機動戦士ガンダムDN   作:藤和木 士

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どうも、皆様。引き続きご覧の方は改めまして。引き続きEP84、85の更新です。今回はEP85です。

ネイ「深絵さんの言葉で、元さんは変われるんでしょうか。それとも……」

グリーフィア「どういう結果であれ、前には進まないといけないって思うわ。さぁ、元君の選択は?」

どうなるのでしょうか。それでは本編へ。


EPISODE85 選ぶゼロ・エンド・インフィニット6

 

 

 俺には何も出来やしない。そう元は思っていた。レイアは奪還できず、ジャンヌは奪われ、自身は死にかけ、挙句の果てに暴走。暴走には共に戦ったクリムゾン・ファフニールやスタートが関わってしまっている。

 なぜあんなことになってしまったのか。そう思う以上にそれを誘発してしまった自身の至らなさを後悔し続ける。Gチームの面々には特に申し訳なさがあった。進には何を言っても許してはもらえないだろう。

 暴走したことに対しておそらく日本政府も問題視するに違いない。元々シュバルトゼロの運用に関してはこちら側も慎重的なところがあった。いつか問題を起こすのではないか、そしてそれが今起こった。外されるのも時間の問題だ。

 だからこそ、迷惑を掛けない為に遠ざけた。戦ってほしい、救えるのは元しかいないと言われても、それを出来る立場にはもはやいない。それを伝え続けているのに彼らは諦めようとしない。

 流石に華穂まで来たのには驚かされた。彼女は痛いところを突いて来たがその彼女も深絵に任せて部屋を出た。逃げたのだ。

 あまり言いたくないが深絵に自分をどうにか出来るとは思えない。普段は明るく振る舞う彼女も元々は奥手な性格。過去の自分の事件と光姫との関わりがあったからこそ今のあの姿なのだ。

 仮初の、ペルソナを被った彼女の言葉など、今は通じない。そう、思っていたはずの彼女が言った。

 

「―――――私は、元君の事がずっと好きだった」

 

 突如として放たれた彼女の言葉の意図を掴み損ねる。なぜ、そんな言葉が今出てくるのか。説得に来たのではないのか。彼女が自分の事を好きだったということも初耳だ。しかしそんな元の疑問を他所に深絵は言葉を続ける。

 

「初めて会った時、同級生にいじめられていた私を、柚羽ちゃんと一緒に助けてくれたあの時から、二人の事が好きだった。それからいつも、二人は美術室で一人にこもりがちだった私の所にやってきて、色々な話し相手になってくれた。そうしているうちに、あなたの事を目で追うようになっていた」

 

 かつての思い出を述べ続ける深絵。意図を掴めないせいで、話を止めるべきなのかどうかも分からずにいる。

 話をするからには何か理由があるはず。そんな警戒心を持ったまま、深絵の話は続く。

 

「柚羽ちゃんが亡くなった時、すごくショックだった。でもね、私ちょっとだけ、思っちゃったんだ。柚羽ちゃんがいなくなったら、元君を奪えるのかなって」

 

「……え?」

 

「元君も、柚羽ちゃんも、二人とも好きあっていた。そこに私の入り込む隙間なんてなかった。もちろん悪い考えだって分かってる。だから私も元君を奪おうなんて出来なかった。それは、今も同じ」

 

 奪う、所謂略奪愛を望もうとしていたことを明かした深絵に驚きを隠せない。しなかったのだとしても、そんな考えをしていたなんてと。

 だが更に気になったのは今も同じという話。それに心当たりのある元は、聞き返す。

 

「それは……ジャンヌか」

 

「そうだよ。また会えたと思ったら今度は異世界から恋人を連れてくるんだもん。私じゃまた叶わない、気配りも出来る子があなたの隣にいた。だから私はまたこの想いを隠した」

 

 頷く深絵に言葉を失う。そんなこと、知りもしなかった。当然だろう。彼女はそれを知られたくないために一切口に出さなかったのだろうから。DNLでも彼女の思考を覗こうなど思いもしなかった。

 自分には関係ない、と思いたかったが今の元には辛く届く。こんな近くに、柚羽がいた時からこう思ってきた少女がいたことに気づかなかった。それに対する申し訳なさが募る。

 そう言った思いから彼女の声を聞く。聞かざるを得なかった。彼女の言葉が続いた。

 

「願うことなら、ずっとこの想いを隠しておければよかった。でも今、元君はその彼女の事を見捨てようとしてる」

 

「それ、は……」

 

 言い逃れようのない事実。どれだけ違うと言っても、助けるべきは自身ではないと言っても結局はそれを意味する。反論できないまま深絵の発言を許していく。

 

「なら、もう、いいよね。今しかないよね。元君をジャンヌちゃんから奪えるのは」

 

