ネイ「ほんわかな話、となっているはずが、いつの間にかまた重い話になっていそうですね」
グリーフィア「そうねぇ。誰も彼も背負いっぱなし。肩の荷を下ろさなくちゃ。そう言う意味では信也君はもうちょいね。元君は修正しないとだけど」
修正してくれる仲間、となるとマキナ・ドランディアの彼ですかね?と、それでは本編をどうぞ。
「じゃあ、今回のモニターはここまで。面倒くさいと思うが、後で施設の感想と改善点、気になることがあれば渡したペーパーを書いて宗司達に渡してくれ」
「参加してくださった方々とそのご学友の皆様、本日はありがとうございました。お送りしたいところですが、こちらの方も忙しくて……申し訳ありません」
施設のモニターを終え、着替え終わって集まった信也達に今回の感想についてと礼を述べる元隊長達。それらに対しすっかり気まずさも潜めた信也達も今回の件に重ね重ね感謝を言った。
「いえいえ、むしろこんな施設に招待してもらっちゃって、本当にありがとうございます」
「そうでごぜぇますね。これからも使えるってんですから、お礼は正式にオープンした施設を使うってぇことで」
「そうしてもらえると、こちらとしてもありがたい。もちろん、宗司達も学校に通っている間なら食事代以外は無料で使えるからな、温室仕様でもあるし、冬でも使える」
離している限りはもうあの事は引き摺っていないようだ。しっかりしていると思いながら返事をする。
「はい。そう言えば正式なオープンは8月からでしたっけ」
「あぁ。もっともその時期は移動する可能性もある」
「移動……あっ、あれですか」
「友直ぁ、それここで触れたらあかん奴とちゃう?」
友直さんの言及に智夜が指摘する。言われて友直さんもしまったという表情で訂正を行う。
「あっ、いや……その、あ、ははは……この場を切り抜ける方法……」
「友直、多分ないと思うぞ?」
「あう、信也さん……」
信也に指摘され落ち込んでしまう友直さん。流石にこれは隠しきれないだろうか。やれやれと元隊長がフォローに入った。
「あまり部外者に話すのもあれなんだけどな。実は8月に入る直前、HOWの作戦が入る。君の幼馴染である彼女達も自衛軍の側で協力してもらう立場にあるんだ」
「あー、なるほど。ってかそれを話すってお前……軍に向いてないんじゃ」
「言わないでください言わないでください……こんなんじゃ姉上に追いつけない……」
うわごとのように失敗を責める友直。それをまぁまぁと慰める紗彩。ちなみに友直のお姉さんは元自衛軍のパイロットとして活躍していたそうだが、今は実家のお役目を果たしているそうだ。自衛軍を抜けるなんて、と思っていたが、今となればそれも先程の信也の話と関係があるのではと思ってしまうが。
それに関しては詮索無用と元隊長が話を切り上げる。
「それによってはオープン時期がずれるって話だ。くれぐれも他言は無用。特に紗彩さん」
「うっ、まぁ、そうですね。実家には言いません……よぉ?」
目をそらしているのが不安要素だ。言いたいことを言い終えて、解散を告げる元隊長。
「じゃあこの夏休み、悔いのないように過ごせよ。大人になったらこんな楽しい時間ないんだから。暗くなる前に帰れよ」
「はい。では失礼します」
そう言って信也達が帰っていく。入嶋達と一緒にそれを見送る。やがて見えなくなってから、元隊長がこちらにも確認を行う。
「さっきも言ったが、今月末は三枝に建設されているゼロンの前線基地攻略任務がある。ゼロンでもそれに向けて軍の移動が見受けられる。おそらく、これまで戦ってきた奴らも集結するだろうな」
今まで戦ってきた相手。そこに含まれているのはオースから寝返った火葉零と水無月加子、それに石河で逃した真紅の流星の再現ハル・ハリヴァーだろう。後々の話によれば蒼穹島勢力もちょくちょく出ていたらしいのでそこも含まれる。
宗司にとってはハリヴァーが再び来るということにプレッシャーを感じる。あの時は白さんの手助けでどうなったが、もし戦うのだとしたらその時は一人で対処しなければならないのだろうか。
一方でもう片方の方にやる気を見せる人物もいた。そう、進だ。
かつての仲間だった人物の名前を呟く進。
「零……今度こそ、お前を止めて見せる」
「お兄ちゃん、あんまり生き急がないでよ?」
「分かってるって。でも、今度こそは……」
