機動戦士ガンダムDN   作:藤和木 士

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 どうも、皆様。藤和木 士です。機動戦士ガンダムDN、プロローグ2となります。同時投稿している時点で「投稿また止まりそう」と思われるかもしれませんが、今度は流石にしたくないです。(´・ω・`)

 とはいえ、続けて投稿した理由は最後の方にも理由があります。お楽しみに。

 では連続投稿で、話すこともないので、プロローグ2、スタートです。



プロローグ2 ビギンズナイト2

 それは、まさに歴史が動いた瞬間だったと言える。人が纏い、動かすパワードスーツのようなロボット。モバイルスーツ……後の時代のこの世界で「モビルスーツ」と呼称される様になった機動兵器はここから始まった。それは世界を動かす「力」となる。それもこの世界だけではなく、この世界の外に無数に存在する、「次元」にも影響していく「力」だ。

 だからこそ、今思い返してみると、これは「始まり」だったのだろう。そう、物語の始まりの夜……それも、「悪夢」と言う名の、この先長きに渡る暗い夜の始まり……「ビギンズ・ナイト」である。

 

 

 

 

「―――――」

 

 最初それを見たとき、大きく衝撃を受けたかのような感覚を覚える。しかし、同時に感じたのは、心地よさ……否、これは懐かしさであった。初めて見たような気がしなかった。だが、何処でそれを見たのかは全く覚えがない。そんな気持ちに戸惑う間に、黎人が次世代作業用スーツ「モバイルスーツ」について説明を行う。

 

『私はかつて、島北で起きた大震災で家族を失いました。年号が今の「洸明」に変わる前の年号の時、今から15年も前の事です。もしかすると、ニュースを見て覚えている方もいるかもしれません。当時9歳だった私は、レスキュー隊に助けられ九死に一生を得ましたが、近くの瓦礫に埋まっていた弟はあと10分早ければという所で死んでしまいました』

 

 15年前の島北で起きた大地震。「島北沿岸大震災」だっただろうか。そのことは当時5歳であった元も覚えている。確か死者1万人、行方不明者3000人ほどだったと記憶している。正確な数字で言えばもっと違うのだろうが、後々の教科書で出てくるものではこれくらいが限度だ。

 そのまま黎人は続ける。

 

『その時こう強く思ったのです。『もっとレスキュー隊の人が力を出せたなら、より多くの人を、弟を救えたのでは』と。これは決してレスキュー隊の人々を乏しめているわけではありません。ですが多くのレスキュー隊が出動してもこの地震で消えた命は少なくありません。だからこそ、自分は彼らの為に、彼らの力となる何かを生み出したいと強く感じました。そこで私が思い至ったのは、身体能力を強化する強化外骨格の開発でした』

 

 気が付くと、いつの間にか道治の姿が見えない。と思うと、既に前の方に居て、黎人の話を真剣に聞く姿があった。流石、情報屋タイプ。それもこの話題は道治が最も気になる、社会に貢献するタイプの話題だ。よく聞いて、ブログに書きたいのだろう。

 だがそれ以外にも何人かその話を熱心に聞く物はいた。機械関係の仕事をやっている平次と海斗も道治ほどではないものの、近くの方で話を聞きつつ、ロボットもとい、強化外骨格であるモバイルスーツに目を向けている。

 よくよく考えれば、2人は機械部品関連の仕事をやっている。そもそも平次はプラモデルでもロボット系列のプラモデルを制作しているために、機械部品系工場に勤務しているくらいだ。ならば余計に気にならないわけがない。海斗もおそらく仕事がら注目しているのだろう。もしかすると、2人がモバイルスーツの部品を担当することもあり得る話なのだから。

 

『元々、私が考えていたプランでは、専用スーツの上からパーツを取り付ける形でこれを装着し動かす、というものでしたが従来のバッテリー駆動ではどうしても私が目指した性能には届かないのが現状でした。そこに救世主の如く現れたのが、我が恩師でもあり、本研究の共同研究者、新たなエネルギーである「次元粒子」とそれを利用した世界初の半永久機関「次元粒子発生器」を発見・完成させた天才科学者「ツィーラン・パック」博士なのです!』

