ロックマンZAX GAIDEN   作:Easatoshi

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中編『最初のドラマ』 ※

 

「それでは12番ゲートへお進み下さい! ……それでは次の方!」

 

 10月14日、待ちに待ったイレギュラーハンターとレプリフォース共催の運動会が、遂にここ国営競技場において開催された。 ゼロの小指を立てるコレことアイリスは、受付嬢として施設の入り口に設けられたカウンターの前を、所狭しと並ぶ観客や一般参加者を捌いているところであった。

 

「はい次の方! 押さずにゆっくりと前にお進み下さい!」

「展望席は8番ゲートからとなります。 どうぞお楽しみ下さい」

 

 左側には桃色のショートヘアがキュートなナナと、反対の右側にはゼロをめぐる恋のライバルこと、レイヤーが大人びた雰囲気を漂わせて応対している。

 

「ふう、思った以上に数が多いわね……ちょっとしたイベントだったはずなのに」

「メディア展開に加えて、主催者側の陣営からも錚々たるメンバーが参加しますからね。 実際現時点で競技への参加者数は見込みを超えているみたいですから」

「……だよねぇ。 まあ、何だかんだ言って()()()()も有名人だから、それ目当てに人が集まるのは当然かも」

 

 ぼやきに受け答えるレイヤーに流し目を送りながら、アイリスはゼロの名を『私の』と僅かに強調しながら返す。

 

「ええ、ゼロさんの内なる情熱にあてられた人々からすれば、彼の出場を見過ごせないのは当然と思います……かくいう私もめくるめく一時を通して()()()()()()でして……」

 

 レイヤーも赤らめる頬に手を当てながら含蓄のある言い回しをすると、アイリスは僅かに頬を引きつらせた。

 

「あら、話が分かるのね。 具体的にどんな一時を過ごしたのかよく聞かせて貰いたいわ。 フフフフフ……

「勿論です。 何十分でも何時間でもしっかり語れる自信があります……フフフフフ……

 

 目元に陰がかかった仄暗い笑顔を互いに向け合うアイリスとレイヤー。 彼女達の目線のぶつかる間には、確かに火花が散っているようだった。

 

「……この二人ってひょっとして仲悪いんですか?」

「仲が悪いって言うより、ゼロさんをめぐるライバル関係ですよう……ほら、あの人頭も股間も緩いですから」

「納得」

 

 朗らかな面持ちと裏腹に剣呑とした雰囲気を醸し出すアイリス達をよそに、隣でナナが横にいるパレットと小声で話をする。 所属も違いギガンティスにいた彼女はアイリスとレイヤーの間柄など知るよしもない。

 

「それにしても優秀なナナさんがヘルプに来てくれて助かりましたよう。 流石にこの人数はイレギュラーハンター組だけじゃ厳しかったですから……あ、2名様ですね?」

「この間のホテルでの埋め合わせです。 あの時はエックスさん達には助けられましたから……まあ、ちょっと色々ありましたけど」

 

 来客者との応対を重ねる合間に世間話をしながら、ナナは少しだけ遠い目をする。 パレットも少しだけ苦笑いをしているようだった。

 アイリス組とナナ組で温度差の激しい部分もあるが、忙しいものの割と平和な一時を過ごしていた彼女達の前に、そんな空気を容赦なくぶち壊しかねない不穏な影が覆い被さった。

 列を並ぶ客達の間にどよめきが走った。

 

「ゼロッ! そんなに慌てて動いたらまた背骨折れるぞ!?」

「グエェ……折ったお前がそれを言うのか……!! ゆっくり動くとかえって辛いんだ……ゲフッ!!」

「ああもう!! 世話の焼けるハンターだね!! 寄り道なんかしてる場合じゃないのに!」

 

 客の並ぶ列の後ろから、聞き覚えのある3人組の男の声がアイリス達の耳に届いた。 列に並ぶ人々が振り返っては目を見開くのに気付いた、アイリスとレイヤーはにこやかなにらみ合いをやめ、4人揃って人々と同じように目を向ける。

