ネイ「アシスタントのネイ・ランテイルです。体調管理は常にしてもらいたいのですが……」
グリーフィア「アシスタントのグリーフィア・ダルクよぉ。そうね、ネイにうつしたりしたら、覚悟しなさいよねぇ?」
さ、サー、イエッサー(;゚Д゚)さて、EPISODE10公開です。
ネイ「……前の言葉フラグになりましたね。お嬢様が言っておられましたが」
そうっすね(^o^)
グリーフィア「あらあら、すがすがしいまでの笑顔~」
まぁ、今思い出したけど、ここ表現生々しいというかあっち方面で悩んだんだったよなぁ……。けど、行ってみますか!
ネイ「え、それどういう……」
グリーフィア「それはそれは……ネアちゃん、ネイがモデルだから、果たして作者さん生き残れるかしらぁ?うふふぅ♪」
(´・ω・`)では、どうぞ
ジャンヌ達がファーフニル家元従者「ポルン・ドンド」に誘拐されてから、1時間半。ドラグディア首都・セント・ニーベリュング市の街の一角にある廃ビルの1つに、3人は所々が切り裂かれた制服姿で、数人の黒ずくめの男性達に囲まれながら肩を震わせていた。
今のドラグディアの気候は春に当たる。もうすぐ6月に入るとはいえ、それでも寒さに震える時期ではなく、彼女らの震えはそれによるものでは当然ない。ここに連れてこられてから、彼女達は自分達を誘拐した彼らに脅しとして衣服を切り刻まれ、更に体のあちこちをまさぐられる状況となっていたのだ。
そもそも、彼女達を誘拐したのは誰なのか。ポルンだけはジャンヌ達も知っており、彼が主犯格であるのは間違いない。だがしかし、今彼女達の服を裂き、そしていやらしい手付きで触ってきていた黒ずくめの男性達だけは、自分達とどういう接点があるのか見当がつかなかった。ただ分かるのは、彼らがポルンに雇われたような者達であることだった。
「へへへ……レイアちゃん背はちっちゃいけど、なかなか大きなものを……」
「ひやっ……触らないで……!」
伸びて来た手に胸の先を触られかけ、レイアが後方に逃げようとする。しかし逃げた先にも別の別の男性が居て、代わりにその男性の手に胸を触られる。レイアの嫌がる素振りに間髪入れずにジャンヌがはだけた制服の胸元を覆い隠しながらも、その男に突っかかろうとした。
「レイアさんっ!!レイアさんに何をし……っ!?」
「おっと、ジャンヌちゃんも動かない方がいいぜ?」
「お嬢様っ!!」
しかし、横から男性が、ナイフでジャンヌのわき腹に近い部分の布地を更に裂く。制服の下のシャツまでも切り裂かれ、更に露出した肌にジャンヌは慌てて隠すが、周りから冷やかしとも取れる歓声が上がる。彼らにとっては高揚することも、彼女らにとっては死を覚悟する現状に主のジャンヌを庇いつつ、ネアは様子を窺う。
油断してた……。今日はハジメさんがまだ寝ていたから、なるべく人の多いところを通っていたのに……まさかあんな人の多いところで誘拐するだなんて……。
ネアの脳裏に、当時の状況が再現される。彼女達が誘拐されたのは今朝の8時ごろ。丁度その頃は学校までもう少しという所だった。広い大通りで信号を待っていたのだが、信号が変わった直後、信号無視して交差点内に車が2台侵入し、自分達の前方で急停止。車の方から男性3人、更に信号待ちの所であらかじめ待機していた男4人に抑えられ、そのまま車に詰められた。
抵抗しようとしたが、直後に睡眠薬か何かを嗅がされ意識が途絶え、目が覚めると、このビルの中で監禁・陰湿な行為をされる状況になっていたのである。