 

 黎人の声に合わせてスポットライトが来賓席にいた男性に当てられる。頭の上で少し平べったい団子状にまとめられた白髪と目元を覆うようなマスクをつけている。そして来賓用として整えられた黒のスーツを着こなす姿。白髪と聞くと相当歳がいっている気もするが、見た感じでは予想以上に若い人物だと思う。だがそれ以上に……。

 

(……なんか、すごいよな。あのマスク)

 

 白髪よりも明らかに目立っているマスクに目を引かれる。実際周りの同級生たちの話だけでも、マスクの方に注目している者が何人かいた。道治とでも話せれば、彼がどういった人物なのか更に詳しくわかるかもしれないのだが、あいにく道治はまだ前の方だ。

 今聞けないのは少しもやもやするが今は話に集中することにする。黎人がモバイルスーツの動力機関について詳細を明かす。

 

『そもそも、次元粒子とは我々の宇宙を外側から覆っているとされる、未知のエネルギーです。詳細は省きますが、現段階の調査では、世界はこの次元粒子から出来上がっているのではないかとのことです。次元粒子発生器は、その粒子を供給する為に次元空間に穴を空け、そこから次元粒子を取り出し、これを貯蔵・運用するエネルギー機関です。これらをモバイルスーツに搭載することで稼働時間の限界を取り払う事に成功。更には装着する方式から、身体を電子……簡単に言うとデータ化させてロボットに憑依させることで更にパフォーマンスを良くする、という予想していなかった段階に技術を発展させることにも成功しました』

 

 次元粒子、次元粒子発生器。どちらもあまり聞きなれない言葉だが、今日初お披露目となるモバイルスーツとしての動力機関に採用された代物だ。たぶん、情報規制とかがあったんだろうと予測する。

 けれど、まさか技術がそこまで発展しているとは思わなかった。人と一体化するようなロボット、初めて聞いた。人機一体という言葉がSFロボットアニメにあるのは知っているが、簡単に言えばそれを本当にそのままの意味で実際に行える、ということだ。

 会場もそんな驚きの連続にざわめく。すると、そこで同級生と思われる男性が質問をする。

 

「すみませーん。それって兵器とかにも使えるってことですかー?」

 

 まるで道治が質問しそうな内容だ。しかし声は道治のものではないのが分かる。が、そこで少し不安げな声が聞こえ始める。自分達のめでたい場で行われた余興で、そんな物騒なものの単語が聞こえれば無理もないだろう。

 するとその声にツィーラン・パックと呼ばれた男性がマイクを通して回答する。

 

『良い質問です。確かに現在、モバイルスーツを軍事兵器に転用する動きはあります。実際、ここにある試作モバイルスーツ「ガン・ファイター」にも、万全なセーフティー状態ではありますが、スポンサーからの依頼で余興用に調整した試作グレネードを搭載しています。ですが、一番大事なのは、いかに兵器と向き合っていくかです。例えばモバイルスーツの技術が発展・量産化すれば、それらは国に配備される。そうなれば、それだけ防衛能力が向上するということになります。兵器は一側面ではない。様々な使い方がある。そして、それを考えていく者の1人となるのが、新成人の皆様なのです』

 

 グレネードを積んでいるという言葉にパニックになりかけるも、その後の言葉でシィンと静まり返る会場。どことなく怖さはあるが、ツィーランという人の考えも決して間違ってはいない。急な質問ながらここまで綺麗に最後の言葉にまとめたあたり、もしかすると先程の声はパーティー側の演出の可能性もある。

 沈黙が辺りを制したのち、光姫が再びマイクに向けて声を会場に響かせる。

 

『それではいよいよ、モバイルスーツの全世界初、起動デモンストレーションを始めまーす!』

 

『おおおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

『キャーッ!!』

 

 先程までの心配はどこへか、会場に集まっていた同級生男子女子共に一斉に声を上げて盛り上げる。すると、そのタイミングで一番前にいたはずの道治がこちらに戻ってきていた。

