レイ「前話じゃ最低で効率的な方法で元君の進撃を止められたね……今話でもそれが続くとなると」
ジャンヌ「元さんの苦戦も必死ですね。二人の人質がいる中で、果たして元さんは勝てる、いえ、そもそも戦えるのでしょうか……」
それでは本編をどうぞ。
シュバルトゼロとの対決は俄然有利でヴァイスインフィニットが圧していると神治は思っていた。姑息な手ばかりを使ってくるシュバルトゼロに対し、こちらは正々堂々とすべての攻撃を避け、真正面から受け止める。
やましいことは何もない、救世主として素晴らしい戦い方だ。そう自負していた。このまま力で全てを圧倒する。そう思っていた。しかし、その瞬間、シュバルトゼロはこちらを押し始める。
不意打ちと呼べる攻撃。わざわざ位置を知らせてからの攻撃は完全にこちらを舐めてかかっている。全力でそれを拒もうとした。ところが敵はそれを上回った。近接戦闘型の紅い光の形態は最強の統合型ヴィクトリープロフェシースタイルの動きを封じながら一撃を浴びせてくる。
二度も攻撃を喰らい、神治も動揺する。こんなやつに、性能で劣る奴にここまでコケにされて頭に来ない訳がない。このままだとこいつは調子に乗る。
そう思った神治は切り札を切ることにした。本当ならヴァイスインフィニットの力で完全に圧倒し、存在すら最後の撃墜前まで見せる気のなかった存在、人質の存在を、声を、認知させることにした。
攻撃を受ける直前、ヴァイスインフィニットの回線を一つ開き、出力負荷を上げた。
「ならっ、こうだっ」
『―――あっ、があああぁぁぁっ!!?』
「っ!」
同時に響き渡る女の声。その声にシュバルトゼロクローザー、黒和元の動きが鈍った。狙い通りの結果を得る。だが反応は早く、こちらが反撃の一撃を加えようとする前に、反射で後退していく。
逃げ足だけは早いようだ。しかし効果はある。黒和元本人からはその声の主について言及がされる。
「やはり、ジャンヌがそこにいるのか」
『その通り。お前に対する人質だ。黒和元』
エンドが頷く。そう、この機体にはあの黒和元が取り返そうと必死になっていた存在、レイアという女に加えて今回、ジャンヌという女も人質兼エンゲージシステムのパーツとして組み込んでいた。
ゼロンの解析でエンゲージシステムは制御するDNLの追加でより力の制御の安定と、出力の引き出す量が上がっていくことが分かっていた。これまでもその研究がされていたが、まだ間に合わなかった。そこにガンダムのサブパイロットのDNLが手に入ったのだ。利用しない手はなかった。
二つのエンゲージシステムを同時稼働させられるように改造して、サブパイロットにも処置を施した。強制的にヴァイスインフィニットの性能を引き出し、利用する。負荷を高めれば簡単に悲鳴を上げてくれる。それだけで黒和元の動きが鈍る。
迷わないと言った時には通用しないとも思ってしまったが、所詮は思い上がりだったようだ。それを存分に煽ってやる。
「無視できんのかよ!?魔王!!さっきの言葉はどうしたァ!!」
「………………」
その煽りに対し、ただ黙って構える魔王。みじめだ。言い返す気力もないらしい。言い返せない魔王を見て優位性を再確認する。
このまま攻撃してくる時に苦しめるだけであいつも抵抗する気も失せるに違いない。どういたぶってやろうかと考える神治。一方的な展開。それでも黒和元は諦めが悪かった。
「それでも、戦うさ!」
再び炎のようなエフェクトを纏って殴りに来るシュバルトゼロクローザー。その様子を見てMSの中で笑う。愚かしく、みじめなあがきをしてきたと思いながらその拳をシールドで受け止める。
余裕を見せながらの防御で先程までの攻撃に対する答えとする。しかし黒和元はそんな事を考えもせず、目の前の盾を吹き飛ばそうと必死だ。
その防御が徐々に押し込まれていく。こちらは二人分のエンゲージシステム、ダブるエンゲージシステムだというのにその出力を上回ってくる。パートナーがいない、エンドがかつての状態と同じだと言っていたそれとは思えない。
それもまた突然開花した力、ゼロンが、エンドがどれだけ解析しても解き明かせなかったエレメントシフトと呼ばれる力の実力というわけだろうか。
だがそんなものもはやどうでもいい。そんな力は自分自身の実力の前には、今のヴァイスインフィニットの前には紙屑も同然だ。実力で圧し返せない訳がない。だが神治はそれも全て解決できる「便利な道具」を再び使う。