今度こそ、というのはやはりこの2か月の間、オースを裏切った火葉零と水無月加子のことだった。彼らの機体を戦場で見ることがなかったのが理由だ。
MSを強奪したのに戦場で使わない。それについて元隊長達上層部は機体を解析し、後発のMSに生かしているとの見解を示していた。
しかしそんなことは進には関係なく、早く会って止めたいという気持ちを滾らせていた。そんな矢先にこの作戦。進が作戦参加を志願しないわけがない。もっともそれだけが理由ではなかった。
真由がそれについて尋ねた。
「それで、うちの本国の方の協力は行けたんですか?」
「それに関してはオースの方も了承しました。久しぶりに進さん達のお話も聞きたいとのことでしたので」
「そっかー。輝さん達、心配してるかな」
この作戦にはオース政府も参加することになっていた。オース出身の彼らの養子縁組先の兄である大和輝さんも、フリーダムで参加する予定となっていた。
他にも様々な人物が参加し、迎えるという作戦。元隊長達はしっかりと準備を整えていた。大作戦という言葉を使って言う。
「ホリンダウン作戦以来のMSによる大作戦になる。俺も戦わなければいけない敵がいるから、全員のフォローには回れない」
「戦わなければ……それって、やっぱりあの白いガンダムと……」
入嶋からの質問。話題はやはり先月のあのガンダムについての事だった。白さんがハリヴァーを撃墜しようとした時、割って入った機体。その増加装甲が外れ、姿を現したシュバルトゼロに似たガンダム。
そのパイロットの名前も、元隊長と同じ「黒和」で真の黒和家の血を引く者と名乗った。それがどういうことなのか、宗司達はまだ隊長の口から聞いていない。
だが流石にこの状況となったからには、聞かなければいけない。隊長へと勇気を出して聞いてみる。
「あのガンダム、それを操るあの黒和神治って奴、元隊長は知っているんですか。アイツは」
「ソージ」
「……はぁ。言わなきゃいけない、だろうな。きっとそれは、お前達全員が疑問に思っている事だろう」
「じゃあ……」
聞き返した進に返答する形で元隊長は説明を了承した。
「あぁ。帰りながらになるが、話してやる。アイツの正体と、俺達のすべきこと」
「………………」
不安そうに見つめるジャンヌ副隊長。その背を向けつつ、帰途に就く中で俺達はその話を聞く。
「まず、ヴァイスインフィニットガンダムはシュバルトゼロガンダムと対となる機体。俺はそれを追いかけて、この世界に戻ってきた」
「理由は人質になっているお姉様の最愛の人、レイア・スターライトさんを救出するため」
元隊長の口からまず語られたのは、シュバルトゼロとヴァイスインフィニットの関係性とそこまでの経緯。そこにエターナが捕捉のように説明を付け足す。エターナのそれに姉のジャンヌ副隊長は苦言を呈する。
「エターナ、今元が説明を……」
「だってそうでしょ。お姉様はそのために付いて行って……」
しかし姉の言葉に耳を傾けず、エターナはそうだと言い張る。すると元隊長もそれを認める。
「まぁ、エターナの認識で今は良い」
「ほら、こいつだって」
「元っ!……まぁ、そうですけど」
納得したくないように思われながらも、ジャンヌ副隊長は言葉を飲み込むようにして引きさがった。
目に見えて不満があり、なおかつ納得がいかない様子だ。普段ならジャンヌ副隊長を元隊長が気遣うところだろうが、何故か元隊長は躊躇いの動作の後話に戻る。進の質問に答える。
「ジャンヌ副隊長の最愛の……って、恋人居たのか!え、じゃあなんで元隊長は」
「こらっ、お兄ちゃん今言うべきことじゃ!」
「デリカシーなさすぎ、進さん」
「何でだよ!?」
「補足しておくと、レイアは女性だ。ジャンヌにとっては特別な思い入れのある、友人以上の親友も超えて、心の支えだった女性だ」
明らかな地雷を踏み抜いて行った進に妹真由を含めた女子達からの非難轟々が刺さっていく。こちらから見てもやってはいけないことだと分かるが、何故踏み抜いて行ったのか。
元隊長からのフォロー、というより問題にしていない様子で批判を押し切ってそのまま話を進めていく。
「レイアを捕らえているのはシュバルトゼロやアーバレストでも核となっているエンゲージシステムによるものだ。これの対抗策は考えてあるから今回は説明を省く。それで、そのパイロットについてだが」
「っ、黒和神治……」
