レイ「ターニングポイントとは思い切ったね。何か起こるってこと?」
そういうことです。
ジャンヌ「それは気になりますね」
気になる、いい言葉だ。もっとも今回は気になるというより、気にせざるを得ない、が正解かもしれない。
レイ「せざるを得ない?」
ジャンヌ「また何を考えているんだか……ともあれ最新話の更新が早いのは良いことです」
というわけで本編です。場面は再びシュバルトゼロとヴァイスインフィニットへ。どうぞ。
各地の戦闘が激化するのと同様にこの戦いの中心となっている二機のガンダムの激突も苛烈を極めていた。
互いの武装の潰し合いに発展するが、しかしどちらもその武装を喪失した直後に転送で武装補充を行う性質の為全くと言っていいほどダメージを与えられていなかった。
千日手のような状況だったがそれでも戦う内に両者は戦い方を変え、再び本体への攻撃へと回帰した。
「はぁっ!!」
『ぐぅぅ!!』
クローザーのブレードガンⅡをエアレーザーが腰部の実体剣を抜いて受けとめる。すぐにその刃が折れてしまうが構わず腰部から別の剣を取り出し果敢に向かって来る。
元はそれに対し舌打ちをかすかに打つ。既にブレードガンⅡは一本失っている。あの実体剣は加熱式の実体刃でそれを何度も打たれるうちにブレード部分が熱され叩き折られてしまったのだ。
だからこそ今持っているブレードガンⅡはカバー形態で用いている。射撃こそ出来ないがそれでもいくらか耐性はある。振り上げた一閃が敵の左腕を狙う。
クローザーの一撃をシールドから射出されたモノが阻む。幅広の剣が斬撃を撃ち落とす。瞬間を作り出し、カウンターの一閃が振り下ろされる。それを受け止める。
『本当にしつこいな……魔王!人の時代、神を愚弄する愚か者!』
「人の時代、ならば台頭するべきは神ではない、王、統治者だ」
『その王も、欲にまみれた愚か者ばかりだ!だからこそ神に遣わされし救世主が必要だ。救世主こそ統治者、それこそ、俺の使命!』
「救世主なんて……そんな幻想の存在は統治者ではない!」
馬鹿々々しい妄想を切り捨てるように剣の鍔迫り合いを振りほどき、腰部のフェザーショットを放射する。放射される羽のビームは怒りそのものを表しているようだった。
実際元は怒りしか抱いていなかった。次元覇院に関わったせいで両親を殺さなければならなかった。華穂は家を出るしかなかった。両親の件に関してはやったのは自分自身だ。しかしそれでもそんなことをやる必要があったのは他でもない次元覇院のせいだろう。
殺したのが俺だと言われる筋合いはあっても、殺す理由はお前達によって作られた。
勝手に回り続ける物語。ならば止めるのは必然。人として終わった奴らを止めて、彼女が付き合わされなくていいようにする。それが、親を殺した者の贖罪。
そんな覚悟を秘めて再び距離を詰める。左手のディオスクロイを振るう。
「せぇい!」
『ぐっ!こんな力任せッ!』
「甘いんだよ!」
受け止め、単調だと言い返そうとする神治を黙らせるように素早く宙返りをする。宙返りと同時に機体を捻らせ、シールドカノンから発生させた大型ビームサーベルが斬撃を繰り出す。その手に握っていた腰部の刀剣を叩き落とす。
その勢いを殺さず、空中で機体の足を縮ませると一気に脚部で空間を蹴る。イグナイトエフェクトを足場に使っての緊急加速。それをクローザーが持つG制御技術で可能な限り抑え込んで使用する。
加速には耐えられる、が、それだけ制御を行うジャンヌも疲弊している。
『っ……』
耐えてくれているジャンヌの為にディオスクロイで再度エアレーザーを強襲する。反応しきれるとは思えない。が、それを咄嗟に腕部のスマッシャーでビームを纏わせ防御する。
防御行動を行ったエンドが予想外だったと反応する。
『フン、感情に任せているとはいえ、この腕前……以前の俺でも無理だな』
少しばかりの賛辞。エンドも前に出なければならないと判断したのだろう。それは少なからず元達の認識を改めたということ。それに対してあの時からの屈辱で返す。
「あの時お前に届かなかった手だ。今度こそ大切なものを取り戻すためにお前を掴んで奪い返す!」
『奪い返す、か。言い逃れはせん。だが忘れてはいないだろうな、こいつの新たな家族を奪ったのは、お前だと』
