魔法少女リリカルなのはLostMemories   作:アリアンロッド=アバター

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プロローグ 殺戮少女は地獄を作る

 空に、血の華が咲く。

 

「ァアアアアアアァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 獣の如き叫びは、今まさに斬り捨てられた者の断末魔。それを成したのは、刃渡りが一メートルほどもある漆黒の刀を振るう小柄な影。その影が刀を振るうたびに、肉と骨を斬り裂き、血潮が舞った。一体どれだけの人数を斬って捨てたのか。少女の眼下の大地には、空中で殺され落下したと思われる者たちあ作り上げた屍山血河が広がっていた。

 小柄な影を包むバリアジャケットは、黒づくめのローブコート。体にフィットするようなデザインのそれは、小柄な影の肢体を浮き彫りにする。

 そうして浮かび上がった影の肢体は、起伏はほとんどないとはいえ、少女のそれであった。百三十にも満たないであろう背丈を鑑みるに、少女の年齢は二桁に乗るかどうかといったほど。

 しかし、少女の実力は、とてもその幼さに見合っているとは言い難かった。

 少女の視界に映る、敵、敵、敵。戦場である空中に浮かび、杖を構え、魔法を放ってくる敵は、少女の周りを360度包囲していた。

 敵が放つ魔法弾を少女は見事な飛行で回避し、それでも追尾してくる誘導弾は手にした刀で切って捨てる。そして、隙を見ては高速機動で接近し、一人、また一人と斬撃を叩き込み、地獄を彩る装飾へと変えていった。

 少女の動きはまさしく達人のそれではあるが、それでも全方位から絶え間なく降り注ぐ飽和攻撃を全て刀と体捌きで防ぐことは叶わない。だが、どれだけの攻撃を打ち込んでも、少女の体に傷が付くことはなかった。

 漆黒の装いを返り血でさらに黒く染め、それでもなお止まらぬ少女。一太刀で命に死を与え、攻撃は一切通らない。その姿は、少女と対峙する敵たちにはどう映っただろう。

 

「クソッ! クソッ! 止まれ、止まれよぉおおおおおおおッ!!」

 

 次々と屠られていく仲間。それを成した少女に、恐怖の表情を浮かべた少女の敵―――時空管理局の航空武装隊の隊員の一人が、口の端から泡を飛ばしながら叫び、今まさに別の隊員に刀を振り下ろそうとしていた少女に杖型のデバイスを向けて、迸る魔力の奔流を放った。

 少女の小さな体を悠々と飲み込むことが出来る極太の魔法砲撃。その隊員の得意魔法だったのか、発動スピード、威力、弾速、そのどれもが標準以上。標的が攻撃体勢に入っているという絶好のタイミングと言い、まさに会心の一撃と言っていい魔法だった。

 自分に迫ってくる魔法に気づいた少女は、あろうことか防御も回避もしなかった。必中不可避の砲撃に一瞥もくれずに刀を振り下ろし、また一つ死体を作り上げると、小さく何かを呟いた。

 次の瞬間、少女に迫っていた砲撃魔法が音もなく掻き消えた。「はぇ?」と砲撃を放った隊員が間抜けた声を上げる。

 その隙を突いて少女が動き出す。足元に一瞬だけ魔法陣が浮かび上がり、少女の身体が消失する。少女が使用した魔法は、近距離戦闘に置いて殺傷能力の高い魔法である『短距離転移』。

 消えた少女は刹那のうちに砲撃を放った隊員の背後に現れ、閃光のような横薙ぎでその首を刈り取った。

 血が、噴水のように噴き出る。魔法によって空に飛んでいた彼は、その力を失って地面に墜落した。大地に赤いシミが、一つ増える。

 その光景を見ていた残り少なくなった隊員たちは、そろって顔を青ざめさせた。

 

「ば、化物……」

 

 それは、誰の口から放たれた言葉だったのか。怯えを多量に含んだ呟きは、他の隊員たちにも伝わり、恐怖となって感染する。

 そうなってしまえば、彼らから戦意が失われるのは一瞬だった。「うわぁああああああああ!」と悲鳴を上げ、我先にと少女に背を向け逃走する隊員たち。

 だが、少女はそれすら許す気はないと、高速飛行で彼らの後を追う。隊員たちの飛行速度に比べ、少女のそれは倍以上の速度が出ており、逃げ惑う彼らに即座に追いついては、次々と斬り裂いていく。

