ネイ「いよいよ作戦日当日というわけですが、はたして新人の皆さんは緊張していないでしょうか」
グリーフィア「そうよねー。宗司君はもっともだろうけど、案外千恵里ちゃんとかエターナちゃんとかが緊張してるってこともありえるかもだものねー」
というわけでどうぞ。
夜が明け、いよいよ決戦の日が訪れた。朝食を済ませ、ブリーフィングルームへと集まった隊員達に元が良く通る声で通達を行う。
「今回の作戦では事前に準備していたので分かっていると思うが部隊を二方面に分けての作戦だ。一つはこの基地に残って基地そのもの、そして本艦ヴァルプルギスを護る部隊。もう一つは現場の記念式典会場で式典参加者の防衛とゼロン関係者、美愛派を拘束する部隊だ」
初めはこれまでの振り返り。確認事項の再確認がメインだった。それらを聞いて続く元隊長の注意事項に耳を傾ける。
「分かっていると思うが作戦内容は厳守。つまり、美愛派とゼロン幹部の拘束は式典が始まってから、大守明日那氏が告発を行ってから動く。会場組は間違ってもその前の段階で動くなんてことするなよ、特に入嶋」
「な、何で私だけ名指しなんですか……やりそうなイメージあるかもですけど!」
憤慨しながらも自分がやるイメージであることは認める入嶋。失笑が周りで漏れるが、笑い事ではないと元隊長は咎める。
「笑い話で済めばいい。だがもし途中で動いた場合、十分な配置でない状態のゲリラ戦になる可能性が高い。混乱した中で、果たして敵を撃てるのか?」
「無理です無理です!元隊長達じゃないんですし」
「いや、流石に私達でも被害ゼロは無いですよ……」
「うぅ……そんな状況にならない様にします……」
無責任な発言だったと素直に反省し、縮こまる入嶋。
今の話でも分かったように、これはもう訓練ではない。現場であり、社会が動いていくその瞬間に自身がいることを強く痛感させられる。
果たして本番で自分の技量が生かせるのか。心配を感じながら続く隊長達の通達を聞く。
「それともう一つ。会場側と基地側双方ともに言えることだが、どんな事があっても狼狽えるな。新人達は特に、下手に動くことは禁じる。隊長達各位の指示に従え」
「私達の予測では敵はオース軍美愛派、それに島外からのゼロン部隊に加え、もう一つの勢力があると考えています」
「もう一つの、勢力……?」
今まで明かされなかった勢力があるという知らせに隊員クラスの者達がざわめく。宗司自身もなぜこのタイミングで明かすのか、戸惑いを感じる。
すると、それが今だからという理由を隊長達は語った。
「俺達が今まで接してきたオース軍明日那派、その中に、スパイがいると考えている」
「す、スパイっ!?」
「スパイが……」
スパイがいるかもしれないという隊長の言葉に動揺が走った。
あの中に、敵と内通しているスパイがいる。信じたくはない。もしかすると昨日行動を共にした大和輝も……。
不安が高まる中、ジャンヌ副隊長が現時点での情報を上げる。
「もとから、オース政府からはその可能性もあると事前通達がありました。ただ、私達、そして光巴さんのDNL能力を以てしても、裏切り者が誰かまでは分かりませんでした」
「姉様の力でもダメなんて……」
「DNLの力はエスパーじゃないから。練度によってはこちらの感知する感情・思考をコントロールされることもあります。エターナもそれを学んでいく必要がありますよ」
「は、はい……」
DNLは万能の力ではない。そう語るエターナの姉ジャンヌ。この短い間に宗司は機体の「あのシステム」を通してDNLを体感した。
DNLの力、あの力は異次元と呼べるものだった。攻撃に対して肌がぞわっと感じるそれが、脳への刺激として来るような感覚。これまでとは違うものを感じられる。これまで言いようのなかった「悪寒」と呼べるものが、本当はその感覚を示すものではないかと思うほどに。そう言う意味では次元世界の「カミ」なんてものを信じ奉る彼らが、神の力と妄想するのも頷ける。戦闘において絶対の力だと思ってしまう。
