レイ「模擬戦、あと少しで宗司君達勝ったんだけどなぁ。でも勝ちでいいのかな、これ」
ジャンヌ「そこら辺は今回の元さんの話で分かりそうですが、でもブラックアウトはオース側も想定外のようで果たして……」
というわけで本編です。どうぞ。
「違う……というと原因が分かっているんですか?」
「あぁ。もっともその認識は間違いだ。これは俺達があらかじめ機体のデータに仕組んでいた「フラグ」とでもいうべきものだ」
「フラグ……仕掛けた?」
原因を探ろうとしていた正達に俺はそう言った。システムが落ちたのは他でもない、渡した機体のシミュレーション空間用データに盛り込んでいたものだ。
発動条件について言及する。
「相模宗司とエターナ・ファーフニル、ガンダムDNアーバレストの二人が一定の練度に達した時に機能を拡張させる「フラグシステム」だ。ブラックボックスとして組み込ませる様にしていたから、それが起動すると同時に現行状態の機体情報を読みこんだシミュレーターでは目印と機密保持の為にフリーズするようになっている」
「な、なんてものを仕掛けているんですか!?こちらのシステムに障害が起きでもしたら……」
「そうならないようにはしている。ちゃんとデータは取れているはず」
「そうじゃないです!勝手にシステムの書き換えが行われるなんて……そんな」
何かと怒りたい彼の気持ちには同情する。が、「そういうもの」なのだから仕方がない。もっともそのシステムを提案した本人は他でもない自分なのだが。
正もそうだったが、それよりも宗司達からもこの結果に対して物申してくる。
「あの、それでこれはやり直しってことですか?勝ったわけじゃないでしょうに」
「そーよ!あんた最初っから勝たせる気なかったってこと!?」
「同感だな。そんな卑怯な手をあんたは使うのかよ!?」
三人は憤慨する。だがそれに関しては最初から考慮していた。
「まさか。合格だよ」
「えっ……」
「合格だ。お前らはちゃんとそれぞれで連携を取った。そして宗司とエターナはお互いの連携を高めて、次のステージに進んだ。何ならシステムのシャットダウンになるほどの状況を引き出したイコール勝ちってことでもある」
勝ちの判定をそのように解釈し、説明する。
元々このタイミングでガンダムDNは次の段階へ行ってほしいとは思っていた。特にアーバレストは宗司とエターナ、二人の心の壁を取り払う必要があった。二人に、特にエターナに足りていないのは他者を認める気持ち。
それを解消するために同じく他人との距離感を調整しづらい進を利用した。彼の問題は昨日の時点で正から聞いていた。壁もある程度取り払えれば連携にもつなぎやすい。そう考えた。
結果はこの通り、予想的中となったわけだ。ジャンヌが元に代わり証拠を示す。
「モニターで見る限り、あなた達の連携は見事なまでに改善されています。戦った正さんも、そうですよね?」
「まぁ……そうですね。進がここまで初対面の人と連携が取れるようになっているのは、驚くべきことです」
納得しがたい様子を見せるも、その成果に頷く正。面倒な事はなるべく一気に解決させたい、それが人の本能だろう。
それ以上は正も追及するのをやめ、解放されたシステムの概要について訊いてくる。
「それで、解放されたのならそのシステムを含めた模擬戦が必要なのでは?」
「それも必要なのかよ!?」
「はぁ~?じゃあシステムシャットダウンするプログラム必要なかったじゃない!」
「いや、それはしない」
「はぁっ!?何でっ?」
更なる訓練の必要性を俺は否定する。一番に反応したエターナに始まる驚きの伝播。俺はその理由を説く。
「フラグによって解放される機能は、いずれも他勢力のシミュレーターでは十全に機能しない。どの組織にも流通していない技術なんだからな。一昼夜ですべて再現は出来ない。出来るとしたら形状変化のみ。そもそもシステムが落ちるのもその変化を無理矢理受け入れようとした結果オーバーロードを起こして完全にお釈迦になる前にデータ側からシャットアウトしているに過ぎない」
「ある意味の技術漏えい、本当に最悪のシステムダウンを防ぐためのセーフティな意味合いもあると?」
「そういうことだ。最初からそう言っている。やるならうちの艦のシミュレーターだろうが……それでも今の模擬戦でその必要はないと判断している」
先程までの戦闘とは違い、相手に動きを合わせるということを意識してから一発でフラグを達成した。それだけでなく先程の一戦では正を一方的に押す展開を見せた。実力は今のままでも十分。連携もやろうと思えば出来る。そしてそのわだかまりは既にない、はず。
