「はぁ……」
アイリスは一人、人気の少ない公園の中央広場にいた。 広場の中心部には盛り土によって3階建てのビルに匹敵する高さの丘が造成されており、天辺には屋根付きの簡素な展望台が設けられている。
展望台のベンチに座り込む彼女はため息をつく。 折角のデートだったのにゼロと喧嘩をしてしまった……明らかに非があるのは向こうではあるものの、怒りに身を任せて立ち去ってしまった己の行いを少なからず後悔していた。
「ゼロったらどうしちゃったんだろ……そんなにデートが嫌だったのかなあ?」
アイリスはつい疑わずにはいられない。 信じてはみたものの、こうも汚い言葉を使って雰囲気をぶち壊すゼロは、ひょっとして自分と付き合うのが嫌なのではないか?
考えてみればあの紫色の泥棒猫の存在といい、彼の好色でエキセントリックな生き方は自分一人で満足するようには思えない。 そう頭がよぎった所で考えを振り払うようにアイリスは首を横に振る
「いいえ、そんな事はない! ちょっと浮気性な所はあるけど付き合った女の子をぞんざいにする人じゃないもの! きっと何かトラブルが――――」
「察しが良いな、ご名答だぜ」
不意にかけられた男の声。 アイリスの小柄な身体に覆い被さるように、背後から日の光を遮る大きな影がかかる。 不審な声の主に振り返った先には気配一つ無く現れた一台の巨大なライドアーマー。
そしてそれを駆るは、身の毛もよだつような禍々しい紫の鎧をまとう一人のレプリロイドの姿――――
「こういうやり口は気に食わんが、少し付き合ってもらうぜ」
同僚の追跡を振り切り、アイリスの去った方向に足を進めていたゼロが耳にした彼女の悲鳴。 ただならぬ叫び声にゼロの身に緊張が走る。
「クソッタレ! 今日は一体何なんだ!? アイリスはキレるしエックスらには後を付けられる!! 俺が何をしたっていいやがるんだ!?」
大半がゼロ自身の招いた騒動だが自覚のない本人は原因など露知らず、身に降りかかる災難に悪態をつく。 やがて彼はアイリスの声のした辺りであろう別の公園にたどり着くと、衝撃の光景を目の当たりにする!
「うん……? ちょっとまて、あれは何だ?」
ゼロが目的地にたどり着くなり視界に入ったもの。 それは丘の上で檻の中に入れられ気を失っているアイリスの姿だった。 喧嘩してデートをほっぽり出した恋人が囚われの身になっている。 通常ならこの時点でゼロは迷わずに彼女の元へと駆け出したであろうが、それはためらわれた。
何故なら彼女は確かに檻に閉じ込められて横になっては居るものの、檻はそれなりに広く小さな部屋一つ分の面積はあり、純白のシーツにくるまれた柔らかいベッドの中で快適そうに眠っていたからである。
乱暴したいのか丁重に扱いたいのかハッキリしないアイリスの扱いに、ゼロはこの場に込められた真意を測りかねていた。
「(捕まえられてる……のか? やった奴は何がしたい? うんこか?)」
自問自答するものの、どっちつかずな彼女の扱いに加え思考が茶色く塗りつぶされているゼロに判断はしかねていた。
「こらゼロ!! やっと追いついたぞ!」
「ハァ、ハァ、い、いい加減顎を直してよ!! じゃないとエックスがまたバスターぶっ放すんだから!!」
一歩遅れてエックスとアクセルも息も絶え絶えながら追いついてきた。 アイリスを追うついでに彼らから逃げていた筈のゼロだったが、これ以上彼らを撒こうという気にはならない。
「おいエッ
「だから、その呼び方をやめろって――――」
エックスの抗議を遮るように、ゼロは丘の上の檻を指さした……アレをどう思うと言わんばかりに。 エックス達も訝しげな表情でゼロの指さす方向に意識を向け、檻の中のアイリスを捕らえるなり目を丸くした。
「……何アレ? 乱暴に閉じ込めたいのか丁重に扱いたいのかどっちなの?」
「ゼロ、ひょっとして君が?」
「ううん、ちがうな。 俺が来た時にはこうなってた……とりあえず様子を見に行くか」
ゼロは咳払いをして呆気にとられるエックス達に問いかけると、彼らもそれに倣ってアイリスの元へと足を運ぼうとしたその時!
突如聞き覚えのある男の声が聞こえたと思いきや辺りが影に包まれる! そして直後に道を塞ぐように上空から現れる巨大な茶色のライドアーマー!!