だからと言って、その彼らの行動を認めるなんてことは出来ない。宗司は昨日知った。シミュレーターから出てきたエターナが、いつもよりも疲弊していたことを。
ジャンヌ副隊長によれば、それは自身と感覚共有したことによる疲れなのだという。その時、ジャンヌ副隊長から言われた。
(彼女をパートナーとして見るか、それともパーツとして見るか。それがアーバレストの力を引き出すのに重要な要素であり、私達HOWとゼロンの違いです)
(パートナーか、パーツ。そんなもの……)
比べるまでもない。力を貸してくれている彼女を道具としてなんて見られない。
と、思惟を巡らせたのち、元隊長が裏切り者関連でもう一つ情報を出した。
「確かに裏切り者はあぶりだせなかった。しかし、現状絶対にそうではないという人物は分かっている。一人は影義明、そして、もう一人は……大和進だ」
「あの二人は、敵じゃない」
その二人はまさに昨日訓練を共に行った二人だ。あの二人が敵じゃないと分かっただけでも、宗司としては随分と安心感を覚える。
同じくエターナも隣で胸をなでおろす。
「へぇ……分かってて昨日訓練したってわけね」
「でも、どうして彼らがそうでないと分かったんです?」
素朴な疑問をクルスが投げかける。疑問に対しジャンヌ副隊長が答えた。
「それに関してはまさにDNLでですね」
「相模宗司、並びにエターナ・ファーフニル両名が彼らと模擬戦を行っている最中、探りを入れていた」
「あの時感じた不快感それか!」
大きく声を上げたエターナ。どうやら彼女はその時の事を知っていたらしい。
ところがそれは失言だった。特に彼女にとっては大きな。
「あらぁ、私のDNLを不快感と、ねぇ」
「あ、いや!違います、違うの姉様!あいつだけだから!」
姉に対し必死に弁明するエターナ。それに対し反応を面白く観察するジャンヌ副隊長はからかいの後、元隊長と共に真面目な話に戻った。
「ただ、これも彼らの前では伏せておくこと。いつどこにスパイが聞いているとも限りませんから」
「不用意に確認はするな。最後に注意事項の確認としてこの事件の最重要ターゲット二人は生け捕りにする。オース側と日本政府側、双方からのオーダーだ。それでは、各員持ち場に付け」
『了解!』
号令と共に各部隊は持ち場へと急ぐ。宗司は部隊長である呉川の下へと集まる。
「今回の任務、新人組はなるべく味方のアシストを優先しろ。アーバレストも解放した新機能はなるべく使うな。危険と思った時はすぐに使って危機回避に努めろ」
「使わないのか使うのか、どっちなのよ……」
「どっちもだ。それと今さらだが人を撃つことに嫌悪感があるならすぐ言え。足手まといは今回不要だ」
「そんなの、心配無用です!」
「私はもう何人も殺してきましたから……慣れてます」
「了解。今のところは大丈夫です」
呉川隊長からの言葉にそのように応える。
いよいよ持ち場への移動の開始、と言う所で元隊長に呼び止められる。
「チームG、悪いが時間をもらえるか」
「元隊長。私は構いませんが、何か特筆することが?」
「あぁ。特に新人組にな。知っておかなければ、致命的になるかもしれないことだ。」
そのように話す元隊長。指示に従ってその話を聞く姿勢を保つ。元隊長が話し出す。
「オースという国の、25歳以下の人間はみな、普通の生まれではない」
あまりに突飛な話題の始め方だった。
◆
「普通の生まれ……って、どういうことです?」
「そのままの意味だ。彼らはとある部分を生まれる前に人為的操作をされて誕生している」
聞き返しても千恵里の頭にはあまりピンと来ない。そもそも人為的操作がどういうことかも分からない。薬で何か変化させているということならとんでもないことなのだが、それなら最初からそう言えばいいのではと思う。
だが感の鋭いクルスは、すぐにそれが何を指しているのか分かったようで、質問した。
「……まさか、遺伝子操作?」
「遺伝子操作?って穀物とかの遺伝子改良みたいな?」
「それの人間の赤ちゃん版だよ」
「人間の……って、それマッドサイエンティストの考え方じゃ!?」