ここがどこなのか。それすら想定が出来ないが、やたら騒がしいサンバ風の宣伝音楽だけは外から聞こえていた。とはいえそれで何が出来るかと言うわけでもない。しかし抵抗しなければならない。先程ポルンが学校に電話した時に、ジャンヌの父ガンドの声が聞こえていた。学校に電話して聞こえたということは、既に状況は把握しているということだ。なら、ここに来るのも時間の問題。後は、それまで耐え忍べばいい。
だが、当然それは向こう側も周知の上。電話口で喋っていたポルンが、再びこちらに来て立ちはだかろうとしたネアを無理矢理どかし、ジャンヌに迫る。古竜人族の特徴である鱗が覆う竜そのものの頭を、ジャンヌの顔に近づける。
「さて……っと!……お嬢様には、覚悟していただかなくてはですねぇ」
「きゃっ……お嬢様っ!!」
「っ…………クビにされた身で、貴方の自己満足に付き合うつもりなんてわたくし達にはありません。とっとと檻の中で恥じればいいのよ……!」
肩に強く腕を置かれながらも、その痛みに屈することなく強気で返すジャンヌ。しかし、彼女自身にその腕を押し返す力はなく、また言葉も年齢相応の立場の物だ。見ているネアは嫌な空気が流れているのを感じた。
不味い。前の時もジャンヌお嬢様が苛立っているときに起きたけれど、それを思い出しているのかも……。さっきの電話の事もあるから、刺激しすぎるのは却ってダメ……。
祈るネアの心配は残念ながらすぐに現実のものとなる。しばらくにらみ合っていた両者。だがポルンの方が口角を上げ、同時にジャンヌのスカートの隙間に、竜の特徴が色濃く残る爪を差し入れる。
「やめて」
「ふふ……やめ……ませんよぉ!!」
嫌がるジャンヌの拒絶に、はっきりと拒否するポルンは反対の手でジャンヌの肩を再度抑えると、スカートに爪を入れた手を下に勢いよく振り抜く。スカートは紙をハサミで切るかの如く切り裂かれ、ジャンヌの隠されていた下腹部がレース素材で出来た純白の下着と共に露わになる。
「ひ、やぁぁぁぁ!!?」
スカートの布が引きちぎれる音の直後、ジャンヌの羞恥から来る悲鳴が響いた。女性なら当然の反応だ。暴漢に襲われ、自分の服をはぎ取られる。男は獣であるとは、まさにこのことだ。
いくらお嬢様という立場でもジャンヌがそれらを知っているのはネアも周知だ。むしろファーフニル家では、それらに対処すべくあえてその知識も年齢ごとにラインを決めて、子女らに教えるようになっている。他にもネアなどの使用人は、入った年齢に応じてそういった性教育および子女らへの検閲、情報開示などの確認を行っている。
だがしかし、見聞きするのと実際に体験するのとでは全く別の話だ。しかもこのような異常状況でジャンヌが平静を保てるはずがない。既にそれを見て男たちが歓声を上げ始めている。当の本人であるジャンヌは、羞恥のあまり手をどかすことよりも残った布で、必死にその部分を隠そうとしていた。
ダメです、お嬢様ぁ!!それでは……!!私はすぐに駆けだそうとした。けれど、それを見越して周囲の男達が、私の方にも手を伸ばしてくる。
「あー、何々?ネアちゃんも一緒の事がやりたいってぇ?」
「ぅにぃ!!離して、くださ……ひゃあ!?」
「おぉっ、いい声~。流石詩巫女養成科」
不意に胸を触られ、払いのけようとした。だがしかし、その隙に地面に押し倒され、手足を地面に押さえつけられる。別方向からもレイアの悲痛な叫びが響く。
「やぁ!いやぁ!!」
「うわっ、暴れんな!この野郎!!」
「レイアさんっ!!や、いやぁ!!ネアっ!!助け、てっ!!」
頬を叩くような音が響き渡る。それに反応し、隙間からこちらに向けてジャンヌの声が飛ぶ。主人の言葉に応えたい。ネアのジャンヌに対する恩義から来る忠誠心で、身体に力を込める。しかし体格差から来る力の絶対的差は埋まることはなく、制服のボタンを外される。