それらを加味して、やるべきことは一つ。元は模擬戦に参加した3人にすべきことを示す。
「お前達がこれからするのは、新しいシステムの体感と情報共有。船に戻ってからのコミュニケーションも欠かすな」
「まぁ、早い話がチームワーク、コミュニケーション能力を付けろ、というわけです」
「いや、姉様端折り過ぎ」
「これも訓練、ってことですか」
「何か子供っぽいな……」
「それ」
各々からはあまりしっくりと来ていないようだが、重要であるということを重ねて示す。
「子どもっぽくて結構。子どもにも出来ることが原因で負けたら恥ずかしいのはお前達だがな。今後それで問題を起こされても困るし」
「元さんの意見は間違いないですね。進には日ごろから常々言っていると思うが」
「はいはい分かったよ、明隊長!」
納得を得たのを確認してこの模擬戦終了を言い渡す。
「これでこの模擬戦を終了とする。協力してくれたオース技術部、並びにオース軍影義明隊長に礼」
「ありがとうございました」
「英雄って呼ばれるだけあったわね」
「こらエターナ」
それらを受けて正から明へと戻った彼が発言する。
「あぁ。こちらの隊員の成長に一役買ってくれたことに感謝します。それとくれぐれももう一つの名前の方は内密に」
「分かりました」
「こちらでの報告書も、影義さん名義で報告を上げておきますね」
「助かります」
こうして明日へと向けた主となる準備は終了したのだった。
◆
明と進達に見送られて艦へと戻った宗司達。艦の機体ハンガーへと顔を出す。先に戻っていた面々と挨拶を済ますとGチームの面々が集まってくる。
「あ、元隊長さんとジャンヌ副隊長さん、宗司君とエターナちゃんも」
「ただいま戻りましたクルスさん」
「あれ、あんたの相棒は?」
エターナがクルスといるはずのもう一人について問う。するとクルスは遠慮しがちに指を整備ハンガーの脇を指す。
「あー……あそこでみっちりと、ですね」
「みっちり?って、あ」
エターナと視線をその先に合わせて事情を察する声を出す宗司。目の先にはシミュレーターの傍でグロッキー状態になっている入嶋、それを見下げている呉川とクルツの姿がある。
元達に気づいた呉川達が声を掛ける。
「元隊長、ジャンヌ副長お疲れ様です。宗司達の方は……」
「セカンドステージ突破、と言ったところだ。上出来だとは思っている。そっちは」
元隊長はこちらの状況をそのように告げた。千恵里の方は何をしていたのか、呉川は返答する。
「中距離戦闘におけるイロハは教えてシミュレーター上で実践させました。やはり隊長よりも私の戦い方の方がまだよさそうですね」
「そうか。昨日の時点で紫音艦長から提案があったが、そうして正解だったわけだ」
「あぁ、昨日の話の奴か」
「昨日の?」
エターナに対し訊き返す。そのエターナによれば、どうやら入嶋の育成方針の話らしい。艦長が昨日の模擬戦のデータを見たらしく、元隊長の動きをトレースして無理に再現しようとする彼女のやり方ではよくないと判断。そこで基本の戦闘スタイルが比較的近い呉川隊長に指南を付けてもらうことになったのだという。
エターナはその時のことについて振り返る。
「まぁ最後の方でクレカワに指導してもらうってことはイリジマも了解してたし。けど私達のをやってる最中にこっちでやってたとはね」
「元隊長じゃなくて、呉川隊長が直接の指導者か。俺達と大体同じ時間やってたなら、これだけ疲れるのも納得かもしれないな。あれ、ならクルツさんは何をやっていたんです」
疲労困憊した理由について理解すると共に、クルツに対する疑問を新たに口にする。その内容について入嶋が枯れた声で感想を語る。
「だからって……色々ぶっこみ過ぎ……クルツ先輩はクルツ先輩で、私が護る護衛対象として設定……されてたのっ!」
「一応予測照準無し、カーソルロックしたら即撃つってルールだったんだけどな。千恵里が中々隊長の足止められずにいて、撃つ暇ホントなかったぜ」
「ぜぇったい、嘘!!撃てる時ありましたよね!?」
「普段だったら、な!」
「……こっちはこっちで、大変だったんだな……」
入嶋とクルツの揉めるのを眺める。その様子に呆れていた呉川隊長が宗司達に言ってくる。
「お前達も明日は本番だ。協力できることはやってやる。第2段階も発現したのなら訓練はここでしか今やれない。明日無事に帰還できるように、だ」
「呉川隊長は、あのシステムについて知っているんですか」
