校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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第五十四話

 

 

俺は全国的な文芸部のレベルを知らないから確たることは言えないが、我がSOS団が作成した文芸部機関誌は学生が暇つぶしに作ったにしては中々に力が入った代物と呼べるだろう。

ジャスト200部は期日までにきっちり仕上がり、中身の詳細については語るとキリがないので割愛させて頂くがよもや丸一日で全部持って行かれるとは思わなかった。

と、まあなんやかんやでSOS団は廃部もとい廃団の危機を逃れたわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、嘆かわしいことに俺には恋愛小説作成よりも厄介な課題がひとつ残されていた。

決して忘れることが許されない、三月十四日、ホワイトデーについてだ。

いやな、べつに何があったというわけでもない。俺がいよいよ財政難に陥ろうとしているだけの話だからな。

長門には最近出たばかりの大作小説、朝比奈にはデパ地下の専門店で買ったそこそこな値段のする茶葉。

で、ハルヒについてだが、これはまたの機会にさせてくれ。話すと長くなりそうなんでな。

何かとお世話になっている鶴屋にお返しをするのはわかる、しかし何が悲しくて殺されかけた相手にお返しをせねばならんのか。

ごく自然の成り行きでそこら辺で買ったクッキーを手渡しといたが、ま、義理には義理で返すのが礼儀なのだから問題はあるまいて。

 

 

「おいおい、何ぼけっとしてんだ? 涼宮を応援しなくていいのかよ」

 

体育館のキャットウォークに座り込んで虚空を眺めていると隣の谷口がこんなことを俺に言ってきた。

一階部分では体操着姿の女子どもがバレーボールに興じている。現在はうちのクラスが試合中。

何をやっているのか、といえば球技大会をしている。こんな時期にやるのかよ、と思ったが学年末考査もつつがなく終了してやることもなくなった末の時間割なのだろう。

 

 

「まったくよ、こんなことさせるぐらいなら春休みを増やせってんだ」

 

赤点ハンターの谷口が言ったところで説得力は皆無だということを本人は自覚すべきだ。

ちなみに我が一年五組の男子はあっさりと敗退している。競技がサッカーだったのだが、右も左もポンコツでは俺がいくら奮闘しようが負け戦もいいとこだった。

おかげさまで俺はすっかり意気消沈していたってわけだな。

 

 

「そう気を落とすなって。俺は身体を動かすよりもこっちの方が楽しいと思うぜ」

 

いわゆる目の保養って奴なんだろう、馴れ馴れしく語る谷口の目線の先にはビシバシとバレーボールを捌いている女子たちがいた。

ハルヒを応援、ね。ちらりとキャットウォークの手すり越しにハルヒの方へ視線を落とすと彼女は今まさにスパイクを放たんと即席チームメイトの朝倉にトスされたボールに向かってジャンプしている。

 

 

――パシィィィン、ナイスキー。

 

ハルヒ式スパイクは見事にブロックを破りバックゾーンの角へと勢いよく漂着していった。

わかりきっていたことだ。ハルヒの運動神経たるやそんじょそこらのアスリートに匹敵するし、女子バレー部の奴だっている。

おまけに宇宙人だっているのだから性質が悪い。あの姫カット青髪女に蹴りで膝を粉砕されたことを思い出すだけでブルっときちまう。

そんなこんなで俺が応援しようがしまいが彼女らはさっくりと勝っている。

 

 

「いやあ、あれを観てると『女は弱し』なんて言葉は間違っても口にできないよね」

 

しみじみと語る国木田だがこいつには谷口のようなスケベ心はないのだろうか。

多分に節操や分別があるだけに違いないが。

 

 

「けっ、涼宮に関して言えばバイオレンスなだけだろ」

 

俺も谷口の意見には概ね同意だが、中学時代を考えれば大分マシになっている。

それに、最近ではあいつもなんとなくかつ徐々にではあるもののクラスに打ち解けつつある。

委員長というキャラ付け故にハルヒに会話を仕掛ける朝倉もそうだが、それ以外の女子にも生返事だが話しかけられたら返事をしている。

ハルヒは変化していた、俺の気付かぬうちに、気付いたらちょっと電波な女の子ぐらいの立ち位置に。

それに比べて俺は何も変わっていない。よくわからないまま流されて巻き込まれている。

四年前の七夕の時から変わっちゃいないのさ。

 