「深絵……」

 

「お願い、私と、このまま一緒に……」

 

 深絵はそんな危険な言動と共にこちらの手を掴んでくる。それに対し元は何も抵抗できなかった。言い返してはいけないのだと思ってしまう。

 一度顔を伏せてから、深絵は元に宣告する。

 

「戦いたくないなら、戦わなくていい。だったらこのまま、私と一緒に全部逃げちゃおう?HOWもゼロンも、ジャンヌちゃんからも。一緒に、平和に暮らそう?ね?」

 

 顔を上げた深絵に二つの衝撃を受ける。一つは、やはりそう言ったのかということ。すべてを捨てて、自身と共にという言葉。そこまで言い切ってしまったことに如何に拒んでいた元でも驚きが隠せない。

 そしてもう一つはその表情。顔はようやく手に入れられるかもしれないという笑みを浮かべている。そう言うのだから言ってしまえば当然だった。しかしその瞳からは大粒の涙を浮かべていた。

 なぜ涙を流すのか。ようやく願いが叶うから、喜びのあまり泣いてしまったのか。それだけが気になる。

 だがいずれにせよこれは一つのチャンスだった。これでもう逃げられる。尾を引くのは辛いが、逃げられると思い、手を引こうとする。

 ところが、その手を引こうとした、最後の異変に気付いた。

 

「……お前」

 

「……っぅ」

 

 手に力を入れて、その真意に気づく。その手はこちらを求めているように、引き込むような雰囲気を持っていた。だがその手を引き寄せようとしたその時、その手に抵抗を覚えた。

 深絵は引き寄せられることを拒んでいた。それだけではない。彼女はこれ以上自分が引き込むこともやめていた。ただ元の手に、腕に手を当てて元の選択肢を一つに絞っていた。

 なぜ、こんなことを言っておきながら拒む。当然疑問はそのことになる。先程の話は嘘だったのかと問いたくなる。そんな思いを感じながら深絵の顔を改めて見た。その顔には、既に先程のような笑みを浮かべた余裕などなかった。

 ただひたすらに涙を流して、唇をかみしめる深絵の姿。それほどまでに元の行動を拒んでいた。先程とはまるで違う反応だ。そして掴んでいた両手の内左手がそっとこちらの胸に当てられた。その手はこちらを引き剥がすかのように当てられている。

 引くも引かれるも出来ない中、深絵の鳴き声が木魂する。

 

「うっ……ひぐっ!お願い……だから」

 

 その言葉の意味は、きっと受け入れて、なのではないのだろう。もう既に分かっていた。彼女が何を求めているのか。なぜこんなことをしたのか。

 きっと先程の言葉は嘘ではない。元の事をずっと前から好きだったことも、奪ってしまいたかったことも。だが彼女には出来なかった。そう、出来ないと元も知っていた。

 彼女を苛めから助けた時も、苛めた先輩の迷惑にならないかどうかを心配していた。柚羽が死んで籠っていた時も無理に引きずり出そうとした光姫を止めていた。さっきも思ったが、彼女は奥手だったのだ、友達のためを思い過ぎて自分の気持ちすら口に出来ない程に。

 だからこそ、彼女のこの行動も分かる気がする。これはきっと、願いなのだ。受け入れないで、払って欲しい。この手を掴むべき相手が別にいるのだと言って欲しい、思い出してほしいという、彼女の願い。

 結局彼女はまた自分の気持ちを押し留めている。だがそれは彼女のやさしさ。そして何より、戻ってきた時からジャンヌを気にかけてくれていた彼女からの檄だったのだろう。

 優しくも残酷な檄を飛ばす深絵。涙はその証だ。その意図をようやく汲み取る。こんなにも自分を、彼女を思ってくれる人がいる。だがやはり彼女の、ジャンヌの手を掴むことは出来ない。自分にはその資格がないから。それでも、元の、今の状況から這い出す気力には十分すぎる理由だった。

 

「……」

 

「あっ……!?」

 

 元は無言でその手を払う。その行動に一瞬深絵は笑顔になる。が、すぐにそれは困惑の表情へと変わった。元の手はそのまま深絵の身体を抱きしめたのだ。

 望んでいなかった行動に深絵は抗議する。

 

「違う、違うのっ!私はこんなこと……」

 

「分かってる。これが最後だから」

 

「あっ」

 

 元はそう告げる。その言葉を聞いて落ち着きを取り戻す深絵。ここまでしてくれた彼女に応えなくてはならない。感謝と謝罪、そして決意を告げる。

 

「言ってくれてありがとう。そう思っていたなんて全然気づかなかった」

 

「だって、言ったら元君にも、二人にも申し訳ないからって、思ったから……」

 