お嬢様も、危ない状況なのに……っ!!なんで、何でこんなことに遭うの!?私のせいなの?こんな自分がいるから?私がダメな子だから……?だから、お父さんにも捨てられて……。
その瞳から、涙がこぼれる。もう自分ではどうにもならない。その考えがよぎったネアは、かつての自分へと逃避してしまう。自分がジャンヌの家にメイドとして置かれることになった過去に。その理由なら、自分がこの状況を一番楽に受け入れると思ったから。竜人族・機人族問わず人体に備わった危機本能が、彼女を現実逃避させる。
涙で濁った視界の先で、ジャンヌの下腹部を覆う最後の布に手を掛けるポルンの姿が映る。その姿はまるで、ドラグディアに伝説で「海竜神ポセイディア」の放った海竜「ゴジュラン」が生贄を襲う姿に見えた。その伝説では勇者「ヴルセルス」によって退治されたとされている。しかし、そんな伝説の勇者などという、空想溢れたものが救うはずもない。しかし、絶望的状況でネアは助けを願った。
(誰か…………助けて、私達を……!)
バンッ!
「ん?がっ!?」
「―――ネア、クローズ!!」
「!!」
突如遠くから響いた扉の開閉する音と、男の悲鳴。そして聞き覚えのある声とその単語。それを聞いてネアは思い切り目を閉じる。
瞬間、瞼越しに視界が光りで包まれる。同時に大きなクラッカーを至近距離で炸裂させたかのような爆音が襲う。爆音の影響で耳鳴り以外聞こえないが、手足の拘束が解けたのを感じ、目を開く。周囲を見ると男達は手足をバタバタさせるか、その声の主と共にやって来た侵入者と格闘していた。黒服の男が殴り掛かろうとするが、アッシュブロンドの髪を揺らす男性はそれを喰らう前に顔面に右ストレートをかまし、一撃で気絶させる。そのまま気絶させた男を武器代わりに、未だ爆音の影響が残る男性にぶつけると、空ぶる拳を避けてから腹に一発拳を打ち込む。
もう片方ではレイアを取り囲む男達を薙ぎ払って、レイアに手を差し伸べる軍服姿の男性がいた。その男性の姿は普段からよく見るワインレッドの長髪の男性で、それだけで現状がどういうことかを理解する。
こちらの始末が終わると、手を叩いてから、アッシュブロンドの男性がこちらに手を伸ばす。
「……じょう…か?……」
先程のフラッシュバンの影響で聞き取りづらいが、その男性にネアは縦に頷く。そのままその手を掴み、着崩れた制服の所々を直しながら立ち上がる。見ると、残っているのは半裸状態のジャンヌと彼女を弄んでいたポルンにそれに便乗していた黒服の男性達6人、更に奥に居て影響が少なかったもう1人の主犯格とみられる男性とその部下1人だ。
レイアももう1人の侵入者によって救出される。そしてその2人の間に陣取るように、ドアの影から飛び出す銀髪の制服姿の青年。それは、数十分前、学校を飛び出していったハジメと、それを追いかけて行ったガンドとフォーンだった。
◆
「ちぃ……早かったですねぇ、お二方。それに小僧が一人、ですか」
見知った者も含めた3人の襲撃者に、ジャンヌを立たせながら少なからず動揺を見せるポルン。周りの犯人一味である黒服の男性達も先程のフラッシュバンによる影響に未だ苦しみつつも、概ねこちらの方に向き直っている。
なぜ、彼らがこの場所にたどり着くことが出来たのか。それは2つの要因が関わっている。
1つは、ハジメが場所の大まかな特定に成功したことだ。学校を出る直前、ハジメは誘拐犯であるポルンからの電話の音声を再度聞いていた。電話の時点でどこか引っかかる点を感じていたため、その疑問を解決すべく警察に頼み、ガンドからの頼みもあって聞かせてもらえた。そうして電話音声を聴き直したハジメは、その引っかかりを感じたとある音楽と単語の切れ端を聞き取った。それはリズミカルな音楽と「フィーバ」という単語だ。