その名前に嫌でも反応する。一体、奴は何者なのか。ジャンヌ副隊長が未だに暗い表情なのは気になるが、今はキーマンと呼べる人物の詳細に耳を澄ませる。
元隊長がパイロットと自身との関係に言及する。
「一言言えば、弟だ」
「弟……っ」
単語を思わず復唱する。が、続いた入嶋の言葉で再び情報が混乱する。
「え、でも元さんって……妹さんとの兄妹だけじゃ……?」
「え?」
「あぁ。俺の肉親と呼べるのは、今HOWを離れて子育てに専念している妹の華穂だけだ」
元隊長も入嶋の言葉を肯定する。妹がいることも驚きだがそれ以上に二人だけの兄妹に弟がいるという意味は何なのか。
当然の疑問を続く元隊長の言葉が解決した。
「奴は、次元覇院に傾倒したうちの母親が引き取った養子だ」
養子。話を聞いて合点がいったクルーシアが推測される状況の確認を取る。
「養子……つまり、彼は勝手に黒和家の血を引き継いでいる、って言ってたと?」
「そういうことだ」
「そういう、ことですか」
事情が呑み込めた。相手はゼロン、出まかせを言うことも多々あると言われている。あの時撤退か進撃かで何やら揉めていた時も変な言葉が聞こえていたが、それが関係していた話でもあったのだ。
とはいえ、養子が勝手に後継者を名乗るのも異常事態だ。引き取った元隊長の両親は何を、と思ったところで先程の言葉を思い出す。
『奴は、次元覇院に傾倒したうちの母親が引き取った養子だ』
次元覇院に傾倒。かつてこの日本を滅茶苦茶にしたカルト教団の名。宗司がその悪質さを知らない訳がなかった。
傾倒して、それからどうなったのか。嫌な予感がする。果たして言っていいのだろうか。
それについて尋ねたのはまたしても進だった。
「じゃあ、あんたの家族は妹以外みんな次元覇院、いや、今はゼロンに……?」
当然聞くとしたらそんな内容だ。母親がそうなったのなら、少なくとも、母親は……。ところが、それ以上の物が、返ってくる
「……両親は、死んだ。―――――いや、俺が殺した」
『っ!?』
あまりにも大きすぎる衝撃。耳を疑った。ジャンヌにべったりだったエターナも反応するほどだった。
両親を、殺した?本気で、そんなことを……?いや、そんなことをHOWの隊長でも言っていいのか。
流石にその発言は大問題だったようで、ジャンヌ副隊長と光巴が大慌てで発言を問いただしていた。
「ちょ、ちょっと!元、それを言うのは!」
「元お兄ちゃん、それランクSSSの秘匿情報だって!」
「ランクSSS!?それって開示したらヤバいやつじゃんか!?」
情報のヤバさを一番理解していた進にハッとさせられ、こちらも入嶋を始めとして動揺が続く。
「それ、明かさないとダメだった奴……なんです?」
「そんなの聞いて、私……」
が、それでも問題ないことを元隊長が訂正を入れる。
「大丈夫だ。今日の朝の報告で、黎人から詳細を知っていないメンバーへの開示要請が出ている。政府側ももう隠す気はないらしい。もっともそれを積極的に知らせるわけでもないようだが」
「……本当に?」
ジャンヌ副隊長が不審に思って聞き返す。少し目を逸らすが、元隊長は頷く。
「あぁ。黎人に確認すればいい。それに、以前の戦闘で会話を聞いていたお前達にそれを明かさなければ、支障が出るだろう」
「そ、そりゃ、そうだろうけど……でもその方が余計ダメージがあるっていうか、ていうか、姉様だって心配させてるし!」
エターナの言うようにその発言はジャンヌ副隊長を動揺させていた。視線を逸らしたこともきっと副隊長の不信感を助長させているだろう。
しかし隊長はやはりパートナーであるはずのジャンヌ副隊長に気に掛けることなく、話題を進めようとする。
「ともかくだ、奴が今回ゼロンの前線基地まで出張ってくるのは確定している。俺達がいかなければそのまま境界線を拡大する思惑付きでな。そこで奴からレイア・スターライトを……」
「ちょ、ちょっと!それもそうだけどあんたさっきから姉様を……」
「エターナ!いいの……」
「えっ?」
エターナの追求を止めたのは他ならないジャンヌ副隊長だった。俯いていた顔を上げる。見てこちらが閉口せざるを得なかった。酷い表情だった。何もかも抑え込んだとでもいうべきほどに平静を装うとしている顔。
その表情のまま立ち止まるジャンヌ副隊長は言った。
「元、そのまま続けてください」