「そうだな。残念だけど、俺はその言葉に答えられない。そして、今はジャンヌの言葉にも頷くことはできない。あいつの手を掴む資格もない」

 

「ジャンヌちゃんが悲しむよ……。でも、そう言うってことは……」

 

 深絵もこちらの意図に気づく。そうだ。下を向いてはいけない。向き合わなければならない。罪に、救い出してくれた者達に。そして示さねばならない。敵に、そして、失われた仲間達に。

 全てを打ち明けてくれた彼女に気持ちを明かす。

 

「深絵、俺も、好きだったよ」

 

「っ、そんなの、ずるいよ」

 

「ずるいだろうな。今の俺には、救わなきゃいけないやつがいる。その為に俺は戦う。それが俺の、戦う理由、俺がもう一度立ち上がる理由だ」

 

「うん、うん……!」

 

 それを聞いて安堵した深絵は自らその抱擁から離れる。涙を袖で拭くが、まだ泣き足りない様子だ。それをあえて指摘せず、元はドアの方に顔を向ける。

 その顔には既に闘志が戻っていた。迷いながらも突き進む。魔王は止まらないことを体現する様に。

 

 

 

 

 ドアの外では夢乃と先に外に出た華穂が神妙な面持ちで待っていた。何かあればすぐに夢乃がカギを開けて飛び込む準備だったのだが、その心配はこれまでない。

 そしてないまま、その声が聞こえた。

 

『華穂、ここから出る』

 

「……そう言うってことは、覚悟は出来た?」

 

 まるでそこで待っていたのを見通していたかのようなセリフだ。それに動揺することなく聞き返す。もしかするとここからまた逃げるなんてこともあり得る。

 だがそれは状況によりけりだ。もし深絵と共に逃げるつもりなら、止めるつもりはなかった。それもまた兄の選択だと思っていた。しかし兄の言葉はそれを裏切る。

 

「覚悟がなければ、もう戦えないさ。俺には、それしか出来ない。俺は、そう言う人間なんだ」

 

 諦めにも似て、心配になる言葉だ。だけど仕方ないのかもしれない。そう思っていたとしても、今は戦ってくれることに感謝するほかない。今それ以上を望むのはあまりにも傲慢と言うものだ。

 要求通り夢乃にお願いして部屋の鍵を開けるようやく部屋の外に出てきた元の顔は不安にはなるが、覚悟を決めているように思える。それでも何も言いたくないわけではない。兄へと向けて自身の本心を伝える。

 

「そんな事はないかな。元にぃは真っ直ぐだから。ちょっと不器用なだけだと思うから」

 

「そうかよ」

 

「これ以上は文句も言わない。だけど、これだけは言わせて。―――――勝って、あいつだけじゃない、自分自身に」

 

「……あぁ」

 

 元は短く答える。そのまま夢乃に対して、現在の状況に関して簡単な説明を求めた。

 

「夢乃、今の状況は」

 

「今、黎人司令がこちらに来ていてゼロン代表の零崎と会談しています。元さんと黒和神治の再戦の事を話しているかと」

 

「まずはそちらからか。宗司達の方は」

 

「それに関しては私が声を掛けてる。だけど、元にぃも直接、声を掛けた方がいいと思う。本人から伝えなきゃいけないことがあるでしょ。特にエターナちゃんは」

 

「……そうだな。まずは会談の方か」

 

 華穂からもここまでの状況を聞いて向かう優先順位を決める兄。ちゃんとGチームの面々と向き合う気もしているので、ひとまず問題はなさそうだ。

 こうして話に入っていると昔を思い出す。兄と共にMSオーダーズ、HOWで活動していた頃も、兄やジャンヌ、深絵達と共に次の活動について話していた。

 懐かしさに浸っていると確認を終えた元が早速向かおうとする。その背中を見送ろうとするが、そこで兄が思い出したように立ち止まった。

 

「?どうしたの」

 

 尋ねると兄は言いづらそうにしながら籠っていたドアの方を向いて小声で頼んでくる。

 

「あいつの事を頼む」

 

「……そっか。分かった。こっちは任せて、元にぃは今自分のやらなくちゃいけないことを」

 

 それだけで何が言いたいのか分かった。顔を申し訳なさそうな、困った表情へと変えながらその後始末を引き受ける。

 それを聞いて元は「行ってくる」と言って通路の奥へと消えた。ため息を吐いていると夢乃が先程の会話の意味を尋ねてくる。

 

「ねぇかほちー。元さんのあの言葉……」

 

「……やっぱり、こうなるよね。ごめんゆめのん、来て」

 

