ロックマンZAX GAIDEN   作:Easatoshi

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エピローグ ※

「気がついたか! うん、これで大丈夫だ!」

「口調は……相変わらずなのね……」

 

 ゼロに介抱されながらお上品な口調と共に出迎えられ、目覚めるなりアイリスは苦笑した。

 横になりながら辺りを見渡すと、VAVAが暴れた現場からは少し離れた、公園の入り口付近のベンチに寝かしつけられていたようだ。

 そこから起き上がって現場の方を遠目から見てみれば、彼氏の相方であるエックスとアクセルがハンター仲間達と共に慌ただしく事後処理に取り組んでいる。 少し時間も経っているのか辺りはすっかり赤く染まり、もう日がビル群に沈みかけている。

 

「……なんだか今日一日慌ただしかったね。 結局普通にデートできなかったし……」

「……その、何だ……うん、ちょっと良いかアイリス」

 

 疲れたように薄ら笑いを浮かべながらぼやくアイリスに、ゼロは少し気まずそうに言葉を口にする。 その目つきはどこかこちらの顔色を窺うようで、口調はそのままだがこちらの顔色を窺うような仕草。

 

「エック……いや、あいつらからも言われたんだが、どうも今の俺は口調が……うん、ちょっとおかしくなっているらしい。 自覚は全くないんだがな……」

 

 知ってる。 しかしアイリスは黙ってゼロに言葉を続けさせた。

 

「昨日顎周りの故障で応急修理をしたんだが、あいつらはそれが原因で不調が起きていると断言してた。 で、今回のデートも随分とクソッタレな迷惑をかけてしまったみたいだ」

 

 ゼロは頭をかきながら伏せ見がちで、至極申し訳なさそうに目線を送る。

 

「俺としては良かれと思ったんだが、それが無自覚に出たせいで嫌な思いをさせてしまったならすまなかった。 謝罪のベンを述べさせてもらう」

 

 その言葉に、アイリスは少し考えたように口元に手を当てて……はにかんだ。 彼女にとってはそれが聞けただけで満足だった。

 謝罪をさせたかったと言うよりは、彼女が何かの間違いだと信じようとした事が報われた。 ゼロは決して自分を嫌って今回のような真似をした訳では無いと、改めて確信を持てたのだから。

 

 胸のつっかえがとれたような気分だが、しかし折角のデートを台無しにされたのは事実である。

 

「……じゃあ、返事を聞かせてあげる」

 

 アイリスはゼロの後頭部に頭を回し、抱きついた勢いのまま唇を重ねた。 

 

 

 

 

 

 穏やかな二人だけの空間が辺りを包み込む中、感じられるはお互いの鼓動と人肌の暖かさ。 抱擁と口づけに心地よさを覚えながら愛を強く確かめる。

 やがてゼロの吐息から伝わる多幸感が彼女の身体の隅々まで行き渡り、ようやくそこで彼女は唇を離す。

 

「う、うん――――「野暮な事は言わないのゼロ。 私だってゼロに辛く当たっちゃったし、これでおあいこよ?」

 

 呆気に取られるゼロを前に、自分の頬はさぞかし緩んでいるだろう。 酷い事がいっぱいあったが、今というこの瞬間で全てを幸せで塗り変える事が出来た……そんな満足感があった。

 

「お、お前という奴――――ハガッ!?

 

 しかしゼロという男はこれで終わりにはしてくれなかった。 ようやく取り戻した恋人同士の甘い一時に一発ぶちかますかのように――――ここぞと言う時に顎が外れたのだ。

 

ふ、ふはへんは(ふ、ふざけんな)! ほりひほっへほんはほひに(よりによってこんな時に)!!」

「プッ! あははっ! ゼ、ゼロったらもう!!」

 

 再びムードを台無しにする彼だったが、それがまたおかしくてアイリスは吹き出してしまう。 そうだ、なんだかんだと言ってもやはりゼロはゼロなのだ。 決める時は決めるがそうで無い時にはおとぼけを見せてくれる。 そんな彼がアイリスは大好きだった。

 

ひふほう(チクショウ)! はんはあほほはおへほうはほほ(なんか顎を直せそうなのは)!? ――――おほ(おお)っ!?」

 

