ロックマンZAX GAIDEN   作:Easatoshi

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 時合いとファンの願いが歯車のようにかみ合い、数年越しに新作を引っ下げて帰ってきたロックマン!
 そんな最新作に対し、歯車の代わりに黄金に輝くたまをぶら下げて出迎える畜生の名は『ロックマンZAX GAIDEN 運命の金○』!
 サイテーな下ネタだらけの本作は正にリスペクトと言う名の当てつけ! とくとご覧あれ!


運命の金〇

「カッカッカッ! 今日も大量じゃったわい!!」

 

 人々の往来する天下の大通りを見下ろす、とある高層ビルの屋上。 屋上への出入り口の上に置かれた貯水タンクの日陰に涼むように、かつて『カウンターハンター』と呼ばれ、イレギュラーハンター達を散々に苦しめた3人衆が集結していた。

 その一人、老人型レプリロイドの『サーゲス』が高笑いした。

 

「フフン……我々の手にかかれば造作もない事ですね」

 

 腕を組んで立っている同じくカウンターハンターが一人、長身の細身の剣士『アジール』が不敵な笑みを浮かべる。

 

「カメリーオの奴が、すっかりまともに、なっちまったからー……オレ達で盗品かき集めるの、めんどくさい気もするんだナ!」

 

 地面に胡坐をかいて座る言葉遣いのたどたどしい巨漢の『バイオレン』……彼もまたカウンターハンターの最後の一人である。

 彼の傍らにはその巨大な体躯を生かして運んできた、身長の半分はある張りつめて膨らんだ唐草模様の風呂敷が置いてあった。

 彼らもまた、この平和を保ったこの世界においてやはり立ち位置を見出せず、イレギュラーで居続ける事を選び犯罪に手を染めていた。

 

 して、バイオレンの口にした『カメリーオ』とは、 元イレギュラーハンターの窃盗犯『スティング・カメリーオ』の事である。 今は逮捕された後にかの人物の()()の甲斐あって、ゼンマイ人形のような愛嬌ある振る舞いで言葉遣いが固かったり、時折震える姿が可愛らしいとの評判で真面目に働いている。

 そんなすっかり社会復帰を果たした彼の事を、アジールとバイオレンはつまらない人物でも思い出すように鼻で嗤う。

 

「あんな使い物にならなくなった奴の事などどうでもよいではないか! ……ま、チョイスについては優秀じゃったからそこんとこ惜しいがの」

「ですね。 しかし自分達でかき集めるのも手間ではありますが、ちょっとした趣味としては悪くはないと思いますがね?」

 

 アジールの言葉に2人が頷く。 アジールはバイオレンの隣にある風呂敷に足を進め、その固い結び目を器用に解く。

 

「どれ、改めて中身を拝見しましょうか……」

 

 寿司詰めにされていた風呂敷から解き放たれるは、淡く彩られた柔らかな生地。 紐で繋がれた2つの円形と三角形の山は、見る者の官能を刺激してやまない秘密の花園――――

 

 

 まあ、例によって女物の下着の山だった。

 

 

「フッフッフ、見事な物ですね」

「そうなんだナ! 家の壁壊してブン盗ったり、追っ手をオレの鉄球で叩き潰した甲斐あったんだナ!」

「なんたってワシ等は自他共に認める『変態』じゃからのう! カッカッカッ!」

「いいえ? 正しくは『変態紳士』ではないですかな?」

「違いない! カッカッカッ!」

 

 3人そろって成果を笑いあう、カウンターハンター達の鼻の下は見事に伸びていた――――

 

 

「やれやれだ。 この俺を忘れるとは、変態共の風上にも置けないな」

 

 

 突如として3人の元に、どこからともなく男の声が聞こえてきた。 その声に3人は飛び退いて互いに距離を開け、背を預けあうように円陣を組み臨戦態勢をとる。

 

「な、何者じゃあ! どこにおる!」

 

 身構えながら辺りを見渡す3人。 サーゲスが声の主に対して強く呼びかけるが、気配も感じられないその姿を見つける事は叶わない。

 

「遅い! 俺はここにいるぜ!!」

 

 そんな3人に対し、声の主が再度己の居場所を誇示するように大声を出す。 この声は屋上への出入り口の上にある貯水タンクから聞こえてきた。 出所がようやく分かった3人は今度こそ声の主の姿をとらえようと振り向き、そして驚愕する。

 

「な、お……お前は!!

 

 サーゲスは目を剥き、現れた男に指を差した。

 

 タンクの上で腕を組み、赤いアーマーに身を包み後ろ頭の長い黄金色の髪をたなびかせ、その精悍な顔立ちに不敵な笑みを浮かばせて立っているその男。 遍くイレギュラーを一刀の下に切り伏せ、幾度となく死地から生還した復活のハンター。

 

「俺が最初(ハナ)からお前達を斬り伏せるつもりなら、とっくの昔に決着(ケリ)は付いていたぜ?」

「「「ゼロッ!!」」」

 

 紅蓮の剣士、ゼロの姿があった!

 ゼロはこちらと目が合うなり貯水タンクから跳躍、難なく3人の前に降り立ち対峙した。

 

「カメリーオが居なくなったと思ったら、今度はお前達か……全く呆れた連中だぜ」

 

 3人が囲うように立って守る下着の山を流し見ながら、ゼロは小馬鹿にするような目線を送る。

 対するカウンターハンターは、因縁の相手だけあって憎々しげにゼロを睨みつける。

 

「……久しぶりに会ったと思えば、随分なご挨拶じゃのう」

「こ、このオレ達3人を前に、よくノコノコと現れたもんダナ!」

「……おや? エックスと……例の若い第3のヒーローとやらの姿が見えませんね。 今日は貴方一人ですかな?」

 

 アジールはゼロ以外により因縁の深いエックスと、アクセルとか言う一番若いのの姿が見当たらない事をゼロに問いかけた。

 ゼロは再び下着に軽く視線を泳がせた後に不敵に笑いながら、目を閉じて余裕の表情で答えた。

 