 もうすぐ起動だっていうのに、珍しいと思っていたところで道治がガッ!っと元の肩を掴む。

 

「うぉっ。どうした、道治?」

 

 どうしたのかと聞くと、俯けた顔を一気に上げて叫ぶ。

 

「ヒョーっ!!サイッコウだぜ、あのツィーランとかいう科学者さん!!」

 

 いきなりの奇声とも言える大声に目を閉じてしまう。どうやら興奮してその喜びを伝えるために戻ってきたようだ。

 そのまま道治は続ける。

 

「確かに兵器は危険だけど、皮肉にも人は武器を使って歴史を築いてきたんだ!でも、人はその取扱いという面では武器・兵器の開発・発展スピードに思考が追いついていない人がいる……。けど!開発者の言葉から分かる……これは行ける!もしかするとモバイルスーツは人の歴史を大きく動かすかもしれないっ!……まぁ、流石にグレネード積んでるっていうのには驚いたけどな……」

 

「そ、そうか」

 

 勢いよくそう語る道治にタジタジとなってしまう。何だかんだいって、道治も昔の性格のままなんだな、と思った。とはいえ、そのうちモバイルスーツの最初のパイロットとかに志願しそうな気もしない。あんまりやってほしくはないと思うけど。というか、果たして一体化しても機敏に動けるのだろうか。

 

「とにかく、和氏も前に行こうぜ!平氏と海氏にも声かけて、もう前に行ってもらってるからな!」

 

「分かったって……そんなに引っ張るな」

 

 まるで新しいおもちゃを買ってもらい、早く家に帰ろうとする子供のように腕を引っ張る道治に返答しながら、元は人混みの中を抜けていく。

 途中、人にもぶつかり、謝るうちに何とか前に到着する。既に平次と海斗はスマホのカメラでモバイルスーツの方の写真を撮っていた。

 

「お、元見つかったか」

 

「2人とも、もう前にいたんだな」

 

「まぁ、可能性は低いけど、俺達がこれに関わる可能性がないとも言えなさそうだからね。……大部分は道治が原因だけど」

 

 海斗の表情を見て察する。道治に連れてこられたようだ。一方の道治は既にスマホのカメラ撮影を再開させていた。

 

「あ……元君」

 

 左に顔を向けていると、後方からついさっきも聞いたことのある声が聞こえる。そちらを向き、少し視線を落とすと深絵もまたこの場にいた。

 

「蒼梨か。お前もこれを見たくて?」

 

「あ、いや……前に押し出されて行って、気づいたらここに……」

 

 何とも切なくなる発言だ。もしかすると、後ろの方にはここで見たいという人もいるかもしれないが故に、偶然来てしまった彼女にとっては不幸とも言うべきなのだろう。

 状況的には彼女の知り合いは自分以外誰もいない状況だ。道治が隣なのが心配だが、元は深絵に一緒にいるように提案する。

 

「……ここから後ろに行くのも大変だし、とりあえず終わるまで俺といるか?」

 

「えっ……!?あ、うん……いて、欲しい」

 

 顔が火照りつつも、深絵は元の横にくっつくように服の袖を握る。普通は羞恥を覚えるのだろう。いつもの元なら、いくら反応が薄くてもこの状況は少し恥ずかしい。しかし、元の意識はほぼモバイルスーツの方に向けられていた。

 人が機体にデータとして憑依し、動かす。つまり、今既にあの中には誰かがいるということなのだろうか。ちょうどいいタイミングで光姫が操縦者について明かす。

 

『ちなみに、今回モバイルスーツの運用をするのは、私の妹、鈴川夢乃(すずかわ ゆめの)よ』

 

『いぇい!よろしくお願いします!先輩方っ!!』

 

 意外な人物と言えば、意外だった。夢乃はよく知っていたが、彼女がモバイルスーツの装着者だったとは考え付かなかった。もしかすると、博士の先程の言葉を証明するのかもしれない。

 そして、いよいよモバイルスーツのその時は来た。

 

