※注意書き
今回の話は鈴というキャラクターが好きな方や、ファンにとっては不快になる表現がございます。
犯罪表現もありますのでご了承ください。
彼女、凰鈴音は代表候補生となってから横暴さが目立っていた。何事も力で解決するようになってしまい、誰一人として近づかせないようになっている。
「凰代表・・・」
「何?」
「新しいお薬を持ってきました・・・」
「そう、ならそれを置いてとっとと消えて」
「は、はい!」
薬を置いた職員は逃げるように部屋を出ていき、鈴は書類を書き込むと自室の引き出しに向かい、何やら薬を取り出し、水を用意すると大量に飲み込んだ。
それは高精神薬と抗不安薬の二種類であった。どちらも高純度のものであり、特別製だ。
「はぁ・・はぁ・・・」
本来の鈴は明るく、誰とでも打ち解けるほど人見知りしないタイプであった。このような性格に変わってしまったのには彼女の過去にあった。
彼女の家庭は一般的に、裕福層に近い家庭であった。父と母は食堂を経営し、地元でも美味しいと評判になるほどに有名になった。
だが、ある日。突如としてその幸せは崩された。とある飲食企業から看板メニューの引渡しを迫られたが、鈴の父はそれを断った。
その企業は女性が経営する女性のみの会社であった。断ったその翌日、企業は女尊男卑の力を象徴する女性権利委員会の力を借りて、鈴の父が経営する店を潰しにかかったのだ。
口コミによる噂、資金面の確保、仕上げには架空の借金を押し付け、瞬く間に店は経営破綻へと追い込まれ、生まれ故郷である中国へと帰るざるをえなかった。
父は借金返済のために働き詰めとなり、過労死。僅かに残った退職金、遺産すらも取り上げられ、母と自分の二人だけが生活出来るだけの金額しか残らなかった。
生活は苦しくなっていき、母はとうとう禁断である娼婦となってしまった。
生活と鈴の学費のためとはいえ、母が他の男に抱かれていると知った鈴は己を隠し、IS学園への入学を果たすため、勉学に励んだ。
娼婦となった母は政府の上層部でもなかなか相手にできない程の人気NO1となったが、同時に女尊男卑へと染まっていった。
当時、曲った事が嫌いだった鈴は母と衝突し続けた。母は生活のためであると訴え、鈴は父を捨てたんだと言い放った。
だが、ここで鈴の母は鈴に対しての禁句を言ってしまったのだ。
「結局は子供を産む為の種馬に過ぎないのよ!男というものは!」
この一言で鈴の中にあった家族への愛が反転し憎しみに変わった。代表候補生になるまで己を隠し、成りを潜め続けたのだ。
本来ならば感情に任せて殴るか、殺してしまう程の殺意を持ってしまうだろう。それを抑え込み、己の為に耐え続けた事は称賛できる。
だが、代表候補生になってからの鈴は荒れに荒れ続けた。
訓練では限界を超えるための薬物投与、特に痛みを感じなくなる麻薬に近い物を射ってくれとせがみ、夜ともなれば歓楽街と似た場所で遊びほうけ、喫煙、飲酒などを隠れて行っていた。
それが発覚すれば、自分が嫌っていたはずの女尊男卑の思想を持ち込み、徹底的に黙らせた。
だが、そんな生活も転機が訪れた。働いていた母が鬼籍に入ってしまったのだ。
その原因は同じ職場の同僚による妬みからの殺人である。犯人の女は逮捕されたが、僅かな刑に服しただけで釈放されてしまった。
その女はIS委員会に籍を置く上層部の親戚で、権力をフルに利用した釈放であったのだ。
鈴はそれが許せなかった、憎んでいたとは言え母を殺した女を許す事は出来なかった。
だが、代表候補生といっても所詮は16~17歳の少女。強大な権力を持つ親戚がいる相手には手も足も出なかった。
「う・・ううう!ゲホッ!く、薬を射たないと」
今現在の鈴の身体は、高濃度の薬物の投与の影響で、内部がボロボロになっている。その痛みを取り除くためにモルヒネが支給されていたが、それも効き目が薄くなってきている。