「その程度なら!けど!」
『あぐっ!?あああぁぁぁぅっ!!!』
「っ!ジャンヌっ、くそっ!」
再び響いた人質の声にまたしてもシュバルトゼロクローザーの攻勢が弱まる。今度はそこでシールドで圧し返し、セイクリッドセイバーを抜き放って振るう。切っ先が拳を掠め、火花を散らせる。
今度はこちらの番というように、戦闘体勢を攻撃に移行させる神治。戦闘機動の間にも負荷をわざとかけ続け、人質を苦しめつつ声を聞かせる。
『ぐっ、うううぅぅぅぅ……やめ、て……あぁっ!』
「あははははっ!どうだどうだ!苦しめ、苦しめよ!悪は苦しんで負けていけ!」
「ちぃ……!」
元を、魔王を煽りながら狂気の笑みを浮かべる。敵から見れば醜悪と言われるような笑みでも今の神治には気にならない。それは勝つ者として当たり前の反応だと思っていた。悪を全力で滅ぼす今の自分の姿はそれこそ救世主に相応しいのだと認識する。
救世主になるというその勢いのままに神治は暴走していく。自らの正義によって、新たな秩序を作り出すために。ただひたすらに猛進していく。
その動きにシュバルトゼロは対応しきれず、ただ圧倒されていく。防戦一方のシュバルトゼロクローザーを、更に悲鳴を聞かせながら追い詰めていくのであった。
◆
「くっ……ジャンヌ」
黒和元は苦戦を強いられていた。決して戦闘技能では負けていない。戦術ではこちらが翻弄していた。だがたった一つの弱点を突かれただけでこの様だった。
その弱点はあらかじめ元も覚悟していた。ジャンヌが人質に取られること、MSに同乗させて撃墜を狙わせない。それは戦略観点上から言っても理想的な「盾」だった。よく自分の事を分かっていると言える。
それを分かった上で元はここにいたはずだった。それでも彼女を、戦場で取り返すと。しかし現実は甘くなかった。彼女の声を、苦痛を受ける悲鳴を聞くたびに動きが鈍る。こうして隙を付け入れられて、一方的に攻撃を受けている。
シールド、フィールドで的確に防御こそしていたものの、攻撃の度に負荷を掛けられて悲鳴を上げるジャンヌの声に嫌でも意識を向けてしまう。
『あぐっ……がぁっ!!』
「おらおら!どうしたぁ!攻撃して来いよぉ!出来るかどうか知らないけどなぁ!」
圧倒的有利な状況へと追いやり、調子づく神治。その態度は癪に障るが、これもまた戦いであることを理解している。
何とか自分の調子を取り戻そうと反撃の機会を伺う。粘り強く耐え、反撃の一発を仕掛ける。
「っ、そこっ!」
「っ!!それなら!」
『あっがあああぁぁぁっ!!?』
そんな声と共に、また彼女の悲鳴が響く。その声にまた勢いが弱まる。躊躇いによる中途半端な攻めにヴァイスインフィニットが繰り出した両刃剣の振り下ろしがこちらを吹き飛ばす。
間一髪左腕のシールドで攻撃は防いでいた。地面へと足を付ける。ヴァイスインフィニットも降りてきて、低空飛行状態でこちらを見下ろすように話しかけてくる。
「諦めろ。もうお前は戦えない。俺が人質を苦しめるだけで戦いになってないじゃないか!」
その言葉を蔑むように言ってくる。事実だ。奴の言う通りまともに戦えているとは言い難い。一方的な戦いになっていた。
それでも目の前の敵を見続ける選択をする。再び拳を構える。
「………………」
「しつこいぞ、お前。まだ正攻法で勝てると思ってるのかよ。こっちは人質だってとっているんだ!勝てないことに気づけ、絶望しろ!卑怯だって言ってみろよ!!」
中々こちらが折れないことにしびれを切らしてこのように煽ってくる。しかしそんな安い挑発、素直に乗るつもりはなかった。
自分を貫く形でその言葉に返答する。
「卑怯なんて言わないさ。それは戦術の一つ。戦うなら考慮すべき一手」
「何だよ、開き直るっていうのか。それでも不利なのは変わらないだろ!それとも煽てて譲歩でもしてもらおうって魂胆か!?」
「開き直っても、煽ててもいない。ただ事実を言っただけだ」
勝手に妄想し突っかかってくる神治に淡々と答える。そう、元は決して開き直りも、煽てるつもりもなかった。ただその胸中にはやるせない気持ちと、怒りがあった。
それでも、と神治の発言に反論する。
「それでも、怒りがないわけじゃない。お前のやっていることは、戦術的に正しくとも、クズのやる所業だ」