 

「く、来るなぁ!」

 

 最後に残った一人は、もう逃げられないと判断したのか、逃走をやめ少女の方へと振り返り、滅茶苦茶に魔法を乱射し始めた。

 リンカーコアが軋むほどに魔力をくみ上げ、デバイスが悲鳴を上げるほどに魔法を乱打する。恐怖に涙を流し、恐怖に顔を引き攣らせながらも、悪あがきのような攻撃を続けてみせる。

 だが、彼の最後のあがきとて、少女にとってはなんの障害にもならなかった。狙いも何もかものが滅茶苦茶な魔法を無造作に斬って捨てた少女は、加速魔法を用いて最後の隊員に急接近。懐にもぐりこみ、刀を斜め上に斬り上げた。

 「がァ……!」と短く苦悶の叫びを上げ、最後に残った隊員は永遠の眠りについた。

 辺りに静寂が訪れる。数十人はいた武装航空隊の隊員は一人残らず血に沈み、宙に坐すは地獄を生み出した漆黒の少女のみ。

 辺りを見渡し、ついでに探査魔法を使って生き残りがいないことを確認した少女は、数十人の血を吸った漆黒の刀で血振りをし、腰付近に出現させた鞘に納めた。

 チンッ、と軽い納刀音が鳴る。少女は鞘に収まった刀の柄をそっと撫でた。

 

「……お疲れ様、ムラクモ」

《お気遣いありがとうございます、姫》

 

 今まで武装隊員相手に一方的な殺戮をしていたとは思えないほど穏やかな少女の声音に、返事をするものがあった。その声は少女の腰に納められた刀から発せられたものだった。鍔の部分にはめ込まれた紫紺の宝石が淡い輝きを放つ。

 少女の持つ刀型のデバイスは、近接戦闘用に造られたアームドデバイスであり、人工知能を搭載したインテリジェンスデバイスでもある。発せられた声は落ち着いた妙齢の女性のもので、少女のことを姫と呼ぶときの声音には、強い信頼と慈愛が含まれていた。それを受けた少女は、フードから覗く口元に小さく笑みを浮かべた。デバイスとマスターの関係性は、この上なく良い物であるといえる。

 

《しかし、最近は随分と時空管理局の襲撃が増えてきましたね。ここ数か月で何度拠点を変えたことか……》

「……うん、最近、引っ越しばっかり」

《まったく、あの男は何を考えているのやら……》

「……あの人の考えてることは、私には分からないよ。いっつも、難しいことを考えてるから……。そんなことよりムラクモ、任務終了の報告をしなきゃ」

《ああ、そうでしたね。では、通信をつなぎますよ、姫》

 

 ムラクモはそう言うと、通信機能を起動させ、どこかにつなげた。数瞬後、少女の眼前に投影式のモニターが現れ、一人の男性の顔を映し出した。白銀の髪に金色の瞳、どこか張り詰めたような無表情を浮かべた顔は、怜悧ながらも非常に整っている。

 

「……盟主、任務終了。襲ってきた相手は全員殺しておいた」

『そうか、ご苦労だった』

 

 ピクリとも表情を変えずにそう少女を労う盟主と呼ばれた男性。彼は少女が所属……というより、身を寄せている組織のトップの人物だ。少女は組織の中ではこの盟主の個人戦力として、どこの部隊にも所属していない。

 それはひとえに、少女の他と隔絶した実力と、彼女の持つとある『特別な力』が原因だった。

 彼女だけが持つ、強力無比な力。少女の持つ戦闘者としての恐ろしいまでの才能とその力が合わされば、無敵と言っても過言ではない。

 今日の敵もそうだった。数は今までで一番多かったかもしれないが、それだけ。雑魚がどれだけ集まろうと雑魚でしかない。そんなことを再認識することとなった戦いだったなぁ、と少女は思いを巡らす。

 ……一応言っておくが、少女が相手をした武装隊員たちは弱かったわけではない。魔導師ランクは平均でAと局の中でも優秀な部隊だった。

 ただただ、少女が強過ぎる。本当に、それだけなのだ。

 

『……その、なんだ』

 

 ふと、盟主がためらうような声音で少女に声をかけた。なんだろうと思い、少女はこてんと首を傾げた。そういった無邪気な仕草からは、彼女が数十人を無傷で完封したなどといっても信じられないだろう。