「フッ、あいつら2人は指令室にいる。 お前らごとき今の俺なら一人でも十分だからな」

「何じゃとぉ?」

 

 大胆不敵なゼロの態度が癇に障るサーゲス。

 

「随分と甘く見られたものですね。 貴方の実力を知らない訳ではありませんが……過小評価してはいませんかな?」

「フヒヒッ、お前、オレよりバカなんだナ! どこをどうやったらオレ達3人に勝てるって言うんだな」

 

 アジールとバイオレンも同じだった。 口元を吊り上げ、ゼロへの視線に鋭さを増す3人に対し、ゼロも細めに瞼を開きおもむろに右手を前にかざした。

 

「今日の俺は気分がいい。 お前らを捕まえるだけで済ませてやるのもやぶさかじゃない……だが、どうしてもやり合うと言うなら」

 

 そして親指以外の四つ指を手元に寄せるように曲げ、挑発の合図を送った。 時折下着をチラ見しながら。

 

「来な。 全員沈めてやるぜ!

 

 カウンターハンターの戦意を煽るには、その一言だけで十分だった。

 

「「「上等ッ!!」」」

 

 対峙する全員が身構え、戦いが始まった!

 

「下着は返してもらうぜッ!! それは俺の物だッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男の人って皆変態なのかしら――――いや、流石に偏見よね?

 

 モニター越しに始まったゼロと下着泥棒の戦闘。 ここ指令室において、それらしい前口上の流れから山積みの下着を巡り争う男達のあまりにシュールな絵面に、思わず呆れ顔で呟いたエイリアだった。

 しかしその言葉は、視界に入る彼女の前の席に座りながら同じく成り行きを見守るも、非常に情けないド変態共を前に同性としての恥ずかしさからか、端末に肘をつき頭を抱えて伏せるエックスとアクセルの姿に取り下げた。

 

「イレギュラーにはこんなのしかいないのか……」

「それだとゼロもイレギュラーになっちゃうよ……まあ、あながち間違いでもないけど」

「変態になるからこそイレギュラーなのかもしれないな」

「だねぇ……」

 

 2人揃ってため息をつくエックスとアクセル。 よく見ればこの指令室で働いている他のオペレーター達も男女を問わず、下着を求めて対峙するアホタレ共に辟易しきっているようだった。

 

「ほっほっほっ。 まあお前達落ち着いて見ておけ。 ゼロは約束通り無事に事件を解決してみせおるわ!」

 

 そして彼らの隣の席に腰かけ、この面々の中で唯一余裕を持って構えているのは、頭の輝きの眩しい白髭の老人、ケイン博士であった。

 全員がケイン博士の方を振り向き、特にアクセルはケイン博士に対し生暖かな視線を送りながら言葉を発する。

 

「ねぇ博士……ゼロを一人で行かせて良かったの? 僕達博士の言われた通りにしてみたけど、以前の事があるから心配なんだよ」

「……ほう? ゼロがあの程度の連中に負けるとな?」

「いえ、ゼロの実力を考えれば十分勝てるでしょう。 しかし博士、むしろ我々が心配しているのは――――」

 

 アクセルやエックスは、決してゼロ一人の実力があの3人には及ばぬ可能性は無いだろうと確信していた。 むしろ気がかりなのは、以前のようにエロに目が眩んで余計なやらかしをしないかどうか。 この一点に尽きた。

 

「大丈夫じゃ。 その事も含めて織り込み済じゃ」

 

 だがケイン博士はそれでも問題は無いと言ってのける。

 実は今回の下着泥棒の件を受けて、下着泥棒の常習犯だったカメリーオを追った時のような3人態勢ではなく、既にケイン博士が先んじてゼロを単独で送り出していたのだ。

 エックス達は抗議の声を上げた。 人工衛星破壊ミッションにて、股間を大破させたゼロはしばしゆくえふめいになっていたが、あの後何とかエックスが確保して、昏睡させた状態のままハンターベースの開発室に再度安置していた。

 もう一度目が覚めたら再び妖怪として暴れるやもしれない。 無難そうな代わりのパーツの目途がつくまで一時的封印を余儀なくされた。 しかしそれを、ケイン博士が独断かつさる改造を施した上で解放したのだ。

 

「心配はいらんよ。 儂はゼロが真っ当に活躍できるよう、更なるパワーアップも施した上でアイツを矯正したのじゃ! どうか儂の腕とアイツを信じてくれんか?」

「既にド変態な台詞を吐いてるんですがそれは」

「英雄は色を好むからの!」

 

 よほどの自信があるのか、当のゼロは真っ当な活躍どころか、イレギュラー相手に盗品の下着を巡った争いを起こしているのだが、全く聞く耳を持たないケイン博士。

 

「まあ見ておれ。 儂の施したパワーアップは完璧じゃ! ――――来るぞ!!

 

 スクリーンの向こう側で、対峙していたゼロとカウンターハンター3人。 最初に仕掛けたのはアジールだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「細切れにして差し上げましょう!」

 

 身を低く飛び込むようにゼロとの距離を瞬時に詰め、引き抜くはゼロと同じ得物のビームサーベル!

 赤い残光の太刀筋を幾つも残す乱れ斬りの早さは、正に旋風(つむじかぜ)がごとし。

 己の体を刈り取るべく放たれた光の刃を、ゼロは受け流すように全てを軽くいなす。

 

「中々ですね! しかしもっと速ければどうですかな!?」

 

 無数の刃を振るうアジールの動きが更に素早さを増した! 虚空を描く赤い太刀筋の数が一回りも二回りも増え、アジール自身の動きも残像を伴った。

 対するゼロは、アジールのスピードアップを受けても余裕の表情であった。

 

「(折角だ。 ケインのじじいに仕込まれた()()を使ってみるか)」

 

 攻撃を掻い潜りながら、ゼロはケイン博士によって再起動の際に仕込まれた『パワーアップの成果』を試してみたくなった。

 素の実力でも彼ら3人を相手にしても倒しきれる自信はあるが、どうせなら余裕をもって相手を取り押さえたい。

 二度も股間を潰されて妖怪と化して暴れていたのだ。 折角だから彼らを生かして捕らえ、少しは手柄を立てて還元するかとゼロは考えた。

 

「(迷う事はねぇ……一気に行くぜ!!)」

「ええい!! ちょこまかと忌々しいですね!」

「オ、オレを忘れては、困るんだナ!!」

 

 寸での所で攻撃を避けられるアジールがいら立ちを覚えている中、一歩遅れてバイオレンも攻撃に参加した!