はっきりと言った罵倒。それがどんな結果を生み出すのか分かってはいた。しかしそれでも言う。目の前にいる無自覚の邪悪には、その現実を突きつける。例え余計に不利な状況に追い込まれるのだとしても。
それを聞いた神治は、エンドの言葉に続けて予想通りの言葉を口にしていく結果となる。
『戦術的に正しくとも、か。フッ、お前らしい反論の仕方だ』
「黙れ!クズは、お前だぁぁぁーーー!!!」
より逆上し、出力を反射的に引き上げて襲い掛かってくる。意図せずとも出力を引き上げて、ジャンヌを苦しめていく。
『や、やあ゛あ゛ああぁぁぁぁっっっ!!』
「……スカルキング!」
その悲鳴に背を向けるように、エレメントをスカルキングへと切り替える。その状態でヴァイスインフィニットとぶつかり合う。
最高の防御能力を誇るスカルキングで、徹底的に防御を固める元。だが良いようにされていくのもあってジャンヌの苦悶の声は止まらない。それでも反撃の一手を見出そうと戦闘を継続する。
何度かのシールドと武器のぶつかり合い、その中で元の表情が歪んでいく。悔しさに歯ぎしりし、必死に涙をこらえるようにしていた。
何がジャンヌを救い出すだ。こんな戦闘を続けていたら、却ってジャンヌを苦しめるだけだと言うのに。なぜこんな戦いを続けているのか。
今すぐにこの場から離れたい。これ以上彼女を苦しめてはいけない。それでも逃げてはいけない。約束したではないか、断言したではないか。ジャンヌを救い出す。救えないのなら、その時は……彼女を。
(言ったはずだ……分かっていてやっているはずなのに、俺は……!)
そんな決意も、決断も今となっては呪いのように締め付ける。彼女の痛みに苦しむ声を無視できずに攻撃が出来ない。それを越えなければ助けることも出来ないと分かっていても、無視できなかった。
それだけまだ元自身がジャンヌを思っていることの裏返しとも言えた。だが元はそうでありたくないと必死に否定する。
そう思ってしまったから、彼女をこんな目に遭わせている。もう繰り返させないと思って助け出そうとしている。なら、今だけは動かなくてはいけない。例えどれだけ彼女が傷つこうとも、今だけは悲鳴に構っていられないのに。
そんな思いを胸に秘めながら攻撃を捌き続ける。だがその均衡は一瞬にして崩れ去る。
「ぐっ!しまっ……!」
「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!!」
シールドを弾かれ、突きの構えを取られる。このままなら再び貫かれる。先の対決での敗北が脳裏に蘇る。
また、負けるのか。元の頭をそんな考えが過る。致命傷は避けられる。しかしその回避手段すら元は捨てようとするほどに精神を追い詰められていた。元々弱くなっていた心は、いともたやすく崩れるほどのメンタルしかなかった。
ここで終わってしまえば、もうジャンヌがこの戦いで苦しむことはない。そんな考えで、反撃を、生を止めようとする。
しかし、それに喝が入れられた。
『何をやっている!元!!』
響くスタートの声。気付いた時にはその機体はブレイクネクロへと姿を変えていた。
入れ替わったスタートは間一髪ヴァイスインフィニットエアレーザーの攻撃を回避させる。ジャンヌの悲鳴に動じることなく剣をブレードガンⅡで弾くと、そのまま距離を取った。
距離が離れると両者は素早く次なる戦闘態勢を取る。そんな中でスタートは元を叱咤する。
『今諦めようとしたな?生きることを』
「……それが何だってんだ。これ以上ジャンヌを苦しめても、なんの意味も!」
『ないというのか!』
スタートの声が一際大きく響く。弱気になっていた体が、その大声で震える。スタートはこちらに言い聞かせてくる。
『お前を再び立ち上がらせた者達が、お前なら救えると言ってくれたのだぞ。お前も、答えたのだろう。お前がジャンヌ・ファーフニルを痛めつけられ、苦しむのは当然だ。それに怯えるのだってかまわない。だが、諦めるのだけは止めろ!』
諦めるなとスタートの言葉が強く刺さる。スタートはさらに続ける。
『それは、諦めずにお前に賭けてくれた者達の期待を裏切る。お前のジャンヌ・ファーフニルの犠牲がどうなろうという強がりも分かっている。そうでなければ、奴には勝てない。それでも苦しむ心は忘れず、目の前の困難を抗っていけ。それを成すために、今俺もここにいる!』