 

そして言葉を失った。

 

「グ、グフッ! よ、ようアイリス……それにレイヤー。 随分と、精が出てるようだな」

「「ゼ、ゼロ(さん)……!?」」

 

 そこには不適につり上げた口元から真っ赤なオイルを滴らせる、嫌に胴を縦長に伸ばしたゼロの姿があった!!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 見知った彼の身長と同じぐらいの長さの胴を持ち、膝を笑わせて立つ彼の姿の周りには、目頭を抑えるエックスと頭を抱えて項垂れるアクセル。 2人して気まずさのあまりか陰気を漂わせ、そして垣間見える目元には大きな隈が浮かび上がっているようで、大会当日に相応しくない憔悴した様子を窺わせる。

 

「お待たせ皆! ケイン博士の用事で遅れたけど、もう大丈夫よ!」

 

 そして折り悪く、席を外していたらしいエイリアが、背後にある職員用の出入り口からこの場に戻ってきてしまった。

  

「さ、キビキビ働いて受付の仕事を終わらせま……しょう……ってなんじゃこりゃあああああああああああああッ!!??

 

 同僚の異様な出で立ちを目の当たりにしたエイリアが、人目も憚らずに絶叫! 普段の頼れるお姉さんの姿など見る影もなく、身を震わせ唖然と口を大きく開ける。

  

「グ、グフッ……あ、あの脂肪を何とかしようと肉体改造に取り組んだら、ハ、ハッスルし過ぎちまってな……グハッ!!

 

 ゼロは吐血もとい吐オイルした。

 

「に、肉体改造ってそんなハードなの!? 貴方血を吐いてるじゃない!」

「文字通り体でもいじくったんですかゼロさん!?」

「ブフッ、あ、安心しろ……レプリロイドが直接体を改造するのは規定違反だからな。 その辺は抜かりは……グハッ!!

 

 どこをどう見ても瀕死にしか見えないゼロの様子に、アイリスとレイヤーはただ戦慄するばかり。 その間エックスとアクセルは何も言えない気まずそうな様子で、こちらの目線を窺うような素振りを見せていた。 その時、ようやくショッキングな出来事に一定の区切りを付けられたエイリアが、震え声でエックス達に問いかける。

 

「……何をしているの? 貴方達の行くべき受付は、その、こっちじゃないわよ」

「!! ……分かっている。 さ、ゼロ行こうか」

オフッ! わ、分かった……ま、また後でな」

 

 ゼロはエックスに連れられその場を後にしようとした。 去り際に手を振る彼にアイリスとレイヤーも神妙な面持ちで手を振る。

 

「……ごめんなさい。 ゼロを受付に連れて行くから、もうちょっとだけ待っててくれないかしら?」

 

 エイリアもまた彼らについて行くみたいで、アイリス達は一同に無言で首を縦に振り彼女を見送った。 専用の出入り口に姿を消す彼らを列に並ぶ人々と共に黙って見送り、隣で様子を見ていたナナが引きつった笑みを浮かべ、アイリスとレイヤーに問いかけた。

 

「……お2人は彼のどこを好きになったんですか?」

 

 アイリスとレイヤーは互いに顔を見合わせ、受付に突っ伏し頭を抱えて項垂れた。 返答に困る質問をしないで欲しい。 そう言わんばかりに。

 

 

 

 

 

 

所変わりここは計量室。 所定の受付で手続きを済ませたエックス達は、早速身体テストに取り組んでいるところであった。

 部屋の中には複数のグループに分かれて係員がせわしなく選手の体の計測を行っており、部屋の奥の壁際にはケイン博士が立って現場の風景を見守っていた。

 ちなみにこの際に不正を行った選手は、人間やレプリロイドの区別無しにケイン博士直々に逆エビをかけられることとなっており、これまでに既に20人が摘発されては技の餌食になった。 内18名がお亡くなりになり(即死)、生き残った2名は救急搬送されていった……しかしそれも時間の問題だろう。