このセント・ニーベリュング市には、街の名物の1つに「店頭宣伝が面白い時計屋」がある。音楽がとても時計屋とは思えず、更に宣伝文句も独特で音楽によって異なり、異彩を放つほどだ。実は、ハジメが今朝目覚まし時計を買いに行こうと考えていた店もここだったりする。
通学路の脇道にあるため、帰り際には音楽の特殊性も含めて耳に自然と入っていたその街頭宣伝。今日はディスコ風の音楽に合わせた宣伝で、宣伝の最後には店主が実際に宣伝の中に入れたと思われる「フィーバー!!」の声と共に終わるバージョンの曜日なのだが、その単語が、ポルンが息を溜めた直後かすかに聞こえた。それを逃さず聞いたハジメは、この近くにジャンヌ達がいて電話を掛けていると判断したのだ。
(あの音楽が聞こえるのは、あの近く位だ。絶対、お嬢様達はあの近くにいる。……でも、ここからどうする?)
しかし、物事は急がば回れ。この数分前に時計店の周辺へとたどり着いたものの、ハジメはそこからどの方向にジャンヌ達がいるか分からなかった。ただ衝動的に走り出してしまったため、それ以上はまだこの社会をよく知らないハジメには、推測しきることは出来なかった。
しかし、後から追ってきたガンド達と合流したことで、2つ目の要因が起こる。現状を説明し、ここから先がどうすればいいか分からないと呟くハジメ。ガンドも使用人のあまりに出たとこ勝負すぎた行動に頭を掻く。しかし、しばらく思案したのち、思い出したようにフォーンがこう口にした。
『そういえば、この近くは以前からマフィア達のたまり場になっている廃ビルがありましたね』
フォーンによれば、ハジメがファーフニル家に拾われた際に、市内の病院に最初連れて行こうとした。だが、首都にて起きたマフィア同士の衝突によりけが人で一杯の為、ファーフニル邸に運ばれ、現在に至った。そのマフィアの衝突が起こった場所がこの地域であるというのだ。
場所が特定できたのなら、後は警察の応援を待つだけ。フォーンが時計店の店主にお願いし、警察を呼ぶよう依頼する。しかし、ハジメの中で不安が渦巻いていた。自分のせいであるということと、早く行かなければいけないという危機感はハジメの視線を、廃ビルへの道に注がれていた。
すると、制服の裏を見たガンドは戻って来たフォーンにそれを命じた。
『警官が来る時間が惜しい。ハジメは初陣だが、3人の奪還に行こう』
『な……!正気ですか!?』
ハジメも顔をはっと上げる。しかし、視線の先にあったガンドの表情が笑みを持ったものになると、フォーンを諭し、そしてハジメに決断を問う。
『確かに、当主本人が出ていくなんて、無謀だろう。だが、俺も軍人だ。それに、護るということをハジメ自身に実戦で体感させるチャンスだ。もちろん後方支援という立場だけどな。…………出来る……いや、やるか?』
ハジメ自身も分かっていた。その言葉が、ガンドが、自分の覚悟を試しているのを。失敗した部下にチャンスを、という場面でもあるのだろう。しかしそれ以上にハジメがこれから先同じことが連続して、それでも付いて行く覚悟があるのかどうかを今一度確認する為に。
その確認にハジメは、唾を呑みこんでからその決意を声にした。
『はい』
それを確認後、ハジメを含めたガンド達決死隊は廃ビル群へと侵入したのだ。だが、問題はまだあった。廃ビルのどれにジャンヌ達がいるのかということだ。廃ビル群の間をすり抜けて目的地を探していたが、ガンドが突如とあるビルで立ち止まった。ハジメとフォーンも止まり、そしてフォーンが少し動揺した様子を見せていた。
