校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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第六話

 

 

因果応報という言葉がある。

昨今では悪いことをしたからバチが当たったんだぜみたいな風にしか言われていない気がする。

本来であればいいことをすれば報われるって意味合いもあるんだがな。

じゃあ俺の場合はどうだったのだろうか。

俺はなにを過去にしなければならなかったのか。

つまるところはそれが問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後年振り返るにこの時の俺の対応力適応力判断力その他もろもろを総称した人間力は生涯最高値だったろう。

ともすれば今後は衰えていく一方だ。

盛者必衰の理なり。ううむ。

しかしながら盛っていたのは俺の馬鹿な考えぐらいだ。

この勢いのまま"B"ぐらいならいけるんじゃないかとかなんとかしながら俺と十センチちょっとの身長差がある涼宮とのキスを堪能していた。

どっかの誰かが。

 

 

『時よと止まれ、お前は美しい』

 

と言ったみたいだがよくよく考えればこの言葉を言うと悪魔に魂が取られてしまうんだよな。

俺だって時が止まってほしいだなんて思わなかった。

髪が長くなったら、なんて言ったのはただの方便でしかない。

夢じゃなくて現実で告白してやるってことさ。

そしてどうやら長門とやらのご期待通りになったらしい。

 

 

「――がっ」

 

次の瞬間には俺の視界が黒一色に塗りつぶされた。

当然だ。

深夜の自分の部屋に戻ればそうなる。

夢から覚めたのはいいがその方法がベッドから落ちるってのはどうなんだ?

おかげで頭を床に打ち付けてしまい痛くてしょうがない。

 

 

「っつ……」

 

なにがどうなったんだ。

電気を付けるより真っ暗闇の中で携帯を漁ることを選択した俺は馬鹿なんだろう。

多少興奮していたのは否めない。

目に悪いと知りつつようやく手にした感触を頼りに液晶画面を眺める。

五月某日。

日付はとっくに異世界三日目を表していた。

ここで気づく。

 

 

「ああ」

 

俺、目覚まし時計なんか置いてたっけ。

やっぱり馬鹿だ。

寝ぼけている。

だから二度寝だ。

……できると思うか?

初恋がかなうかもしれないって状況下で思春期の男子が安眠できると思うか?

時刻にして午前二時を回っている。

なに、"武士は食わねど高楊枝"と言うではないか。

俺は二度寝をしない主義なんだよ。

だから夜明けまでベッドの中で天井を眺めるくらい"朝飯前"だ。

どうだ。

すげえうまいこと言っただろ。

 

 

 

――ひとつだけ確かなことがある。

それは、俺じゃない俺の役割とやらを務めるべき死んだ野郎も俺と大差ないってことだ。

実際に会ったことはないし会おうにも会えないから真実性は皆無だ。

だが、そういうことではない。

俺が言いたいのはそんな不確かなことではない。

三日坊主もなにも登山登校は初日から嫌々だった俺にとって地獄の一丁目だというのだから信じたくはない。

太陽にジュージューになるまで焼かれている肉のような心持ちだ。

その最中、馬鹿の谷口が俺になんか声をかけていたようないなかったような気がするがどうでもいい。

死ななきゃ直らん相手の相手をする精神テンションではなかったからな。

ようやっとたどり着いた北高の校舎は健在。

完膚なきまでに破壊しつくされていたのも全部夢さ。

夢の中でぐらい誰でも主人公でいていいだろ。

俺はそう思うね。

代用品だとか、知ったことか。

俺は俺だ。

なんて強がったところで無理矢理脳を覚醒させて身体を動かしているのには変わりない。

一年五組まで行けたのはひとえに根性のたまものだろう。

妹のつきあいで【ふたりはプリキュア】を見ていなければギブアップしてたね。

こんじょだ、こんじょ――これ【カスミン】だっけ?――。

ありがとう俺に勇気をくれた大天使こと雪城ほのかちゃん。

どうせ異世界に飛ばされるならプリキュアの世界がよかったがな。

でもほのかちゃんが通う私立中は男子と女子で校舎が分断されてやがるんだ。

馬鹿野郎どうしてそこで諦めるんだそこで。

俺が諦めるのを諦めろ、と与太話はここまでにして。

 

 

「おハローさん」

 

教室に入るなり声をかけてやったさ。

窓際の一番後ろという特等席に座る涼宮ハルヒに。

俺はそいつの前が座席だ。

 

 

「……だっさいあいさつね。おはようぐらいまともに言いなさいよ」

 

そっぽを向くとはまさに今の涼宮を指すのだろう。

なにが楽しいのか窓の外しか見ていない。

そこにはいつも通りの世界が広がっている。

住宅街に海岸線まで眺めることが可能だ・

絶景にしては建造物が多すぎる。

邪魔だな。

しかし壊す必要もあるまいて。

 

 

「どったのセンセ。気分が悪そうだな」

 

「史上最悪の夢を見たと言っても過言ではないわね……おかげで飛び起きちゃって二度寝も出来なかったんだから……しんどいし、休もうとも思った」

 