 鎖で繋がれた頭2つ分の大きさのある針付きの鉄球を、ゼロ目掛けてブン投げる!

 

「おおっと!」

 

 仲間の掛け声に振り返ったアジールは、巻き添えに対する配慮の無いバイオレンの投擲に跳躍して回避! 後ろ飛びに避けた瞬間鉄球が地面に突き刺さり、地響きを伴うコンクリートの割れ音と土埃が激しく舞い上がる。

 攻撃を避けたアジールは着地するなりバイオレンを睨む。

 

「バイオレン? もう少し配慮が欲しいものですね」

「グヘヘッ! 悪い悪いだナ!」

 

 アジールに咎められるも、悪びれる様子が全くないバイオレン。 それどころか頭を掻いて笑い飛ばす彼の仕草は、如何にもな単細胞なリアクション。 

 

「呆れたものですね……ま、今の不意打ちならゼロもひとたまりも――――」

「当たればな」 

 

 そんな勝利を確信するまでの彼らのやり取りを、ゼロは当たり前のように()()()()()()()余裕に口の端を吊り上げながら見ていた。

 一瞬身を震わせる3人だったが、恐る恐るこちらを振り返り……驚愕する。

 

「どうした? お前らの動き……()()()()()()()()

 

 それは実際には僅かな瞬間の出来事であったが、ゼロの主観で見れば周りの時間が遅くなったかのような感覚であった。

 

 ケイン博士の手によって仕込まれた()()を、ここぞと言うタイミングで使用した途端、情報処理速度の飛躍的な向上と全身の動きが急激に活性化。

 元々手に取るように見えていたアジールの剣捌きが、バイオレンの不意打ち共々スーパーカメラの撮影の如く、非常にゆっくりと捉えられた。

 その中でゼロだけはいつもと変わらぬスピードで動け、ゼロは自らが超スピードで動き回っている事を瞬時に察知。

 アジールの剣捌きの回避とバイオレンの鉄球が地面に突き刺さる様子を流し見ながら、破片が飛び散るより前には彼らの背後に易々と回り込む事が出来たのだ。

 無論、3人の中に自分の動きを目で追えた者はいない。

 

 

「な……なんじゃゼロ……貴様……!!」

 

 仁王立ちで待ち構えるゼロに、サーゲスが震える人差し指の先端を向ける。

 

 

「その()()は一体何じゃあああああああああッ!!!!」

 

 

 股間の白いパーツの内側から漏れる、その存在を誇示する青き光に対し。

 ゼロは唖然とする3人に対し自信をもって答えた。

 

 

「妖怪と化し、道に外れた俺の生き方を再び正道へと噛み合わせた運命の歯車……」

 

 

 そして白いパーツに手を掛け、まるでブリーフを脱ぎ捨てるかの如く脱着し、明後日の宙に放り投げた中に現れるは、共に中央部に黄金色の珠が嵌った輝ける青の歯車と、時を待つように佇む赤の歯車、その間に挟まれる制御棒の3つで構成されたオブジェ――――

 

 

「『ダブルボール(たま)システム』だ!」

 

 

 御年を重ねたケイン博士の、ついにヤキが回ったとしか思えないトチ狂ったパーツを、ゼロは自慢げに親指を立てて誇示した!

 

 

「「「なんじゃそりゃあああああああああッ!!!!」」」

 

 

 3人が異口同音に腹の底から叫んだ。

 

「見ての通りだ。 これはかつて失った俺のバスターの代わりとなる、あらたなるパートナーだ。 ちなみに今のは速度が増加する『スピードたま』だ」

「なんちゅうダッサイもん組み込んどるんじゃあ!? ワシャそもそもお前の股間にバスターなんか実装しとらんぞ!」

「ヘッ、相も変わらず俺の開発者気どりか? 生憎だが、(おとこ)の証ってのは親のあずかり知らん所で育つもんでな」

 

 未だに自身の生みの親を自称し、あまつさえ自前のバスターの存在などありえないとのたまうサーゲスに、ゼロは冷ややかな気持ちの表れとして皮肉を返す。

 尤も、彼自身はサーゲスを開発者などとは一度たりとも認めた覚えはないが。

 

「さて、まだ続けるか? 言っておくが、俺はお前らが瞬きしてる間に終わらせる事が出来るぜ?」

「ンガアッ! ふ、ふざけるんじゃないんだナ! 生意気言う奴はひねり潰すんだナ!!」

 

 ゼロの挑発による分の怒りを籠め、バイオレンが得物の鉄球を再びゼロ目掛けて投擲!

 

「そう来ると思ったぜ! ――――なら次はこいつだ!!

 

 一層の勢いを込められた鉄球が迫る! ゼロは青いギアの稼働を止め、次なる一手として今度は赤のギアをフル回転! 滾る熱血の様な赤々とした閃光を放つ!

 

「『パワーたま』ッ!!」

 

 (おとこ)の証の輝きにゼロの力が(みなぎ)る! 両の腕を開き、飛来したバイオレンの鉄球を真正面から受け止めた! ゼロ自身の体重と鉄球の重量差からぶつかった方向にこそ仰け反るが、地面を抉る足の踏ん張りで僅か3メートル程後退したのみ。 鉄球はゼロの腕に捕らえられた。

 

「んナッ!?」

「ば、馬鹿な……!!」

「これが『ダブルボール(たま)システム』ですか……!?」

 

 他人を心底バカにしたようなふざけた名前とデザインだが、万物をも粉砕する鉄球を正面からキャッチされ、名前とは裏腹にとてつもない潜在能力を秘めた新システムを前に、流石のカウンターハンターも焦りを隠せなかった。

 

(おとこ)の証は力の源だ! いつだってビンビンの自前のバスターこそが、男に自信と力を与えて(おとこ)にするのさ――――そら!! お返しだッ!!