「家族を奪ったのはお互い様だ。冷静さを取り戻したならなぜそいつに正しく理解させない!?」
『正しいさ。倒すべきは、貴様だと』
握りしめた刃を掴んで、エアレーザーが振り回す。宙に投げ出されるクローザー、負荷が掛かっていく。態勢を立て直そうとするそこにエアレーザーが武装を切り替えビームライフルで狙いを定める。
『元っ!?』
「ぐっ!?」
『隙だらけだぞ』
ビームライフルの銃口から連弾が飛ぶ。間一髪シールドを制御して防御する。がいくつかの弾が機体のウイングやサイドアーマーに被弾、表面を焼く。
攻撃を続けたまま、エアレーザーが追撃を仕掛けてきていた。振り上げられたシールドの大剣が左手に握られ、突き立てようとする。が、間一髪気づいてシールドを開いて外へと弾く。空いた中央にビームライフルの銃口をねじ込んでくる。
「!?」
『終わりだ!』
発砲、腹部付近が光で照らされる。ところがその弾丸は外へと抜けていく。間一髪その銃口を外側へとずらしていた。ジャッジメントクローズの光を放ちながらそのビームライフルを握りひしゃげさせる。
「終わりじゃないのか?」
『フン、こちらも本気、だすぞ?』
『ヴィクトリープロフェシーモードッ!!』
両者の間で凄まじい力のぶつかり合いが起こる。破損したビームライフルの爆発すらも吹き飛ばす圧倒的な高密度エネルギー同士のぶつかり合い、それが空気を振動させる。シュバルトゼロクローザーがジャッジメントクローズモードを持つように、ヴァイスインフィニットエアレーザーもまた持っていたのだ。それに匹敵しうる最強の形態を。
隠された力。しかし予想はしていたと余裕を持って告げる。
「やはりあったか。追加ユニットが来た時点でなんとなくは思っていた」
『互いに似る収斂進化だ。もうお前にも分かっているだろうが。だが、お前達とは違う。英雄にして救世主と呼ばれた俺が本気で行く……ついて来い、神治!』
『違う、俺について来いってんだ!』
英雄と救世主気取り、それぞれのコントロールを得てヴァイスインフィニットエアレーザーが襲い掛かる。より加速を増した機体の突撃をこちらもブレードガンⅡで受け止める。
激突する剣。衝撃でブレードガンⅡのカバーが粉砕した。破片が両機体を叩く。剣戟が展開される。互いに武装ではなく機体本体へと攻撃し、防御を行う。
攻防の中、元達も疲れを感じ取る。ジェミニアスの戦闘は既に1時間が経とうとしている。ジャッジメントクローズモードも始動と停止を繰り返していた。それに稼働時間で言えばあちらの方が短い。やはりその為のハリヴァーと一真の横槍だ。長引かせる戦闘でこちらの消耗を狙う。今更ながらやるな、と思う。
クローザーの弱点を的確に突くのは元英雄の分析力だろう。そうだとしても勝つ。いや、取り戻す。その決意を口に疲弊する精神を奮い立たせる。
「本気ならこっちだって出すさ。取り戻すための戦いを繰り返してきた!今度こそ、取り戻すさ!」
『虚勢を!』
幾度目かの切り結びを解く。直後距離を取ると同時に右手のブレードガンⅡを投擲する。続けざまにDフィストスマッシャーからビームを放ってブレードガンを爆散させた。ところがその刃は加速した状態でヴァイスインフィニットエアレーザーの肩のシールドを横から貫いた。
『っ!?やるな、しかし!』
右のシールドを唐突に潰され、意表を突かれるエンド。しかし反撃へと素早く転じた。もう片側のシールドからその手に握る大剣と同型の剣を射出する。
一つだけではない。射出するとすぐにマルチ・スペースシステムで補充、再び外へと放出し、それらが宙を飛び回るビットとなった。
剣を操る戦士と言うべきエアレーザーはその剣を従え、こちらに突撃する。こちらも応戦する。肩のソードビットを射出し、右手にエリミネイターソードを持つ。
『英雄の力は伊達ではない!』
「だったらそれを越えるまで!」
遠隔操作端末が空を舞う中、その手の武器で斬り合う。剣戟の最中、それぞれの武器が隙を突くよう襲って来る。それらを回避、あるいは切り落とす。
たった二機での乱戦は空を飛び回りながら続く。敵もその中に近づけないからか、それとも手出し無用としているのか横槍はない。だが狙っているような感覚がある。それを探ろうとするが敵の攻撃が激しくこちらを攻め立て、そちらに意識を割かざるを得ない。