「でもちゃんと学校に来てるじゃあないか。偉いもんだ」

 

「当り前じゃない。あたしはSOS団の団長よ」

 

いいかげんそれの説明をしっかりと受けたいんだが今更なのか。

俺をここに置くのは構わんがこちとら事前準備がないんだぜ。

なにがなんだか説明してくれって話だ。

 

 

「そしてあんたは雑用の"キョン"。……いいわね?」

 

確認のつもりか。

念押しなんだろうな。

 

 

「好きにしろ」

 

そうだ。

ひとつだけ確かなことがある。

それは涼宮ハルヒが俺を選んだらしいってことだ。

星の数ほどいる野郎の中から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のことを少しだけ語ってこの話は一旦の終わりを迎える。

俺の人生譜にしてみれば一枚分にさえならないかもしれないが元々長ったらしい話をするつもりは毛頭ない。

高校時代、といってもそのさらに一部分なんだからな。

大切なのは。

 

 

「おでれーた。生きてやがったんだな」

 

休み時間中にトイレへ向かうと廊下で古泉一樹に遭遇した。

超能力とはお別れできたか?

 

 

「おかげさまで僕の命も能力も健在ですよ。感謝の意を述べたいところではありますが、これから先も神人狩りがあると思えば複雑でもあるのが本音です」

 

「ここはもとの世界とやらなのか?」

 

少なくともお前にとってはそうなのか。

苦笑を浮かべて首を捻った古泉は。

 

 

「わかりかねます。この世界が昨日生まれたばかりの新世界という可能性は否定できません。全て涼宮さんがやった事ですので」

 

「使えねえな」

 

「既に言ったように我々超能力者といえど平素はただの人間ですから」

 

「だから使えねえんだろうが」

 

「手厳しいな」

 

そうかい。

ならさっさとお別れだ。

しかし一つだけ言わせてほしいといった様子で古泉は。

 

 

「意外でしたよ。長門さんら宇宙人はあなたがたの回帰を望んでいたようですが『機関』の見解としては望み薄だったのですよ」

 

「オレはいい意味で裏切っちまったみたいで何よりだぜ」

 

「ええ。もしあなたが僕の知る以前のあなたでないならば涼宮さんの相手をするとは思えなかった。こちらを彼女が選ぶように仕向ける必要性もね。……お聞かせ願えませんか。あなたは涼宮さんをどう思っているんですか?」

 

なに言ってんだかな。

ただのクラスメートだ。

それ以上でも以下でもない。

涼宮は涼宮であって涼宮でしかない。

だってそうだろ?

 

 

「わかりましたよ。では、そういう事にしておきましょう」

 

また放課後に部室でお会いしましょう。

と、後ろから聞こえてきたような気がしながら俺はトイレへの歩みを再開した。

つつがなく午前中の授業を終えて昼休み。

馬鹿口やアシカ田と飯を一緒にするにはまだ俺の心は広くない。

逃げるように部室棟へ移動して文芸部に行くと眼鏡女子がパイプ椅子に座って読書をしていた。

昼飯食ったのかよお前。

俺が言うのもなんだが自分のクラスはどうしたんだ。

ドアを閉めて俺もパイプ椅子に座る。

長机の上にお弁当を広げた。

その様子を一瞥してから眼鏡女子は口を開いた。

 

 

「……マーベラス」

 

「なんだって?」

 

「あなたと涼宮ハルヒは本日午前零時から二時半にかけての期間この世界に存在していなかった」

 

「だろうな」

 

あれが普通の世界なわけあるか。

やはり涼宮ハルヒは涼宮ハルヒであった。

例え世界が変わったとしてもあいつだけは昔のままなんだろうさ。

あいつを変えるのはあいつ自身なんだからな。

自分で決めてくれや。

 

 

「わたしは普通の人間ではない」

 

「じゃあなんだよ」

 

「この銀河を統括する――」

 

よくわからん長ったらしい説明が始まった。

"情報統合思念体"とかいうモンスターが宇宙には生息しているらしくそいつによって造られた端末が眼鏡女子らしい。

"対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"だそうだ。

長いからもう二度と言わんからな。

 

 

「わたしの任務は涼宮ハルヒの観察」

 

「小学生の自由研究かよ」

 

「彼女から得られる情報は膨大。しかし不安定。ここ最近では有益な変化が見られなかった。だから朝倉涼子は"彼"を殺害した」

 

脳裏によぎるはこの世界で最初に出会ったであろう青いロングヘアの女子。

何事もなく彼女も登校して笑顔をクラス中に振りまいていたが物騒なやつらしい。

要するに眼鏡女子も朝倉涼子も宇宙人だとか。

 

 

「そいつを殺して何になるってんだ?」

 

「涼宮ハルヒの出方を見た。彼女は"急進派"。強硬手段に出て現状に一石を投じた」

 

「それはわかる。だが人一人死んだところで世界は何も変わらんだろうに」

 

「違う。涼宮ハルヒが世界を変える……それだけ」

 