 かっこ悪い所を見せまいと焦って周りを見渡すゼロだったが、何かを見つけるとアイリスを置いていずこへと一直線! アイリスも置き去りにされまいと慌てて後を追う。

 

「ちょっとゼロ!! 貴方どこへ行くの!?」

 

 ゼロを追いかけた先は、公園の入り口正面に大通りの横断歩道を渡った所にあるドラッグストア。 比較的治安の良い所である為か、日本式に倣って店先に商品が置かれているタイプの珍しい薬局である。

 ゼロはおもむろにそこからお目当てらしきパッケージを手早く取ってレジに向かい、ニコニコ現金払いでおつりをもらう前にちゃっちゃとパッケージを開封する。

 

「何してるの!? ここは人間用の薬局だ……て……?」

 

 ゼロは外れた顎を直すべく顔の皮膚を一部めくって機械部を露出させ、さっき買った商品から取り出したであろう『油差し』を注入する。

 

「ああ^~はまらへぇへ(たまらねぇぜ)

 

 恍惚とした目つきで顎に注入する何か……引き気味にゼロの様子を窺う店員と、ゼロが中身を取り出したパッケージに自然に目が行くアイリスが言葉を失うのは必然だった。

 

 

 そう、本来は後ろから注すものであるいちじく浣腸を。

 

 

ゴキっとな! ……うーん、これは応急用にしては具合はうんこ。 スカット爽やかだうんこ

 

 

 外れた顎は気持ち良いぐらいにキレイにはまる。 ヤクの一発でも決めたような、それこそアイリスとの接吻よりもなお満足そうに頬を緩ませる愛しの彼氏。 心なしか言葉遣いが一層汚くなったように聞こえた。

 

「ああもううんこだ。 全てはうんこだ。 身も心も全てうんこに生まれ変わったようだ「ゼロ?」

 

 アイリスは手に取ったいちじく浣腸のパッケージをゼロに突きつける……どうしてゼロは、これを迷いも無く顎に注入したのか。 まさかこれを本当に油差しとでも思っているのだろうか。

 

「貴方? 何考えてこれを顎に使ったの?」

 

 アイリスはあえて問いかけた。 これを顎に注入したその心を……注入を境に汚染が進んだような彼の言葉遣いから嫌でも想像がついてしまうが、アイリスは確かめずにはいられなかった。

 

「ああうんこ。 昨日の8月15日……じゃなかった4月30日に顎が故障したって言った筈だけどよ、今みたいに外れちまったのをそいつをブリッと注入して応急手当てしたうんこ

 

 アイリスは総毛立つ。 しかしゼロは気にせず得意げに語る。

 

「これが思いの外うんこで調子が良くってうんこ。 なんとなく口が軽くなった気がするうんこ。 しかしまああれだ、そのせいで気の利いたうんこが言えなくなってお前をうんこにしてしまったのは宜しくないうんこ。 できるだけ早くうんこ交換が必要うんこ――――」

 

 もうそれ以上は聞きたくない! 言わんばかりにアイリスは威圧感たっぷりにパッケージの商品名が見えるよう指をずらし、ゼロの目前に強く近づけた。

 

うん? これは……いちぢく……か、浣腸……おしりに……注す、だと?」

 

 無言の圧力と共に、促されるままにパッケージと謳い文句をじっくりと読み上げる。 その文面を把握する度に、ゼロの表情が消えていった。

 

 

 

 

 

 しばし沈黙する。 原因が分かって良かったでは無いか、威圧感を込めた笑みを向けてやると小刻みに身を震わせていた。

 ゼロもまた笑ってごまかそうとするものの震えを押さえられない彼を見るに、自身の表情は相当恐ろしい事になっているのだろう。

 悪いが泣きたいのはこっちの方だ。せめて、せめてその場面を恋人である自分に見られぬよう配慮してくれれば。 或いは口づけを交わす前にその事実を教えてくれさえすれば。 愛を確かめた相手を文字通り抹殺せずに済んだかも知れないのに。

 

「……アイリス。 先程言いそびれた事があったうんこ

 