『では、ご覧ください。私達の未来を照らす、新たなマシーン……モバイルスーツの目覚めの息吹を!!』

 

 光姫の声と共に機材の前で待機していた研究員と思われる人々がキーボードを叩いていく。それらの音が収まると同時に、モバイルスーツから金属の重低音が響く。やがて機体の背面か灰色の粒子が溢れ出る。

 それはまるで雪に色が付いたような、けれど、放出された先でパソコンの画面がバグでおかしく表示されたような光景を所々で見せる。粒子とは言ったが、元としては塵……ノイズ、とでもいうような光景に見え――――。

 

 だが、モバイルスーツがちょうど手を握り、腰だめに力を入れるポーズを取ったその時である。右側の方から騒ぎが起こる。

 

「ちょ……下がって!」

 

「うるせぇ!!どけっ!!」

 

 その声に咄嗟に深絵をこちらに抱き寄せる。深絵はいきなりの事で動揺するも、ただ事ではない騒ぎに気を取られ、元はそれに気づかない。

 見ると、男が警備員を殴り倒して、機材の方へと向かっていく。一方ステージ上でも来賓らが別の場所からステージを降りたり、ステージ後方に下がっていた。そして光姫もまた黎人に庇われる様にして男との距離を取る。しかし、その様子が元には何か引っかかった。すぐにその理由が分かる。

 

「まったく……相変わらず、僕の嫁を追いかけまわすようだね。君は」

 

「あぁ?あいつが悪いんだろうが!俺のすべてを失った原因の、その女をこっちによこしやがれ!」

 

 追いかけまわす、あいつが悪い、全てを失った……。あまり想像したくはないが、おそらくあの男はストーカーだろう。それも、光姫の。正直、光姫がストーカーに狙われるという状況自体、信じられなかった。

 ストーカーに狙われる姉を守るべく、夢乃がストーカー犯の前に出る。

 

『悪いけど、お姉ちゃん達は私が守るよ!ついでに、このモバイルスーツの力を見せちゃう!!』

 

 手を反対の手の平に打ち付け、金属音を鳴らす夢乃。普通に対峙するのであれば、誰もが止める光景だが、今、彼女はモバイルスーツを纏っている。この状況なら、問題ないだろう。元もそう思って状況を見る。

 しかし、その考えは裏切られてしまうこととなる。ストーカー男は奇妙な笑い声を上げる。

 

「……っくはっはっ!甘ぇなぁ……そんなの俺は超えられるんだよ!こいつでよぉ!!」

 

「あれは……」

 

 それは1本のUSBメモリであった。黒い色の、如何にもここで出すと怪しそうな、嫌な予感のするメモリだ。その予想通り男がメモリを機材に差す。一瞬の事で、警備員や研究員たちが全力で止めようとした。しかし、男は向かってくる者達を素手で押し留めた。

 周りからも不安な声が漏れてくる。そして、面白がってか警備員に助太刀するように同級生の男子達が壇上に登り始めた時である。

 

『うぇ……?っあ!!』

 

モバイルスーツが突如として飛び上がる。最初は警備員達に加勢しようと飛び込んだのだろうと思った。だが、その着地点は警備員たちが必死に抑え込む男にではなく―――。

 

「……え、うごあっ!?」

 

 壇上に登ろうとしていた、同級生の男性の頭に、拳をぶつけたのだ。殴られた男性の頭から鈍い音が走る。男性は倒れ、頭からは血が流れだす。それが引き金となり、一気に参加者達の恐怖の感情が決壊する。

 

『きゃぁぁぁぁぁ!!?』

 

『うわぉぁぁぁぁ!?』

 

 絶叫と共に観客エリアに居た参加者達がその場から逃げようとする。だが、後ろで見ていてまだ状況が理解できていない、一部のやじ馬らが前に行こうとしているせいで衝突、そして人の波が瞬く間に元達をも飲み込む。

 

「きゃっ!は、元……く」

 

「蒼梨!……っく、はぐれた……」

 