何の変哲もない、白い車が2台脇に停まるビルだが、ガンドはためらわずビルへ侵入し階段を昇って行った。遅れてフォーンとハジメが昇る。そしてとある階でドアの近くにいた警備と思われる黒服の男性を、トラップで引きつけてから無力化してからその部屋のドアまで来たところでジャンヌ達の声を確認した。
当たりを付けたガンドも凄まじかったが、問題はここからと、小さな声で流れを説明し、中の状況が切迫した直後、ドアの開放と同時にガンドが近くの部屋にいた近くの男を制圧、同時にフォーンが用意していた非常用のスタングレネードを投擲。光と爆音の直後、一気にレイアとネアの周りにいた男達をすべて打ちのめし、救出したのだ。
救出された2人は、2人を救出したガンドとフォーンに促され、後方にいたハジメの後ろにまで行く。残るはジャンヌ・ファーフニルただ一人。しかし、ポルンの優勢は崩れなかった。
「残るはお嬢様のみ。ポルン、それにマフィア共。大人しくジャンヌお嬢様を返してもらおうか」
「クックック。威勢がよろしいですねぇ、ポルン様。ですが、重要なのはこちらではないですかねぇ」
ポルンは余裕を見せてフォーンの言葉に返す。そして自分の爪を半裸状態で立たせたジャンヌの胸元に突きつけて見せる。瞬間、動揺がこちらに走る。
人質、ということか。くやしいけど、実際そうだ。こっちの本来の目的はお嬢様の奪還。けど撤退するときの事を考えて現在の状況になっている。この選択に間違いはない。相手の戦術が一枚上手だった。もしくは、自分に力があれば……。
ハジメの心の中に、もしもという言葉と無力感が出来る。力への渇望。それは記憶のなくなったハジメに初めて生まれた欲求だった。
「…………人質、ということか。まぁ、最初からそうだが」
「下種が……。やはり古竜人族が……」
何も出来ないことに歯ぎしりするフォーン。ガンドは冷静に対抗策を考えようとするが、動きを見せない。しかし誘拐犯であるポルンは、そして、その協力者である黒服に帽子をかぶった男は怒りを見せる。
「古竜人族だから?やはりあなたも、お嬢様と同じ貴族出身の竜人種のようですねぇ!」
「その傲慢さが、彼を怒らせた。そして、その怒りがかつてお前に所属していた組織を潰され、恨みを持っていた俺にチャンスを与えてくれた」
リーダー格の黒服の男性が、かぶっていた帽子を取る。丸刈りの白髪、そして中年を感じさせる顔の右ほほに残る、連なる2本の切り傷を見て、フォーンは声を上げ、その名前を口にする。
「その顔……あの時マフィアの生き残りか?」
あの時のマフィア、といういい方から、面識はあるものの名前は知らない様子だ。しかし、それでも相手はそれで満足したようで名前を名乗る。
「シグット・フィル。「シグ・ムーント」のリーダーだ。もっとも、そこの執事には元レジラムのメンバーと言った方が良いかな。まぁ、話はここまでだ」
レジラム、という名前を口にして、当主と執事の2人が表情を硬くする。因縁浅からぬ中であることは察することは出来たが、それ以上考えるのは後回しにさせられる。シグットが右手を上げると、1人の竜人族の大男が前に出てくる。先程からシグットの横にいた竜人であり、サングラスをしているがそれが見えないほど色が同化した肌、帽子の上からでも分かる突起が特徴的だ。如何にもただ者ではない雰囲気を感じさせる。
「さて、レッドン、こいつらを始末しろ」
「イエス、ボス」
その返答後、竜人族の男は帽子とサングラスを取る。が、外界に晒された彼の姿に一同が驚愕する。
「え……目が光ってる!?」