「……俺は絶対に、レイア・スターライトを奪還する。そして今度こそ、因縁を終わらせる。救世主ガンダムとしての因縁も、黒和家としての因縁も。あの時見逃したあいつが向かって来るのなら、今度こそ殺してやる」
悲壮の覚悟、元隊長の因縁に対する本気はパートナーの想いを拒絶するほどのものだと宗司達には思えた。
◆
施設のモニターから帰ってきてエターナはずっと考え込んでいた。
「…………」
今日のアイツの様子、おかしいにもほどがある。いや、自分が散々言ってきた状況になりつつあるのは、本来喜ぶべきことなのだ。
だけどそんな状況を手放しで喜べない。こんなのは私が望んだものじゃない。面倒くさいと思われてもあんなのは納得がいかない。
そんなことを思いながら夕食の口を進めていると、同じ机の席に座っていたソージが声を掛けてくる。
「エターナ、考え事か」
「……食事中はあんまり喋らない方がいいと思うんだけど?」
邪険に扱うようにそう言って見せる。確かに考えていたが、今はあまり話したくないと思って、そう理由を投げた。
我ながら汚い理由づけだ。もっとも今のこいつには考えが透けていたようで、そうだなと応えつつ更に踏み込んでくる。
「ごもっとも。だけど、俺だってあれはおかしいって思うさ。お前がそれに対して思い悩んでいるのも。最近じゃDNLの力でそういうの嫌でも分かるし」
「……そういうの、癪なんだけど。ちゃんと制御できるようにしなさいよ」
「それで、どうなんだ」
ホント、強引。そう思いつつ少しだけ席を寄せて小声の届く範囲で話す。
「前に話したわよね。私が姉様のプレッシャーに押し負けた話」
「あぁ、一番最初の頃だな」
そう、私は聖トゥインクル学園に編入し、そこで姉の功績をから過度な期待を受けてそれが嫌になった。段々と姉様を恨み始めて、そういう感情が沸き立ったのに気持ち悪くなって、勝手に軍の施設を利用してこっちの世界にやってきた。
それは宗司に話したし、最初のエンゲージシステムリンクで、おそらく共有されていただろう。だけどエンゲージシステムで繋がったからとはいえ、その全てを正しく把握できるわけではないし、まだ知らなかったからこそ理解出来なかった事の方が多かった。
だからこそ、今読み取れてなかったであろうもう一つの考えを語る。
「だけど、私がこの世界に来たのはそれだけじゃない。ううん、最初から変わっていなかった。私は、あいつの言葉が本当だったのかどうか」
「本当?」
「あいつは、本当に姉様を無事に私の下に帰してくれるのか―――――ううん、姉様を愛しているのか」
一見すればそれは何の変哲もない約束。だけどその言葉の矛盾に私は気づいていた。ソージに自身の考えを語る。
「おかしいでしょ。姉様を愛しているって言ってるのに、私の下に帰すって」
「……おかしい、のか?家族と再会させるって意味なら、おかしくは……」
ソージの言いたいことも分かる。正直言ってしまえば最初はそういう意味だろうと思った。それでも当時の私は大好きな姉を取られてしまうことが許せなかった。
問題は、この世界に来てからだった。
「じゃあ、何で13年、こっちじゃ11年も一緒にいるのにイチャイチャな話……結婚の話も一つも出ないのよ」
「っ……それ、は……」
別に、おかしい話じゃない。すべてが終わってから抱くとアイツは言っていた。だから終わってからだと思っていた。
だけど、それは全部ここまでの時間が1年だった場合にのみ限る。1年くらいだったら順調ならそろそろ取り返せててもいいと思った。でも結果として取り返せておらず、年月も11年が経っていた。
それでも姉様はそれに耐えていた。そう思っていたけど、今回のでそれが全然違っていたことに気づいた。嫌でも気づく。
「結局、あいつにとって姉様は主のままなんだ。恋人じゃない、箱入り娘のまんま……」
「……そういう、ものなんじゃない……のか?良家の娘さんなんて」
「そうだろうけど……もうお母様や、執事のフォーンもあいつと姉様の仲は認めている。もう許嫁みたいなもんよ。そして、あいつは姉様と恋仲になった。それでもあいつは今……」
二人の気持ちを踏みにじるのか、と硬く奥歯を噛みしめる。姉の辛さが今なら分かる。肩を持ちたくないけど、もうあの二人は……。
こんな話をして迷惑だろうと思った。流石に席を立とうとする。するとそこに夕食を食べ終え、デザートを取りに行ったのだろうイリジマ達がやってきた。