 夢乃に言うとそのまま病室へと入る。そこですぐにその理由が目に見える。

 病室のベッドに腰かけるようにして深絵が座り込んでいた。その顔はこちらにはよく見えない。

 しかし声だけが小さく響いていた。すすり泣くような声。夢乃もそれに気づいた。

 

「あっ……深絵さん」

 

「………………」

 

 華穂は黙ってその前に座り込む。それでも顔を手で隠していたためよく見ることは出来なかったが、手の隙間からぽたぽたと液体が零れ落ちていた。

 こうなることは分かっていた。あれを言って、元がああいうのならきっと返した返事は一つ。その言葉を受けたであろう深絵に謝罪を入れる。

 

「ごめんなさい深絵先輩。こんな役目を押し付けてしまって」

 

 こんな役目、とは兄の説得だ。直接彼女が何を言ったのかは分からない。だがあらかじめ自身が言った事を覚えていたなら、きっと彼女の隠していた好意について話したのであろうことは見当がついている。

 むしろ、それを言って欲しかった節すら自分にはある。それがジャンヌと同等の立ち位置にいる理由、元に好意を抱いている人の声ともなればきっと話を聞いてくれると思った。

 それは結果的に成功した。しかし、それはつまり彼女の気持ちが届かなかったことを意味する。それすらも華穂は利用してしまった。兄が本当に好きな人の為に。

 謝罪を百万回しても足りないとさえ思える。自分は最低な人間だと自責する。だが説得してくれた本人は涙をずっと溢れさせながら呟く。

 

「ううん……いいの、っぐ!ずっと、もどかしかった、からっ。伝えられない自分に。心配してくれた、みんなにっ!ちゃんと、自分の答え、出せた、からぁっ!」

 

「深絵さん……」

 

 華穂は深絵の体を抱きしめる。自分のやらせた行為へのせめてもの懺悔。焚き付けて、それでも苦しい役回りをやってくれた彼女への感謝を表す。

 抱きしめられた深絵は少しだけ落ち着いて、しかし泣きながら苦しさを吐露する。

 

「受け入れたとはいえ……やっぱり、辛いなぁ……。私、振られちゃったんだぁ……!」

 

「ごめんなさい……私、私……!」

 

 つられて涙が出てくる。自分まで泣いたら申し訳ないと涙をこらえる。深絵はそれに気づいて赦した。

 

「いいんだよ……私だって、元君が、また戦ってくれるの、嬉しいんだから……今度は、ちゃんと、救ってあげられるように、出来たんだからっ!」

 

 深絵の言葉が深く心に突き刺さる。かつて兄が救えなかった少女、初恋の人を救えなかったあの事件を、もう繰り返させない。その為に彼女が言ってくれたことに泣いて感謝を告げる。

 

「ありがとう……ありがとう、ございますっ!!」

 

 抱き合い泣き謝る二人の肩を夢乃がそっと抱く。何も出来なかった彼女が、辛い役回りを演じた二人に労いの言葉を掛ける。それが今の彼女に出来る唯一の気遣いだった。

 

「頑張ったね、二人とも」

 

 

NEXT EPISODE

 




EP85はここまでです。

ネイ「あっ……深絵さん……」

グリーフィア「……まったく。終わらせないことを選ばせるために、自分の想いを終わらせる。そうしなきゃ物語は続かないんだから、悲しいことねぇ……」

深絵の元に対する想い、それはジャンヌ・Fが抱く想いと同じ。かつて想いを共有した仲間の為に、今回で完全に終わらせる結果となったわけです。元君を立たせる代償としては、果たしてまだ安い方なのか否か。

ネイ「安くない、安いわけ、ないです。深絵さんがどれだけ元さんの事を思って来ていたのか、L2でだって分かってたじゃないですか」

グリーフィア「そうねぇ。大丈夫そうにしてて、無理していたんだから。それを華穂ちゃんも分かってて、分かった上で利用するしかなかった。あんな事件があったのを知っていた二人なら、なおさらね」

その二人の決断もあって、元君も再び立ち上がったわけです。もっとも、完全な回復ではないですが。

ネイ「そう、なんですか」

グリーフィア「半分あきらめているような感じよねぇ。でも、戦うしかないって分かってる。だから、主人公には頑張ってもらわないとね」

ここから怒涛の展開に元君はどれだけ耐えられるでしょうか( ˘ω˘ )ハッピーエンドはあるのか?

ネイ「その言い方やめましょうよ!?」

グリーフィア「あはは……それは流石にきつくない?そんなに重い展開多いのこれから?」

さぁどうでしょう(´-ω-`)というわけで今回はここまでです。

ネイ「次回は、この会談への介入あたりでしょうか」

そうなる予定です。で、久々の1話更新になるかな?ちょっとだけ更新は早いかもです。ではまた次回。

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