 離すまいと深絵の腕を掴んでいた元だったが、人ごみに押され離れ離れになってしまう。丁度深絵はステージの方に押されて行ってしまったため、元の背筋に冷たいものが走る。

 そんな中、後ろから肩を掴む者がいた。振り返ると、その主が海斗であることを知る。

 

「元、大丈夫か!」

 

「海斗……みんなは」

 

 そう聞くと、首を振る。どうやら、あちらも完全にはぐれてしまったようだった。海斗は肩を掴んでここから退避するように言う。

 

「けど、あいつら、特に道治なら大丈夫なはずだと思う。きっと出口の方に居るはずだ。とにかく、俺達も下がろう」

 

「あぁ。けど、まだあの奥に蒼梨が……」

 

「な、助けに行くっていうのか!?あの中に!?ダメだ」

 

 海斗に無茶をいっているのは、元自身よく分かっていた。俺が逆の立場であったなら、間違いなくそう言っているだろう。けれど……この状況下でフラッシュバックした「あの悲劇」の光景を見た時点で、もはや答えは決まっていた。

 

 

「……悪い。けどもう、俺の知り合いが死ぬのなんて…………まっぴらだ」

 

 

 その手を振り払い、元は海斗の制止に応えることなく人混みの中をすり抜けていった。

 

 

 

 

「……いたっ。蒼梨」

 

 叫び声と金属の重みのある音が飛び交う中、人混みの中で元は深絵の姿を確認する。うずくまるようにへたり込む深絵に素早く駆け寄る。その手に肩を置くと蒼梨はビクッと体を震わせてから、元の方を見る。

 

「は、元、君……」

 

「大丈夫か、逃げるぞ」

 

 深絵にそう声をかける。存外、思っていたよりも暴走するモバイルスーツに近い位置に深絵はいた。すぐ近くでは未だに辺りを破壊し、止めようとする人に襲い掛かるモバイルスーツが暴れていた。加えて、その中に憑依している夢乃の悲鳴も聞こえる。

 

『ひやっ……いやぁぁぁぁぁっっ!!』

 

 自分が望まない破壊を行う。それがどれほど苦しいことか。一方、深絵の方は元の言葉に首を横にブルブルさせる。

 

「だ、ダメ……上手く、立てない……っ!!」

 

 完全に足がすくんでしまったようだ。後方では、研究者達が躍起になって暴走を止めようとしてくれているが、それでも危険すぎる。元は深絵の手を掴み、合図をする。

 

「蒼梨、立つぞ。せーの」

 

「あっ……っつと!」

 

 何とか立ち上がるもふらふらとする蒼梨の体を支える。そして、そのまま手で押すように走り出す。

 その時である。機械の駆動音が収まるような音と共に、研究者達の声が響く。

 

「よし、止まったぞ!!」

 

 その言葉に、はっとなる。蒼梨の背中から手を放して振り返ると、無事機動を停止したモバイルスーツの姿があった。

 その手はまるでこちらに助けを求めるかのように手を伸ばしていた。夢乃も必死だったのだろう。ともかく、これで助か……。

 

 

 

 

「―――――え」

 

 

 

 

 瞬間、少し上の方で光が走る。そして、元が見上げた先で目視したのは、手榴弾形状の物だった。

 そして、それが炸裂すると同時に、元はその光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元世界に存在する世界の1つ、竜と機械の2つの種族が住む世界「マキナ・ドランディア」。この世界では、数百年に続く、両種族の争いが起きていた。どちらも戦争を早期に終結させるべく、様々な策を講じている。その一環として、両国各地に点在する、「とある伝説」にまつわる遺跡を調べていた。

 その伝説にて現れた「救世主」。その力を借りて、勝利を掴もうという考えはもはや幼稚であってもどちらの種族にとっても大打撃を与えられる策であった。そして、この問題に解決すべく、各国の考古学者達は自国の様々な遺跡に派遣・調査されていた。

 

「ふぃ~……戦争はまだ終わらんみたいって……なぜここまで愚かかねぇ」

 