 我らがエックスとアクセルについては文句なしにすぐ合格し、今は問題のゼロがテストの順番が回ってきたところで、身長計に足を進めているところであった。

 固唾を呑んで様子を見守るエックスとアクセルに、エイリアは小声で問いかける。

 

「貴方達……3週間前のあの日から一体何があったの? ゼロは本当にアレで計量をパス出来るのかしら?」

 

 エイリアからの質問に、エックスはため息が漏れた。

 

「……結論から言えば、ゼロは確かに痩せた。 でも規定体重を下回る事は出来なかったんだ」

「ぶっ!!」

 

 遠い目をするエックスの発言にエイリアは吹き出した。

 

「体重がどうにもならなかったから、せめてあの横に長い体だけでもどうにかしようと、ゼロの体を強引にコルセットで締め付けて誤魔化したんだ……そしたらその分縦に伸びた」

「文字通り骨が折れたよね……お陰で医療用って建前で、堂々と書類に書く口実が出来たけど」

「身長3メートル60センチ……普通だな!

 

 白目を剥いていささか錯乱気味にゼロを計測する係員を遠目で見ながら、エックスとアクセルはエイリアからの質問に言葉を返す。 横に伸びた体を締め付けたしわ寄せがあの体格だというのなら、まるで『トムとジェリー』を地で行くような話ではないか!

 不自然極まりないゼロの体型を押し通そうとする彼らに、特に常識人枠だったアクセルまで一緒になって不正を行う光景に、エイリアは頭痛がする思いで質問を続けた。

 

「……補欠はどうしたのよ? ゼロが計量をパスしない可能性を考えていたんじゃなかったの?」

 

 すると、エックスは苦虫を噛みつぶしたように顔をしかめて答えた。

 

「全員ゼロに台無しにされた」

「は?」

「くそっ! 詰まっちまった! 体が抜けやしねぇ!」

 

 長すぎる胴体が仇になり、身長計に挟まって体が抜けずもがくゼロをよそに、エイリアはエックスの言葉の意味を理解しかねている。

 

「どうしても体重落とせなくって焦ったゼロがね、目星を付けていた他の一般隊員に不自然なまでに食事を奢るようになったんだよ……」

「結果大会前日になって全員ゼロみたいに太って使い物にならなくなった。 参加者が揃わなきゃ団体戦にそもそも出られないから……!!」

「暫くソーメン生活だって得意げにしてたから、そりゃもう僕達怒り狂ってね……こうなったら無理矢理にでもゼロに計量をパスさせないとって思ったから……!!」

 

 アクセルは脱力し、エックスは肩をふるわせて怒り皺をヘルメット越しに浮かべていた。 血管がぶち切れるエックスにエイリアは目眩がする思いだった。 あの男はそんな往生際の悪い真似までして運動会に参加したいのかと呆れる一方、どうにもエックスとアクセルの言葉が引っかかって仕方がない。

 

「でも、体型をどうにかしたって……まあどうにもなってないけど、肝心な体重を落とせてないなら失格は免れないわ? 医療用って建前でも、コルセット分の重さもあるのに――――」

「それについては、ね」

 

 エックスはゼロの方を指さした。 ようやく身長計から体の抜けたゼロが、次いで体重計に足をかけようとした所である。

 

「ダグラスと協力してコルセットにスクランブラーを仕込んどいた。 体重計の数字を偽装して規定内の体重に収める……これでバッチリだ」

「エックス、貴方疲れてるのよ」

 

 ボディよりもなお青ざめた面持ちで笑みを浮かべるエックスに、にべもなく口に出したエイリアの言葉と共にゼロが体重計に乗ったその瞬間……体重計は文字通り音を立てて潰れてしまった。

 部屋にいる全ての人員がゼロの足下から立ち上る黒煙と、散らばった部品を放心するように眺めている。 エイリアの抱いた不安よりも悪い状況に場の空気が凍り付くも、壊れて電源が落ちる寸前の体重計の液晶パネルには「176.2ポンド」とおぼろげに表示されており、数回の点滅の後に完全に機能を停止した。

 冷たい汗を滝のように流しながら、エックスはエイリアに切り返す。

 

176.2ポンド(79.9㎏)……な?」

「規定体重には無事収まったね。 数字だけは!