下がって物陰から見ていたレイアが、そのまま素直な感想を述べる。フォーンもその姿を見て、とある名を口にする。
「その眼と触覚……ゼット族か」
「ゼット族……あれが」
ゼット族。ハジメもこれまでの補習で知った、竜人族の中でも特異な能力を持つ者達の種族だ。黒い外骨格で体を覆い、更に火球を飛ばす、瞬間移動をこなすなど生身での戦闘能力に特化した種族とされている。
目とされる発光部分はかつて暗闇での生活を主としていた頃の名残で光っていて、現在ではその多くのゼット族が力強さと目、そしてレーダーにもなっている触覚で災害時のレスキュー部隊を組織しているくらいだと習った。が、力強さに目を付けた組織が、用心棒に雇う例も少なくないらしく、力は善にも悪にもなることを体現している種族とされている。
ハジメの前に現れたゼット族も、こうして用心棒として雇われたのだろう。レッドンと呼ばれたゼット族の男は、帽子とサングラスを投げ捨てると、一瞬で姿を消す。
「消えた!」
「瞬間移動……!ハジメ!!」
瞬間、フォーンの声が飛んだ。同時にハジメも悪寒がして左を見る。すると、さっきまでそこにいなかったはずのレッドンが、その拳をこちらに向けて振り下ろそうとしていた。
やられる。そう直感した時には、既に手を交差させ防御態勢を取る。しかし相手は戦闘能力に特化したゼット族。それもマフィアの用心棒に雇われるほどの拳を無事に受け止められるのか?
そう思った時には、時すでに遅しだった。
「フンッ!!」
「ぐぅあ!?……」
振り抜かれた拳が両腕の交差した部分に直撃する。腕に強い痛みを感じるが、宙に体が浮いた感覚と共に勢いよく体を吹っ飛ばされてしまう。
吹き飛ばされたハジメの体は思い切りビルの壁に衝突する。コンクリートへの激突で、一気に肺の酸素が吐き出され、意識が遠のいていく。
(ダメだ……まだ……何も)
意識が飛ばないように願うハジメだが、視界の消失と体が軽くなる感覚と共に、ハジメの自意識は消えていった。
◆
一瞬の攻防だった。ハジメの方にゼット族の男が行ったと思った時には、既にハジメは壁に打ち込まれていた。立ち上がれない様子から、おそらく気を失ったのだろう。
とはいえ、最初からハジメを戦力として見ていないのは、フォーンの頭にあった。しかし、これだけの戦力差があるのは、厳しい。
「ハジメ……!!くっ、ご当主!!」
「……動かない方がいいかな、とはいえ、動いても何も変わらなそうだけど」
現状を見てガンドは諦めのように呟く。戦闘姿勢は崩していないものの、その表情には若干焦りが見えた。苦しい状況の中、ポルンがジャンヌの肌を擦りながら2人に勝利宣言をする。
「ふっふっふ。動かないのは賢明です。何せ下手に動いて気絶してしまえば、彼のようにお嬢様が大人になる瞬間を見届けられませんからねぇ……!」
「ひっ……やぁ……」
「お嬢様ッ!!……貴様!!」
「…………」
嫌がるジャンヌの姿と、それを喜々として楽しむポルンに苛立ちを隠せないフォーンと静観しつつ打開策を探るガンド。しかし、徐々に周りに包囲網が出来あがる。その包囲は、先に救出したネア達にも及ぶ。
(クソッ!ここまでなのか……俺の力は……!)
切り札はある。しかし、それを使うタイミングを計れない。どうにか、隙を――――
その時である。
「……?」
かすかに音が響く。その音は包囲の外からで、レッドンやポルンもまたその方向に目を奪われる。フォーンもその方向を振り向く。その方角は、ちょうどハジメが吹き飛ばされた辺りだ。
まさか、ハジメが起き上がった。いや、あり得ない。あの勢いでぶつかって無事で済むわけが……!?