 

 ゼロは『パワーたま』の力を引き出し、何と鉄球を掴んだまま身を引いて鎖を引っ張り、バイオレンの巨体を逆に引きずった!

 

「ナナナナナ!? オレの身体が引き寄せられるんだナ!?」

「バ、バイオレン!?」

 

 足に力を入れて踏ん張りを利かせているバイオレンだが、ゼロの素の力と『パワーたま』の相乗効果を前に力負けしていた! 慌ててアジールが背後からバイオレンの腰元に腕を回して加勢するが、焼け石に水であった。

 

「あのバイオレンがアジールと2人掛かりで力負けじゃとぉ!?」

「ぬうおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 ゼロは更なる力を込め、引きずった勢いから2人の身体を浮かせ、横薙ぎに振り払う!

 

「ぬあああああああああああああああ!?」

「我々が、全く力で敵わない……!?」

 

 慄くバイオレンとアジールの2人を、そのままゼロは自分の身体を軸に彼らの身体を振り回す! それは彼の股間で輝くたま――――もとい歯車の回転のように激しさを増す……ジャイアントスイングだ!!

 

「んがああああああああああ!!!! 目が回るんだナァァァァァァァァァァッ!!!!」

「バイオレン!! 鎖は外せないんですかあああああああ!?」

「無理なんだナ!! って言うかお前も早く腕離せなんだナ! 男同士で抱きつかれて気色悪いんだナ!」

「助けて貰っておいてその言い草は何ですか!? って言うか私だけが腕を離せば!! それこそどこかへすっ飛んでしまいますよおおおおおおおおおおお!!!!

 

 激しさを増す2人の回転に、ビルの屋上を中心に何時しか竜巻が発生した!! その辺の枯葉や細々としたゴミと土埃、そして盗まれた下着をも容易く舞い上げる豪風にサーゲスは完全に怯んでいた。

 

「こ、こりゃいかん!! まともにやり合って勝てる相手じゃないわい!!」

 

 自らの不利を悟ったサーゲスは、振り回される仲間に背を向けてビルの屋上から飛び降り逃げ去った!

 

「ぬわああああああああああああ!!!! いい加減離せなんだナァァァァァァァァァァッ!!!!」

「!? い、いけませんバイオレン!! そんな事を言ったら――――」

「望み通りにしてやるぜッ!!」

 

 アジールが制止する前に、バイオレンの『余計な一言』を汲んだゼロが、彼の願った通りに『腕を離してやった』。

 回転の勢いが乗った状態から、軸となる鉄球を解放すればどうなるかは……もう言うまでもない。

 

「「ぬわああああああああああああああああああんッ!!!!」」

 

 バイオレンはアジール共々、間抜けな叫び声を上げながら明後日の方向へすっ飛んでいき、漫画的な表現さながらに空の光となって消えていった。

 竜巻が止み、空気の流れが収まったのを見るやゼロは、『パワーたま』から再び『スピードたま』に切り替え真上にジャンプ! 宙を漂う下着類をゼロが先程脱ぎ去った腰元のパーツと共に素早く回収、あっさりと着地する。

 

「フッ、他愛もない」

 

 2人は明後日の彼方へと消え、残されたサーゲスもどうやら逃げてしまったようだ。 しかしまだ遠くへは行っていない筈、ならば『スピードたま』の力で手早く探せばすぐにでも見つかるだろう。

 そう思い大きく構えていた時、ゼロの無線に本部から連絡が入る。

 

<ほっほっほっ! 大したもんじゃのうゼロ! その新システムをあっという間に使いこなしてしまいおるとは!>

「ああケインのじいさんか! 確かにこれは優れものだ、俺の力を何倍にも引き出して――――ぬお!?

 

 通信中、突然ゼロは脱力し膝をついた。 下着を抱えていた腕からも力が抜け落ち、塊になっていた下着類をコンクリートの床にぶちまける。

 

「な、何だこれは――――全然力が入らねぇ!? それに体がアツゥイ!

<ああ、オーバーヒートを起こしおったな? お前さんたま……もといギアを連続で稼働させおったじゃろう>

 

 ゼロの関節の継ぎ目から煙と火花が上がり、股間に目を向けると青と赤のギアが赤熱して動かなくなっていた。

 

<そいつはシステム自身はおろか、お前さん自身にも過負荷が発生するからのう……使う時は必ず間隔をあける様に言ったじゃろう>

「し、しまった……俺とした事が、つい得意気になり過ぎちまったぜ」

 

 両手もつき、四つん這いで全身の脱力に耐えるゼロ。 ケイン博士の言う通り、出撃前に警告は聞いていた筈なのだが迂闊だった。

 このまま悠長な事をしていれば、それこそ本当にサーゲスを取り逃がしてしまう。 身動きが取れない状況にもどかしさを覚える中――――

 

 

<カッカッカッ! 隙を見せたなゼロよッ!!>

 

 

「何!?」

 

 我先に逃亡を図った筈のサーゲスの声が、拡声器を用いたのか周囲を響かせる程の大音量でゼロの耳に突き刺さる。

 重たい体を起こしなんとか辺りを見渡してみるが、肝心のサーゲスの姿が見当たらない。 まるでゼロが彼らカウンターハンターの前に現れた時とは逆の立場だ。

 

「あの野郎……一体どこから――――」

<立場が逆転したのう! こないな隙を見せるとはまだまだ甘いわ!!>

 

 嘲笑と共に、屋上の柵の向こうからせり上がるようにサーゲスが現れた。

 

<果たしてお前は儂に勝てるかの!? この『アジールフライヤーMk-2』……略して『アジフライ2』の力にッ!!