 

 何が「な?」だというのか。 これではアナログ計だと針が何回転もした後の176.2ポンドではないか! アクセルが皮肉を言いたくなるのも無理もないと、エイリアは額を抑えて項垂れた。

 

「フ、フン、ざっとこんなもんだ……グフッ!

 

 固まる係員達を前に、ゼロは口元を赤く滴らせて得意げに笑った。 彼も同様に顔を青ざめてヤケクソ気味にふんぞり返ってはいるが!

 

「体重をクリアすれば残りの計測は問題ない筈だ!」

「そうだよ! ぶっちゃけ後の事はどうにでもなりゃいいんだよバーロー! HAHAHAHAHA!  

 

 それはエイリアの隣にいるエックス達も同様である。

 彼らとて馬鹿ではあるが決して頭が悪い訳ではない……恐らくは必死すぎて切羽詰まるあまり錯乱してしまったのだろう。 本当は自信のかけらもないのに無理をしているぐらい、彼らのリアクションを見れば簡単にうかがい知る事は出来る。

 そこに無粋なツッコミを入れるのは即ち、彼らの涙ぐましい努力に水を差す羽目になるだろうものの……それでも、それでも彼女は言わずにはいられない。

 

「エックス、アクセル……」

 

しばしの考えの後に頭を上げたエイリアは、至極気まずそうにエックス達と向き合った。

 

「医療なんて建前に拘るぐらいなら、私ならゼロの脂肪を手術で取っちゃうと思うのよ……」

 

 そう、無駄な努力以外の何物でもないと。

 

 

 

 エックス達は絶望に目を見開いたまま、ぎこちない動きで同じような顔をしているアクセルと互いに目を向き合い、そしてあらんばかりの勢いを込め慟哭した。

 

「その手があったかあああああああああああああああああ!!!!」

「うわああああああああああああああああ!!!! 僕ら一体何やってたんだよおおおおおおおおおおおおお!!!!」

  

 この部屋どころか競技場全体を揺るがす魂の叫びだった。 膝をつき、額をも地面に打ち付けるように突っ伏して頭を押さえる彼らの姿に、エイリアは不覚にも無力さと情けなさを感じ取ってしまう。 崩れ落ちるエックス達に他の選手や係員は恐る恐るこちらを窺っていた。

 

「お、お前らどうしたんだよ……いきなり叫んだりしやがって」

 

 ゼロもまた引き気味に背後を振り返っては同様に、全員が崩れ落ちたエックス達の姿に動揺する。

 

「……カッカッカッ!! なんともまあ大したもんじゃ!」

 

 ただ一人、ケイン博士だけを除いて。 部屋に居る皆が唐突なケイン博士の笑い声に目を丸くした。 

 

「176.2ポンド、ギリギリのラインじゃが規定はクリアしとるの! それにしてもゼロよ! 体重計を破壊してしまうとは驚きじゃぞ!」

「……?」

 

 ゼロの体重の事を言っているのだろうが、どう見ても完全にアウトだろう。 博士の意図を汲み取る事も出来ず、体重計に乗ったまま固まっていたゼロも首を傾げていた。 するとケイン博士は壊れた体重計に歩み寄り、ゼロにこう言った。

 

「お前さん、今回の為にわざわざ体重増やして随分苦労しとったみたいじゃのう。 足の力だけで体重計を踏み潰すとはたいした鍛え方じゃわい!」

 