 

「……? なに、盟主」

『いや……一応確認しておくが、怪我などは無かったか?』

「………………?」

 

 少女は一瞬、盟主が何を言っているのか分からずに首を傾げた。

 これまでもこうして少女が任務終わりに盟主へと連絡を入れるということは何度でもあった。だが、その時の会話は基本、「盟主、任務終わった」『うむ、ご苦労』といった簡潔なモノ。定時連絡などが追加されることはあったが、それ以外の……それもまるで、自分を心配しているかのような言葉など、掛けてもらった覚えはない。

 そのことをどうと思いはしないが、少し不思議に思った少女は、今の盟主の発言について少し考えてみた。

 そして、すぐにその意図に気づく。

 

「……大丈夫。あの程度の敵に傷つけられるほど、私は弱くない」

 

 自信満々――といっても、声のトーンが変わらないので分かりにくいのだが――に言って見せた少女に、盟主はその鉄面皮をわずかに揺らがせた。

 少女は、盟主の発言を「たかがあの程度の相手に後れを取ったのではあるまいな?」という意味に受け取ったらしい。

 

「……盟主、私は強いよ?」

『いや、別にお前の実力を疑問視しているわけでは……』

「……? じゃあ、さっきのはどういう意味なの?」

《……姫、そのくらいにしておきましょう》

「……? ムラクモが言うなら、分かった」

 

 こてん、こてん、と左右に首を傾ける少女に気付かれぬように、盟主は小さく嘆息し、ムラクモはピカピカと呆れたように宝石を点滅させた。

 

『……まぁいい。とりあえず、拠点に帰還せよ。そして、今日はもう体を休めると良い』

「……分かった、盟………ッ!?」

《ッ! 姫ッ!?》

 

 盟主の言葉に返事をしようとした少女は、何かを察知し、ほぼ反射で腰からムラクモを向き去った。

 そして、抜刀と共に背後に向けてムラクモを振るう。放たれた斬撃が何かに命中する感覚が少女の手に届いた。それをわずかな抵抗もなく斬り裂いた少女は、「……盟主、任務続行」と短く呟き通信モニターを消した。

 

「……うっそぉ、今の防ぐってマジかよ」

 

 少女が聞こえてきた声に反応し、そちらに視線を向ける。

 そこには、今までいなかった三人がいた。男性一人と女性が二人。三人とも独自のデバイスとバリアジャケットを身に着けており、感じる魔力や身に纏う雰囲気から、彼らがかなりの強者であるということが分かった。

 少女が切り払ったのは、男が放った魔力弾……それも、迷彩による隠蔽が施された不意打ちの一撃。少女が反応できたのは……本人に聞けば、「……なんとなく?」と実に曖昧な答えが返ってくるだろう。要するに勘である。

 

「ちょっと先輩!? 警告なしに不意打ちって、何してるんですか!? あの子が犯人かどうかの確認もまだなんですよ!?」

「いや、そうだけど……なんか、嫌な予感がしたんだよ。さっさと沈めておかないとヤバそうって言うか……」

「アンタねぇ……その直感任せの判断をやめなさいって何度言えば分かるのよ? もしあの子が何の関係もない一般人だったらどうするわけ? ……まぁ、あの反応速度を見る限り、無関係ってことはないでしょうし」

 

 そう、姦しく言い争う三人。少女は警戒心を残しつつも、「……漫才?」と率直な感想を述べていた。《姫、違いますよ。管理局です》とムラクモからツッコミが入る。

 それが聞こえたのか、言い争っていた三人はぴたりと言葉を止め、無言になった。数秒間、その場に沈黙が流れる。

 

「あ~……ゴホン。えーと、取り合えず聞いていいか?」

「……何?」

 

 沈黙を破ったのは、三人で唯一の男性……真紅の斧槍型デバイスを持った青髪の男だった。気まずそうな口ぶりをしているが、少女に向ける視線には、一切の油断が無い。

 

「俺は時空管理局執務官のレオン=ディオールだ。現場に向かった武装隊員からの連絡が途絶えたってことでここに来たんだが……なぁ、お嬢ちゃん。これをやったのは……君かい?」

 