だが、その方角には確かにレッドンに吹き飛ばされ、満足に動けないはずのハジメが立ち上がっていた。まるで、死の淵から蘇った悪魔のように、腕を垂れ下げているが、確かにハジメは立っていた。
「………………」
無言であたりを見渡すハジメ。まさかの事態にシグット達も予想が付かなかった反応をする。
「な、ばかな!?ゼット族の一撃だぞ?」
「ほうほう、レッドンの一撃を耐えるとは……ん?」
すると、シグットが違和感を覚えたような仕草をする。フォーンも注視してみると、その違和感に理解が追いつく。
「あいつ、気絶して……」
その瞳には、生き物の光が灯っていなかった。息こそしているものの、まるで寝た状態で体を動かしているとでもいえばいい状態だった。
ばかげている。そのような状況は普通起こりえないだろう。だが、現実としてそこにある。そしてハジメは、更に驚くべき行動を起こした。
いつの間にか握られていたボックス状の端末を腰に当てる。直後端末からベルトが出現し、彼の腰に装着された。その形状、方法は、フォーンの記憶の中にただ一つしかない。その名を敵のリーダーであるシグットが口にした。
「
スターター。この世界でモビルスーツに装依するために使用されるバックル式装依装置の名称だ。フォーンどころか竜人族・機人族は誰もがその名称を知る装備を、そのどちらとも付かない青年が、どこからともなく取り出し、装着した。
そして、右手に持っていた星と歯車を合わせたようなペンダント状のタグを、スターターの開閉部に装填し、閉じる。動作はスムーズだが、その仕方はやけくそか、はたまた何かに操られているかの如く力のないものだった。俯いた状態で、彼は、ハジメはスターターの上部ボタンを押して、「それ」を行った。
「………………」
無言のハジメを前後に現れた2つの光りのゲートが挟みこむ。挟み込んだ衝撃で周囲に突風が起こる。風は周囲の者達を怯ませるほどだ。だが、それだけでは終わらない。
合体した光の扉は一回転しながら彼の頭上に行き、そして面を下に向けて降下する。まるでゲートに体を潜らせるような勢いだ。透けるようなハジメの体をゲートが通り抜ける。すると、そこに現れたのは、1機の機動兵器だった。
「なんだ…………あのモビルスーツは!?」
シグットの率直な疑問は、この場にいる誰もが思ったことだろう。それを示すように部下達の視線は見事にすべてその機動兵器に注がれる。
そして、それはフォーンやガンド、レイアにネアも同じだった。自分の部下が、知り合いが装依した、その起動兵器に視線が釘づけにされる。
「あれは……本当に、MSなのか……?」
フォーンもため息を吐くように呟いた「それ」は、重厚な装甲で機体が構成される、見たこともない黒い
NEXT EPISODE
今回もお読みいただきありがとうございます。
ネイ「……女性誘拐されたら、まぁ、そうなりますよね。こちらとしては不快ですが」
すまぬ(´・ω・`)
グリーフィア「私達はまだいいけれど、ジャンヌがどう言うかしらねぇ……。でもまぁ、最後の方で主人公君がカッコいいところ見せ始めているみたいだから、いいんじゃないかしら?」
あ、次回ジャンヌ達がアシスタントか(;゚Д゚)
ネイ「そうですよ?」
グリーフィア「そうねぇ」
???「というか、この感じ前にもあったよな?」
その声は……懐かしいじゃないか光樹君。でも、今この場に君の席はないよ!
光樹「いや、俺グリッ○マンじゃねぇし」
何を言うか!(;゚Д゚)グリッ○マンと同じ主人公を務めた君が言ってはいけないよ!(;゚Д゚)
光樹「はいはい、ネタはいいから、ツカえもん」
ちょ、その言い方……(;´・ω・)……まぁ、この後活動報告更新するかもしれないからなんだけどね。では今回はここまで。
ネイ「次回もよろしくお願いします」