 しばし言われた事を考え込むゼロだったが、やがて口元を緩ませ一言。

 

「当然だ。 俺の足の力は伊達じゃないぜ!」

「なら体重計が壊れたのは足の力のせいで間違いないな。 しかしゼロよ、張り切って備品を壊すのはやり過ぎじゃぞ? 次からは気をつけるのじゃぞ?」

「善処するさ」

「よし合格じゃ!!」

「「「「えええええええええええええええええええッ!!??」」」」

 

 博士の決定にエイリアと同室の係員や選手達も驚愕する! 身長体重共に何一つ真っ当にパスしていないゼロを何故合格にするのか。 はっきり言って納得しかねる判断に他の選手や係員が一斉に詰め寄った。

 

「どうしてですか博士!? 誰がどう見ても完全に不合格ですよ!!」

「明らかなインチキじゃないですか! 不正したら逆エビだって言うのになんで彼だけ!?」

「まさか身内びいきっていうんじゃないでしょうね!? レプリフォースの隊員にも厳しい判定していたのに!?」

 

 非難囂々、間近で他者の不正が断罪される瞬間をを見ていた彼らにとって、ゼロに助け船を出すケイン博士の姿は依怙贔屓に見えて仕方がないのだろう。 事実、助けられた側のエイリアも腑に落ちない気分で、アクセルも困惑を隠しきれない様子だった。

 

「……やはり自分を信じ抜いた甲斐があったよ」

 

 一方でエックスは胸をなで下ろした。 自棄っぱちだったとは言え、強引にゼロを参加できるよう手を回した事もあってか、博士の判断には満足だったようで、軽い足取りでゼロの元へ行く。

 

「ゼロ、俺は君の事を信じていたよ!」

「当たり前だ! 必ず約束を守ると言ったろう……グホッ!!

「……ケイン博士の助け船ありきだけどね……もういいやチクショウ!

 

そして周囲の矛先が博士へと向いている間に、エックス達は相変わらず吐血するゼロの背中を押すようにしてそそくさとこの場を去って行った。

 エイリアはそれを力なく眺めていたが、お騒がせ3人組の姿が部屋から消え失せたのを見届けてようやく我に返り、一斉に抗議を受けているケイン博士へと近づいた。

 

「あの、ケイン博士……私が言うのも何なのですが、本当にゼロを合格させて良かったんでしょうか? その、腑に落ちないと言いますか……不正はなかったとおっしゃる博士のその心が私には分かりません」

「彼女の言う通りですよ! 一体どう言うおつもりですか!?」

 

 気まずそうに問いかけるエイリアに便乗するように、さらにヒートアップする周囲の熱気。 ケイン博士は笑みを崩さずにそれを聞き流していた……が、ここに来てようやく彼らに対し己の考えを口にした。

 

「不正で勝ちに行くどころかハンデキャップみたいなもんじゃろう。 考えてみい、有利になるならともかく……むしろあの体で優勝できる方が絵的には凄いじゃろうに」

「……?」

 

黙り込む一同。 一体何を話そうというのか、エイリアは疑問符を浮かべる中ケイン博士は言葉を続けた。

 

「ワシはな、つまらん嘘をついてまで優勝しようという小賢しい連中は嫌いじゃ。 じゃからそう言う輩の僅かな不正も見逃さず、逆エビで人生のゴールテープを切ってやったのじゃ」

「で、でしたらあのゼロの姿も立派にインチキですよ!」

「あんなふざけた姿で競技に参加しようなんて! 運動会は笑いを取りに行くような所じゃありません――――」

 

 抗議する者の一人が言いかけた言葉を、ケイン博士は開いた手を突き出して遮った。 

  

「面白くて何が悪い? 公の場においてハプニングは付き物じゃろう?」

「「「「「「――――えっ?」」」」」」

 

 おふざけは許されない、そんな当たり前の主張に水を差すような一言にエイリア達は困惑する。 するとケイン博士は懐から今日日珍しい立派なビデオカメラを取り出し、彼女達に向けてきっぱりと言い放った。

 

「ゼロがしょうもない真似しとるのは百も承知! 公の場でバレバレのインチキを必死こいて隠そうとする姿を見るのが楽しいんじゃろうがぁ!!!!」

「「「「「「ファーーーーーーーーーーッ!!??」」」」」」

 

 主催した側の物言いとは到底思えないケイン博士の爆弾発言に、詰め寄った全員が驚愕! 一斉に奇声を上げた!