 男―――レオンが「これ」と言って伸ばした指を下に向けた。考えなくとも彼の言う「これ」が眼下に広がる肉と血が飛び散る光景だと分かる。

 スッとレオンの側にいる二人の視線が細くなる。杖型デバイスを持った薄紫色の髪の女性と、銃型デバイスを構える金髪の女性の二人は、少女の言葉を待つことなく臨戦態勢に入った。少女がレオンの問いに肯定を返せば、すぐにでも襲い掛かってくるだろう。

 だが、敵意をぶつけられても少女に動じる様子はなかった。

 レオンの問いに、少しの間沈黙していた少女は……フードから覗く口元に、うっすらと笑みを浮かべた。

 

「……うん。ソレは、私がやった。一人残らず、私が殺した」

 

 その言葉と共に、少女から濃密な殺気が放たれる。ゆらりと片手持ちにしたムラクモの切っ先が揺れ、流れるような動作で三人へと向けられる。

 

「……ッ! ど、どうして……」

 

 少女の言葉に動揺を見せたのは、薄紫色の髪の女性だった。相変わらず臨戦態勢を解いていないが、その瞳には驚愕と悲しみの色が浮かんでいた。

 

「どうして、君みたいな小さな子が……」

「……? 小さいのは便利。懐に潜りやすいから」

「そう意味じゃないです!」

「……じゃあ、どういう意味?」

 

 取り付く島もない少女の態度に、薄紫色の髪の女性は言葉を詰まらせる。そんな彼女に助け舟を出したのは、無言で話を聞いていた金髪の女性だった。

 

「ほら、リース。落ち着きなさい」

「け、けどっ、アリカ先輩……!」

「ああもう、貴女が人並み以上に優しいのは知ってるけど、今はあの娘の逮捕が優先でしょ? 話を聞くのはそれからでも遅くないわ」

 

 金髪の女性―――アリカは、薄紫色の髪の女性―――リースを落ち着かせると、少女へ銃口を向けた。

 

「時空管理局執務官、アリカ=リーズベルトです。君には次元法違反、違法物所持、公務執行妨害、殺人……まぁ、いろんな容疑が掛けられているわ。おとなしく武器を捨てて投降してくれるかしら?」

「同じく、時空管理局執務官、リース=アデリシアです。……抵抗するなら、強引な手段に出なければなりません。抵抗は……しないでくれますか」

「……はっ」

 

 アリカとリースの言葉に対して少女が返したのは、明らかな嘲笑だった。

 

「……抵抗はする。投降はしない。お前たちは……殺す」

「……オーケイ。じゃあ、ちと痛い目みることになるが、勘弁してくれよ?」

 

 そう言うと、レオンは槍斧型のデバイスを構え、全身に魔力による強化を施した。他の二人も魔法の準備に入り、四人の間には一発触発の雰囲気が流れ出した。

 

「……来ると言い、時空管理局。最近、お前たちの襲撃が多すぎて、丁度イライラしてたところ。……憂さ晴らしついでに、バラシてあげる」

「大した自信ね。私たち三人を相手にして、勝てると思ってるのかしら?」

 

 少女の挑発染みた発言に、噛み付くように反応したのはアリカだった。表情を険しくし、少女を睨みつける。

 そんなアリカの態度に、少女は余裕たっぷりに答える。

 

「……愚問。負けるはずがない」

「……ッ! そう……なら、遠慮はしないわッ!」

 

 それが、開戦の合図だった。

 アリカは銃型デバイスの引き金を引き、少女を四方八方から覆うように誘導弾を発射。それに続いて、リ―スが拘束魔法で少女の動きを阻害する。

 

「うぉおおおおおおッ! 『ブレイブスラッシャー』ッ!!」

 

 そして、加速魔法を使い亜音速で瞬時に距離を詰めたレオンが、魔力刃を展開させた斧槍型デバイスを少女に向けて振り下ろした。

 だが、その一撃は少女が展開した防御魔法によって防がれてしまう。真正面から受け止めるのではなく、斬撃を逸らすように斜めに展開された防壁によって、レオンの攻撃は少女の横を通り過ぎていった。

 そこに、アリカの放った誘導弾が迫る。少女はリースの拘束魔法によって手足を縛られており、このままではまず間違いなく直撃を貰うだろう。拘束を破壊して回避しようにも、少女の目の前には攻撃態勢に入ったレオンが待ち構えており、逃げ場をふさいでいた。

