あ、ついでに1話目の一部内容に不備を見つけたので修正しました。
所変わり開発室。 車両に装備、施設内に使う機材の整備はとうに終えており、作業員は全員業務を終えて引き上げた後であった。
小綺麗に片付けられて閑散としたフロアに、後処理に残されたパレットと主任であるダグラスだけがモニタとにらめっこしてその場に残っていた。
エックスはゼロの異変を彼らに可能な限り詳細に伝え、パレットと共に検査してもらったものの――――
「どうにもこうにもなぁ……」
「一応プログラムエラーも確認してみましたけど、結果はいつものと変わりはありませんでしたよ?」
成果は芳しくはなかった。 ダグラスとパレットは寝かしつけられるゼロを見て深くため息をつく。
「……そんなぁ、絶対どこかに異常あるって思ったのに」
「検査で出なかったものはどうしようもない。 終わり際に悪かったよダグラス」
「いいってことよ。 ……しかしまあ、口調がおかしくなったってか……なんともなあ」
検査結果はオールグリーン。 異常がない事は目の前のモニタにはっきりと表示されているのだが、アクセルも彼をなだめるエックスも内心腑に落ちない気分であった。
ゼロが下ネタを振るのはいつもの事で、少々内容が変化したぐらいでわざわざ検査する必要はないと、乗り気でないダグラス達に引き受けてもらえるよう説得までしたのに。
「ん~……まさかお昼の出来事が関係してる可能性は――――」
「何か心当たりあんの?」
不意に呟いたパレットの一言にアクセルが関心を持つ。
「おいパレット! 流石にその話は!」
ダグラスの制止にパレットが慌てて口を塞いだ。 しかしエックスがそれを遮るようにパレットの発言を促した。
「聞かせてくれ。 どんな些細な事でもいいんだ」
「待ってくれエックス! ほら、守秘義務ってか本人の名誉に関わるから!」
「ここだけの秘密にするから言って! せめて原因だけでも突き止めなきゃいけないから!」
僕たちが困る! そう言い放ってダグラスの制止を振り切った。 するとダグラスは気難しそうに頭をかくと、観念したように言葉を続けた。
「――――分かった。 今から言う事はゼロ本人には言うなよ。 先に結論から言う」
何時になく神妙なダグラスに、エックスとアクセルは息をのむ。
「「――――は?」」
その突拍子もない一言にエックスとアクセルはしばしの沈黙の後に疑問符を浮かべる。 対するダグラスはやはりといった様子で、言葉を失うこちらに簡潔に状況を説明する。
「アイツ昼下がりに顎が外れたとかで俺達の所にやってきたんだよ。 でもその時必要な部品切らしてたから、発注しにいく際にパレットに応急用のグリスを取りに行かせたんだ。 そんでお互い段取り済ませてゼロの元に返ってきたら……」
説明の最中ダグラスがパレットの方に視線を送り、つられて振り向くと開封されたパッケージを胸元に抱える彼女がいた。 恐らくはそれがイチジク浣腸のパッケージなのだろう、中にたった一本のイチジク浣腸が姿を覗かせる。 ダグラスは言葉を続ける。
「10個入りのパッケージだったのにもう残り一本しか残ってねぇ」
「ゼロさんこれがお尻に刺す物だって気づいてる様子もなかったんですよぅ……私達は止めようとしたんですけど、時間も圧してるとかで――――」
「何でそんな物がここにあんの……?」
アクセルがおずおずとした様子で問いかける。 メカなのに胃薬を飲んだ事のある自身やエイリアの存在もあるにはあるが、流石にレプリロイドは排泄にまでは縁がない。 これもダグラスが答えてくれた。
「ゼロより前に抜き打ちで視察に来たケイン博士が忘れていったんだよ。 年のせいかお通じが良くないとかで、ここに来る前に薬局に寄り道したんだとか」
「……えーっと、じゃあつまり何か?」
ダグラスから齎された情報の数々に堪えきれないエックスが一つの結論にたどり着く。 認めたくはないが、ゼロというキャラクターをよく知る彼にとって、自ずとそれを否定する術はない。 ダグラスの言葉を遮るようにエックスは口を開いた。
「ゼロの口調の変化は顎にイチジク浣腸差し込んだせいって言いたいのか?」
「ブッハッ!!」
まさかの不意打ちにアクセルが吹き出した。 緊張も手伝い地面に卒倒、過呼吸のあまりよじれる腹を押さえ込んで笑いを堪えるのに必死になった。
そんな彼を真顔で一瞥したダグラスとパレットは無言のまま首を縦に振る。 直後、エックスの中で何かがはじけた!
「何で気づかないんだ!! 最悪パッケージでも見たら分かるだろ!? 第一そんな事で口調変わるなよ!」
「俺が言うのも技術屋の敗北なんだけどよエックス。 でもゼロだぜ?」
「分かってるさそんな事!! でも言いたくなるだろ!! 「バカか!?」って!!」
科学的な根拠もへったくれもないが、ゼロという人物像からすれば十分あり得てしまう……言われなくても理解はしていると憤慨するエックスを、潔く負けを認めたダグラスがそれを宥める。
隣では必死で笑いを堪えて立ち上がろうとするアクセルの背中をパレットがさする混沌の最中、その根源たるゼロ本人は変わらず気絶したままだったが――――不意に彼の懐から音楽が鳴り響く。
「うん! こんばんわ! こちらゼロ!」
瞬間、ゼロが目にもとまらぬ早さで身を起こす! 気絶からあっさり立ち直るだけにとどまらず、ボロゾーキンと化していた見た目があっさりと綺麗になる彼に一同は戦慄する。
「うん? ちがう? うん、うん? このくらいの挨拶なんて当たり前だろ? 何を言うんだ。 ――――ああ分かってる。 明日のデートだろ? もろちん覚えてるぜ! 正午の市民『プープ』前で待ち合わせだったな。 安心しろ、俺はお前との予定をすっぽかすようなビチクソ野郎じゃないんだ! 大
周りにいるエックス達の事など眼中にない様子で汚い言葉を織り交ぜる恋人同士の会話を終えると、ようやくゼロが置かれている現状を確認する。
「なんで俺開発室にいるんだ? ――――あ、おいエックス! いきなり顔面にバスターぶち込むとはどういう了見だ!? いくら俺でもそんな事されたらフン慨するぞ!!」
「イチジク浣腸だけに――――」
アクセルの軽い口をエックスが慌てて塞ぐ。
「ああやり過ぎたゼロ、すまないな! 明日はデートだろう、もうゆっくり休んでくれていい!」
「クソッタレ……調子のいい奴だ。 まあいい、さっさと上がらせてもらうぜ……フン!」
ゼロは寝かしつけられた机から降りると、エックス達を振り返る事もなくさっさと部屋を出て行った。 後に残されたエックス達はただ呆気にとられるばかりだった。
「――――ブハッ! ど、どうすんのエックス! 既に会話がおかしいのにデートするとか言ってたよ!?」
慌てた様子のアクセルに対し、エックスは何も答えを返せない。 語彙力を糞で塗り固めた様をむざむざと見せつけられ、彼らの胸中には最早不安しか残らない。
せめて、デートの前に顎のグリスだけでも塗り直してやろう……エックス達がゼロにしてやれる事と言えば、それぐらいしか思い浮かばなかった。
「……あのバカが口調がおかしくなったままデートだぁ? これは面白い事を聞いたぞ! VAVAVAVAVA!!」
それだけに開発室の壁一枚……中庭から聞き耳を立てていた一体のレプリロイドの存在に気付く余地はない。