 

 地に伏せるゼロよりも高く浮かび上がるサーゲスは、奇妙な姿をした乗り物に乗り込んでいた。

 それはかつて相方のエックスが戦った事のある、横倒しのドラム缶の様な円柱の中央に、ふてぶてしい笑い顔のアジールの頭を取ってつけた、元のスマートさを微塵も感じないような奇抜な姿。

 それを一回りにも二回りにも大型に設計し、アジールの頭部の天辺に操縦席を取り付けた、そこに高笑いするサーゲスが座り込んでいた。

 

「だ、だせぇ……」

 

 ゼロはこちらを見下ろすアジフライの造形に、脱力しながらも率直な感想を述べた。

 以前にもエックスの話や、トレーニングルームでの実物と寸分違わぬ立体映像相手にした事もあったが、その時の感想も今と同じく「カッコ悪い」だった。

 それにどうして、仲間の姿を勝手に模った乗り物など作ったりしたのだろうか。

 

<カッカッカッ! 見た目はいまいちじゃが性能は以前のよりも上じゃ! 特に見よ! この機能を!>

 

 サーゲスが操縦席のコンソールから何かのボタンを押すと、アジフライの口元が物欲しそうにあんぐりと大きく開いた。

 

 ――――直後、巨大な掃除機でも動かしたかのように、アジフライの口から強烈な吸引力が発生する!

 

 隣にあった下着の山が列を並べる様にアジールの口に吸いこまれ、ゼロの身体でさえも自然と浮かび上がりそうになっていた。

 とっさの判断で引き寄せに対抗する為、なけなしの力で金属の柵にしがみつくゼロ。

 口からパンツを吸い込むアジールの絵面という、どこまでも自身の仲間をこき下ろしたような強力な機能とやらに、ゼロは憤りを覚えた。

 

「この野郎!! その下着の山は俺のだ!! 返せ!!」

<誰が返すか愚か者めが!!>

 

 ……もとい、下着を奪われた事への怒りを露にした。

 

<この際じゃから貴様も吸い込んでやるわ!! カウンターハンターの秘密基地に連れ込んで、今度こそ本来の目的を果たせるよう再改造してやる――――パワーアップじゃあッ!!>

 

 続いてサーゲスは小さなレバースイッチを引き下げる。 吸引力がさらに増し、ゼロの身体がより強力に空中に引き寄せられる!

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬッ!!!!」

<カッカッカッ! 貴様も無駄な抵抗はやめるのじゃ!! 大人しく儂等の元へ来い!!>

「だ、誰が貴様みたいな自分の事を、俺の開発者だと思い込んでるボケ老人に――――」

<まだ言うか貴様! 倍プッシュじゃあ!!>

 

 さらにもう一段階吸引力をパワーアップ! 台風でも発生したような強力な風圧に、ついには柵の土台の方が根負けし始める!

 ゼロがしがみついている辺りから順番に、柵の付け根が一本一本引きぬけていく。 このままではアジフライに飲み込まれるのも時間の問題だ。

 

 ゼロは考えた。 オーバーヒートから立ち直り、この状況を一発逆転する起死回生の策は……。

 

「(……危険だが、アレを使ってみるか?)」

 

 ……実はあった。 しかしゼロはその『策』を用いる事には抵抗があった。 それは『ダブルボール(たま)システム』に隠されたもう1つの機能。

 しかしその機能を用いれば逆転は可能だが、ただでさえ負荷の多いたま……もといギアの力を更に上回る深刻なダメージをもたらす可能性が高い。 下手をすれば己の(たましい)を失う可能性すらあった。

 

<カッカッカッカッカッカッ!!>

 

 しかし悩んでもいられない。 オーバーヒートから立ち直って反撃する前に、このままではアジールの口に飲み込まれてしまう。

 自身にどんなダメージを齎すのか不安はあったが、最早選択の余地は無かった。

 

「(やるんだ! やるしかないッ!!)」

<これで終わりじゃあ!! 最大パワーじゃ!! ビルごと吸い込んでやるわあッ!!>

 

 ゼロは意を決した。 サーゲスがアジフライに更なるパワーを引き出させようとした時、何と自ら柵を放す!

 

<! 観念しおったか!! じゃがもう遅い!!>

 

 勝利を確信するサーゲスを見上げながら、空中へ吸い上げられる己の身体。 ゼロが自身の体を丸め、全身全霊の力を込める。

 感覚を遮断し、周りの音や光がフェードアウトする中で、ゼロは股間に仕組まれた『ダブルボール(たま)システム』のリミッターを解除する。

 制御棒が外れ、両のギヤが激しく回転し始めると、ゼロの全身にこれまでになかった程の凄まじい力がこみ上げる。

 

 体中に青と赤の闘気が迸り、遂に体を大きく開いて『ダブルボール(たま)システム』の真の力を開放する!!

 

 

 

身体よ!! 持ってくれ!!(俺のバスターはビンビン♂だぜッ!!)

 

 

 

ゼロは奥の手、『ダブルたま』を発動した!

 

<な、今度はなんじゃ!?>

 

 サーゲスが驚くのも束の間、ゼロはあわやアジフライに飲み込まれる寸前に空中で姿勢を変える。

 大きく開いた体でアジフライの顔に張り付き、吸い込みに対抗する! 苦しそうだったゼロの表情が、一転して再び余裕を取り戻した。

 

「これが『ダブルたま』の力か……大したものだッ!!」

「まだ隠し()()があったのかあ!?」

 

 全身に闘気を纏う今のゼロには、ビルの表面にすらヒビを入れかけていた、恐るべきアジフライの吸引力を間近に受けても一切動じなかった。

 ゼロは自覚していた。 ギアを片方ずつ、単体で動かしていた時には決して引き出せなかった、正に相乗効果と呼べる物を。

 そして外れた制御棒の部分からは、青と赤の光が螺旋状に絡み合う光の柱が起っていた! ゼロは覆いかぶさったアジフライの顔面に、この上ない力を込め始める。

 

「ぬうおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

「よ、よせゼロ!! 何をするのじゃ!!」

 

 足のつま先をアジフライの胴体部分に引っ掛け、操縦席に当たるアジールの頭部を引っこ抜こうと力を掛けた!