「スタート……」
スタートからの激励。普段は任されていたはずのスタートからそのように言われる。そうだ。スタートもまた、かつては英雄だった。裏スタートに記憶を持って行かれていたとしても、エンドのように完璧でなかったとしても、そこに残っている経験は確かに本物なのだ。
その言葉が、経験が、知識があったからこそ、元は、ジャンヌもここまで戦い抜いて来れた。欠かすことのできない、ジャンヌと同じくらい、頼れる相棒が今もここにいる。
そんなやり取りにエンドが水を差す。
『相変わらず、暑苦しい。貴様のその態度が、綺麗事が気に喰わなかった。その甘さこそ、「奴」の台頭を許した』
『それは何のことか、今は分からない。だがそうだとしても、今シュバルトゼロのパイロットを、俺の後継者を立たせない理由とはなり得ない』
『それが甘さだ。現実は、そんなことでは解決しない!お前では話にならない。あいつが、お前達の中に閉じ込められた、あいつなら、分かっているはずなのに……』
エンドの言葉が指すのが誰なのか、元にも分かる。その存在は、スタートと自身を封じ込めて出てくる。
とはいえ目の前の敵はそれを望みつつも望まない考えであった。
『もっとも、今の状態では話にもならないかもしれないが。敵が分かっていても、自分一人の成果にしたがる奴では……奴と同じだ』
「そう言ってるお前とも、同じだろ」
エンドに対し、そう言ってやる。先程までの弱気は既に消えていた。煽るだけの覇気を取り戻してヴァイスインフィニットと対峙する。
自らの発言を侮辱される形となったエンドだったがそれを静観する姿勢を崩さない。代わりに神治が再びジャンヌに痛みを与えながら煽ってくる。
『あぐっ、ううぅ……』
「喚け!お前如きに何が出来る?エンドにだって敵わないくせに!」
自らがエンドより上だとイキる神治。だが気づけなかった。元の動きはその声を聞いても一切鈍っていないことに。
再び構えなおして、彼らに告げる。
「敵わないかもしれない。英雄には、俺如きじゃ。だけど、それでも立ちはだかると決めた。お前達から、取り返すために」
「さっきから言ってるだろ!お前なんかに、誰も救えねぇ!覚悟できてないやつに……」
「出来たさ」
『転千万勝!オールオーバー!!』
シュバルトゼロクローザーがモードを解放する。発動できないはずのモード、禁じられた裁きの形態が、発動していく。
高まる負荷。その負荷は尋常ではない。しかしもう発動してしまった。止まらない。止まるわけにはいかない。そう覚悟したからこそ、今発動した。
目の前の敵を越えるために。越えた先にいる彼女達を救うために、傷つける覚悟をしたその証を解放する。決死の覚悟を示すには十分すぎる。
スタートもそれを汲み取り、声を掛けてくる。
『行くぞ元。ここからが勝負だ』
「あぁ……!!全てを、振り絞る!」
その全力を以って、ヴァイスインフィニットエアレーザーに立ち向かった。
NEXT EPISODE
EP95はここまでです。
レイ「やっぱり苦戦必至……!いいようにされてたね」
ジャンヌ「そうですね。元さんも決意が揺らいで……途中、もう助ける事すらも諦めようとしていたんですから」
戦って苦しめるくらいなら、と元君の優しさが裏目に出るところでしたが……そこを救ったのは他ならぬ英雄でしたね。
レイ「そうそう!スタートもいいタイミングで代わってくれた!しかも鼓舞の言葉もなんかグッと来た!」
ジャンヌ「苦しさを理解し、寄り添いながらも前への道を示す。記憶がなくとも、そういったすべきことを見失うことなく示せる。エンドには分かっていないと言われてしまっていますが、そんなスタートこそ、英雄に相応しいと思います」
そんな英雄に鼓舞され、遂に元君は禁じられていた手段に手を伸ばすわけですが。
レイ「ジャッジメントクローズ!ジャンヌちゃんがいなくても、元君ならやれる!最後の切札ってやつだね!」
ジャンヌ「これが通じなければ、後は……あれ、でも元さん、何か隠していそうなものがあったような……」
果たしてそれがこれに通じるものなのか、そうでないのかは次話も見て判断いただければと思います。それでは今回はここまでです。
レイ「同日公開の次話EP96もよろしくね~」