涙の理由   作:夜ノとばり

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ささいなきっかけ

 私は、彼が好きだった。

 

 好きになったきっかけは、体育の授業での彼を見た時だった。

 

 運動系の授業ではあまり目立たないはずの彼は、その日に1度だけ、本当にたまたま、シュートを決めた。ぎこちないフォームだった。それこそ、笑ってしまうくらいの。

 

 しかし、私の胸は高鳴った。ドクン、ドクンと脈打ち続ける。

 

 私の目には、心からの笑みをこぼす彼しか見えていなかった。

 

 彼は私の中で、特別な存在になった。

 

 彼は私の目には他の人とは確かに違うように見えていた。友達に打ち明けたら「どうして?」と驚いていたから、彼女達にとって彼は何の変哲もないクラスメイトだったのだろう。

 

 私は彼が好きだった。好きだったんだ。

 

 たまに、彼の方から私に話しかけてくれることがあった。恥ずかしくて私の方からは話しかけられなかったから、本当にうれしかった。お互いには全く関係のない世間話だったけど彼がそばにいると胸が温かくて、私はその時間がとても、好きだった。

 

 でも、どんな心地良い時間も永遠には続いてくれない。

 

 私は引っ越すことになった。どこか遠くの街に。そこに彼がいないことだけはすぐに分かった。私は泣いた。

 

 みんなが開いてくれたお別れ会の時も、私はずっと泣いていた。せっかく慰めてくれる友達がいるのに。忘れたくない人がそこにいるのに。私はいなくなってしまう。それが、どうにもこうにもやるせなかった。

 

 校門で見送ってくれたクラスメイト達に何とか笑顔を見せると、

 

「バイバイ」私は言い、ゆっくりと、校門まで来ていた両親の車に乗り込んだ。

 

 遠ざかる私の背中に、彼が声をかけてくれるのを、私は待っていた。

 

 少し、期待しすぎたかな。私は遠い目をしながら、車の窓に映る景色とみんなとの思い出を眺め続けた。

 

 次に彼に会うのは同窓会になるのかな。私は考えていた。

 

 結局、私から彼に想いを伝えることはなかった。もちろん彼からも。

 

――彼は私のことを、どう思っていたんだろう? ついつい考えてしまう。

 

 同窓会で彼に直接聞けばいい。その時にはもう、それは過去の話になっているはずだから。

 

――その同窓会の席で、彼に告白されたらどうする?

 

 そうなったら、また私は泣くんじゃないかな。悲しくも悔しくもない、ただ「うれしい」という、それだけで。

 

 だって、両想いだったんだよ。私と彼、この広い宇宙の中で。2人は好き同士。私は彼と出会って、彼は私と出会った。偶然かな?いや。『運命』なんだよ、きっと。だから。

 

 告白されたら私は泣くと思う。そして、こう言うんだ。私の全て、ありったけの想いを込めて。

 

「ありがとう。私も、ずっと好きでした。」

 

 私も、彼を忘れないまま大人になりました。

 

 

 

     おしまい




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