尋ねると、呉川は頷く。
「もちろん、全てではないが上官として知りえることは知っている。基礎の段階は任せろ」
「分かりました。ならすぐに」
やりましょう、と言おうとした時、エターナが待ったを掛ける。
「ちょちょ、ちょっと待ちなさいって!?さっき戦って帰ってきたばっかりなんだから、もう少し時間を置かせなさいよ!?」
「あぁ……確かに」
「流石に今すぐはな。なら20分後に開始する。シミュレーターのリミット解除の時間もあるだろうしな。構いませんか、隊長」
「お前に任せる」
訓練は休憩を挟んで行うこととなった。一目散に休憩スペースへと向かうエターナと今なおグロッキーな千恵里を抱えて追うクルス。
「ティータイムティータイムゥゥゥ!!」
「ほらっ、行くよ千恵里ちゃん!」
「うぅ……うん……」
「……」
そんな女子勢の背中を見つつゆっくりと追いかける宗司。閉ざした口、心の中で思案する。
(少し急ぎ過ぎているのか……俺)
逸る気持ちを反省して、気持ちを落ち着けながら休憩スペースへと向かう。
それもあってか、その後の訓練では落ち着いて動くことが出来た。もしそのままやっていたら、途中でギブアップしていたかもしれないと思うほど、DNアーバレストの新たな力は絶大だった。
本当に明日上手く使いこなせるのか、心配になるほどに……。
◆
オース遠征の二日目の夜。
既に未成年パイロット達がシミュレーターに疲れて眠りに就いたころ、艦の中央スペースでジャンヌと元は共にシミュレーターポッドを運用していた。
既に仮想空間に入り込んでいた二人。そこにガンダム機付長となっている来馬が通信で話す。
『これで後は、あなた達の機体だけね』
「そうですね、間に合わないかと思いました」
『いやぁ、ごめんね~この最終日直前まで調整掛かっちゃって』
来馬とそのようにやり取りをする。無論それは私達の機体、シュバルトゼロガンダム・ジェミニアスの調整の事。一日目でエターナに指摘されていた武装群の最終チェックと、同時に行われていたシミュレーターへのインストール時の反映の調整をずっと行ってくれていたのだ。
大変さについて元も語る。
『以前までのシュバルトゼロガンダムRⅡと違って、武装数がケタ違いだ。汎用性を極限まで高めた仕様のマルチ・スペースシステムの構築、感謝する』
『いいってこと。私としては、ちゃんと二人が無事に戻ってきてくれることだけが大事なんだから。……もう、光姫みたいな事がないように』
来馬の声が重くなる。ジャンヌも痛いほどよく分かる。誰もこの先欠けたくない。全員で生き残る。それがCROZE、もといHOWの第一目標に自然となっていた。
達成する為に努力は惜しまない。もっともそれで来馬が過労死されては困るのだが、それでも明日の任務の為に出来ることを今からでもやらなければならない。元が早速始めるようにと来馬へと命令する。
『早速始めてくれ。レベルはEX、敵機はあの三機だ』
『了解!シミュレート、アクティブ』
言ってシミュレーターの仮想空間が変化していく。フィールドは海岸線近く。空中で浮遊するシュバルトゼロガンダム・ジェミニアス。
HOWの最強の機体と対峙することになる機体が再現されていく。現れたのは蒼穹島のマークシリーズ、だがこれまでの量産型タイプではない。
これまでに幾度も対峙し続けた蒼穹島の最高戦力。超常の力を操り、RⅡが防戦に回らざるを得なかった機体。
白銀、紫、えんび色の機体を前に息を呑む。
「仮想空間の再現モデルとはいえ……威圧感は相変わらずですね」
『これまでシミュレートでも苦戦を強いられてきた相手だからな。だが、今回は』
三機が構える。こちらも戦闘態勢を取る。開始の合図を来馬が告げた。
『シミュレーション、スタート!』
『行くっ!』
シュバルトゼロガンダム・ジェミニアスが突撃する。迎撃を開始した三機。囲うように展開する三機に対して、まとめて対峙するこちら。
距離を詰めては離す。そして三機が一斉に砲撃して―――――
20分が経ち、模擬戦終了の合図が響いた。
『こ、これは……』
「す、すごい……ですっ」
驚嘆するジャンヌと来馬。シミュレーション空間には煙を上げて沈黙したあの三機の姿があった。
RⅡを遥かに凌ぐ力はジャンヌも相応に疲労させられていた。それでもそれを吹っ飛ばすほどにこの結果は嬉しいものだった。
ところが、元はそれに完全に満足したわけではなかった。
『いや、まだ満足できるものじゃない』
「元?」