 するとどうだろうか、アジールの頭部の付け根から火花が散り、部品らしき欠片が零れ落ちると共に、ゆっくりと胴体から切り離されていくではないか!

 

「やめろゼロ!! アジールの頭が、操縦席が引きちぎられ――――」

「ぬおりゃあああああああああああああああッ!!!!」

 

 そして雄叫びを上げながら足腰の力を込め、アジフライの胴体から頭部もとい操縦席をサーゲスもろとももぎ取った!

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!! わ、ワシのアジフライ2がああああああああああああッ!!!!」

 

 悲鳴を上げるサーゲスを、ゼロは胴体から引き抜いたアジフライの頭部を放り投げる。 操縦席に全ての制御機構が備わっていたのだろう。 頭部を引っぺがした途端に吸引機の停止ははおろか、浮遊していた機体そのものが姿勢を崩し落下する。

 投げられたサーゲスはゼロとの距離を開ける様にすっ飛んでいくが、このまま放っておいてもアジフライの頭部もろとも地上に落下して終わりなのだろう。

 しかしゼロは、とどめと言わんばかりに最後の一撃をお見舞いする決断を下した。 この下着泥棒をおめおめと逃がす訳にはいかない、この場で確実に仕留めると。

 

「今なら俺の奥義もパワーアップだ――――このまま一気に決めるぜ!!

 

 全身に迸るエネルギー。 ゼロは『ダブルたま』によって齎される規格外の力を両手に集中させ、愛用のZセイバーを引き抜く。 するとセイバーに青と赤の闘気が伝播し、巨大な光の刃が形成される。 そして同じ光が何故か股間にも。

 ゼロは全身を大きく横に振り抜いた――――投げ飛ばされ空中で踊るサーゲス目掛けて光の刃を解き放つ!

 

 

 

「 幻 夢 魂(ナイトメアたま) ッ ! ! 」

 

 

 

 通常セイバーの届かない離れた距離に、Zセイバーの柄――――と股間から切り離された光の刃はサーゲス目掛けて飛来し、容赦無く胴体を×の字に切断した!

 

「ま、まさか……こんなはずでは……!!」

 

 上半身と下半身が泣き別れするサーゲスは、まるで先に壊されたアジフライのオリジナルの様な辞世の句を残し、仄暗いビルの谷間へと吸い込まれていった。

 奈落の底へと落ちていくサーゲスを見送りながら、ゼロも1テンポ遅れて屋上に着地した。 全てを斬り伏せるゼロの最終奥義、それはサーゲスを幻夢(ナイトメア)の中に葬り去る、恐るべき一撃であった。

 

「いい夢見ろよ」

<僕達今日は悪い夢見そうだよ>

 

 傍らで見てた側からしても正しく悪夢(ナイトメア)だった。 決め台詞を決めたつもりのゼロに、無線越しにアクセルがあまりに締まらない大技に皮肉を言った。 当のゼロは軽く聞き流したが。

 しかしギア単体の力も凄まじいが、2つ同時に使用した時の能力向上は目を見張る物があった。 現にオーバーヒートからのクールダウンで本来はまともに動けない筈が、力を引き出した余波か未だ全身が疲れ知らずである。 尤も『ダブルたま』の機能が停止した後がどうなるかはゼロも知らないが。

 

「フッ、それにしてもじいさんも大したパーツ作ってくれたぜ。 まさかここ一番でしか使えない大技があんな簡単に放てるとはな」

<ほっほっほっ! 設計図こそ古いものとは言えしっかりしとったからのう! 余った部品とテキトーなジャンクパーツで作った割にはきちんと動いとるわい!>

「おいちょっと待て何て言った?」

 

 ケイン博士を褒めちぎるも、博士本人からの思いがけない発言に態度を翻すゼロ。 無線機越しに彼を問い詰めようとするが、ケイン博士は構わず続けた。

 

<それよりもゼロよ。 お前さんオーバーヒート中に『ダブルたま』まで使ったな>

「……ん? ああ」

<いかんのう。 実にいかん。 已む無しじゃったとは言え、連続使用で負荷がかかっとる所に、もう一段階強烈な能力を使うとどうなるか――――>

 

 含みを持たせるような物言いをケイン博士が続ける中、ふとゼロの股間の『ダブルボール(たま)システム』に違和感が生じた。

 訝し気な表情で下腹部を見下ろすと、2つのギアが赤熱し焦げ臭い煙が上がっている。 歯車のかみ合わせもぎこちなく、時折異音を上げていた。

 

「お、おい……これって唯のオーバーヒートじゃ――――」

<こうなる>

 

 ある意味処刑の合図にも聞こえる博士の一言と共に、当のゼロ本人が疑問を抱く余地さえなく『ダブルボール(たま)システム』が破裂した!

 

 散らばるネジとコンクリート上を転がる2つの歯車。 ゼロが呆然と眺める飛び散った部品は、酷使に音を上げた股間が最後にひねり出した()()のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エックス、これってマズくない?」

 

 スクリーン上で繰り広げられたゼロの惨状にオペレーター達がこぞってどよめく中、アクセルは表情が瞬く間に土気色に代わっていくゼロを見るなり、エックスに問いかける。

 画面上のただならぬ雰囲気を察したエックスにとって、それがかつて彼の股間を2度に渡って破壊した()()()の光景が重なって見えて仕方が無い。

 つまり彼らは、これからゼロの身に起こりうる惨劇を予想できてしまい、その事で焦りを覚えているのだが、ただ一人目頭を押さえるケイン博士だけは、今一つ事態を把握できていないようであった。

 