 まさかそんな事の為に知ってゼロを見逃したというのか? 開き直りと言うより、明らかに大会の趣旨から外れた博士の姿勢にエイリア達は唖然とする。 

 

「……ま、安心せい。 面白い映像はしっかり抑えてやるからの。 ハプニング目当てに大会を見に来た物好きを唸らせる自信はある。 楽しみにしとれ!

 

 硬直するエイリア達の事などどこ吹く風と言わんばかりに、ケイン博士はカメラ片手に軽快なステップでエックス達の後を追っていった。 老人の戯れをむざむざと見せつけられたエイリアは博士が去った直後に脱力、膝から崩れ落ちた。

 

「安心なんて出来ないわよ……」

 

 悩みの種の尽きない彼女にとってケイン博士の物言いは、無事を切に願うエイリアに対しての更なる追い打ちとなった。 今大会、想像以上の波乱になるだろうとその場にいる誰しもが思った。

 

 そして、皆が一様に抱いた不安は当然のように的中してしまう事になる。

 

 

 

 

 

 

 

<天候にも恵まれた今日と言う日に、大会をイレギュラーハンターと手を取りあい開催できた事を嬉しく思う>

 

 競技場にて行われる開会式、観客が見守る中で一斉に整列した選手達を前に開会演説を行うは、レプリフォースが将軍『ジェネラル』であった。 他のレプリロイドよりも一回りも二回りも大きな巨躯から繰り出されるは威厳のある、しかし一般客に威圧感を与えぬよう穏便さを気遣った声を会場内に響かせる。 その隣にはイレギュラーハンター側の司令官であるシグナスが、間に挟まれケイン博士がにこやかに首を縦に振っている……ビデオカメラ片手に。

 カメラのレンズは選手達の中で一際目立つ、我らが赤いイレギュラー……もといイレギュラーハンターのゼロを捉えていた。

 

<市民との交流も兼ねた今大会、真剣かつ堅苦しくはない……どうかのびのびとゆとりをもって取り組んで欲しい……ああ、その、身長の事ではなくて……その>

「ジェネラル将軍……あまりお気になさらずに……」

<あ、ああうんまあ……失礼した、うん。 とにかくアレだ――――>

 

博士だけではない。 ジェネラル将軍もゼロに目をやりながら、彼のあまりに長すぎる胴から意識を切り離せず、こびりつく印象から聞いてもいない身長の話を口に漏らす始末。 見かねたシグナスの小声でフォローされる有様だが、彼もゼロに時折視線をやっては気まずそうに顔をしかめる。

 それどころかこの大会に訪れた他の選手や観客も、異様な風貌で身を震わせるゼロに視線を奪われる有様であり、誰もまともに開会演説に集中できる者はいない有様だった。

  

「滅茶苦茶見られてるね……あの将軍さんセリフ噛んじゃってるよ」

「グ、グフッ! それは俺がこ、今大会の目玉選手だからな! ……でもあまり見んといて」

 

 アクセルの皮肉に苦し紛れに開き直るも、ゼロは言葉の最後に中々に辛そうな本音と思わしき呟きを残す。 自ら退路を断って参加を強行し、最早無事で済むまいとエックスは早くも頭を抱えていた。

 

 

 

 




 少し予定は変わりまして、最終話となる後編は来週日曜に投稿します。
 もうちょっとだけ続くんじゃよ(実話)
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