『確かにあの三機を倒すことは出来た。だがそれはあくまで逃げることのない、ましてや機械で再現したモノ。本物かつ、本来のパイロット達を相手に出来るかどうか、不安が残る』
言われてぐうの音も出ない。もしもではあっても、データを取った時よりも今は強くなっていることは違いない。今のシュバルトゼロガンダム・ジェミニアスはまだ彼らの「異常」な領域に達していない。
異常な領域、かつてのシュバルトゼロガンダム、イグナイターが到達したあの領域。既存のMSを越えた物理現象を展開する機体、それをHOWでは「超次元領域機体」、「DMS」と呼んでいた。
それが敵にある現状、シュバルトゼロガンダム・イグナイターが抜けた穴をどうにかする側面をジェミニアス開発計画は持っていた。今回勝てたと言っても所詮はシミュレーション。現実のあれに勝てなければ意味がないと元は思っているのだろう。
『まぁその気持ちは分からないでもないけどね。今のシュバルトゼロガンダム・ジェミニアスはまだ本気じゃない。だけど今はそれで我慢してよね?開発は進んでるから』
そんな元に対し、来馬もその不満げな態度を窘める発言をする。来馬の意見に元もまた頷いた。
『そうだな。焦り過ぎ、か』
「そうですよっ。私としては、前の時よりも負担が軽い状態で勝てたのは嬉しいんですから」
『それは、よかった』
私の言葉に元は少しだけ笑う。ともあれこれでこちらの準備は整ったわけだ。シミュレーターから出て、元は確認を取る。
「この後来馬達は実機の最終調整だな」
「そうだね。徹夜で仕上げるから、明日ちゃんとやってよ?」
「分かっている。この国家、そして日本政府の望む未来の為に。任務終了後にゆっくり休んでくれ。無理はし過ぎるなよ」
「その時はジャンヌちゃんの髪モフモフで!」
「はぁ。分かりました。考えておきます」
「やったぁ!」
そんな子どものようなやり取りを経て、来馬は整備員達と共に最後の調整作業へと向かっていく。
それを見送ってジャンヌ達もまた自室へと戻る。戻る中で元に聞いた。
「この任務の成功が、今後のこの国を左右する。それは分かっていますよね?」
「あぁ。そしてそれが、どちらにしても主権派にとっていいものではないこともな」
返答に返事を曇らせる。最初に仕事をもらった時に聞いた「あれ」。二年前の戦闘に関わったジャンヌ達にとっては複雑なものだった。
ところが元はそうでもなかった。
「だが俺としては、それは必要なことだ。この疑似国家が作られた意味。原点に還るだけのこと。それを聞いて、どう行動するかがあいつらに求められる。二年前、役割から逃げた「代償」を払ってもらう」
「代償」は払うべきもの。それを払うのは……。
ジャンヌは思う。元の、政府が言うことは間違っていない。どうするかは今のオース国家が決めること。
なぜこの合同任務が受領されたのか。あの事件以後島の運営に政府が干渉しなかった訳。あくまで自分達は「使者」でしかないのだ。
それは明日、作戦終了後に明らかになることだ。それを、「彼ら」はどう思うのか。薄情者と糾弾されるかもしれない。だけどそれは必要なことだと分かっている。だから私も彼と共に決めた。この作戦の遂行を。
私は従者にしてパートナー、そして恋人である彼に呟く。
「それが例え、かつての戦友でも」
「あぁ。その道を、俺達は選んでいる。厄介事を招いたツケは、払ってもらうさ。俺達がそうさせる」
私達はもうあの頃とは違う。仏の顔も三度まで。三度目が無いように、動くだけだから。
部屋に帰ってシャワーを浴びたジャンヌは、明日の為にジェミニアスの追加事項を読みこんでから早めに就寝した。
NEXT EPISODE
EP26はここまでです。
ジャンヌ「うぅーん……やや強引さは相変わらずですね、元さん」
レイ「ほんとだよ。情報漏えい防ぐ為っていうのでも、システムの管理者さん達には言っておいても、ねぇ?」
ぶっちゃけ言っても良かったんでしょうけど、元君はそれ以外の事で頭がいっぱいになっていたのかもしれないけどね。後半で言ってたでしょう。
レイ「あーなんかツケを払わせるとか。え、何か明日那さんとか元君達に貸しをしてるの?」
明日那さん、は三角かな。まだその理由は明かしていないから見ても分からないと思う
。とはいえ次回以降からその要素、この島で起こる事件の原因を明かしていくから、予想してもらえれば、読者さんもね。
ジャンヌ「まぁ、何かやらかしている程度に見てくださいってことです?」
端折るとそういうこと。というわけで次回へと続いていきます。いよいよ終盤、事件当日に時間が動いていきます。