「うーむ、かつての天才科学者が設計した『ダブルギア』をよりローコストで再設計できんかと思ったが……やはり廃材利用では無理があった」

「マジでどうやって、廃材なんかで設計を何とかできるとか思ったのさ……ケイン博士」

<たま>

「規格はあっとったから行けると思ったんじゃよ! 今回失敗したのもたまたま廃材だったからじゃ! ちゃんと品質管理してた新品の部品ならいけるわい!」

<たま>

「どっちにしろゼロの股間は見事に吹っ飛んだんだよ! この間だって『ややこしい事』になったのに、これでまたゼロがおかしくなっちゃたまんないよ!」

 

<たま>

 

「……もう手遅れだと思うぞ」

 

 言い争うケイン博士とアクセルの会話にエックスが苦い表情で割り込み、スクリーンに指差し2人の視線を誘導する。

 そこには幽鬼の如く佇んで白目を剥き、うわ言の様に「たま」と呟くゼロの姿があった。

 生き生きとした先程の様子から一変して、妖気さえ漂わせる赤いハンターにはケイン博士も額に冷や汗を流し、アクセルは「やっぱり!」とでも言いたげに大口を開けて固まった。

 

「ケイン博士……まだ申し上げていませんでしたね。 なぜ我々がゼロを厳重に封印していたか……」

 

 エックスはケイン博士を時折流し見ながら、束の間を置いて言い放った。

 

「あいつは()()を潰されると豹変するんですよ!! 妖怪タマヨコセにッ!!

 

 

<たま>

 

 

 エックスの叫びに反応したように、ゼロがスクリーン越しに関わらずゾンビの様に血色の悪い顔を向けると、目にも止まらぬスピードで駆けだした。

 瞬く間に画面外に消えてしまったゼロを、エイリアがキーボードを手早く入力してカメラを追跡させる中、アクセルはある事に気が付いた。

 

「いけないエックス!! マイクのスイッチ入ったままだった!!」

<たま>

「しまったッ!!」

 

 エックスは慌ててマイクのスイッチを切る。 もう後の祭りであるが。

 必死な様子のエックス達に困惑するケイン博士は、当のエックスに理由を尋ねてみた。

 

「な、なんじゃあお前達? 一体()()と言う事の何がいかんのじゃ?」

<たま>

「あいつは『た』と『ま』の言葉が重なると()()と返しながら襲い掛かって来るんですよ!!」

<たま>

「大変よ皆!! ゼロは一直線にハンターベースを目指してる!! 走るスピードを計算したら、あと30秒でここにやって来るわ!?

 

 指令室内の皆が口を揃えて悲鳴を上げる。 再度スクリーンに目を向けると、建物の壁をもろともせず人型に穴をあけ、文字通り一直線にハンターベースの方角を目指し猛烈な速度で疾走していた。

 はっきり言ってこの速度は『スピードたま』を稼働させていた時の倍以上は速い。

 間違いなく彼の標的は自分達だ。 指令室が大混乱に陥る中、ケイン博士はたった一人冷静に努め、もう一度目頭を押さえ考え……そして告げた。

 

「皆慌てるでない。 こういったトラブルについては織り込み済だと言った筈じゃ」

「……妖怪になっちゃう事も?」

「ゼロが万が一システムの不具合で狂った時に備えておったのじゃ。 ……このボタンを押せば解決じゃよ

 

 ケイン博士はコートのポケットからおもむろに、赤いスイッチのついたペンライトの様なものを取り出した。

 万が一の対策らしきものをしっかりと備えていた博士に対し、この場にいた全員が安堵の色が混じった感嘆の声を上げた。

 

「で、皆よ。 ワシは今からこのボタンを押す訳じゃが……構わんな?

「流石だよケイン博士! 押さない理由なんかないよ! 早く押して!」

 

 この危機的状況から逃れられる。 期待を込めた眼差しを送りながら、アクセルはボタンを早く押すようケイン博士を促した。

 

「言質は取ったぞ」

「えっ?」

 

 意味深に笑うケイン博士にアクセルが一瞬疑問の声を上げるも、博士はボタンを何の迷いも無く押した。

 その瞬間、ケイン博士の頭上辺りで天井が開き、空の光が差し込み彼の眩しい頭を照らしつける。

 

 

 ――――直後、ケイン博士の座っている椅子が博士を押し上げる様に上空に飛びあがった! 目で追う間も無く開かれた天井を潜り抜け、やがてハンターベースから飛び出した博士の姿は空の中に消えていった……。

 

 

 突然の事態に驚き呆れるエックス達だったが、しばらく間を開けて開かれた天井が閉じた時、ケイン博士の意図にようやく気が付いた。

 

「「じじぃッ!!!!」」

 

 ケイン博士は我先に逃げやがりました。 これにはエックスとアクセルも大激怒。

 まさかの裏切りに、一度収まりかけた現場が余計混乱に陥りそうになる中、エイリアがゼロの現状を報告する。

 

「エックスまずいわ!! ゼロがもう近くまで迫ってる!!」

「――――ああクソ!! 緊急用の隔壁を下ろすんだ!!」

「やむを得ないわ!! ――――全職員に通達!! 廊下に出ている職員は直ちに部屋の中に避難して!! 隔壁を下ろすわ!!」

 

 エックスは周りのオペレーターに指示を出し、ゼロの侵入しそうなポイントを全て封鎖するよう求めた。 エイリアも巻き添えを食わないよう、施設内放送で全職員に避難するよう求めた。

 そして画面に映るゼロの背景が、ハンターベースの玄関に迫る。 既にシャッターは降り始めているが、間に合わず締め切る前にガラス戸をぶち破って侵入された!