 つまり、この瞬間、このタイミング。必中不可避。

 されど、少女は慌てず焦らず。余裕の態度を崩さない。ちらりと迫りくる誘導弾に視線を向けると、小さく口元を動かした。

 それはほとんど音にすらなってないようなつぶやきだったが、すぐそばにいたレオンの耳には、そのつぶやきが届いていた。

 

 ―――――コトナギ

 

 その瞬間、少女に向かっていた誘導弾、少女を縛り付けていた拘束魔法、そして少女の側にいたレオンの強化魔法……その全てが、霧散した。

 

「……は?」

「え……?」

「な、何が……」

 

 目の前で起きた『ありえない』現象に、三人の動きが止まる。それを見てつまらなそうに鼻を鳴らした少女は、ムラクモを大きく振りかぶり、レオンのデバイスにたたきつけた。とても少女の細腕から放たれたとは思えないほどの威力を有した斬撃は、レオンの体を十メートル以上吹き飛ばした。

 

「……何だ今の。魔法が……消えた?」

「はい……そのように見えました」

「いやいや、ありえないでしょ……消えるって何よ?」

 

 空中で体勢を整えたレオンは、近寄って来たアリカとリース同様に、信じられないモノを見たという顔をする。

 その反応を見た少女は、内心で酷薄に哂った。ああ、やっぱりか、と。

 執務官。それは時空管理局の中でも選ばれた者のみがなることのできる役職。つまりはエリートなのだ。魔導師ランクAAやAAAは当たり前のこと、中にはSランクやオーバーSといった者たちもいる。

 だが、それでも、彼らは魔導師なのだ。そして、魔導師であるということは、少女には勝てないということ。

 

「……もう終わり? なら、今度はこっちから行く」

 

 そう言って、少女は足元に魔法陣を浮かべ、その場から消失する。彼女の得意魔法である『短距離転移』にてレオンたちの背後に瞬間移動。

 しかし、相手は先ほどまでの武装隊員とは練度も実力も桁違いな執務官。当然のように少女の強襲に反応してくる。

 それならばと少女は再度足元に魔法陣を浮かべ、消失。

 

「バカの一つ覚えか? 今度はどこから……がッ!?」

 

 少女の転移先を特定しようとしたレオンは、何も無いはずの……先ほどまで少女がいた前方からの斬撃をその身に受ける。とっさに回避行動をとったことで死ぬことはなかったが、右の方から左の脇腹にかけて赤い線が走った。

 

「……馬鹿はそっち」

 

 侮蔑を籠めた言葉と共に、消失していた少女が姿を見せる。その立ち位置は魔法を発動する前とさほど変わっていなかった。

 少女が二度目に発動した魔法は、『短距離転移』ではなく『迷彩』。自分の姿を見えないようにする補助魔法である。効果も難易度もまるで違うこの二つの魔法だが、『発動時に使用者の姿が掻き消える』という点だけは一致している。

 その合致を利用した奇襲戦法。少女の戦闘センスの高さがありありとうかがえる。

 

「まさか……さっきのは転移じゃなくて迷彩魔法!?」

「……初めてだと、だいたい引っかかる。けど、誇っていいよ。死ななかったのはあんまりいないから」

「ちっ、そいつは光栄なこったッ!」

 

 少女の何処までも相手を下に見た物言いに、レオンはわずかにイラつきながら、下から掬い上げるようにデバイスを振るった。少女はわずかに後ろに下がることでそれを回避したが、その風圧でかぶっていたフードが外れる。

 ふわり。と、闇がたなびいた。

 フードの下から現れたのは、長く伸びた艶やかな黒髪。三人を鋭く見つめる瞳は夜空に浮かぶ月を思わせる金色。幼さの残る顔立ちは、作り物めいた異常な美しさだった。

 少女の素顔を目の当たりにした三人が驚きに目を見開く中、ムラクモを構えた少女は、吹く風に漆黒を揺らしながら、薄らと口元に笑みを浮かべる。

 

「……まぁ、今死ななかっただけで、すぐに死ぬ。どうせ死ぬよ」

 

 だって、と言葉を続ける少女。金色の瞳が、きらりと輝きを放った。

 

「……私は、そのために存在してるんだから」

 

 少女の体から放たれる殺気が、さらに重圧を増す。

 

 

「……殺戮人形(グランドール)№0、アヤメ=グランドール。冥府への旅路、ゆるりと楽しむがいい」

 

 

 ……そして、十数分後。

 少女―――アヤメが睥睨する大地に、紅いシミが三つ追加されたのだった。

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