「ぬわあああああああああああん疲れたもおおおおおおおおおおん!!!!」
「お疲れ様」
ソファーの背にもたれかかり足を投げ出して一人くつろぐアクセルがいる休憩室、そこに大声でやってきたのは心底疲れた様子で肩を回すゼロの姿だった。
エックスにせっつかされ鬼気迫る勢いで仕事に取り組んでいたと話を耳にしたが、窓越しに見える風景もすっかり日も沈みかけた今になってやってきたという事は、どうやらデスクワークには一定の目途がついたという事だろうと推察する。
「その様子じゃよっぽどため込んでた仕事が多かったんだね」
「いやはや参ったぜ。 自慢のコレクションを処分されちゃかなわなかったからな……クソッタレめ。 だが今日締め切りの分どころか全部処理してやったぜ」
ゼロから返ってきた予想以上の答えにアクセルは素直に感心する。
「そりゃすごいね! 何ていうかアンタらしくないっていうか」
「俺も本気になりゃこんなもんだ。 強いて自画自賛するなら、便秘気味でも必死で気張ってひりだしたウソコみたいな仕事ぶりだった」
「……褒めてんのそれ?」
「ああそうだ。 溜まりにたまって出かかってたのを一気にブリブリした気分だったぜ」
「(汚ねぇ例えだなあ!)」
自分の事を褒める割には汚いモノの例えにアクセルは辟易した。 が、日頃猥談で盛り上がるゼロのお上品な言葉遣いは今に始まった事ではない為、アクセルは適当に流すと決めてテレビ番組に視線を戻した。
「(……ま、一々突っ込むのも面倒臭いね)――――あれ? この芸能人って」
アクセルはテレビに映るバラエティ番組、その舞台の真ん中で司会とトークショーを繰り広げる恰幅の良い男性に既視感を覚えた。
人種は日本人のようで青地に黄色の袖を持つシャツを着たメガネの男。 アクセルはこの姿を見たことがあると記憶をたどる。
「確か日本で活躍してた芸能人だったよね? IS学園にいた時に見たことあるよ!」
「ああこいつか、名前も覚えてるぜ……確か名前は『ブリブリブリ
言いかけるゼロの言葉を待った先でひねり出されたお下劣な名前に、アクセルはの腰が豪快にソファーから滑り落ちる。
「ああすっきりした! 出かかって出ねぇもんひねり出して心が快便だぜ!」
「ちょ、ちょっと……!? ゼロ一体何言っちゃってんの!?」
腰砕けながらソファーに肘をついてやっとこさ立ち上がる。 芸名とはいえ人様の名前に対し何て間違え方だ、アクセルは露骨に顔をしかめながらゼロに問いかけた。
「言葉遣いが汚いよ!! どうして何でもかんでもシモの話にもっていこうとするんだよ!」
「俺が下ネタ振るのはいつもの事だろ。 うんこみてぇにネットリ食いつく程か?」
「クソの話に絡めるなッ!! ゼロはもっとスケベっていうか! ……まあそれやられても困るんだけど、やっぱり変だよ!」
「馬鹿言うな、俺は至って正常だ。 何の為に後頭部の下水管が破裂したヘアスタイルしてやがる。 ウソコか?」
「誰 が ウ ソ コ だ ッ ! !」
ゼロの無思慮な物言いにアクセルは自分でも驚く程の冷たい声が喉元を通り抜ける。 今のは聞き捨てならないと言わんばかりにゼロの胸元に掴み掛り、空いた手で引き抜いたバレットの銃口を減らない口元に突きつける。
修羅のごとき形相で詰め寄るアクセルだが、気圧された訳でもなく首をかしげるゼロの表情に悪びれた様子はない。
「おいおいそんなにフン慨することないだろア
「ア
「うーん、こいつは重傷だな。 便秘か?」
「クソと絡めるのやめろッ!!」
こみ上げる便意のごとく怒りを煽るゼロの口ぶりに、いよいよ銃を握るアクセルの人差し指が引き金に掛けられた時である。
二人して声のした休憩室の入り口を振り返ると、剣呑とした空気に包まれる休憩室に青いボディの仲間が呆れ顔でやってきた。
「何を言い争ってるんだ。 部屋の外にまで声が聞こえてきたぞ?」
「ああエッ
直後、ゼロの顔面を膨大な熱を帯びた光弾が直撃する! 至近距離で爆ぜる熱量にアクセルがとっさに顔を庇った矢先、ゼロの首から上は黒焦げになった。
ぎこちない動きで再度エックスの方を振り向くと、緩む口元に反し目は笑っていない凄みのある面持ち。 陽炎の揺らめくバスターの銃口を構えている彼の姿がアクセルの眼に飛び込んだ。
「喧嘩はやめるんだ、いいね?」
「ア、ハイ」
悩めるレプリロイドの二つ名に似つかわしくない迷いのないエックスの一撃。 圧倒的な寸劇に怒りを忘れて呆気にとられ、ついゼロの胸元から手を離してしまう。 辛うじてアクセルの握力で支えられていたらしく、ボロゾーキンと化したゼロはそのまま崩れ落ちるように卒倒した。
エックスはバスターの銃口を下げると呆れ混じりにため息をついた。
「で、随分なご挨拶だったけど……今度はなんだ? バレットまで引っ張り出すなんて穏やかじゃないな」
アクセルは慌てて銃をしまう。
「――――そうだ! ゼロったら酷い事言うんだよ! 事ある毎にその、シモの話ばっかりして! 僕の事下水管の破裂したようなヘアスタイル呼ばわりするし!」
「違うのか?」
「うおぉいッ!!!!」
フォローを求めるつもりがまさかの追撃に、アクセルは目をひん剝いてエックスに迫った。 これにはエックスも慌て気味に訂正する。
「済まない悪い冗談だった。 ――――確かに俺も今ゼロに言われて
「今言われた事延々と続けられるんだよ! 下ネタの種類が違うっていうか、すぐウン……便の話に絡めるっていうか――――」
「こびりつくんだろ? ウンコだけに」
いつの間にか身を起こし、得意げに笑ってすかさずクソをねじ込んできた
真顔で淡々と水洗トイレのように流しながらも、ゼロ自身の行動を持ってやはり様子が変だと確信する二人。
「どうしてこんな事になっちゃったんだろ……今日の分どころか全部デスクワーク終わらせたって言ってたし、柄にもなくまともに仕事をこなしたから?」
「えっ、あの殺人的な量を終わらせたのか? ひょっとしてそれが原因でおかしくなったんじゃないのか?」
「自慢のコレクションがエックスに人質に取られてるって言ってたからそれは……あ、でもゼロって道歩いてるだけで面白いって言うか、絶対何かトラブル起こしたり巻き込まれたりするし……」
「思い当たる節ありすぎて寧ろ無いんだよなあ」
エックスは腕を組み、アクセルは頭を抱えて険しい顔で考え込んだ。 最早笑いの神に愛される素養を持っていると言わんばかりのゼロの普段の行いに、逆に真っ当な振る舞いを心がけようが何かを引き起こす光景が想像できてしまう。 問いただすべき本人の口がノびてしまっている以上、原因をピンポイントに割り出すのは無理があった。
「僕らで考えても仕方が無いよ。 分からないならいっそダグラスに調べてもらわない?」
「――――それもそうだな」
ならば直接身体に聞いてみよう。 そう結論づけたアクセルとエックスは、それぞれ倒れているゼロの上半身と下半身を抱え、ジャパニーズミコシさがならに担ぎ上げた。
エッホッ! エッホッ! 無駄に規則正しい掛け声で休憩室を後にした。