地響きと共に舞い上がる砂煙にゼロ達は身構えると、煙に包まれた中から赤い眼光が迸った。
「散々街中で暴れて俺より目立ちやがって!! つくづくいけ好かない野郎だ!!」
「――――この声は!?」
そして煙が晴れた先には、ライドアーマーを操るはある意味腐れ縁ともいえるイレギュラーの姿!
「「「VAVAッ!!」」」
「そうだ、この俺だ!! VAVAだ!! VAVAVAVAVAッ!!!!」
全身に重火器を携えて幾度となくエックスの前に立ち塞がった、後ついでに笑い声が絶妙にウザい元イレギュラーハンターにしてイレギュラー、VAVAが現れた!!
彼は舞い上がった煙が落ち着くのを確認すると、運転席から掃除機を持ってライドアーマーから飛び降りる。 そしてエックスらと久々の会話をしながら石畳の上に降り積もった埃を吸い込み始めたではないか!
「どういうつもりだ! ゼロの恋人を捕らえたのは貴様か!?」
「その通り! あの女は人質だ……お前らが俺と戦わざるを得なくするためのな!」
大きなゴミは腕を引き抜いて箒とちりとりを引き出し丁寧に集めていく。
「戦う為だと? VAVA、人質を取ってる……つもりだったのか、だとしてもお前のやり口らしくないな」
「戦ってる最中に女に騒がれるとやかましいからな! 羽毛布団で寝かしつけてやったぜ。 その特等席で快適なショーを楽しむんだな、クックック……」
一通り汚れを取ると水を撒いて汚れを浮かし、丹念かつ手早く洗い流していく。
「で、悪党がわざわざ汚した所キレイにしてんのは何なの?」
「貴様らは日頃から俺よりも騒動を引き起こして街を壊しまくってるせいで、俺が破壊して暴れ回る余地が全然無いんでな!! おかげで直してばっかりで偶に俺が暴れようにもちっとも目立たん!! 気に入らねぇ野郎だ!!
ひび割れた石畳には補修用の速乾性セメントを流し込んでテキパキと修復する。 話の間に着地の衝撃も何のその、公園はむしろVAVAが着地するどころかご丁寧にゴミ掃除まで済ませてしまった!
用事を済ませたVAVAが再びライドアーマーに飛び乗ると、彼の立っていた所には大量の種別分けされたゴミ袋。 公園は彼が来る前よりもむしろキレイになっていた。
「どうだ恐れ入ったか! ここのゴミも分別してゴミ袋に分けてやったぜ!! これでここの公園の管理者もやるべき仕事がなくなるぜ!! VAVAVAVAVAッ!!!!」
清潔感溢れる煌めく公園の中心、VAVAの高笑いは澄み切った空気の中に響き渡る。 そんな悪逆極まる彼を前にエックス達は生暖かい目線を送り……ゼロがおもむろに何かを取り出した。
「プリッとな」
「VAッ!?」
そしてそれを地面に放り投げるとVAVAは驚愕する。 ゼロが捨てたものは先程アイリスに口の中に突っ込まれた、ソフトクリームの包み紙を丸めたものであった!
慌てふためくVAVAを見てゼロはわざとらしく笑いを堪えてみせる。
「プーププッ! そんなんで仕事が無くなるくらいなら俺が増やしてやろう、VAVA!」
「て、てめ!! 今俺がキレイにしたばかりだぞコラァ!!」
「VAVA! お前がいくら人の仕事を奪おうが、この俺の目が茶色い内はそうはいかねぇ!! ゴミなら映画館で捨て損なったものもまだまだある、行くぜッ!!」
立て続けにポップコーンやドリンクのカップ等、プラスチックと紙を仕分けしていないゴミをこれ見よがしにポイ捨てして挑発するゼロの姿に、VAVAはアーマーの上から浮き上がらせた血管から赤いオイルを噴出!
「ぬおおおおおっ!! 根性までうんこ野郎に成り下がったかド畜生ッ!! それがイレギュラーハンターのすることかぁ!?」
「てめーのやる事も悪党のすることじゃねぇだろ!! 悔しかったらとっととかかってきやがれVAVA!! こんなくだらねぇくそみそ同然の遊びに長々付き合うつもりはない!! さもなきゃ犬猫けしかけて公園うんこまみれにしてやるぜ!?」
その最後の一言が、VAVAとの間に鳴り響いたゴングだった。
どっちが悪役なのか初見で判別がつきにくい掛け合いと共に、1対3の戦いが幕を開けた!
アクセル「アンタ悪党向いてないよ」