わからなくもない。

あいつは孤独が嫌なんだろうな。

昔からそうだった。

一人が好きなくせして寂しがりの捻くれ者。

目立つことをして注目されたかった。

誰かに必要とされたかった。

不器用なだけだ。

 

 

「……オレでよかったのか?」

 

「わたしにはわからない。彼女に訊いて」

 

「お前さんは死んだそいつを知っているんだろ」

 

そう言うと本をバタンと閉じて、こちらを見つめる眼鏡女子。

眼鏡を右手でくいっとやってから。

 

 

「……長門有希。わたしの名前は長門有希、とされている」

 

「オーケイ。わかったよ長門」

 

「あなたと彼は別人」

 

「そいつとオレとでは容姿がまるで違うのか?」

 

「……」

 

ノーコメントだった。

仕方ないので追及はしないでおく。

長門からこれ以上の会話は望めないかと思ったら再び口を開いて。

 

 

「……気をつけてほしい」

 

「なにを」

 

「朝倉涼子。彼女のやり方は危険。我々もこれ以上朝倉涼子の独断専行を許すつもりはないがあなたに危機が迫らないとは言い切れない」

 

「オレが死んでもまた代わりがいるだろ……」

 

死にたくはないがな。

なんて言うと、長門は平坦なトーンにも関わらずどこか力強く。

 

 

「いない」

 

信じていいのか。

いや、わかっているさ。

俺がこうしてここにいるんだからそれが全てだ。

深く考える必要なんてない。

 

 

「朝倉涼子の好きにはさせない。わたしがいるから」

 

なるほど。

だから危機が迫るって表現したのか。

迫るだけならスリリングで済んでくれるだろうな。

 

 

「なら長門を頼りにしていいか?」

 

「どうぞ」

 

彼女は宇宙人らしいが悪い奴には見えなかった。

ところで朝倉涼子であるが、彼女は涼宮に負けず劣らずのえらい美人だ。

長髪ということもあって間違いなく俺のストライクを奪うはずだ。

事実俺が彼女に下した評価は96点。

満点と大差ない。

涼宮を知らなかったら俺は朝倉涼子に惚れていてもおかしくないだろう。

もっともついぞ彼女に手を出そうとは思えなかった。

少しでもそんなポーズを見せたら本物の異世界人に殺されてしまうような……。

そんなことはあるはずないが、とにかく彼女は危険らしいし関わらないのが一番なんだろ。

大人しく従うに限る。

 

 

「ふふっ。これから部活かしら?」

 

なんて思った矢先に放課後廊下へ出ると待ち伏せしていたかのように彼女は俺に声をかけた。

どう見ても普通――ルックスは普通ではない――の女子高校生だ。

宇宙人とか言われても誰も信用しないだろ。

 

 

「……オレになんの用だ」

 

「あら。用がなかったら話しかけちゃだめなの? やっぱり酷いな。せっかく同じクラスなんだから仲良くしましょ?」

 

「お前さんはオレより仲良くすべき相手が居るかもしれんから遠慮する」

 

「ふーん。とにかく安心していいわよ。今の所の私はあなたに何もしないから」

 

やけに今ってのが短い期間に思えるね。

具体的に言いやがれ。

 

 

「さあ? 私たちとあなたたちでは時間概念が大きく異なるもの。それに私だけが悪いみたいに思ってるみたいだけど、結局は同じ情報統合思念体が決めた事なのよ? 長門さんがあなたの敵に回らない保証がどこにあるのかしらね」

 

「言うだけタダだ」

 

もう無視して通り過ぎることにした。

付き合ってられん。

巨乳女といい涼宮の周り――正確には俺の前の鍵だかって奴だが――にはこんなのばかりか。

類は友を呼ぶとは名言ではないか。

 

 

「じゃ、またね……」

 

同じクラスなら嫌でもまたまたになるだろうさ。

そんな朝倉涼子を置き去りにしてやってきた放課後の文芸部。

古泉一樹の姿はまだないようで制服姿のメイド女子だけが突っ立っていた。

長門有希も見られない。

しかしながらメイド服がなければただの女子だな。

巨乳女子だ。

 

 

「き、キョンくん!」

 

ばっとすがるように俺に抱きつく巨乳女子。

当たっている。

明言するまでもなく当たっているぞ。

 

 

「…ふ…もう……終わりかと思ったんでずよぉ…ぐすっ……ひっく……二度と会えないがも…なんで……」

 

どういう理屈で俺がキョンとやらと入れ替わっているのか。

涼宮のマインドコントロールなのか宇宙人のテクノロジーなのか。

俺にはわからなかった。

どっちでも同じなんだろう。

 

 

「胸だけだったらこっちが"長門"じゃあないのか?」

 

その大きさ、戦艦級。

泣きじゃくる朝比奈みくるをあやすように肩を叩いてやった。

妹が癇癪起こした時を思い出すね。

最近ではわがままばかりが先行するが女はとにかくズルい。

男よりも全然強いんだからな。

 

 

「なにやってんのよ……?」

 

そうか?

見てわからないか。

なんでか知らんが不安だったそうだ。

お前と同じだろ。

 

 

「――ハルヒ」

 

 

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