「くっ」
『よそ見をしている暇はないぞ!』
エンドからも見透かされていた。ジャンヌが疲労と事態が不利になっていると伝えてくる。
『元、こっちも……大分限界が……。連合軍も各部隊の撤退が続出しています。このままじゃ!』
限界、それを認めたくはない。ここまで来たのだ。またあんなことを繰り返すなんてことは是が非でも受け入れられない。
13年、屈辱の時を味わってきた。ジャンヌだってそれだけの長い時間を付き合わせてしまった。もうあの頃の学生生活をもう一度、なんて出来やしない。例え肉体の時間が止まっていようとも、過ぎた時間は取り戻せない。
ならこの好機をみすみす逃すのは認められない。こんなところで諦められるか。
「まだだ……まだ終わりじゃない!」
ソードビットを呼び戻す。エネルギーチャージの為、そして最大の武器「エリミネイターバスターソード」を形成するためだ。合体させるとそれを携えエアレーザーへと進撃する。
「絶対に、逃がさない!!」
『フン、特攻かよ!エクスカリバー!』
『ちぃ、神治前に出過ぎるな!奴の力は』
操縦を代わって迎撃しようとして見せる神治を抑えるエンド。大剣が一挙として迎撃に向かって来る。
それらを最小限の動きと剣のガード部分、シールドからのビームで回避していく。エンドの危惧した通り、妨害を物ともせず猛進する。
ようやく操作を代わったエンドが大剣操作を継続しつつ超次元現象の武器を出現させて投擲する。円盤のそれらがこちらを切り裂こうとして来る。的確にこちらの防御の薄いところを狙って。それでもスピードを落とさず潜り抜ける。
十分接近したところでエリミネイターバスターソードを振り下ろす。
「はぁっ!!」
『くっ』
攻撃は回避される。距離を取るエアレーザー。だがまだ終わりではない。エリミネイターバスターソードの先端が開く。砲身を形成するとビームを発射して薙ぎ払いを行う。薙ぎ払ったビームがエアレーザーを直撃し、シールドごと弾き飛ばす。
『っ!?』
「逃がすかよ!!」
逃がさないという意志の元、パネルウイングそのものを分離させる。分離したパネルウイングは端末として空を舞う。加えてその表面にこれまで使ってきたことのある武装をマルチ・スペースシステムで装着させていた。
即席の砲台として機能するそれから弾幕がエアレーザーへと襲い掛かる。これまでのビット攻撃とは違った攻め方にエアレーザーは撹乱されていく。
大剣のビットとパネルウイングの近接格闘武器とが衝突し合う。敵の大剣が徐々に減っていく。壊れ、あるいはエネルギーが尽きていこうとしている。それらに対処するべくエアレーザーが再びシールドから武器を射出しようとする構えを見せる。
それを待っていた。意識を集中させ、攻撃を繰り出す。
「そこっ!」
『!?シールドがっ!?』
側面を位置取らせたパネルウイング二枚からネオ・ガン・グニールを形成し、射出する。簡易電磁投射砲として放たれたそれは意識外からの予測砲撃でエアレーザーの左シールドを貫き、左腕の一部と共に粉砕した。
使い捨ての砲撃。砲弾にしたネオ・ガン・グニールは眼下の海へと重力に従って落下していく。それに見惚れる間もなく元はシュバルトゼロクローザーを加速させた。
近づけさせまいと残存する大剣と超次元現象の刃を飛ばしてくる。それを回避、したところを素早く構えたビームランチャーのビーム三本が襲い掛かる。
「ぐっ!?」
ギリギリでシールドとバスターソードの面で防御する。弾着と同時に一気に爆発が強くなる。そして背後に敵機の殺気を感じる。短距離移動で詰めてきたのだ。
神治の威勢のいい声が響く。
『取った!!』
「まだだっ!」
素早く前後反転してナハト=ヴァールで防ぐ。エレメント・フリージアとエレメント・ファングの併用で敵の勢いを削ぎながら防御し、不用意な消耗を抑える。ビームランチャーを槍の如く操るエアレーザーから、神治が忌々しいとの声を吐く。
『墜ちろよ墜ちろよ!正義は勝つんだ!消えろっ』
「駄々をこねるガキが。まだ落ちねぇよ!」
我慢比べならこちらが上手。かつては新型MS相手にシュバルトゼロガンダムRⅡで張り合ったこともある。その時の経験で耐える、ということは得意だった。
