おれはドスヘラクレス 作:へらくれすりゅうぞう
おう、温暖期だぜ。
遺跡平原は、今日も心地良い風で靡いてるぜ。
おれはドスヘラクレス。
最強の虫だ。この地上に生けるありとあらゆる存在の上をいく、最強の存在だ。
ん? 何故おれが最強かって? たかが小さな虫じゃないかだって?
ノンノン。俺の特徴をよく見てみてくれ。拾い上げたおれを、もっとじっくりと見てみてくれよ。
『世界一強いと言われている虫。装備の加工などに幅広く使われている』
装備の加工? そりゃあまあ、ハンターたちはおれを躍起になって探すこともある。虫あみ片手に鬼の形相をした奴だって、何度も見たことはあるけどな。
でも、そこじゃない。後半部分じゃない。もっと前の方を見てくれ。
『世界一強いと言われている虫』
これだ。
見てみろ、これ。これがおれの特徴だ。おれがおれたる所以。おれは
……え? そうは見えないって?
馬鹿野郎。虫を見た目で判断するなって、お母ちゃんに教わっただろう?
確かに、おれは小柄な昆虫だ。だが、世界一強い虫であることには変わりない。体格なんざ、何の影響もないのさ。おれはおれ、最強で最高だ。
おっとっと。
なんだか丸っこいやつがやってきたぜ。
ごろごろと身を丸くしては転がって、モンスターの体に張り付く嫌な奴。気を抜いた瞬間に転がってくる、本当にクソみたいな小虫だぜ。
何て名前だったかな。ウンコ虫とか、そんな名前だったっけ。
「きゅおーっ!」
なんだこいつ。ウンコ虫じゃないって言ってるぜ。
なんだって? ボクの名前はクンチュウだって?
けっ。隙をついては転がってきて、いざ攻撃しようとしたら即座に守備に入るような奴にゃあ、クンチュウなんて名前はもったいない。ウンコ虫で十分だ。
「きゅっ、きゅっ!」
あん? 何か知らんけど怒ってやがる。
なんだ、やるのか? このおれと────この世界一強い虫と、戦おうっていうのか?
おれは渾身の殺気を放つ。
この目の前できゅーきゅーと鳴くクソ虫に向けて。一時的な感情に振り回され、おれとやり合おうとする命知らずなこいつに向けて、身も凍えるような殺気を送ってやった。
しかしこいつは、気付かない。どんな存在を相手にしてしまったのか、全く理解せずにぴーぴー鳴いてやがる。
仕方がない。相手してやるか。
おれはドスヘラクレス。
勇ましい二本角と、光沢を放つ鎧が特徴さ。
おれはドスヘラクレス。
甲殻に挟んだ翼は透き通るように綺麗だって評判さ。
おれはドスヘラクレス。
どんな相手も徹底的に叩き潰す、冷酷無比な存在さ。
ずがん、なんて。まるで、ハンターたちが使っているあの『たいほう』とかいう奴のような音が響いたぜ。
かと思えば、それは岩の崩れる音に成り変わる。赤褐色の遺跡の壁が崩れ落ちて、岩の雪崩を引き起こしていった。その光景は、なかなかに圧巻だったぜ。
何が起きたか。いや、おれが何をしたか。
それを視認出来た奴はいるかい? いたとしたら、それはおれとタメを張れる強者だな。自慢していいぜ。
おれがしたこと。それは、あのクソダンゴを弾き飛ばした。それだけだ。
おれの自慢のこの角で、奴の体を挟み込む。丸まってその身を守る前に、さっさと挟んでしまうのがコツだ。
弾き飛ばされて、ようやくその身を玉のように丸くさせたクソ虫。けれど、遅い。お前が玉になるというのは、自ら砲丸になりにいったようなもんだ。ぶつかった岩をぶち壊す、強烈な砲丸にな。
あとは、あの光景通りだ。その威力のあまりに遺跡ごと崩れちまって、目の前には廃墟しか残らない……ってな。
どうだ? おれの凄さ、感じ取ってくれたかい?
おれは最強の虫。あんな小虫なんざには遅れはとらねぇよ。
「……ぎちぎちぎち」
さて、飯を食うか!
なんて思いながら背中の翼を展開しようと思ったんだが、またもや目の前に嫌な奴がやってきた。
ぶぶぶ、なんて音を立てながら、忙しなく羽ばたかれる薄い羽。
黄色の複眼を輝かせ、自らの眼下を睨むその形相。
緑色の甲殻に、おれより遥かに大きなその体躯。
この遺跡平原に住まう甲虫種、アルセルタスだ。
「きしゃーっ!」
あの岩が崩れる音に誘われてきたんだろうか。だとしたら、相当好奇心が旺盛な奴か、それともただのバカだな。みんなはどう思う? あいつのこと。
「ぎぎっ、ぎちちちっ」
少し呆れたような素振りを見せると、奴は苛々した様子で歯を打ち鳴らした。
なんだこいつ。こいつもなんか、キレてやがる。
「きっしゃーっ!!」
両手を大きく広げながら、奴は全力で怒号を上げた。懸命に自らを大きく見せながら、おれに敵意を剥き出しにしている。
この空はわしのもんじゃ、とでも言いたげに羽を鳴らして、おれの真上をとるその姿。その体躯もあってか影も大きくて、あんなのに飛ばれてると何だか無性に気になってしまうぜ。おちおちと食事もできやしない。
全く、嫌な野郎だ。無視してやろうと思ったのに、そうはさせてくれないってか。
……はぁ。
仕方ない。
もう少し体を動かして、飯のために腹を空かせてやろうじゃないか。
背中の甲殻をかっちりと閉め、はみ出た羽もそっと仕舞う。そうして、おれは自らの角をそっと掲げた。来い、と言わんばかりに、我が自慢の一振りを陽に照らす。
「きちちちちっ!!」
そんな安い挑発に乗ったかのように、アルセルタスは咆哮。
次いで、勢いよく飛び出した。
その猛烈な勢いは、周囲の塵が飛び上がるほど。それをもって、奴は自らの誇りを輝かせた。
頭部から生えた、鋸のような厳つい角。それを前へと突き出し、おれを串刺しにせんと風を鳴らした。
はっ。何だお前。お前も、自分の角を自慢する口か?
良い度胸だ。このドスヘラクレスの前で角自慢をするたぁ、良い根性してやがる。
嫌いじゃないぜ? 好きでもないけどな!
閃光、次いで衝撃波。
まるで、鉄が砕けるような音が響き渡る。
「きっ……しゃあぁっ……!?」
緑色の雨が降った。
おれの振り抜いた角の力に、淡い色をしたそれが大地を濡らしていく。
何が起きたか? 単純だ。
おれに向けて滑空突進してきた奴を、ただ待ち受けて叩き落としただけだ。この自慢の角で、奴の誇りを砕いてやっただけだ。
どすん、なんて音を立てて、奴は地に落ちる。
全身の甲殻を粉状にして、絶命に苦しむかのようにその手足をバタバタさせながら。
ふっ、死に方も醜いな。死ぬ時は死ぬ時だと、もっと潔く受け入れられないものなんだろうか。
……まぁ、いい。おれには関係ないことだ。あいつが足をピクピクさせたって、至極どうでもいいことだ。
これで分かっただろう?
俺は地上最強の虫。世界一強い、ドスヘラクレス。
おれにあまり近寄るな。
おれの心も、この自慢の角も。
ドキドキするほど、輝いてやがるぜ。
最強の虫譚。
ドスヘラクレスくんのお話。
全三話構成の予定です。コンスタントに更新できるよう頑張ります。