 

「内部に侵入されたわ!!」

「アイツの目的は俺達だ! とにかくアイツの行くルートを手当たり次第に塞いでいくんだ!!」

 

 ハンターベース内の全監視カメラの映像に切り替え、所々にゼロの姿が確認されると、そのルートの先と思われる箇所に隔壁を下ろし、ゼロを閉じ込めようとする。

 しかしゼロの動きは早く、彼の動きを先読みした所でシャッターが降り切る前に突破されてしまう。

 

「そんな!! ここまで速いなんて!!」

「指令室のシャッターも降ろすんだ! 通風口も!! 籠城するぞ!!」

「分かったわ!!」

 

 このままでは間に合わない。 閉じ込められる事を覚悟の上で、エックスはエイリアに指令室のシャッターも閉じきるよう求めた。

 直ぐに出入口の自動扉に対し重々しい隔壁がプラスされ、指令室は完全に隔離される運びとなった。

 

「間に合った――――」

「いや待て、隔壁を破ってくる可能性がある。 注意しろ!! 通風口にも絶対に近づくな!

 

 エックスはエイリア含むオペレーター達に対し、部屋の真ん中に集まるよう求めた。

 エイリア達は指示に従い、席から立ち上がって部屋の中央に所狭しと集まる。 オペレーター達を庇う様に、数少ない戦闘要員のエックスとアクセルが周りを囲うように、侵入者に備えていた。

 オペレート業務を中断した事で室内は一斉に沈黙し、えも知らぬ緊張感が指令室を包み込む。

 

 エックスとアクセルは周囲を見渡した。 隔壁を降ろしているとは言え予断は許されない。 そうやすやすとは突破はされないだろうが、シャッターに穴をあける為に衝撃を加えてくるだろう。

 そうなったらそこに目掛けて一斉攻撃を仕掛け、暴走するゼロを鎮圧する……つもりなのだが。

 

「……おかしいね? あのゼロだったらもうここに着いてる筈なのに」

「いや、用心しよう。 特殊部隊を率いていた男なんだ。 絶対に何かしかけて――――」

 

 エックスが警戒を怠らぬようアクセルに注意したその瞬間、指令室内の照明が一気に停電した。

 

「て、停電!?」

 

 部屋中の明かりが全て消え、一同にどよめきが走る。 よく見ればスクリーンや端末の電源も全てが落ちている!

 お互いの表情も確認できなくなる中、エックスはしてやられたように声を上げる。

 

「何てこった! アイツは一直線に指令室を目指してなんかいなかったんだ!!

「え……どういう事?」

「給電室だ!! 配電盤と予備電源を先に狙ったんだ!! 電気が落ちたら隔壁なんか役に立たないッ!!」

 

 エックス一生の不覚。 ハンターベース内の外敵対策用に設けられた隔壁は電動式。 そして圧力をかけて扉を締め切る事ができるのは、各扉に仕込まれているモーターの駆動力あってこそである。

 つまり電源が途絶えれば、隔壁は手で簡単に開けられてしまうのだが、その為に予備電源もハンターベース内には用意されているが、外部からの電力が途絶えても一向に作動せず、部屋が暗闇に包まれたのはそれもゼロの手で破壊されてしまったからに他ならない。

 

「何だってまたそんな仕様になってんの!? 肝心の非常時に役に立たないじゃない!」

「職員の閉じ込め対策も兼ねてるんだそうだ……完全に電源を落とせばいざという時の救助も楽なんだとさ……どうしてこうなった」

「まさか……あり得ないよそんなガバガバ設計」

 

 

「たま」

 

 

 

 前触れもなく暗闇に響くは地獄からの呟き……部屋にいる全ての人員が戦慄した。

 

「今の呟きってまさか……!!」

 

 アクセルは暗がりながら、なんとか慣れてきた夜目でおぼろげながらに見える部屋の隅を見渡した。

 すると彼の後ろ髪をなでるような風の流れを感じ取り、そこはかとなく違和感を覚えた。

 通風口に至るまで隔壁を閉じ切ったのに、風の流れ? アクセルは風を感じた方向の通風口を注視する。

 

 

 ――――暗がりの中にあってより一層闇の深い、人一人分は入れる通風口が開いていた。

 

 

 間違いない! 妖怪(ゼロ)は中にいる! しかし一体どこに!?

 心臓を鷲掴みにされたような、嫌に高まる動悸に冷や汗を流しながら、アクセルは暗がりに立っているエックスらしき陰の肩を叩く。

 

「エックス! ゼロが中に入って来てる!!」

 

 小声で捲し立てるアクセル。 よほど緊張しているのか強くつかんだ肩を揺らす。 しかし返事がない。

 

「どうしたのさ! こんな時に突っ立ってないで――――」

「アクセル……俺はこっちだ……!!」

 

 エックスの返事が来た。 アクセルの後ろ隣りから。

 

「え、エックス……?」

 

 振り返り再度目を凝らすと、確かにそこにはエックスらしき影があった。

 非常に見えづらいものの、なんとか彼の顔を見ることは叶ったが……その表情は引きつり息を荒げ、まるで未知なる者の遭遇に恐怖しているようにも見えた。

 

「アクセル……君は今、誰に声をかけたんだ?」

 

 エックスは疑問を投げかける。 アクセル自身は他ならぬエックスに声をかけ、彼の肩を掴んだのだ。

 しかしエックス本人はそこにいるし、他のオペレーター達はみな中央に固まって地に伏せている。

 それじゃあ、今アクセルは一体誰の肩をつかんで……?

 

 恐る恐るアクセルはもう一度振り返り、肩の主の姿を拝む事にした。

 

 エックスのそれと比べれば、よく見れば鋭角で縁取られたシルエット。

 生気をまるで感じられない死人の様な雰囲気を漂わせるその者は、今アクセル達が最も遭遇したくない、恐るべき妖怪の姿――――

 

 

 

 

 

「 た ま 」

 

 

 

 

 

「ああ!! 妖怪が中にッ!! 中にッ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED




 以上、シーズン3開始より1か月前の出来事でしたw まさかの投げっぱなしエンド(白目)
 ロックマンの宣伝するつもりだったのに、どうして最後がFive Nights at Freddy'sとクトゥルフになったんだ……(呆れ)
 まあそれはさておき、初の短編楽しんで頂けたでしょうか? 以後数話で終わりそうな短い話はこちらのツリーを使用して投稿していきます!
 それでは最後に……


『ロックマン11 運命の歯車』 好評発売中!!


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