それゆえ疲労という差でも張り合える状態。とはいえそれをいつまでもやれるわけではない。エンドの力を借りていると言ってもまだ、未熟。故に助けられていた。
奴自身が成長する前に叩く、速攻しかない。焦りが混じっているがなりふり構っていられない。シュバルトゼロクローザーの性能を限界まで引き出す。落とそうとして来る神治の執拗な斬撃を弾き飛ばして空いた腹に蹴りを入れて黙らせる。
「っ!」
『ぐぁっ!?卑怯な……』
飛ばされながらも腰背部から伸びるビームランチャーでこちらを狙って砲撃する。しかしその状態での砲撃、そうは当たらない。こちらも敵に向かって加速し、逃げる敵機に追撃の一撃を仕掛ける。
迎撃態勢を取れない状態で、加速して一気に斬りかかる。斬る、その瞬間に敵の機体が消えた。
残った残光。急速に知らせるアラートで振り向く。直後左手のディオスクロイが宙を舞い、左シールドがビームに切り裂かれて増加部分がソードビットごとパージされた。
爆発と共に見えるのは蒼い蒼炎を纏ったヴァイスインフィニットエアレーザー。エラクスシステムだ。かつてシュバルトゼロとヴァイスインフィニットの対決を左右した因縁のシステム。
それを見て元もまた使用を決意する。
「エラクス!」
『ぐぅ……了解っ!』
『ELACSSystem,Standby!』
蒼炎に染め上げられるシュバルトゼロ。エラクスシステムを発動した証。ジャッジメントクローズモードに重ね掛けで発動したシュバルトゼロが高速戦闘に突入する。
その負荷はさらに増大する。高速で動く中加速する痛みに呻く二人。
「っ……ぐぅ」
『うう、うぅぅぅ……くぅ』
高速戦闘と高負荷のモード、戦闘の継続が困難に近くなっていく。息が荒く、酸素を求めていく。機体からもメディカルアラートが鳴り出す。限界、それでも継続しなければならない。
ここで決めなければ。エラクスシステムを発動させた状態で激突する中で一気に押し切る決断を取り、その機体を全力で制御して攻撃を繰り出す。
素早い武装切り替えで息つく暇を与えない。武装を仕舞う時間もない。それに対抗してヴァイスインフィニットも意地の攻防で両者の機体が傷ついていく。気迫に押されていく神治とエンドの声が漏れだす。
『くそっ、何だよ、これ。着いて行かない!?』
『負荷がないはずがない……これが、今のシュバルトゼロの……くっ、ぐぅ!?』
「逃さん!」
勝負に出るように敵機体との距離を急速に縮めるクローザー。瞬間に薙ぎ払ったビームサーベルの斬撃がエアレーザーの左腕の肘から先を一気に斬り飛ばす。宙へと舞ったエアレーザーの腕の爆発を背に受けて追い詰めていく。
その耳にレイアの苦悶の声が聞こえてくる。
『うぁっ!!くぅぅ……』
『人質の声を聞いて、まだ戦うか。それが貴様の正義か』
単純な挑発。しかしそれは非常に強く元の心に作用していた。余裕のない状態でそんな声を聞かされて痛まないはずもない。装依の下の顔が苦しさと怒りで歪む。
既にけたたましいアラートが戦闘続行困難を告げる。悲鳴を伴ってジャンヌが制止を呼びかけていた。
『もう無理……元、ハジメェ!!』
「罰は受けるさ……取り戻してからなぁ!!」
勢いを止めることなく戦闘続行を選択する。鍔迫り合いのまま敵を押し込む。機能するスラスター類を全開にし、エラクスの暴力的な出力を込めて押し込んでいく。
もはや戦闘技能の話ではない。力で全てを押し切り、海上に浮かんでいた撃沈されたゼロン艦艇の上へと叩き付けた。
『がぁぁぁぁ!?!?』
『あぁっ』
『ぬぅ……!』
叩き付けられたエアレーザー側の陣営が痛みに声を呻かせる。それは叩き付けた側のクローザーも同じだった。
『くぅぅ……つぅっ』
「……ぐっ、ジャンヌ、データはっ」
片膝を着くクローザー。お互いエラクスシステムが解除されている。完全に限界に近い。その状態で果たして作戦通りにレイアを救出できるのかという不安があった。
ここまで来て頼りにするのはジャンヌの観測データ次第。無茶を多大に掛けてきた中この激突で手に入れてくれたかどうか。
しかしそこはこれまで無茶に付き合ってくれたパートナー。意地を見せてくれた。
『データは、既にあります……波長は、合わせられれば』
「そうか」
