「本当のところ私は自律進化なんてどうでもいいのよ」

 

「……お前らの悲願とやらじゃあなかったのか」

 

「私が上の指示に従順なだけの単なる消耗品だったらここまで暇を持て余していないわ」

 

「難儀な奴だな」

 

俺を恨んでいるのであれば筋違いなのだが俺には朝倉のそんな態度もポーズに見えて仕方がない。

宇宙人は底が知れない連中だというのはわかりきっていたが、なまじ人間と大差ないために本当は真の姿なるものがあるのではないかと疑ってしまう。

そして他にする会話などなく、一階に到着した。

 

 

「ここまででいいぜ。お前が外に用でもあるんなら別だが」

 

「そう。……あ、一ついいかしら?」

 

俺は既にエレベータの外に出ており、朝倉はドアを開くボタンを押し続けているようだ。

仕方なしに振り返って彼女の呼びかけに応じる。

 

 

「なんだ」

 

「朝比奈みくるのことよ。そうね、私が言えるのは長門さんの部屋に居る方の彼女なんだけど、この時代に駐在してる方の彼女とはかなり状況が変わってるみたいよ」

 

「どうしてそんなことがわかる。お前は同期とやらをしてるのか」

 

「私たちの技術力と人類のそれとでは未だに天地の差があるってこと。それに同期なんて面白くないと思わない?」

 

俺にはよくわからんが違う時間の自分の知識やらを持ってこれるのは便利だろう。

でも俺はやりたいと思わないね。驚いたことに朝倉も同意見らしい。

 

 

「先のことを知ったところで何かを変えられる保証なんてどこにもないんだもの」

 

じゃあまた明日ね、と言ったかと思えば会話の打ち切りを告げるかのようにエレベータのドアは閉じた。

 

 

さて、翌日。

 

 

「もうそろそろ四連休の予定を考えるべきだと思うのよね」

 

「……だな」

 

「あんたはどう思う?」

 

どう、と言われてもな。厄介なことに巻き込まれつつある俺にはどうとも言えない。

昨日言われた通りにこうして今日とて早目に家を出てハルヒと登校しているわけだが。

 

 

「せっかくの四連休なのよ。だらだらして過ごしたんじゃあとで後悔しきれないわ。あたしの青春はもっと活動的なものなんだから」

 

「だったら登山でもするといい。大自然に囲まれれば活動的だし開放的だぞ」

 

「へえ。あんたにそんな趣味があったなんて意外ね」

 

誰も自分の趣味が登山だと言ったわけではない。ものの例えと言うか、この登山じみた通学路に嫌気がさしての発言だ。

実際、夏休みの時にセミ捕りをしに北高の裏山へ行ったわけだがちょいと移動すれば本当の山らしい山もあるわけだ。

 

 

「ま、ありっちゃありかもしんないわ」

 

「なんだそりゃ」

 

「言っておくけど今回の休みは……あー、うん、SOS団のみんなで使わせてもらうわよ」

 

俺はべつに構わないが他の連中はいいのだろうか、いや、よくなかったら北高の文芸部部室に集まってわけのわからん団体に所属などしていないだろうな。

ところでつい先週からプリキュアは新シリーズに突入していてまさかの五人グループと化していて俺は心底恐怖したね。

これはきっとあれだ、仮面ライダーが十三人で殺し合いをしているとかそんなのと同列となるのではないかという一種の懸念であろう。

 

 

「いいぜオーケイだ。どうせもうすぐ春休みなんだからな、オレごときがお前を独占しようとまでは思わんさ」

 

気が早いと思いつつも人生初の彼女と過ごす穏やかな時間を俺は夢見ていた。

希望はいいもので、いいものは決して滅びないらしいから人間は夢なんて機能を残しているんだろう。

ハルヒも二月頭にして春休みのことを多少なりとも考えているようで。

 

 

「ふふん、あたしと二人きりがよかったの? あんたも素直じゃないわね。ならさ、その分春休みは二人でどっか遠い所に行ってみない? 市内はもう飽きたから」

 

「あらかじめことわっておくが注文はオレの予算の範囲内で頼む」

 

「そこは頑張りどころじゃない。男の甲斐性ってのはお金に比例するんだから」

 

昨今の若者はデートでもごく自然な成り行きで支払いは割り勘となっているそうで、きっと俺とは遠い世界の出来事なんだろうなと思えてしょうがない。

もしハルヒが俺に財布としての役目を期待しているのならば申し訳ないが自分の財布を使った方がいいということに一刻も早く気付くべきだ。

などといった思いを暗に言葉に乗せながら。

 

 

「これは決してカネが無いから言うわけじゃあないがな、オレはお前がいてくれりゃあそれでいい」

 

さてハルヒの方はどうなのやらと反応を待っているとリボンカチューシャ女は明後日の方向を向きながら。

 

 

「ほんと……あんたのそういう態度がいちいちね……バカみたい」

 

「具体的に言ってくれよ」

 

「もう、知らないんだから」

 

とにかく連休を乗り切れば朝比奈の面倒を頼まれた八日という期限はクリアされる。

いざとなったら古泉にも大なり小なり協力してもらうことになるだろうよ。

そして何より俺は春が待ち遠しかった。

 

 

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