流石に気づく。その違法性について元隊長がクルスの問いに返す形で話す。
「そうだ。遺伝子改造による人類の誕生は本来国際法で禁止されている。クローンと並ぶ人類化学史のタブー。日本でもそれは例外ではない。
しかし、25年前、そのタブーは破られることとなった。日本だけじゃない。世界同時に、な」
「せ、世界同時に……!?」
世界が一斉に破ったタブー。その言葉のスケールに戸惑いは隠せない。他の新人メンバーも目をキョロキョロと動かす。
「プロジェクト名、AS。人類の宇宙進出を目的に、宇宙空間に適応した新人類誕生を目的とした計画だ。それによって生まれたのが、彼ら、「コーディネイティア」なのさ」
「コーディネイティア……」
「人類の夢の為に、か。私達も宇宙開発が復活したけど、まだまだって言うのにね」
宗司が復唱する。エターナは自身の世界の宇宙開発に関して話す。本当にそんな計画があるなんて、知りもしなかった。知っていなかったということは、それはただ一つ。
私は二人の隊長に問いかけた。
「それを教えるって、いいんです?」
「これに関してはS級の情報統制がある。が、それを敵が知らないはずがない。突然それを敵の口から言われて、お前達は冷静でいられたか?」
「それは……」
「本番でお前達が驚きすぎないようにする。それだけお前達を目に掛けている、元隊長の考えだ」
口を閉ざす。そんな自信、あるわけがない。沈黙を言葉として出し、助けを求めるようにクルスに視線を向ける。
そんなクルスもまた謝罪と共に同意を示す。
「……すみません、でした」
「別に非難するのは勝手だ。ただ、この島は元々、そういう目的を持って作られた」
「ん?作られた?」
「この島は、いや、列島は地下で繋がっている。大きな船の上に今俺達は立っていることにもなる」
「はぁ!?」
何気ない質問がとんでもないことを明かすことになって、声を大にして叫んだエターナ。もちろん千恵里達もそれにただただ驚く。
「島が、船……」
「要塞……ってことですか?」
「そうなるな。3年前の戦争では地下を制圧されて乗っ取られたようなものだったんだ。奪還する為にまず一部の島の地下を制圧することになったんだからな」
そうして話すべきこと全てを明かした元隊長は四人を見渡して語る。
「もし、これで彼らに嫌悪感が生まれたのなら言え。そんな状況で作戦が上手くいく保証はないと思っている。そいつはこの艦で留守番だ。それでもそいつの感じた嫌という感情は決して間違いじゃない。けれど理解はしてほしい。彼らが生まれたのには、ちゃんと理由があるということを。彼らの役割を認め、共に立ち並ぶことを。お前達は、どうする」
再びの通告だった。すべてに納得したうえでしかこの作戦には参加できない、ということだった。しかも、その中に敵がいるかもしれない。状況は最悪だ。
私は……正直驚きはした。けれど思う。作った人が外道でも、作られた本人までもがそっくりそのまま外道なんかじゃない、かもしれない。進というあの生意気なパイロットも、ちゃんと宗司君達の力の解放に協力してくれたという。あの力を見て、ただならない力なのは分かる。それを解放するのに協力したパイロットの力を疑えはしない。なら自分も、認めていけるパイロットでありたい。
そんな最悪な状況でも自分の考えを持って、私は返答する。
「私は、一緒に戦います。確かに生意気な奴とかもいますけど、今は同じ目的を持った味方です!それに、昔深絵さんに言われましたから。味方だった敵を撃つこともある。それを覚悟して、今ここにいます。今更あいつがどんな生まれでもいいです」
千恵里に引き続き、宗司、エターナ、クルスも続く。
「俺もです。まだ敵が誰なのか分からなかったとしても、戦うべきはゼロンとそれに内通する敵ということでしょうから。それにその方が却って心強いって思います」
「敵意は私がすぐ知らせるわよ。私だってDNLなんだから、それをちょっとトロいあいつらに伝えることぐらいはしてやるっての。私だって生まれは違うようなもんだし」