「あ、相模君にエターナちゃん」
「何か、深刻そうな表情してるけど……」
「ハハーン、なんとなく分かったぞー。さっきの隊長のあれかな~?」
察しの良いミツハが核心を突く。私は口を閉ざしていたがその席の隣に座ったミツハがその問題にメスを入れる。
「まぁ元お兄ちゃんのあの性格は今に始まった事じゃない。けど、ここ最近酷いのは……やっぱりあのガンダムだろうね」
「光巴ちゃんからみても、あれはおかしいんだ」
「うん。というか、あなた達が知る魔王としての性格も昔とは全然違う。昔はもっと温厚で……いや、それすらも深絵さんやうちのお母さん達が知っていた彼とは違う、か」
ため息を吐くミツハの表情を見て、申し訳なさを感じる。自分もこの世界に転移してきた直後、あの男の豹変ぶりに押さえつけられながら動揺したものだ。
何があの男を変えたのか。イリジマ達も席に座り話を聞く中で心当たりはあれしかないとミツハは語った。
「やっぱり、お母さんから死んで、元お兄ちゃんが両親を殺してから、ちょっと壊れ始めてる気がするよ……」
「!そういえば……ミツハは」
「うん。お母さんはHOWの前身、MSオーダーズで戦っていた時に、敵のリーダーに殺されて戦死してる」
あまり聞いてはいけないことに触れて、余計に気まずさを感じる。が、当の本人は全く気にしていないと言った。
「ま、それはいいんだよ。お母さんは私達を護るために戦って死んだ。戦士として使命を果たした。悲しいけど、でも私はそれに敬服してる。おかげで今私はこうしてMSにうつつを抜かしていられる。それより、今は元お兄ちゃんの事」
「それで、なんでその二つが元隊長に影響を……いや、両親を殺すことに……」
イリジマが理由を訊ねる。又聞きである、としながらも彼女は知る限りのことを話してくれた。
「お母さんが死ぬ直前、元お兄ちゃんはその死期を感じ取っていたらしいの。すぐそこまで来ていたんだけど、間に合わなかった。目の前でそれを見たから、ね。それで両親の方だけど、その殺害を指示したのは他でもない元お兄ちゃんのお父さんだったらしいの」
「父親が……!」
「多分、そういうのが重なったからなんだろうね。そこに魔王なんて名乗ることになったら……いや、きっと救えなかったから名乗ったのかな、そう卑下して。なんていうか、エースか、はたまたジョーカーか」
ミツハは持論を語って見せる。正直言ってそんな話は当人の問題だと思う。それが決して姉をあんな風に扱ってもいい理由になんて、ならない。本来なら。
だけど、私には一つだけ、思い当たるもう一つの関連が思い浮かんでいた。
――――私と姉様の父、ガンド・ファーフニルの死。それも重ねていたのだとしたら。
(……そんな、わけ)
あり得ない。だってあいつは、それは克服したって聞いてた。今更また再発するなんてこと……。そう思って私はミツハの考えをそっけなく否定しておいた。
「そんなの、それだけで姉様を遠ざけるなんて」
「そうだよねー。エターナちゃんは心当たり」
「ノーコメント。ていうか私あいつがいた頃は寄宿学校にいたから」
「あっ、お疲れ」
「ん」
入嶋の言葉に短く返して、私は食堂を後にした。果たしてこんなので次の作戦が上手くいくのか。不安と憤りを抱えて、時は過ぎていくことになる。
NEXT EPISODE
EP59はここまでです。
ネイ「うーん……やっぱり元さんが復讐者、というか、悪人みたいな言動が出てき始めている気がしますね」
グリーフィア「今度こそ、ね。もう憎しみを抱いてるっていうレベル。光巴ちゃんの言う通り、壊れてたわねぇ元君」
これはおそらくだけどこっちの世界で相談に親身になって聞いてくれる存在がいなかったというのもあるんでしょう。首相達も立場が違い過ぎてあまりなじみがなく、かといって新堂沙織さんや黎人は同僚って感じで元君だと距離を作ってしまう。深絵とか夢乃、華穂ちゃんのような存在とは違う何かが必要だった。
グリーフィア「それはきっと、本当に親だったんでしょうね。本物じゃなくていい。深絵ちゃんにとっての須藤司令みたいな、師匠とか」
ネイ「それを自分自身の手で殺してしまった……もしかして、怯えてる?」
それは、本編が進んでからかな。というわけで今回はここまでです。
グリーフィア「気になる次話もお楽しみに~」