 やがてゼロは敗北を悟ったか、もしくはただの無謀か……辞世の句になり得る致命的な一言を口にする。

 

「夕日に照らされたお前の髪は綺麗だ……川に流れる犬のうんこのように――――」

 

 彼が浣腸を注入して心が糞塗れになったように、自身も恋心に注された水がはち切れた。

 

 

 

 そう、怒りという名の(感情)を――――

 

 

 

うんこはアンタようんこたれハンタァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

  

 

――――甘い記憶で塗りつぶそうが、所詮クソはクソだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロにグリスを注せていない! 悪党未満の茶々入れのせいで目的をすっかり忘れていたアクセルが、大慌てで公園前の薬局にようやくたどり着いた時、全てが遅かった。

 

「トイレェェェェェェェェェェッ!!」

 

 薬局からアイリスがゼロの顔面に跳び蹴りを入れる形で、二人して店内から勢いよく飛びだしてくるその場面にアクセルは手遅れを悟る。

 

「お、遅かった……」

 

 今までの苦労も水の泡、持っていたグリースガンを落として力なく膝をつく。 地面に突っ伏すゼロの顔はうかがえないが、ゼロを店外へ蹴り出すアイリスの脚力は相当なものだろう。 最早確認するまでも無い。

 

「しばらく口を近づけないで頂戴!! さよなら――――ヴォエッ!!

 

 フン怒を露わにしたまま、アイリスはゼロをおいて明後日の方向へと去って行った。 口から吐瀉物を夕日に煌めかせながら……。

 否応なしに刻まれた臭くて汚い記憶の1ページに、自ら酸っぱいしおりを挟んで帰って行く彼女の背中に、アクセルは同情を禁じ得ない思いであった。

 

フン……(クソ)、き、聞いてくれ」

 

 糞呼ばわりはあえて突っ込まなかった。 肩を震わせて不敵な態度を取るゼロに対し、ぐっしゃぐしゃでも必死に作り笑いをする様子が浮かび上がる。

 不注意が招いたとはいえある意味では不幸な事故の被害者でもあるゼロを、せめて最期まで見届けてやろうとアクセルは思った。

 

 

 

「この三枚目を笑ってくれ……あいつは水に流してくれなかったよ……トイレに詰まったままのうんこみてぇに!!

 

 

「つまらねぇ!!」

 

 

 

TO BE CONTINUED




 珍しく恋愛要素だって? フリに決まってるだろそんなの(ゲス顔)
 と、言う訳でシリーズ第二のゲロインと化したアイリスに黙祷を捧げ、今回はこれにて終了とさせて頂きます。
 で、完結した感想をば……何とかなるもんだなぁ、見切り発車で毎日投稿。 実際問題『ゼロにうんこと言わせる』『クサイバトロンとスカトロンのネタを使う』『うんこだけにVAVAを出す』『キスした直後に顎浣腸発覚』以外ロクに決まってない状態で書き始めたもので、どうやってオチまで持って行ったものか内心焦っておりましたが、強引でも展開進める方に書いてみれば意外と形になってやったぜ。 な気分でした。
 そんな半年ぶりにひり出したクソッタレな新作を楽しんで読んで頂けた読者の方々、それと事前に許可を求めたとはいえ、自分の作風を知った上でGOサインを出して頂いた赤バンブル氏には感謝の気持ちでいっぱいです。
 この場を借りてお礼申し上げます。

↓赤バンブル氏の連載中の作品『ドラえもん のび太の転生ロックマンX』↓
https://syosetu.org/novel/137707/

 さて、同人活動の件もあって再びZAXシリーズはお休みに入らせて頂きますが、作者自身はちょくちょくハーメルンやTwitterのアカウントに顔を出していきますので、また絡んでやって頂けると幸いです。
 面白いネタがひらめけば、今回みたいにまた短編でちょくちょく書いていったりもします。

 それでは長くなりましたが今回はこの辺で。 本作品へのお付き合いありがとうございました! 重ねて感謝の気持ちを述べさせて頂きます……でわ、またの機会に!


【挿絵表示】




 追伸:
 ゼロとアイリスはこの後しれっとよりを戻しました(白目)
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