「千恵里ちゃんだけだと心配ですから……二人で一緒にオース明日那派を支援します。同じ科学にいじられた者として立ちます」
参加志願を返答する一同。それらを受けた元隊長は一瞥し、息を吐いて言った。
「……分かった。なら言うことはない。現場では俺も警備に付く。それでも油断するな。俺は行っている」
「では呉川さん、彼らの引率お願いします。クルツさんもしっかりしてくださいね」
「了解です」
「お任せあれ、ってね」
元隊長達は先に部屋を出る。残った私達もそれに続いてブリーフィングルームを後にする。
スターターを懐に入れ、HOWの制服姿が気を引き締めさせる。これが私の、セカンドミッションだ。
◆
「本日はこの国の新たな一歩の為にお越しくださってありがとうございますわ、先生」
「先生とは……私は一科学者にしか過ぎないさ。ただ科学の面から人の最適な道を示すだけだ」
オース25周年式典の来賓控室。そこで来賓の一人と話す女性の姿があった。
その姿はかつてのオースの大事件、虚無戦争にて戦闘を終結に導いた大守里奈と同じ。しかし彼女は大守里奈ではない。
大守里奈と全く同じ顔に整形し、大守里奈の影武者として今も動き続ける女性、歌峰美愛。その彼女は今本土からやってきたゼロンの幹部と話し合っていたのだ。
美愛はその幹部、先生と称した人物へそんなことはないと語る。
「いえいえ、先生は先生ですわ。元々私達の学校の教員も兼任されていらっしゃった御方。そして、私の人生を示してくれたのですから」
「やれやれ……君の担任を受け持った覚えはないんだがね。それでもというのなら来るべき者拒まずだが」
美愛の熱心さに心折れるようにして呼称を認める男性。やや硬めの質感の黒と白のメッシュの長髪は女性的な印象も与える。
その男性はお茶請けに口を付けて、今日の予定について言及する。
「して、今日の式典。彼らは動くだろうね」
「えぇ。私という存在がありながら、「
これまでにも対立を繰り返し続けてきた、偽りの妹の大守明日那。その彼女に何度裏で誹りを受けていたのか美愛は知っていた。
辛かったそれも先生に会ってからは変わった。今日は逆にそれを示して、世界を「裏返させる」。先生が変えてくれる。
先生に対し美愛は資料を手渡す。明日那派に偽装した美愛派のスパイが入手した情報だ。先生はそれを見て笑みをこぼす。
「フフッ、そうか。これは何が何でも成功させなくてはね」
「あなたなら出来ますわ。是非、私もあなたの笠下に加えてくださいな先生。……いいえ」
美愛はその名を呼んだ。
「ゼロン化学部門最高幹部、「遺伝子の神官」ギルボード・デュランザメス様」
「あぁ。この国を変えて見せるさ。いや、変えなくては。私が、今度こそ、ね」
男、ギルボード・デュランザメスが余裕の笑みをこぼす。遺伝子の神官は既に道筋を見通していた。
NEXT EPISODE
EP27はここまでです。
ネイ「遺伝子改良された人間、っていう設定を、ここで言いますか……」
グリーフィア「唐突過ぎて宗司君達の理解追いついてるのか疑問なところだけど、どう、作者君?」
まぁ、前々から話しておくってのも手だったんでしょうね。それこそ作戦の通達があったあの時に言うべきかもしれません。けれどそれを言って彼らが疑いなく訓練を共に出来たかは分からない。それこそ宗司と進の二人の成功がなかったかもしれないとなると、ここかなと思ったわけです。
ネイ「あぁ……まぁなんとなくは」
グリーフィア「考え方次第ってわけね。それで相手方も黒幕来たわねぇ。ラスボスクラスの策士ってところかしら?」
現段階では小手調べと言ったところです。本気ならもっと大仰に攻め込んできてるんですから。
グリーフィア「ふぅん、でも正面からってのは色々異例よね」
ネイ「普通なら暗殺して混乱しているところをって感じもしますよね」
残念ながら暗殺のジョブはこの時点で別の人が回収しているんだよねぇ。暗殺イス位だけども、そこら辺はまた後々明かしていくってことで、次話に続きます。