 

「あの勢いならもしかすると女子はうちのクラスが優勝しちゃうかな」

 

「かもな。優勝したところで特典のひとつも貰えないのが残念だがよ」

 

国木田と谷口の会話を聞き流しながら再びぼーっと体育館の天井を眺める。

この催しが終わればそのまま今日の授業も終わりだ。短縮授業も相まってここ最近の学校での時間経過はなかなかにスピーディなものだった。

学年末テストの結果? わざわざ総括するまでもない。俺にとっては普通の点数だからな。

進学校の体裁を保ちたい北高による進路希望調査の書類に俺が書き込んだのは某国公立大学で、ハンドボール馬鹿の担任岡部曰くこのまま怠けなければいいとのこと。実に無難なコメントだ。

なんやかんや一年が過ぎ、来月にはもう二年生だ。このまま何事もなければいいのだが、さて、どうだろう。

 

 

「賭けてもいい。あいつらの優勝だぜ」

 

それからしばらくして俺の言葉通りに女子バレーの優勝は一年五組となった。

長門のチームの試合は見られなかったが察するに彼女は活躍らしい活躍をしていなかったようだ。

一月末にあった校内マラソン大会では二位――ちなみに一位はハルヒ――だっだだけにいまいち彼女がやる気を出すトリガーが俺にはわからない。

あのクレイジーサイコパス朝倉涼子は成績優秀かつ運動神経抜群のスーパーガールで通っているというのに、同じ宇宙人でも思う所には差があるのか。

いや、あるいは万が一にもハルヒを負けさせてヘソを曲げられては困るといった宇宙人なりの配慮なのかもしれない。

もっとも今のハルヒならそんなことでいちいち世界を滅ぼさんとするほどのヒステリックなど起こさないに違いない。

賭けてもいい。なんなら俺がフォローしてやるだけの話だからな。

 

 

「ま、ちょろいもんね」

 

球技大会が終了して放課後になり、制服姿に戻ったハルヒが部室の団長席にどかっと座り込むなりこう言った。

事実としてこいつらは強かった。素人目にもわかる、女子だとは思えないパワーファイターどもだった。

ハルヒはすこぶる機嫌がよく。

 

 

「まず相手が弱かったわ、置物もいいとこなんだから。あたし一人でも勝てちゃうような人材ばっか」

 

いつぞやの野球の時も思ったが誰か彼女にスポーツマンシップのなんたるかを小一時間ほど説教してやるべきだ。

俺がやってやってもいいが、ハルヒの満足感は異端者を探し出して遊ぶことに終始しており、スポーツなんてゴッコ遊びな人種なのは言うまでもない。

部室には異端者三人が揃っているが、何を隠そうこいつらがハルヒが望むところの宇宙人未来人超能力者だとは知らない。

せめてハルヒをコントロールする手伝いでもしてくれれば一番なのだが、異端者三人はむしろ日に油を注ぐかのようなことしかしないのだ。合宿しかり。

俺は淹れたて朝比奈印の熱いお茶をすすりながら。

 

 

「ハルヒよ、一流のファイターってのは試合の後に遺恨を残さないもんだ。互いにリスペクトしあうってのが筋だろうぜ」

 

「あたし格闘家になった覚えはないんだけど。それに、逆恨みしたきゃさせときゃいいのよ。遺恨を残したがるのは馬鹿の証拠だし、勝ったのはあたしなんだからね」

 

見事なまでの伝説のチャンピオンっぷりだ、天国のフレディ・マーキュリーも称賛するかもな。

遺恨を残したがるのは馬鹿の証拠、ね、確かに一理ある。プロフェッショナルと呼ばれる人物には掟があるものだ、自分を律するための。

何事にも紳士的、かつ効率的に己が仕事を全うする。それが一流ってもんだろうよ。

ただ、優勝を手にしたハルヒにも心残りはあるようで、悔しそうな声で部室の棚を毛ばたきでほこり取り中の朝比奈に向かって。

 

 

「ただ、残念なことといえばみくるちゃんの試合が見れなかったことかしら」

 

「そうですかあ? あたし、全然下手っぴでみんなに迷惑ばかりかけてましたよ?」

 

「いいえ、みくるちゃんがいることでチームの力は跳ね上がるの。適材適所よ」

 