 この考古学ロボット「ワルト」もそのうちの1人……いや、1体であった。彼の国…「機械の種族」治める国「マキナス」の人類は現在アンドロイドが大半で彼のような見るからにロボット、というのは珍しい。それ故、同族からも少し嫌悪されていたが、彼は自身の力をフルに使い、こうして考古学を中心に現在活動している。

 彼は戦争が嫌いだった。そして創世記に伝わる「救世主」をとても尊敬していた。彼がこのバカげているような計画に参加したのも、ひとえにそれが理由だ。しかし、なかなか手がかりが見つからないので、こうして夜も見回りついでに調べているというわけだ。

 だが、そう簡単には見つからない……といつも通りと思った矢先、遺跡の入り口に影を認める。

 

「ん?あれは……」

 

 カメラアイを凝らしてみる。すると、それは人であることを知る。しかも倒れているので、慌てて駆けつける。

 

「な、なんじゃ、どうして人がこんなところに……!?しかも、服も大分汚れとるみたいじゃし……」

 

 その人物は男性で、スーツスタイルの服装、そして周りの光を簡単に反射して輝きそうな銀色の髪の毛をしていた。だがその服は至る所がボロボロであり、身体にも浅いものの、やけどの傷が出来ているのが分かった。

 ともかく、早く手当てをとワルトはすぐさまラボの方まで運ぶ。

 

 

 

 

「これでよし、と。……けど、こいつ機械族じゃないのか……竜人族……いや、しかしそうっぽくないしの……」

 

 手当てを終え、考え込むワルト。手当てをしたとき、彼の体が明らかに機人族の物とは違ったためである。血や傷口、そして生体反応など、機人族の物とは完全には一致しなかった。そこで、敵国の「ドラグディア」……竜人族を疑ったのだが、それらのデータと照らし合わせてみても合致することはなかったのだ。

 丁度50%程での一致は不可解さを感じる。と、そこでワルトはあるものに気づいた。それは彼がしていたベルトであった。

 

「……ンン?これは……ハッ!?」

 

 よく見て気づく。それはかつて救世主がその身に付けていたとされるもの。この世界で戦争の中心となっている機動兵器「モビルスーツ」を装着するための装置「スターター」のオリジナル、それによく似ていた。

 一瞬、模倣品かとも思った。だが、先程の手当ての際に調べたものが回路に走り、とある結論を出す。

 

「まさか……彼が、救世主……!?」

 

 本当かどうかは分からない。だが、それはワルトにとって目の前に現れた、自分の望みを叶えてくれる一筋の希望だった。それは彼自身の欲望……自分が救世主となるという野心に火をつけるには十分だった。

 ワルトはすぐさま準備に取り掛かった。彼が本当に救世主(ガンダム)なのか、自分の望みを叶えてくれる希望なのか。それを確かめるために。

 

 

 

 

 

 

 その夜更け頃である。ワルトのラボが大爆発を起こしたのは。爆炎がラボを飲み込む、そんな中から1つの影が上空に飛び出す。夜の帳に怪しく光る2つの「目」と月明りを反射させるV字型の頭部アンテナ。背部から吹き上がる、蒼炎とも言える蒼い粒子とそれを放出させる異形の翼を持つ、夜の闇に溶け込むような黒い機人。

 見届けるかのように静止していたその機動兵器は、しばらくしたのち、その場から飛び去った。そうして、始まりの夜は明け、全てが始まったのである。

 

 

NEXT EPISODE

 




 今回もお読みいただき、ありがとうございます。以前と違って、少し予定投稿がしずらい状況ですので、次回投稿などは今作ではしない予定です。

 プロローグ最後の飛翔するガンダム……果たしてどうなっていくのでしょうか?あ、ちなみに主人公の黒和元に関してですが、銀髪に変わっていますが、転生ではなく「順応」という設定になっています。何に「順応」しているかは、まだ明かせませんが。
 他にも、いきなり異世界に移っている点については、前作「SSR」の影響も少なからず受けているためです。異世界突然転移好きやな、私。( ゚Д゚)

 では次回から第1部、第1章ことLEVEL1、スタートしていくので、お楽しみに!!

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