『でも無理です!二人ともここまで消耗していたら、成功するかどうか……』
ジャンヌが失敗しかねないと中止を訴える。確かにその可能性は高い。何とかギリギリ意識を保っている状況でそんな繊細なことが出来るのか。
万全を期すなら撤退が固い。部隊を率いる隊長なら無責任な行動はせず、生存を優先する場面。普段ならそれを選択しただろう。
だがこの場面で元はノーを選択する。
「ダメだ」
『元……』
「もう、終わりにしよう。悪夢のような13年を、苦しみの時を。あなたが悲しまなくていい、愛しい人との日常を取り戻すために」
『違う……そうかもしれないけど、違うの!私は』
ジャンヌの言葉を振り切って作戦を決行する。Dフィストスマッシャーの手甲部分に設置されたマルチ・スペースシステムからユニットが転送、そのまま接続される。短いかぎ爪のようなパーツ。それがレイアをあの機体から救い出すための手立て。
それを構えて突撃する姿勢を取る。何かしようとするのが見えたエアレーザーからエンドがやり取りを聞いて呆れを示す。
『フン……痴話喧嘩とは聞いて呆れる。助けると言いながら意見が合っていないとは』
「お前のせいで彼女を長く付き合わせてしまった。いや、俺が手を伸ばせなかったから遅れた。俺は、その償いをする。例え望まれていないのだとしても」
『……なるほど。理解したうえで、突き進む。もはや未来も求めぬか』
「俺も、お前も、この先の未来には必要ない。その羽を、捥ぐ!」
そうだ。ジャンヌの隣にいるのは俺じゃない。そんな考えを言葉に隠し、決意と共にシュバルトゼロが突貫する。
両者の間に障害はない。目に見える敵も見当たらない。加速するこちらに怯えた様子の神治の声が聞こえる。
『クソッ、身体が思うように動かねぇ。どうするんだよエンド!何とかしろよっ!』
回避しようとしていたが機体の操縦系統に問題が生じたらしい。ギリギリ立ち上がったところで止まった。絶好の機会。一直線に加速する。
このまま掴みかかれる。掴めば後はレイアとの同期で電子体を掴んでこちらに取り込めば終わる。すべてが終わる。
しかし、その動きが唐突に止まった。後方から縛りつけられるように。機体が前へとつんのめる。
「ぐっ!?何が」
『元、後ろ!ハリヴァーともう一機!』
ジャンヌの言葉に従い後方を確認する。すると確かにハリヴァーのシナンジュゼロンが、部下のオールレンジ運用型シシャと共にいた。クローザー動きを止めていたのはそのシシャ。半オールレンジ装備であるワイヤー式アームユニットのワイヤーがこちらを縛りつけて加速と動きを封じていた。
急な横槍に激高する。
「ハリヴァァァァァァァ!!」
『魔王が随分とお怒りだな。……しかし、対処は早いか』
ワイヤーにからめとられた激情する姿を嘲笑うハリヴァー。だがその指摘通り、出力を一気に引き上げてパネルウイングから展開した射撃武装の射撃と斬撃武器を飛ばしてワイヤーを滅多撃ちにして引きちぎる。
このぐらいの障害はどうということはない。本来なら喰らうはずもない攻撃だ。察知できたはずの攻撃。それが命取りとなろうとは。
正面を向き直した時、エアレーザーが再びこちらに向かって来ていた。残ったその手に握られたビームランチャーが槍の光刃を煌めかせている。
突きの一発と共にエンドが語る。
『どうだ、本来なら防げた攻撃だろう』
「っ、挟み撃ちか。結局お前はそういう」
『挟み撃ち?違うな。あれはビット。俺達が操作したMSだ。お前も心当たりがあるだろう。マキナ・ドランディアで俺が操作した円盤を』
『そうか……ヴァイスインフィニットに与えられた軍隊指揮能力「G-Arc」か』
スタートが納得したようにする。元も言われて思い出す、が生憎そんなことに意識を割いてはいられない。
「ぐっ!」
『そんな程度の防御で!』
迎撃をするも右手にはレイア救出用のユニットが装備されている。この装備装着時には必然的に右腕の手持ち武装へのエネルギー供給がカットされてしまう。右腕がDフィストイレイザーしか使えない今、使える左手のナハト=ヴァールで応戦する。
攻撃をいなすが、それも破れかぶれのものだ。調子を整えた神治とエンドを交えた攻撃に弾かれ装備を手放してしまう。