鈴は痛みを忘れるため、最も恐ろしい幻覚剤にも麻薬にもなりうる薬物、フェンサイクリジンに手を出してしまった。
つい最近ではなく、既にモルヒネが支給されてから最後の手段として取っておいたのだろう。
しかし、ついに身体は臨界点を迎え、鈴は新しく支給された薬をケースへ入れ、その場を少し離れた瞬間にそれは起こった。
「ゲホッ!ゲホゲホ!ゴフッ!・・・え?」
口元を押さえていた掌を見るとそこには吐血した跡が生々しく残っていた。血も乾ききっておらず、鮮血に濡れている。
「嘘・・・まだ、仇も取ってないの・・に」
鈴は深く、深く生きたいと願った。母の仇も、のうのうと生きている女への復讐も、この世界を破壊したいという願いも叶わぬまま死にたくはないと。
「ふざけ・・・るな・・・私は」
「その願い・・・確かに聞き届けた」
「だ・・・・れ?」
「我は深遠伴親、これなるはセシリア・オルコット嬢。魔界よりそなたを迎えに参じた」
「魔・・・界から・・・私・・・を・・・迎・・・えに?」
突然、目の前に現れた和装姿の同年代の青年とIS学園の制服を纏った英国出身らしき、金髪の少女を見て鈴は質問をしていた。
「このまま果てるは無念というそなたの執念を伺い・・・魔界転生の手助けをしに来た」
「魔界・・・転生・・・?」
「その強かな未練こそが転生への手掛かり、さぁ・・・渡らせられよ。我らが魔界へ」
鈴は這いずる形で二人へと近づいていき、縋るような形で手を伸ばしたが、それが届くことはなかった。
セシリアは鈴へと近づき、優しくその手に触れて言葉を紡いだ。
「鈴さん、ご無念の程を察しますわ・・・。申されませ、お母様の仇を取れず果てるのは悔しいと。さすれば貴女の転生は叶います。申して下さい、ただ一言・・・悔しいと・・」
「く・・や・・・し・・・い」
その一言を残し、再び止まる事のない吐血を繰り返して鈴は息絶えた。骸となった鈴を仰向けにさせ、セシリアが吐血したままの唇へと口づけした。
そして、伴親は転生の儀式を始め転生の鍵となる言葉を唱える。
「古き骸を捨て、蛇はここに蘇るべし・・・我はかくも求め訴えたり」
セシリアの時と同じ、己の身に宿したISの怨念を鈴が持つ専用機の意志と融合させ、鈴の骸に定着させる。
鈴はゆっくりと瞼を開き、起き上がるが雰囲気は既に人間のものではない。セシリアは口元に付いた血をハンカチで拭い、甦った鈴もそれにならう様に口元の血をハンカチで拭った。
「私は転生したの?」
「そうだ」
「へぇ・・・死ぬ以前より調子がイイわ」
鈴もセシリアが初めに見せた全てが赤く染まった瞳の状態で笑みを浮かべている。その笑みは完全な上から目線に近い。
「骸の名は凰鈴音。忌名をあたえよう、そなたの忌名はコキュートス・・・一見粉砕、甲龍・コキュートスだ」
「アハハ、その名前面白いわね!気に入ったわ!!」
「ならばIS学園へ行け、そこで新たな人材を見つけねば」
「見つけるのは簡単よ。はぁ・・・生者の匂いが充満してそうで嫌だなぁ」
「そう言わないでください。わたくしもお手伝いしますから」
◇
これが、鈴がIS学園へ転校してくる前に起こった出来事である。彼女、凰鈴音は幼馴染の記憶も家族との絆も捨て去り、魔界の人間としての生を選んでしまった。
最も彼女は己の中に滾る復讐の念を持って転生を望んだ。女尊男卑を掲げる女に復讐するために、愛憎しか持てなかったとはいえ、家族すら奪った権力を持つ愚かな生者。
その生者をこの手で首り殺すその時まで、彼女の心という氷の中で復讐という炎は燃え続ける。
好きなキャラ程、酷い目に合わせたくなるのが私なのです。
セシリア、鈴、シャルロットは家族に関する復讐という形で魔界転生させます。
魔界転生した忌名は必ず地獄や冥界に関連する言葉が入っています。
次回は・・・魔界転生した者を切る役目を持った子と導き手の予定です。