スポーツに萌え要因が必要だとは俺は思わんが、その辺をハルヒはどう考えているのやら。

もしかすると友情パワーってヤツか。

 

 

「それに比べてあんたときたら……」

 

呆れた表情で俺を見るハルヒ。その顔を向けられるのにも慣れたもんだ。

悪いがワンマンアーミーがまかり通るほどスポーツの世界は甘くない。

俺たち男子が勝つには最低限のラインを越える必要があってことだな。

 

 

「球技大会だけじゃないわ、あんたはSOS団への貢献が圧倒的に不足しているわね」

 

「何をしろってんだ」

 

「近所の川っぺりまで行ってネッシーの赤ちゃんでも捕まえてきなさいよ」

 

またネッシーか。いつかも聞いたきがするぞ、それ。

ここは日本であって、ネス湖はスコットランドにあるんだぞ。

 

 

「まったく、あたしはなんでこんな奴を……」

 

するとハルヒは急にそっぽを向いてぶつくさ言い始めた。

何を言ってるかまでは聞き取れないが大方世間への不満を述べているに違いない。

ともかく、一人オセロ中の古泉や飽きもせずに読書している長門やら、いたって平穏な空気が流れていた。

過去形だ、嘆かわしいことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機関誌作成が完了したばかりの数日前、思い返せばこれは何かの前フリだったのかもしれない。

朝いつも通りに登校してきた俺の顔を見るなり開口一番ハルヒは。

 

 

「ねえあんた、幽霊っていると思う?」

 

心霊特番をやるには時期的にいささか早すぎるのではなかろうか、とはいえ何かに影響されたんだろうが。

オカルティックな話題といえばハルヒは中学時代に教室の床やら天上やらにキョンシーの御札みたいなもんをべたべたと貼り付けていたことがあったな。

本物の幽霊を見ちまうよりもよっぽどホラーな状態だったぞ。

 

 

「もしいなかったらイタコの連中はインチキになっちまうだろうな」

 

「ふーん。あんたは信じてるのね? 幽霊」

 

信じるも何も幽霊がいようがいまいが今の所俺の生活になんの変調もきたしていないのだから至極どうでもいい。

流石に現実にあいつらと対峙しちまったらゴーストバスターズのようにコメディな展開にはならないだろうが。

 

 

「で、どうしてそんなことを訊ねるんだ」

 

「幽霊だったら暇そうだしあたしたちのところに来てくれると思うのよね」

 

「お前はハゲたおっさんの亡霊に来てほしいってのか。そんなん不思議でもなんでもねえだろ」

 

我ながらこの上ないまでの正論を述べたつもりだったのだが、ハルヒは血相を変えて食い掛かって来た。

仮に全日本ハルヒ検定なるものがあったとしたら俺は四級程度しか取得できない自信がある。それほどまでにハルヒの脳内は地獄絵図と化しているに違いない。

 

 

「はあ? そんなのに来られた日には強制的に成仏してもらうわよ。あたしが求めてる人材は大物なの、おかしいのと不思議なのは違うんだから」

 

どうやらこの女は幽霊なら戦国武将あたりにでも出て来てもらわないと駄目らしい。

なんともまあ厚かましいお方であるが、実際に大物かは別として異端者を招集したのだからなかなかどうして馬鹿にできないから困る。

で、ようやく本題だが。珍しくふんぞり返っていないハルヒはしみじみとつぶやいて。

 

 

「……幽霊が出る、ねえ」

 

ハルヒは現在団長らしく来客応対をしている。なんの用件で来られた客かと言えば、なんというか、面倒な類の要件だ。

これは遡ること半年以上も前のことになるのだが、俺が生徒会にSOS団を認可すべく必要書類を提出した折にもののついでとして自作した宣伝ポスターを部室棟の掲示板に張り付けていたことがある。

何を宣伝していたかといえば、まさか宇宙人以下略の人たちに来てほしいなんてことはなく、相談事を受け付けているなんていう普段の団活とは程遠いものだったように記憶している。

で、そんなポスターを真に受けた――実際はなんたかの陰謀的なものが働いていたようだが――喜緑江美里なる二年生のお方が失踪した人を探してほしい、なんて一介の生徒にするには荷が重い相談事をしてくれた。