まだ終わりじゃない、そう思って肩部シールドを可動させてビームを発振しようとする。ところがそれを腰背部のビームで素早く打ち抜かれた。
判断と思考が鈍く、追いついていない。対応が後手に回る。ここに来てようやくこれまでのゼロンが仕掛けた戦闘の疲弊が実を結んでいた。
動け、動けと体の、機体の端まで命令を飛ばす。だが全力で指示を飛ばしても動きが追いつかない。
ジャンヌの声が悲鳴を帯びる。
『元、ハジメ!!!』
『神治、行け』
「ぐうぅぅぅ!!」
『くたばれ……魔王ォォォォォォォ!!』
槍となったビームランチャーを構えて貫く体勢で突撃してくる。咄嗟に右手のイレイザーで防御する。発生させたビームがビームランスの穂を抑える。しかし脳裏にビジョンが過る。
貫かれ、敗北する未来。元も、ジャンヌもその命を散らせる最悪の未来。元自身がもっとも危険視していた未来が、今起ころうとしている。
ダメだ。そう思った時既に思考が勝手に動いていた。ジャンヌの担当する操作領域すらも侵して、それを実行していた。
最後の言葉を口にする。
「今までごめん、ジャンヌ」
『……え』
ジャンヌをエンゲージリンク状態から強制排除する。緊急脱出機能。それによってジャンヌがシュバルトゼロクローザーの後方へと放り出される。
直後、ビームランスの刃がイレイザーを、手の装甲を焼き切った。その穂先がクローザーの胸部を貫く。
「があああああぁぁぁぁっ!?」
「はじ………………ハジメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!――――――――」
ジャンヌの絶叫を最後に、黒和元の意識は鈍い胸部の痛みと共に消えた。
NEXT EPISODE
はい、今回はここまでです。主人公、撃墜です。
ジャンヌ「………………」
レイ「あっ……あっあっ……」
おーい君達しっかりしてくれ。……これダメだな。まぁメタいこと言うと話したいことがこっちからじゃないと言えないんですけどね。
と今回はこちらのターンです。
とある事件にて同じ家族を失った元と神治。しかして、その発端は全く異なる立ち位置。自ら家族を殺さざるを得なかった男と、目の前でなすすべなく失った少年は、それぞれその事件を機に変貌していくこととなりました。
男はもう戻れないことを覚悟して、「自らの未来を捨て」、組織の仲間達や民間人と言った他者の未来の為だけに戦う、敵の的になる「魔王」へと歩み出し、その障害となる者達、ゼロンなどを筆頭とする「人々の生活を脅かす独善的な嘘つき者」達に罪を償わせる様になった。
対して少年は失った過去を教訓に、「自らの未来を第一に」、反目しながらも仲間達の最前線に立ち、敵を倒して味方を鼓舞して前へと進ませる「救世主」となることを目指し、敵である者達、代表が敵としたHOWなどに代表される「弱者を脅かす傲慢な支配階級者」達に罰を与えようとする。
こう書くと彼らは等しく真逆、なのにどうして同じく「作中人物の注目を浴びる」存在になってしまったのか。おそらくは二人が等しく「真面目であるから」なのでしょう。
元は他人の事を真面目に考えて、不器用ながらも寄り添っていく。だけど故に孤独になっていってしまうこともある。一方で神治は真剣なまでに恩人の、組織の教義を信じている。熱心だからこそ不穏分子は味方であろうとも許せない。
そう言った描写が作中でも多数みられたでしょう。そんな彼らが遂に今章で直接対峙となりました。その決着は僅差と呼べるほどの差でヴァイスインフィニットが勝ちました。しかしこれは彼の勝利と言えるのでしょうか?
戦争という括りなら間違いなく勝ちは勝ちです。それを前提に元も戦っています。そこに問題はありません。ですが、一対一で決着したとは言い難い。
だからこそ、言わせてもらいます。これは最後ではない。ここからどうなるのか。驚かせたい。その場面をちょっと考え直してしまったせいで現在執筆進行が遅れているわけですね!(;´Д`)
とまぁ真面目くさって意味わからないと思いますが、要約するとこれが私の二人に対する英雄像、本当の決着はまだまだ先!ということです。
と、長くなりましたが今回は私一人で締めさせてもらいます。次回、黒の館DNにて、その次なる展開が、見え隠れします。お楽しみに!