それが半年ほど前のことで、今回もどうやら奇怪な相談事らしく、その主題が近所で幽霊の出るスポットがあるから調べてほしいそうな。

ちなみに相談事を持ち込んできたのは阪中佳実なるクラスメートの女子で、彼女はハルヒに説明を続けた。

 

 

「ほんとかどうかはわからないのね。ただ、気になったから言いにきたんだけど……」

 

気になるとはどういうことなのか。曰く、彼女の愛犬がその付近に行くとおかしいと思うのかある一定のエリアに立ち寄らないんだと。

犬の気まぐれかもしれないが、その犬だけでなく近所で飼われている他の犬どもも近寄らなくなるどころか幽霊の仕業か具合を悪くしている犬までいるそうな。

はっきり言おう、そんなのMMRにでも調査してもらえ。

 

 

「ふむふむ、なかなか事態は深刻みたいね」

 

真面目に聞いていたのかさえ怪しいハルヒが阪中から一通りの説明を受けてからもらした言葉がこれだ。

昨日の今日で幽霊騒ぎだと、もしかしなくてもこいつの仕業なんじゃなかろうな。

ハルヒは球技大会の優勝よりも気分をよくしたのか笑みをこらえながら。

 

 

「悪霊退治は挑戦したことないけど、ま、なんとかなるでしょ。ふふふ」

 

「おい、この中の誰が幽霊なんぞを退治できるってんだ」

 

「あんたできんの?」

 

「できるわけがないだろ」

 

鬼の手どころか爪弾さえ打てないんだぞ。長門は心霊現象に太刀打ちできるかもしれないが俺は無理だね。

だいたいからして目に見えない相手をどうやって見つけるってんだ。俺は自分でも霊感がないであろうことを理解しているのだが。

古泉、お前の意見を訊こう。

 

 

「幽霊ですか、実に興味深いですね」

 

そう言って考え込むポーズを見せてくれたが解決できる自信があるんだろうな。

犬でも食わない怪異を相手にする高校生なんてのは主人公が吸血鬼でもない限り話が成立しないはずだ。

古泉はアラン・ドロンみたいなハンサム顔だが頭の中はハングオーバーなくらい役に立たないようだな。

 

 

「お前さんの知り合いに幽霊退治の専門家でもいんのかよ」

 

「残念ながら。ですが、一見の価値はありそうですね」

 

「だからな、幽霊だかなんだか知らんが見えないんだろ、一見も何もあったもんじゃあねえぞ」

 

「実際に赴かないことにはなんとも言えません。まだ情報量が少ないので」

 

つらつらと言ってくれるがその発言がハルヒのやる気に火を灯すものだということを承知した末の発言かは甚だ疑問だ。

オバケのQ太郎みたいな奴が相手なら俺でも勝てそうだが貞子クラスの悪霊をハルヒが呼んじまったら本当にやばい。

その辺を考慮した上で行動するべきだと思うが、ハルヒは勢いよく団長席から立ち上がって。

 

 

「SOS団の向かうところに敵なし。パーペキな除霊法でもってすぐさま事案は解決するわよ。もちろん、幽霊へのインタビューも忘れずにするけど」

 

その、パーペキな除霊法とやらは誰がどう実現してくれるってのか。

未来の科学技術でなんとかならないものか、幽霊が見える眼鏡のひとつでもありそうなもんだが。

もっとも朝比奈はそういう不思議道具の類を携行することは禁じられているそうで、どうにも頼りないメイドさんである。

本来であれば団長であるハルヒが頼れる存在であるべきなのにそもそもの元凶がハルヒなんだから頼る前に信頼ができない。

やはり、無敵の長門さんがなんとかしてくれることを祈る他なかろう。

 

 

「……」

 

その長門も思うところはあるようで、割かし真剣に阪中の話を耳に入れていたように見受けられた。

とまあ、前置きもほどほどに、思い立ったが吉日だ。

 

 

「それじゃ、準備が済んだら行ってみましょ。あたし一度でいいからマシュマロマンに会ってみたかったのよ」

 

一応言っておくがマシュマロマンは悪霊ではなく世界に終末をもたらす破壊の神だからな。

かくして俺たちはゴーストバスターズでもないのに幽霊の調査に駆り出されることとなった。

これが平穏なのかどうかってことを否が応でも考えさせられるのはもう少し先の話である。

 

 

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